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132・見えない未来


 相手の攻撃はいやに正確であり、被弾スレスレのその緊張感は盲目となったイリス達の精神をガリガリと削っていった。


 何せ常に体の位置を動かしてなければリャクを一撃で沈める程の攻撃魔法が確実に当たるのだーーそして、それはどのタイミングで来るかも分からない。



「「ーーお嬢っ!」」


 普段なら頼られて悪い気はしない二人の声が、今はどうしようもなく辛いーーイリスは思わず耳を塞いだ。


 今までどうにもならない未来が見える事も有った、しかし、全く見えなくなるのは初めてだ。


 見えない攻撃と見えない状況、そして見えない未来ーーそんなプレッシャー中、急かす様に、すがる様に自分を呼ぶ二人の声がイリスを更に追い込んでゆく。


(分からない! 私だってーーどうしたら良いか分からない!)


 イリスの心が限界に近づいたその時ーー


土壁(アースウォール)!」


 テオの詠唱と共に辺りに土が迫り上がるーーそれは瞬く間にドームとなり、イリス達四人を眩しい光の世界から隔離した。


「ご、ごめんねお嬢、勝手な真似してーーでもオイラ、皆んなを守りたくて……」


 光の世界から一転した真っ暗なドームの中、どちらにせよ相変わらず視界はゼロだ。

 しかし、テオのしょげた声やリャクの息遣い、イリスを守る様に立つジャンの背中が身近に感じられる安心感があった。


「すぅーー、はーーー。大丈夫、テオありがとう」


 閉ざされた安全な暗闇で何度か深呼吸を繰り返すーーようやくイリスは落ち着きを取り戻した。


 安心感を与えてくれる筈の光があれ程までに怖く、普段は恐ろしく感じる暗闇がこんなにも安堵感をもたらしてくれるとは思わなかった。


(しっかりしなきゃ! 私は戦巫女イリス、『先見の目』のイリスなんだから!)


 イリスはパンッと両頬を挟むと気合を入れる。


「ごめんね皆んな、もう大丈夫! まずはリャクの治療ね。テオ、少しだけ光を入れてくれる?」


 ドームに小さな穴を開ける事で、暗闇に幾筋かの光が差し込む。そしてその光は地面に疼くまる様に倒れたリャクを照らした。


(ーー何これ……軽鎧越しでこの威力なの?……)


 どうやらリャクは胸部に強烈な衝撃を受けたらしく、ひしゃげた胸当てが胸にめり込んでいる。イリスはその威力に漠然と違和感を感じたが今はそれどころではない。


「……リャク頑張って、回復(ヒール)


 胸当てを外し、魔法で折れた肋骨の位置を修正してから内臓が傷ついて無いか透視(スキャン)、特に異常が無い事が分かると今度は胸部の回復促進と固定を促す魔法を重ねて掛ける。


 一言に回復(ヒール)と言っても、実はこれだけの手順と魔力が必要なのだ。


 イリスのメインである魔法は回復魔法。尤も『先見の目』が突出して目立つ為、回復魔法士としてのイリスはそれ程有名では無いが、そこは上位分隊ーー腕は確かだ。


「お嬢、オイラ達……どうすればいい?」

「もう橋ごと落としちゃ駄目か、お嬢!」


 このままでは最悪拠点を制圧される、ジャンの言う様に減点覚悟で橋を落としてしまうのも一つの手かもしれない。

 だが、今回の相手は頭が切れるーーというか、かなり変則的だ。もしかしたら、こっちが橋を落とす事も織り込み済みなのかもしれないーー。


(やり辛い! せめて相手の魔法構成でも分かれば対策も考えれるのに……)


ーー未来予測の為に少しでも情報が欲しい。


「…………もう一度、『先見の目』を使ってみる」

「ーー使い過ぎだぜお嬢! ぶっ倒れちまう!」


「大丈夫ーーここで使わなきゃ、いつ使うのってね?」 


 ーー短時間に繰り返す未来視に回復魔法、既に魔力枯渇による頭痛が始まっている。


 それでもイリスは再び眼を閉じ『先見の目』を発動した。


 結果を見る為では無くーー未来を切り開く為に。




「ーー何だあの光は!?」


 見張り台から正門とは反対側の方角を見張っていたザービアは、突然照らされる背後からの光に驚き振り向いた。


 信頼を置くイリスが向かった正面、自分以外の四人が居るのだーー不測の事態が起るなど全く考えてはいなかった。今もあの光が相手の攻撃によるものか、リャクの新しい炎魔法なのかーーザービアは正直判別に迷っていた。


「しかし、炎魔法にしては色も違うし光にムラが無い。あれはどちらかといえば俺が使う光魔法に近いーー」


 ザービアが使う光の矢(アロー)ーーいや、邪を祓い一帯に聖なる結界を張る上位魔法聖天の輝き(シャイン)の光に近いか……尤もあれ程の光量は見た事無いがーー。


(目眩しの閃光(フラッシュ)か? いや、それにしては効果時間が長すぎる……)


 不思議に思いながら地平線に顔を出した朝日の様な光を見ていると、その中にポツリと黒点が浮かび上がる。


「む? アレは……人か?」


 強烈な逆光の為に判別は出来ないが、それはどうやら誰かをおぶった人の様だーーどんどん近付く人影にザービアの心が騒ついた。 


「ーー何かトラブルがあったのか? まさか……あの背負われているのはお嬢じゃあるまいな!」


 見張りをほっぽり出し、慌てて一階へと駆け降りて行くザービア。


 もう少しだけ、彼が見張り台から様子を見ていれば違和感に気付く事が出来たかもしれないーーその近付いてくる常人とかけ離れた程に大きな影に。


いつも読んで頂きありがとうございます。


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