123・スパルタ
無事ヘルムを説得出来てヨイチョは胸をホッと撫で下ろす。まだ完全に肩の傷が治癒していない身としては、回復役のヘルムには是非とも付いて来て欲しかったのだ。
(それに……回復役が居るなら多少の無理も出来るしね……)
ナルの為なら怪我も厭わない覚悟ではあるがーー結果、動けなくなってしまっては本末転倒である。回復役が居るか居ないかで限界の境界線も決まるのだ。
先程、拠点への到達と評価落ちしない事を条件に、ギュスタンは義手購入の援助をすると彼と約束をしていたーーギュスタン程の貴族の援助となればかなりの期待が出来る。
ーー何故なら基本的に貴族は見栄っ張りだからだ。
ベイルード男爵家の威光を示す為にも、チャチな援助はあり得ないだろう。
(拠点へ無事到着さえすれば、評価落ちはまず無い筈ーーしかも今回は名札のお陰で到達するのは全員じゃなくても大丈夫なんだ)
それに騎士団にある支援金制度ーー優秀な団員が己の能力を更に高める事に対して王国から支援金が出る制度だ。
より魔法が撃ちやすい義手への取り替えなど、申請の仕方次第ではナルの義手代を支援して貰える可能性もあるーーその為には分隊評価が低いと話にならない。
普段大人しいヨイチョが柄にも無く必死でヘルムを説き伏せる事に躍起となったのはーーやはりナルの為であった。
◇
ヘルムは拠点到達までの作戦を考えているのか、地面に何やら図を描きながらウンウンと唸っている。そして暫くすると、どうやら考えが纏まったらしく顔を上げ皆を呼んだ。
「良いですかーーこれからジョルクの索敵魔法を使い道中の敵を避け、且つ最短距離で目標を目指します」
「「おー!」」
「こういう時、ジョルクの鳥瞰視点は物凄く便利だね」
「ーー地形を把握出来るのは有用です。全く、索敵魔法の事を最初から私に伝えていれば、今までだってもっと結果を残せたものを……」
「あはは、本人が気付いて無かったんだから仕方ないよ」
ジョルクの索敵魔法、ヨイチョの生活魔法の応用幅、ヘルムの駒の特性を理解した作戦立案、ナルはと言えば皮肉にも人形創作者に操られたお陰で新たな雷魔法を覚える事が出来た。
今回の訓練で一番成長した分隊と言える。結果さえ残せば、実戦経験まで積んだ彼等を落ちこぼれと言う者はもう居ないだろう。
「それから、そこの二人! 燻製が出来るのはまだ先ですよ、じっくり燻さないと香も照りも……」
作戦の説明を一切聞いている気配が無い二人にヘルムはやれやれと顔を上げる。
「おん? ぐんぜぃあごぇぐおぁいんぐぁれぇあらうおぅんあ」
(うん? 燻製はこれくらい燻されてりゃ十分だ)
「ハグッハグッハグッハグッ」
(俺もそう思うぜ、兄貴)
「ーーあぁッ! 何故もう食べているのですか!? 二人共、その燻製を今すぐ置きなさい! 全く最悪だっ!」
◇
「この道は駄目だなぁ、先に三人居るぜ」
「では迂回しましょうーー相手の索敵範囲を1kmと仮定して……こっちルートの地形を教えなさいジョルク」
ヘルム特製の燻製を食べたが、完全には回復していないジョルクの魔力を節約する為に索敵魔法は常時では無く二時間置きに使用する方法を取っている。
ジョルクは索敵に地形の確認、そして今や我が分隊唯一の攻撃役であるーー最重要ポジションだ。ジョルクの魔力が俺達の命運を分ける事になると言っても過言では無い、節約は当然の事だ。
「今はジョルクの魔力回復するのが優先でしょうに! いざとなれば、貴方には敵陣に突っ込んで貰いますからね!」
と、燻製を五匹食べた俺にヘルムは冷たく告げたーー酷い。
そりゃあ、俺だってジョルクの魔力を回復させるのは大事だって気付いてたけど……俺の筋肉だって限界だったんだ! ここでタンパク質をしっかり補給しないと折角の筋肉が痩せてしまうじゃないか、ねぇ?
「では、そこの川を渡って……いや、いっそ一気に川を下りますかね」
「いや、暫く行くと滝に当たるなぁ。やめておいた方が良いと思うぜ」
最短距離を通る事は出来ないが、戦闘に掛かる時間を考えれば迂回した方が速く安全だ。それにしても最初の予想よりも敵が多い事に驚く。
「ーー他の分隊、思ったよりまだ残ってるんだな?」
「う〜ん、拠点は諦めたけど君の事はまだ狙ってるって感じなのかもね」
評価は諦めたけど、酒くらいは何とか手に入れようって腹かーー全く娯楽の無い世界はコレだから困る。
◇
「もう見慣れたからアレなんだけど……裸に盾持ちって強いんだか弱いんだか良く分からない格好だね……」
ヨイチョに持って来て貰った俺の軽鎧はボロボロ過ぎて防御はおろか、筋トレの負荷にもならないのでアレスの所に置いてきた。
現在の俺は腰にマントを巻き付けて盾を背負う、さながら古代ギリシアの戦士スパルタの佇まい!
尤もこちらの人はスパルタの事など知らないので、只の裸族としか捉えて貰えないんだがーーカッコいいだろ?
「まぁ……威嚇には使えそうですね」
「だろ? 分かってるねヘルム君」
この屈強な裸体で突っ込まれれば、大抵の奴はビビって固まるだろうーーもしかしたら泣いてしまうかもしれない。
「あはは、確かに裸の大男が走って来たら……僕なら直ぐ逃げるよ」
「流石兄貴だよなぁ! 誰だって変態が向かって来たら萎縮しちまうもんなぁ!」
「ふはは! そうだろう? 萎縮しちゃうよねーーって、誰が変態だッ!? 」
「流石兄貴!」とか言うから褒めてるのかと思ったわ! さっきの燻製の事、まだ根に持ってんのか?
「でも、その姿は本当に有効かもしれないよ? もしかしたら拠点も取れちゃうかもしれない」
「この姿で取れる拠点って何なの? もしかして女風呂の中にあるとか?」
女風呂の中にこの姿で突っ込めば、確かにキャーキャーと逃げ…………いやいや、逆に女子達が寄ってくる可能性もあるなーー。
「凄い筋肉!」
「触ってみてもいい?」
「あ〜、ずっるーい! 私も私も!」
そんな夜のお店さながらのハーレム状態を妄想し思わず口元がニヤける。
「どんな想像しているか分からないけど……可能性は有ると思うな」
「えぇ!? マジで風呂の可能性がっ!?」
「ーー馬鹿ですか貴方は……」
「あはは、流石にそれは無いけどね。いつも戦闘訓練では常に上位を取る分隊が居るんだけれど、多分今回もそこが拠点に居座ってると思うんだよね」
「それと女風呂でキャーキャーにどんな関係が?」
「いい加減、風呂から離れなさい……」
「えっと、その分隊の隊長ーーイリス・オルベージュは戦巫女、つまり女の子なんだ」
え……それって、裸マントでその娘を威嚇してこいって事?
いつも読んで頂き有難う御座います。
「いいね」システムが実装されたみたいですね?
ただ、やはりサイト登録者しか出来ないみたいですが……。
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