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110・クリミアの決意


「駄目だっ! あ、兄貴の魔力がどこにも見当たらねぇ!」

「……もうやられてしまったのでは無いか?」


 嘆くジョルクに追い討ちを掛ける様にギュスタンが言う。


「そんな訳ねぇなぁ! 兄貴は英雄だぜ、やられる訳がないんだ! ーーそういや、さっきも兄貴の魔力は見えなかったんだよなぁ……」

「さっきとは、あの時の事か?」


 あの時の事とは、ジョルクの索敵魔法で個人の魔力を測定出来るかの実験をしている時の事だ。あの時、確かに彼の魔力だけ確認出来ない事をジョルクは疑問に思ったが、じっくり検証している暇も無く「まぁ兄貴だから……」と深く考え無かった。


「それーーもしかしたら魔法無効(レジスト)してたのかも……」

魔法無効(レジスト)だと?……ふん、理論的に不可能では無いがーー常時、術者以上の魔力を放ってなきゃならぬのだ、団長でも厳しいのでは?」


 訝しむギュスタンを余所に、クリミアは以前、彼が無意識に行う魔法無効(レジスト)により、アレスの回復魔法が効かなかった事を思い出していた。


 一般的に自分に害をもたらす魔法とは違い、回復魔法は無条件で身体が受け入れてしまうと言われている。


 余談だが、そこに目を付けたのが回復魔法士による同期(コネクト)を活用した回復異常攻撃だーー正常な身体機能を過剰に回復させる事で、細胞や臓器などの器官に負荷を掛け破壊する魔法。

 例えば心拍数を上げ、血管を膨張し、全く問題無い眼球に過剰に血を流し続けるとどうなるかーー眼球の毛細血管が血流に耐えられず破裂し失明する。

 他の魔法で同期(コネクト)を行うよりも回復魔法は防ぐことが難しい分、遥に恐ろしい使い方と言える。


 そんな回復魔法すら魔法無効(レジスト)してしまう彼だ、可能性は十分ある。


「気絶している状態で回復魔法を魔法無効(レジスト)するくらいだもん、今回のもきっとそう! 絶対生きてるっ!」


 


 滅多に人前で使用しないビエルの広範囲魔法である砂塵嵐(サンドストーム)だが、実はクリミアは以前に1度だけ見た事があった。   


 あれは魔狼が異常に増えた年で、家畜への被害も大きく、その牙が遂に村人にまで向けられ始めた為に大規模な討伐隊が結成された時の事だ。


 まずは現状把握とビエル率いる騎士団メンバーが、少数で魔狼の住処に赴き偵察する事となった。


 魔狼が潜む谷、そこで見たのは当初の予想を遥に超えた魔狼の群れーーその数凡そ200!


 通常10〜30匹の群れで行動する魔狼としてはかなり異質な数である、何らかの事情で複数の群れが混同しているのかもしれない。


 しかも、魔狼達は共喰いする程に飢えており(ふもと)の村々へと繰り出すのは時間の問題に見えた。

 このまま魔狼達がバラバラに複数の村へと襲撃されれば対応が困難と判断したビエルはこの場で魔狼達を一掃する事を団員へと告げる。


「ーー無理ですよ!? こんな数の魔狼相手に中途半端な攻撃はかえって危険です! それよりももっと沢山応援を呼んで、大規模な罠をーー」

「……問題無い、大丈夫だクリミア、任せろ」


 ーー初めて見たビエルの広範囲魔法「砂塵嵐」


 谷を見下ろせば逃げ惑う魔狼達の阿鼻叫喚、最早これは戦闘や討伐なんて物では無いーー只の駆除だ。


 一度黒い靄に囲まれてしまったのなら逃げる事は叶わない、靄に触れるだけで身体の組織が削り取られる死の砂嵐(デス・ストーム)


 その常識外れで圧倒的な力は、あれだけ居た魔狼達を僅かな時間で一匹残らず全て葬り去った。


「こ、これが……団長の範囲魔法ーー」


 ビエルの防御魔法や指揮能力しか知らないクリミアが初めて見た攻撃魔法ーーその『壊滅』の名に恥じない巨大な魔力に身震いしたものだ。



 クリミアの目の前で再び集落を蹂躙する砂塵嵐、今回は前回の規模を遥かに上回る。


(ーー彼は絶対生きてる! 見捨てるなんてーー出来ないっ!)


 クリミアは渦巻く黒靄を前に決意する、絶対助けると! 


 ーークリミアは靄を良く観察する為にギリギリまで集落へと近づいた。


(前に見た時よりも靄の厚みが薄い気がするーーきっと範囲を広げたからその分薄くなってるんだ)


 確かに集落を取り囲む靄の厚みは魔狼を一掃した時よりも薄いーービエルが雷球も処理する為、広く高く囲む為に魔力を薄く伸ばしたからだ。


(ーー厚さは多分……私一人分くらい? 一瞬でも隙間が開けばギリギリ走り抜けられるかもしれない)


 クリミアは、一緒に付いて来たギュスタンとジョルクを振り返る。


「ねぇ、君は爆破魔法使えたよね。試しにあの靄目掛けて撃ってもらえるかな?」

「…………アレにか?」


「そう、靄に当たる寸前でボンって爆発させてほしいの!」


 何をしたいのか分からないが、正騎士に逆らうつもりは無い。ギュスタンはクリミアに言われた通り黒靄に当たる寸前で魔法を爆破させる。


「ーー爆破(ブラスト)ッ!」


 ボンッと一瞬だが、爆風で靄が晴れる。しかし、靄の先が見える程では無くすぐにまた埋もれてしまう。


「ははぁ、流石団長の魔法だなぁ! ギュスタンの魔法くらいじゃビクともしねぇのな……」

「…………ふん、俺だって団長に張り合えるなど思ってはいないーーが、お前に言われるのは遺憾だ」


「まぁまぁ、これ位の魔法で如何にかなるなんて私も思ってはいないから大丈夫ーーねぇ、君って確かドンドーンって二連撃も出来るんだよね?」

「…………こ、これ位の魔法ーー」

「おい、ギュスタン、二連撃出来るのかって聞かれてるぞーーなぁ?」


 半ば自棄糞(やけくそ)気味にギュスタンは靄に向かってドンッドンッ! と二連撃を放つ! 

 すると僅かな時間だが靄が晴れ、その先を確認する事が出来たーーだが、それはほんの一瞬でとても人の速度で駆け抜ける事は出来無さそうだ。


「うーん、駄目ね……これじゃあどうしたって靄に触れちゃう」

「なぁクリミアさん、俺の風魔法でクリミアさんの背中を押せば素早く靄の隙間を通れるんじゃないか?」

「ふん、お前の風魔法はそんなにも威力が無いのか? いくら正騎士とはいえ、まともに攻撃魔法を喰らえば怪我するだろうがーー」


「でも、兄貴は飛んだぜ?」

「……あれは例外だーー俺の爆破魔法を喰らってもピンピンしてる奴と普通の人を一緒にするな」


 あぁそうかーーと俯くジョルク。しかしクリミアは意外にもジョルクの案を肯定した。


「…………いいねそれ、案外いけるかもしれないよ!」



今日も読んで頂きありがとうございます。


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