107・石棺
主人公視点となります。
「隠し……扉?」
部屋の中には石棺がポツンと一つ鎮座しているだけで他には何も無い。
成る程……食糧庫と見せ掛けて、もう一つの部屋の扉を魔法で隠蔽、知らずに入った者は目の前にある食糧に目を奪われて本当の宝物に気付かないって仕組みだなーーこれだけ周到に隠してあるんだから、きっと石棺の中には凄いお宝が眠ってるに違いない!
先ずは石棺の周りを良く観察する、罠でもあったら困るからな。
石棺の横側には規則正しく小さな穴が空いている
が、小指程の大きさしか無く覗いても中は真っ暗で見えない。もしかしたら、蓋を開けるとこの穴から針とか槍とか、何か鋭利な刃物系が飛び出る仕組みとか?
「罠っぽいけどーー俺、よく考えたら解除方法とか全く知らないわ……」
ーー取り敢えず、穴にはチーズでも詰めておこう。
「それにしても、わざわざミイラでも入ってそうな不気味な石棺に宝物を隠すなんて、よっぽど盗られたく無い物なんだな〜」
ーー俺は慎重に石の蓋に指を掛ける。
(ゆっくりとズラしてみて、異変があれば止めればいいか……うん?)
何か引っかかりがある様で動かないなーー俺は更にグイッと指先に力を込める。
ーーズシャーッ ゴゴォーン!!
石蓋は急に障子を開くが如く横へと滑り落ち、勢い余って壁へとぶつかり半分に割れてしまった。見た目に反し石蓋がかなり軽かった為、思わず力を入れ過ぎてしまったーー。
「…………チ、チーズに異常無し! 危ねぇ……罠が無くて良かった。さ〜てどんなお宝が眠っているのかなぁ?」
ワクワクしながら覗き込むと、そこに眠っていたのは金でも銀でも宝石でも無くーーまだ小さな赤ん坊だった。
◇
「…………ガッカリだ」
まさか石棺の中身が赤ん坊の遺体とは……もう見た目そのまんまじゃん! 棺じゃんコレ!
「何だよ、お墓? 高貴なお方のお墓だったのか?」
そういえば、ピラミッドも王族のお墓で沢山のお宝と一緒に眠っている筈だったが、墓荒らしがお宝だけを奪って行くもんで発見時にはミイラしか無い場合も多いとか聞いた事あるなーーつまりここも墓荒らしにあった後だから何も無いと?
「でも、別にここは古代の遺跡とかじゃ無くて、ただの村だからな……腐らない様に安置していたのかもしれないーーそれにしても……」
随分と死体の保存状態が良い、安置されたのは最近だろうか?
「ーーまるで寝てるみたいだな……」
ぷにぷにと柔らかそうな赤ん坊の頬を指先でそっと触るーーすると触った指先から青白かった頬にみるみると赤みが広がり顔に生気が戻る。そして赤ん坊はスゥっと息を吸うと今まで黙ってた分を取り戻すかの様に大声で泣き出した!
「あわわわーー生きてる!? ど、どうすれば?」
慌てて抱き上げ揺らしてみるが、泣き止むどころかその声は更に勢いを増す。
落ち着け俺、赤ん坊が無くのは眠いか、オムツが汚れているか、お腹が減ってるかだ。これだけ寝ていたんだから眠いってのは無いだろう、オムツか?
赤ん坊を頭の高さまで持ち上げお尻の匂いをスンスンと嗅いでみるが、特に異臭はしないーーほう、寝小便をしないなんて優秀だなお前!
「残るは空腹か、ミルクは……ってか何も無いなこの部屋!」
周りを見渡すが見事に何も無い、もし墓荒らしが赤ん坊のミルクやオムツまで持ち去ったんなら酷い奴だーー見つけたら殴ってやる。
抱える赤ん坊の手が俺の大胸筋をモゾモゾと弄る様な動きをする。
ーーすまん、確かに俺の胸はそこそこのサイズがあるが、残念ながらオッパイは出ないんだ……。
赤ん坊をあやすつもりで大胸筋をピクピクと動かしてやるーーそれがお気に召さなかったのか、泣き声は更に大きくなった。
「駄目か……やはりオッパイーー早急にオッパイが必要だ!」
耳を劈く赤ん坊の声が狭い地下室に反響して物凄い事になっている。この小さな身体の何処にこれ程のパワーがあると言うのだろう……赤ん坊を抱きながら途方に暮れていると、背後から声が掛かる。
「ーー誰だお前はっ!」
おぉ!ーーここに来るって事はこの赤ん坊の関係者に違いない! 赤ん坊の世話係ならミルクなんかも持ってる可能性がーー。
「おぉ!! 助かったーーあんたオッパイ出るか?」
あ、間違った……オッパイじゃ無くてーー何だっけ? 粉ミルクじゃ通じ無いよな? でも、この状況なら普通言わんとしてる事解るよね?
「………………はぁ? んなもん出るかっ!」
ーー伝わらなかった! ちっとも伝わらなかった! それどころか頭おかしい奴を見る目で見てやがる!
「……兄ちゃん、お前もしかしてーーあのネビロスを倒したのか?」
「ネビロス? あの人形野郎の事かーーまぁそうだな、倒したというか人形に戻ったと言うか……いや、そんな事よりオッパイどこよ!?」
これって、お前達のとこの赤ん坊じゃないの? 部外者の俺の方が身内のお前より赤ん坊の事気にしてるのおかしいだろう!?
(そうだ、赤ん坊ーーアイツに渡しちゃえば良いじゃん!)
お父さん……には見えないけれど、俺より持ち主(?)に返した方が良いだろう。誘拐してるみたいに思われても困るしな。
そう思った瞬間、男が何の前触れも無く、この狭い部屋で魔法を放ったのだ!
「ーー黒棘!」
壁や床、天井から黒い棘が俺に向かって飛び出した! 咄嗟に赤ん坊を抱きしめて黒棘から庇う。
「……悪いな兄ちゃん、オッパイは来世で探してくれや」
今回も読んで頂きありがとうございます。