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プロローグ(1)

「……あっ、ジエールさん! 女の子、目が覚めました!」


 ……目が、覚めた……?


「こら、リッチ! んなデケェ声出すんじゃねぇ! 早く先生呼んで来い」

「は、はいっ」


 なにやら騒々しい中、私は薄らと目を開ける。すると、見慣れない木造の天井がぼんやりと目に入った。

 ここはどこだろう? と思考を巡らすが、頭にモヤがかかっていて、記憶が定かではない。

 木張りの壁にかかっているタペストリーはまるで異文化のもののような風合い。そしてどこからか漂ってくる食べ物の匂いも、だいぶ香辛料の効いたものだった。

 ここが自分の見知った場所ではないことは確かだ。


「大丈夫か?」


 不意に声をかけられ、声の方を見ると、金髪の青年が近寄ってきていた。見知らぬ男性に、私は慌てて身体を起こす。


「痛っ……!」


 頭に激しい痛みが走った。両腕で頭を抱えてうずくまると、声をかけてきた男性が、不器用に身体を支えてくれる。


「無理すんじゃねぇ。あんな谷に落ちたんだ、頭の傷だってまた開いちゃうぜ?」

「……あんな、谷?」


 私はその青年の腕にしがみつきながら問いかけた。

 

「……まさか、なんにも覚えてねぇのか?」


 青年は目を丸くする。

 何も覚えてない。私はその言葉を確かめるように、ゆっくりと頷いた。


「ジエール、無理に思い出させちゃダメだよ」

「先生」


 また新たな男性が隣の部屋から入ってきた。

 先生、とは呼ばれていたが、まだ若い。三十代前半ぐらいだろうか。彼は私と目があうと、にっこりと微笑んだ。


「身体や心に大きな怪我を負った時に、自分を守るために一時的に記憶が欠落してしまう事があるんだ。思い出すべき時に、ちゃんと思い出せるはずだから、心配しなくて大丈夫だよ」


 先生は怯える様子の私に、そう優しく言うと、持っていた桶の湯でタオルを濡らし、私のベットに腰をかける。


「酷く汗をかいたようだから、スッキリしようね」


 先生のしなやかな手が私の頬を支え、タオルで顔を丁寧になぞる。

 ほんのり暖かいタオルの熱が気化すると共に、スゥと体温が奪われ、幾分か思考がハッキリとしてきた。

 それと同時に、今自分が置かれている状況に気づく。

 ジエールという男性にもたれ掛かり、先生と呼ばれる男性に頬を触れられ……。


「あ、あ、あの、私自分でっ」


 一気に恥ずかしさに駆られ、動こうとするも、悶絶するような痛みに駆られ、咄嗟にジエールの腕にしがみついてしまった。


「……んっ」


 私は、痛みに顔をしかめる。

 すると、ジエールはフイ、とそっぽを向いて呟いた。


「やばい、その顔はやばい。怪我人じゃなきゃ襲っちまいそうだ」

「ジエール」

「な、冗談だぜ!? 信じてくれよ先生」

「冗談なら尚更だよ。苦しんでる女の子目の前にしてその発言はいけないな。ほらおいで。もう少し横になろう」


 先生は見た目に似合わず、力強くジエールを突き飛ばすと、私の身体を支えて寝かせてくれた。


「私はおかしらを呼んで来るから、それまでゆっくり寝ててね。……ジエール、手ぇ出したらダメだからね?」

「……あーもう、すみませんでしたって! 大丈夫だよ!」


 気まづくなるような言葉を残し、先生は部屋を後にした。 

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