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プロローグ 崩壊の音

嘆き、悲しみ、憎しみ、怒り、欲望。

負の感情と呼ばれるそれらがもし、塊となり、意思を持つことが可能ならば、世界をどうするのだろうか。

決まっている。崩壊、以外に選択肢などありえるのか?

否、ありえない。すべてが憎いのだから。

すべてが疎ましく、壊したいのだから。

それこそがまさに【負の感情】に他ならないのだから。


「ついに我々の悲願を叶える時が来た」


月明かりだけしかない場所にその男はいた。

一際暗いところから、かろうじて男の影が揺れたのがわかる。

そこからは金の瞳が光り、こちらを見つめている。

その瞳は穢れなく澄んでおり、口元は不気味な程に弧を描いていた。

彼の前には四人の部下達が肩膝をつき、頭を低くしている。

誰も彼も男の言葉を遮ることはない。

否、遮ることは許されない。


「かつて、【人間】がいた頃。我々の祖はある者は王と呼ばれ、恐れられた。

また、ある者は姫君のように持て囃され、愛された」


薄暗い静かなその空間に男の言葉は響き渡る。


「今ではどうだ? 草食動物の祖を持つ者以外は野蛮だと、差別され、蔑まれる。

我々は神との契約を守り、彼らに手を出していないのというに!」


彼らは【人間】ではない。否、彼らの生きるこの世界にもう【人間】は存在していない。


「彼らは罪深き【人間】と同じことを繰り返している。

今こそ、我らが立ち上がるべきだ。憎き奴らに引導を渡す」


人の形こそしていても彼らは【人間】ではない。彼らの、この世界に生きる全ての者は皆がそうだ。

【人間】以外の動物、生物達を祖に持つ者だ。


「無論、ついてくるだろうな?」


澄んだ瞳が四人の部下達を捉えた。それぞれが下を向いて、彼の話を聞いていたので、顔はよく見えない。


「当然でございます。我ら四天王、貴方様なくてはここにはおりませぬ。

我ら一同、改めて忠誠を示したく思います」


一番端の、一際大きい銀髪の男が頭を下げたまま口を開いた。


「よいだろう、今ここで示すが良い」

「はっ」


銀髪の男が返事をすると、その逆場所にいた少年が顔を上げた。

闇に光る緑の鋭い大きな猫目に、左頬の二重の刀傷が目立つ少年だ。


「ネコ族、ギョクガ。あなた様に忠誠を」


どうやら彼から順に忠誠の言葉を口にしていくらしい。


「ヘビ族、スネア。貴方様に忠誠を」

「フクロウ族のクロウ。貴方様へ我が忠誠を」


間に挟まれた、髪の長い男女がギョクガに続いて忠誠を誓う。

男は白の長い髪に金色の瞳。左目にモノクルをしており、女は緑の髪色に蔦のような髪飾りと赤い目をしていた。

二人の言葉を聞き届けると、最後にあの銀髪の青年が前を見据えた。


「オオカミ族、ガルフ。この世界の唯一王、モーランド様に忠誠を」


全員が男、モーランドを見た。

決してこの男はこの世界の唯一王などではない。

この男が唯一王であっていいわけがない。


「は、はっはははは!いいだろう!

この俺こそが世界に相応しいと証明してやろう!

憎き草食動物共に!我らを蔑んだことを後悔させてやろうぞ!」

「はっ!」


四人の部下達の忠誠に快くしながらモーランドは笑い、この世界への憎しみが篭った目で天を仰いだ。

その右側には顔を縦に割るかのような二重線の傷があった。

彼はこの世界で最も、危険で、罪深い、生き物なのだ。


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