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行方不明

 夕暮れの時間、最寄りの駅と自宅までの間に小さな公園がある。

 すべり台とシーソーにブランコと遊具はそれだけ。

 墨にひっそりベンチがあり、そこになんとなく座った。

 あかね色の夕暮れに包まれ公園でボーッとしていると、ノスタルジックな気分に沈んでいく。

 目を閉じると、仕事の疲れからか何時間もそうしているような感覚に陥る。

 そろっと腰を上げようかと目を開けると、さっきまで居なかったはずのこどもがブランコに座りうな垂れていた。

 気付かなかったが、いつの間に来たのだろうか。

 親を待っているのか、そこから動こうとしない。それとも迷子か?それなら寂しそうなのも頷ける。


「親御さんは?」


 何を思ったのか気まぐれか、俺はその子に声をかけていた。


「……」


 無言。人見知りなのか、単に知らない人だから話そうとしないのか。

 そりゃ知らないおっさんは不審者扱いだよな。


「もしかして、迷子か?」


 子供の目線まで腰を下げて話し掛ける。


「……待ってるの」

「誰を?」

「……」


 声を開いたと思ったが、すぐに口を閉じる。

 だが〝待っている〟のなら、親か誰か迎えに来るのだろう。その時の俺はそう思った。


「あーなんだ、おじさんもブランコ漕ごうかな」


 ブランコの座席部に座り込み、曲げることは身長でできないから足を伸ばしたまま漕いでみる。


「案外いけるものだな」


 つい無心になって漕いでいると、「ふふっ」と声が隣から漏れた。


「ブランコなんていつ以来だろうな。思ったより楽しいよ」

「おじさん、変なの」


 子供は笑う。

 反応してくれたのが嬉しくてついつい大きく漕いでしまう。これは俺の悪い癖だ。


「つい力が入ってしまったよ」

「おとななのに、こどもみたい」

「あっはっは。つい遊んでしまったよ」

「おじさん、おもしろいね」


 笑顔がかわいいなと思った。


「そうだ、確か……」

「?」


 会社で同僚から貰った飴を鞄に入れていたはずだ。

 それを取り出して、それを渡す。


「これどうぞ」

「いいの?」

「ああ」

「ありがとう!」


 これだけ喜んでくれたら、あげたかいがあったものだ。


「さて、おじさんはもう行くね」

「……行っちゃうの?」

「そうだね。おじさん、夕飯作らないと」

「わかった」


 素直でいい子だと思った。

 立ち上がり背を向ける。


「飴ありがとね、おじさん!」

「ああ」

「ありがとう!ありがとう!ありがとう!」

「あ、ああ」


 何度もお礼を言われると照れくさくなる。


「ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」


 背中越しに聞こえる大きなありがとうの声。


「ありがとう!おじさん好きだから、今度はわたしから迎えに行くね!」


 手を振って別れる。

 何だか大げさな子だなあと思いながら帰路に着く。


「なんだかホッとする出来事だったなあ…」


 心がぬくもり、仕事の疲れから癒さされた気がした。


「だけどあの子どこかで見たことあるような…」


 思い出したのは翌日。朝のニュースで行方不明の女の子の話題があり、そこで行方不明の女の子を探すチラシが電信柱に貼ってあったことを思い出した。

 あの公園にいた子に似てたから、どこか既視感を覚えていたのだ。

 確かいなくなったのは、何年も前だった気がしたが。


 『迎えに行くね!』


 その言葉が今も頭から離れない。

次回は3月28日の予定

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