足音
いつもの帰り道、いつも通りの道を歩く。
少しして途中にあるコンビニで夕飯を買う。
人と車が多い交差点を過ぎると、時間的に人気のない住宅街が見える。
夕暮れが過ぎた頃、カツカツと歩く度に足音が鳴り響く。
革靴の底がアスファルトの地面とタッチして高く音を鳴らす。
靴が鳴る音は好き。心地よく鳴った時は気分が良くなる。
でもあまり強くならすと擦れてしまうから、気をつけなくてはならない。
わざと鳴らしてることがもし人にバレたら恥ずかしいのもある。
それにしても、今日はヤケに音が鳴る気がする。
特に意識して鳴らしてるわけでもなく、普通に歩いてるだけだ。
ーーカツ、カツ、カツ…。
誰もいない、自分が1人歩いてるだけ。
わかってはいるけど、雰囲気が雰囲気なだけに、妄想をしてしまう。
電信柱に何か隠れていて、覗いているんじゃないかって。
だからだろうか、今日はいつにも増して不気味さがある気がする。
誰もいないのはわかってるし、単に考えすぎなだけ。それだけ。
聞こえるのは靴の音と、買った物が入ってる袋の擦れる音くらい。
あれ……。
「いつもはカラスが鳴くのが聞こえるんだけど…」
自分が動く音しか聞こえない。
むしろ、周りの音が静か過ぎる。
いつもこんなに静かだったっけ?
不安になる。あまり深く考えてなかっただけに、たまに考えすぎると、こうも落ち着かなくなるものなのか。
「……」
何かがおかしい。
そう思った直後だった。
ーーカツン、カツン……カツン
自分以外の、靴音がした。
誰かが歩いているのか、それにしてもあまりにも鮮明に聞こえ過ぎてはないか?
ヤケに静かなのに、足音だけ良く聞こえるのは不自然ではないか?
私は不安を煽られ、怖さが増して歩く速度を速める。
ーー早く帰りたい。
そう一心に思い、後ろを振り返らずに進んだ。
帰宅した後、無事だった安心感と、一体何だったのかと拭いきれない恐怖がモヤモヤと心に残ったまま、その日を過ごしたのだった。