7話 幕間2・空の上のふたり
今夜の風は程よく乾いていて気持ちがいい、眼下には果ての見えない真っ暗な森と山が広がっている。時折月明かりを映しキラキラと輝くのは…なんていう川だっけ?
つーか、ここどこだ?
きれいな灯りの広がる人里の上を飛ぶのも楽しいが、こういうちょっと寂しい景色というのも乙なもんだ。
人嫌いって訳じゃないが、自分と相棒の二人だけで静かに過ごすこの時間がけっこう気に入っている。行先も目的もない、気のおもむくまま空を駆けるだけ。まぁ、腹が減ったら地上に降りるけど。
しばらく剃ってないせいで見苦しくなりつつある顎を撫で、しばし物思いにふける。さすがにそろそろヤバいだろう、定期連絡の日程は軽く1週間は過ぎている。ものすごく行きたくない、このままのんびりきままな旅を楽しんでいたいのだが…
暗闇に遠く瞬く星を見上げながら、相棒の背の上でぼやいた。
「あーあ、行きたくねぇなー」
「グルル?」
俺の独り言を聞き咎め、前方から鼻を鳴らす音が聞こえた。ほんとにこいつは耳がいい。
「なあ、忘れたふりして行かないってのは」
「ガァッ」
「ちよっと用事があって、とか」
「グゥルルルガウ!」
「…だよな」
顔こそ見えないが、多分相棒の眉間には皺が寄っている。でも怒ってる訳じゃない、こいつも本心は行きたくないのだろう。自由を愛する気持ちは俺と同じだ。
そうなんだよな、あの女には一切の嘘が通じない。ついでに冗談も。下手すりゃおしおきとか言って、何をしてくるかわかったものではない。笑ってるのに笑ってない顔が脳裏に浮かぶ。
見た目だけは好みのタイプではあるのだが…実年齢を考えると複雑だ。さらに、今現在いろんな意味でフリーダムな俺に命令が下せる唯一の存在でもある。要するに怖い。
「ガア…」
相棒が労るように優しく鳴いた、『諦めろ』と。
「はぁ…」
仕方ない、諦めてあの島に向かうか。さて、まずは自分が今何大陸のどの辺にいるかを調べないと。あ~本当にめんどうくさい。
月の光りを受け青く輝く相棒の大きな翼を眺めながら、そういえばとついでの用を思い付いた。