4話 幕間・魔王
地上であって地上でない、地下の世界。頭上には空はなく黒い岩盤があり、光が射すことはない。
しかし彼らの世界には光が溢れている、魔法によるまやかしの光が。初代の魔王がこの世界を光で満たしてから少なくとも数万年は過ぎている。だのに、この偽物の太陽は消えることなく明々と燃え続けていた。それは魔王の魔力がでたらめであり、最早神と呼べる存在であった証明。
そんな魔王が信仰されることになるのは必然と言える。彼らの信仰心は風化するはずもなく、連面と続いてきた。
彼らの世界にはいくつかの国があり、それぞれの国に王がいる。だがそれらとは根本的に異なる、世界を統べる存在が常に一体だけ存在していた。【魔王】と呼ばれる生きものである。
彼らの世界の始まりであり全てである魔王という存在は、血による継承を認めておらず、ただ一点、強さによってのみ決められていた。
現代の魔王に挑み、勝利した者が次代の魔王となる。そうして、地塗られた歴史ながら彼らの世界はある意味平坦に穏やかに治められてきたのだ。魔王という名の、強大な【ルール】によって。
ある国には広大な農地が広がり、獣に似た姿をした魔物と人に似た姿の魔物が農耕を行うことによって経済が成り立っていた。その国は次代の魔王の候補のなかでも最も魔王に近いと言われる、若いながら偉大な王が統治している。
争いを良しとせず、魔物同士の協力と得手不得手を踏まえた助け合いに重きをおいていた。
また、ある国は巨大な建造物の群れの中に埋もれるようにできた歪な森、その回りに広がる砂漠を領土としていた。
その国には明確なルールは存在せず、ただ強い者は弱いものから奪い、ただひたすらに強さこそが民一人一人の存在理由であると明言している。
この国こそ、現在の魔王が統治する国、であった。ほんの10年前までだが。
長らく地上世界への干渉は行わなかった歴代の魔王の中で唯一、地上の制圧に意欲を見せ地上への移動手段をも確立した、最も新しく貪欲なる魔王。
その魔王が突然国民の前から姿を消し、その魔力が誰にも感じ取れなくなったのは間違いのないことだった。
地下世界が混乱に陥った中、各国の要請を黙殺し何も語らないまま、魔王の臣下達はひっそりと世界に散っていた。地下だけでなく、地上へまでも。
彼らの、主をさがし出すために。