18話 やっと村についたと思ったんだが
夜遅くにこっそり更新。書くのも遅い、誤字脱字を直すのも遅いですが、地道にがんばります。
「お、ほれ迎えがいるぞ。もうここまで来たか、暗くなる前につきそうじゃな」
馬車の窓から外を見ていたじいさんが木の上を指差した。なに、あの木になにかいんの?
目を凝らすが、葉が繁っててよく見えない。だがクルルは何かに気づいたようだった。
「…あれは、ダークエルフ…?」
「ほ、見えるのか?おぬしはなかなか目がいいようじゃな、安心せいうちの村の番人のようなもんじゃ」
「村の、番人…?」
なんじゃそら。
つーかダークエルフ?どこにいんの?名前からして怖そうな感じだけど。
ライアットが声をかけて馬車もゆっくり止まった。
御者さんも気づいてなくて素通りするとこだったのね、つーかいい加減姿見せろよダークエルフさん。
キョロキョロしていたら、一番手前の木の後ろから細い人影がぬっと出てきた。
「………」
無言でこっちへ歩いてくるのは、黒い髪に褐色の肌をした中性的な雰囲気の青年だった。
銀縁の眼鏡をかけているんだが、その眉間にはくっきりと一本の皺が刻まれていた。なんか怒ってる、怖いんだけど。
「これはこれはお嬢様、なんとも勇ましい出で立ちで」
「うっ…!」
馬車から降りようとしていたクルルの後ろから、詰まったような呻き声が聞こえた。キャシーが妙に低い姿勢で背中にへばりついているようだ。
勇ましいって、まぁたしかにライアットのズボンとシャツを借りてるみたいだけど。
「今日のご予定はたしか教会で掃除をするのでしたね、もう終わったのですか?さすがお早いですね」
「うう…」
クルルを盾にして頭を低くすぼめるキャシーに、眼鏡の青年は怒気をはらんだ笑顔を向ける。口調が丁寧なのが怖い。
あー、この子言いつけを守らなかったんだっけ。めっちゃくちゃ怒られるわね、これは。
「まーまー、道中でワシからも説教したし、ゴブリンに捕まりそうになって痛い目にあったようじゃし。とりあえず家で休ませてやらんか?」
「あなたはいつも甘やかしすぎです。昨日私たちがどれだけ探しまわったと思ってらっしゃるのですか。村長夫妻など、貴方から無事に保護したと連絡が来た後倒れてしまわれたんですよ」
「お、おう…」
へらへらしていたじいさんが言葉につまった。
さっきより怒ってないか、眼鏡の彼。
あくまでも丁寧な物腰のまま、青年はキャシーを引きずって先に行ってしまった。が、がんばれよー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キャシーと眼鏡の後をついて馬車を進めて行くと視界が開けて、木でできた柵に囲まれた村が見えてきた。
柵から距離のあるところに茶色っぽいレンガや木で組まれた家がちらほら、その回りに牛や馬がのそのそ歩きまわっている。小さい茶色いのは鶏かな?
なんていうか、平和そうな村だなー。
そんなことをのんびり考えていたら、クルルが突然立ち止まった。
「んん?」
じいさんが妙な顔をして呻いた、と同時に真っ白な光が足元から沸き上がり、俺たちを中心に模様のようなものを描き出していた。
「ぬおおお!?」
「ミーーー!?」
「…?」
おい非常事態だろクルル!ちったー慌てろよ、なに不思議そうに地面見て…
「わ、わーーー!?賢者様が消えたーーー!!」
突然目の前から二人(と一匹)が消え、残された兵士と騎士達はパニックになっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トンッ
一瞬の浮遊感の後、小さな衝撃があった。俺を抱えたクルルが着地した、ようだ。
さっきまで荒い石畳だったはずの地面が、白い砂で覆われている。
下を向いていた顔を恐る恐るあげると、そこには思いがけない光景が広がっていた。
「…ここは」
頭上から戸惑うような呟きが聞こえた。同感です。
まじでここどこ?
白い岩に囲まれた洞窟のような、でも洞窟と言うには広大すぎる空間。
上も下も真っ白で、クルルの爪先あたりから先は静かな水面が広がっている。
湖、かな?海みたいに端が見えないんだけど、ここ外じゃないよね?
天井…っていうのだろうか、それもぼんやりとしか見えない。こんなだだっ広い空間、自然にできたとは思えないな。
緑がかった淡い青色の湖は、よく見たら水の中に色とりどりの光が漂っていて、それがぼんやりと反射して視界がいいのだとわかった。回りが白いから、より反射するんだろうな。
「うぅ、痛た…」
声が聞こえたほうへクルルがぐるりと振り返り、抱えられた俺も真後ろへ目線がいった。
白い砂浜に倒れていたライアットが顔をあげたところだった。
うわぁ、顔が砂でまっ白…見た感じ、こいつは着地失敗したってことか。
と、ものすごい勢いであたりを見回した後、両手を前につきだすじいさん。
あ、手首から先が消えた…いつぞや見た「アイテムボックス」ってスキルだよな、あれ。
「マーガレット!ジョルダ!シェスティアーナーーー!」
じいさんは細かい石の欠片を両手に溢れるほど取り出すと、この世の終わりのような顔をして絶叫した。
え?なに、誰?
「なんだい、相変わらず石に名前なんかつけて。女々しい男だねぇ」
ハスキーな声が聞こえて、湖面から浮かび上がるように白い霧がスーッと立ち上ってきた。それはまるで生き物のように人型を象り徐々に実体を伴っていく。
あっという間に人間になったそれは、宙に浮かぶ黒髪に赤い瞳の女の姿をしていた。
彼女が纏うのは着物だった、ここは異世界のはずなのにと驚くが、もしかしたらこっちにも日本ぽい文化があるのかもしれないと思いあたる。後で聞いてみよう。
その人の着崩した白い着物の表面には鱗模様が浮かび、薄桃色に明滅する様はまるで幻のようだった。
「ああああ粉々…いつもいつもワシの魔石を勝手に使わんでください!うおおおマーガレットおおお!」
「うるさいねぇ」
おかしそうに袖で口許を隠しながら笑う、その仕草はぞくりとするほど色っぽかった。
彼女はそのままクルルに流し目を向けると、宙に浮いたまま音もなくこちらへ移動してきた。
「でも安心したよ、シンシアに置いてきぼりにされてあんなに萎れてたのに。すっかり元気になったじゃないか」
「お陰様でな!落ち込んどる暇なぞないわい!」
じいさんは涙ながらに非難しているが、黒髪の女は心底楽しそうだ。
つーかさっきから何度もクルルをちら見してきてるんだが、なんだろう?
上を見あげるとクルルも視線に気づいたらしいが、そろりと一歩後ずさった。
「で?この子がアタシのキマイラかい?」
「…なんじゃと?」
「あれ、違うのかい?アタシの魔力が漂ってるから、てっきりそうかと思ってたよ。じゃキマイラはまだ卵ん中かね」
「ちょ、さっきから何を言っとるんです、キマイラて、あの卵の中身がどこにおるか知っとるんですか?」
「おや」
んー?
キマイラて、なんかどっかで聞いたことあるな。ゲームに出てきたモンスターだ、たしか頭が3つあるやつ。
「くぇっ」
「あ、す、すまん」
急に頭っつーか体を押し潰されて変な声が出た。
な、中身が出たらどうしてくれる、マジで潰されるかと思った。
クルルが何を思ったか両手の間に俺を挟んで押し付けてきたのだ。お前の握力でそれやったらシャレになんねーよ。
慄きながら上を見ると、クルルがなんか変な汗かいてる…どうしたんだ?
黒髪の女がさっきの声を聞き咎めたらしく、こちらを向くと目を細め視線を微妙に下へずらした。俺がいることにやっと気づいたっぽい。
「………」
俺の視界がクルルの手で覆われ、真っ暗になった。
おい、なぜ俺を隠す?
「ほぉ…」
女の感嘆がかすかに聞こえたその瞬間、体にものすごいGがかかり、全身が後ろへ押し潰されるような感覚があった。
な、なんだ?潰れる、口からあんこ出るぅ!?
「ははっ、怖いかい?」
また声が聞こえると同時に圧迫感が消えて、体が楽になった。
「ミャー…」
ほっとして息を吐く。
ん?なんか明るい…
「ジャック!」
クルルが俺を呼んだ。
あれ?
声が上から聞こえないで、横から聞こえるぞ?
そろりと上を見上げると、クルルじゃない顔があった。あの黒髪の女がそこにいた。
俺を両手の上に載せて、顔の前に持っていく。
そのままじーっと凝視された…
ちょ、近いです、こんな美人に急接近されたら照れるじゃないか。
「ぶはっ!!」
…なんか、吹き出された。
「あっはははは!」
「…ミゥ」
俺を真正面から見たまま爆笑している美女。
な、なんだろう、ちょっと傷つくな。
「ずいぶん可愛らしくなっちまって。これならアタシが飼ってやりたいくらいだよ、ふふふ」
「おーい」
なんか遠い声に振り向くと、じいさんがこっちに走ってくるのが見えた。
あれ、なんでそんな離れたとこに?さっきはすぐそばにいたよな。
クルルはどこだ、あ、いた。なんだすぐ横にいたんじゃないか。
「はぁ、はぁ…おぬし、その足の速さはなんなんじゃ、消えたのかと思ったぞい」
息も絶え絶えのじいさん、つーかちょっと走ったくらいでヘバってやがる。
そしてまだ俺を見て笑ってる美女。クルルはオレのほうを向いたまま動かない。
えー、なんなの?何がどうなってるの?
「くっくっくっ。いや、ほっとしたよ。アタシはてっきりキマイラ自身が何かして封印を解いたのかと思ってたんだ。そうだったらまた呪いを掛けなおすはめになるとこだった」
「は?なぬ?」
美女の言葉にじいさんが顔を強ばらせた、そういやさっきから言ってるキマイラって何さ。
クルル…なんか下向いてだらだら汗かいてんだけど。どうしたのお前。
「あんたは嘘がつけないようだね…まさかアタシのかけた封印を解くやつがいるとは思わなかったよ」
「はー、はー…ふぅ疲れた。おい待て、封印とは、まさか…」
じいさんが見ると、クルルはさっと顔を背けた。
ほ、ほっぺたがやばい感じに真っ青なんだがこいつ。
「そうか、死んだ場合も解けるようにしといたんだっけ。これだけ魔力が弱まっちゃ、死んだのと同じ状態に思えるわ。普通の猫より生命力が低いんじゃないかね、これは」
片手で腋の下を持たれて、頭や頬、腹、しっぽをつつかれた。こそばいです。
「………」
「大丈夫、取って食いやしないよ。だからそんな顔しないどくれ」
真っ青な顔のクルルに柔らかい声音で言い、美女は俺の片手を持って肉球をぷにぷに押した。
「ま、まさか、なぁクルル?もしかして、この猫はキマイラの卵から生まれたというのか?」
「ミィ?」
え?
猫、って俺だよな。
キマイラって、つーか卵って、マジですか?
俺猫じゃなかったの?いや、猫って言ってるし、あれえ?
「んー…」
ふいにぞくりと寒気がした。な、なんだろ、すごく怖い、なんだか何かが怖い。
そっと前を見ると赤い瞳がこっちを見つめていた。
「ふん……ちょいと魔眼を使わせてもらうよ」
「え!?ちょ、それは」
じいさんの慌てた声が途中で途絶え、目の前が急に真赤に染まった。
字を間違っていたので、ついでに少し手直ししてみました。評価、ブックマーク入れて下さった方ありがとうございます。