12話 兵士のリックとハロルド
若い兵士達はパンをかじりながら、無口なクルルに色々なことを教えてくれた。
この国は数十年前までとても貧しく、特産品もなにもないド田舎であったらしい。なのに今では城下町に大きな店が立ち並び、居住区域も広くなり、国民の暮らしもすっかり上向いてとても良いところになったという。
治安も良く、子供が一人でお使いに出かけられるほど平和である、と。
それってすごいことなのかと思ったが、日本生まれだからそう思うんだろうと思いあたった。テレビのニュースで、某国で誘拐が多いとか言ってたっけ。
そして、彼ら兵士達は毎日地道に訓練に明け暮れ、今までたいしたトラブルもなかったようだ。
「俺らはこういう遠征初めてなんだよ。最初に指令が出たときは、俺ここで死ぬのかなーって思ったもん」
「でも今回はラッキーだったな。チーズにクルミに薬草まで配ってもらえたし、さすが賢者様だよ」
「魔獣の遺跡とか生きて帰れる気がしなかったけど、今となっては来て良かったぜ」
「ほんと、こういう危険な任務は騎士の人達だけでやるべきだよ。なあなあ、知ってるか?この国には勇者がいるんだぜ!今は引退して騎士隊長やってるんだ。何を隠そう、俺らの上司」
「まー雲の上のお人だし滅多に見られないけど。俺一回だけあいさつしたことあるなー」
そんなことをいいながら、とても楽しそうだ。
勇者かー、いいなー…俺もせっかく異世界に転生したんだから、そういう派手なのがよかったなー。
踏ん張りが効かずよろよろしながら前足を上げて、そっと手を見る。もふもふの手のひらには黒い肉球があった。
はぁー…
なんでも、ライアットはあれで高名な賢者だそうだ。数年前に魔王を倒した勇者パーティーのブレインだった、と。
まさかの勇者パーティー、まじであのよれっとした兄ちゃんすごい人だった。とてもそうは見えないんだけど、こないだあのすごい魔法見ちゃったから信じるさ。
それより出たよ出ましたよ魔王さん。やっぱ剣と魔法とモンスターの跋扈する世界だったのね、怖いわー異世界。
あ、でも魔王いなくなったんなら安心じゃね?って、あら、モンスターはまだたくさんいるんかい…
どうしよ、そんな世界で子猫な俺が生きていけるんだろうか?
物珍しそうに耳を傾けるクルルを見上げながら、漠然とした不安に襲われる俺だった。