表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第一章 はじめまして、異世界
11/102

11話 おはよう朝ごはん

朝になったことには気づいていたが、この暖かさから離れるのが嫌で狸寝入りを決め込んでいた。

俺が潜り込んでいる毛布越しに、ごそごそばさばさと何かする音は聞こえている。

俺たちは旅の途中である。

彼らと行動をともにするようになってから毎日、寝て起きたらすぐ出発の準備でみんな大わらわなのだ。まあ、俺以外は。


なんたって俺は子猫だ。こうして皆が忙しく働いている時であっても、ゴロゴロと惰眠を貪っていられるいい身分。勤め人だった時は休日さえ目覚まし時計の音で起きていたが、こっちの世界に来てからは言っちゃなんだが毎朝こんな感じ。

だらだら、ごろごろ。

いやー、手伝いたいのは山々なんスけどねー。働きたいのになんの力にもなれず申し訳ないわー。

そんなことを考えてニヤニヤしていたら、突然体が宙に浮き視界がぐるりと回った。

「ミャッ!?」

毛布から振り落とされ、ぽてぽてと絨毯の上を転がる俺。

「あ…すまん」

目を回しながら見上げるとクルルが毛布を掴んで立っていた。慌ててしゃがみ俺を抱えあげる。

「ミー!」

手の上でくるりと回され、全身を確認された。うう、怪我はないからやめてくれ、酔いそうだ。

まったくもう、この野郎はどうにもドジでどんくさくって…

内心で呆れていると、ふと気がついた。俺を見つめる、なんともいえない微妙な表情に。

こいつは変な首輪をつけられて奴隷にされていた。そのせいか知らないが、少々表情が乏しい様子が見られる。しかもたっぷりした髪が顔を隠していて目元がよく見えない。

だのに、この、俺を見る…残念な子を見るよーな目はどういうことだ?

クルルの目線まで持ち上げられて、じーっと見つめられること数秒。や、いや、あのね?俺だってやればできるのよ?なんてーか今はこんな体だから…労働力として期待できないっていうか…

なんとも言えない目線を受け止めきれず視線を反らし、きまずい沈黙にさらされる。

「…はぁ」

ふいにクルルが目を閉じて重い息をはいた。

うぅ、いたたまれない。もしかしてこいつ、俺の考えていることがわかってたり?まさかとは思うけどさ…

クルルの胸に抱き抱えられ天幕の外へ向かいながら、冷や汗をかく俺だった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



兵士達はおもいおもいに身だしなみを整えながら、焚き火の周辺に腰を下ろしていた。パンを食べたり、干し肉みたいなものをかじってるやつもいる。

彼らはいくつかの班に分かれ、順番に見張り、巡回などの仕事をこなしていた。けっこうな人数がいるが、その動きは皆きびきびとして無駄がない。まあ、この焚き火を囲む食事の時間は別のようだが。

ふっふっふっ…いつもなら俺はヤギのお乳を飲んだ後再び眠ってしまい、この朝食風景を見ることがなかった。だが今日はこの通り起きている!眠いけど!

なんたって初めて見る異世界だ、食べ物がどんなもんか興味は尽きない。ヤギ乳もうまいけどさ。

ふむふむ、パンは…なんか黒くて固そうな。食いちぎるようにしてるし、やっぱ相当固いんだ。しかも粉っぽい。

干し肉、はなんの肉なんだろう?ちょい黒っぽく見えるのが気になる、木の皮っぽくてなんともまずそう…


そんなそそられない食事の合間に、彼らは水風船の萎んだような物に口をつけている。

中身はやっぱ水なのかな?あれって水筒的な物?

俺を抱え座っているクルルにも、兵士の一人が食糧を渡してきた。おお、なんかボロいガーゼみたいのでくるんである。

ほうほう、近くで見ると思ったよりでかいな。パンに干し肉に、水筒と…小さめのチーズの塊とクルミみたいなのが入ってた。あれ?なんだこれ?

クルルの膝の上に広げられた包みの中に顔をつっこんで、くんくんと匂いを確かめる。

「おいおい、いいのか?猫に食われちまうぞ」

お?近くの兵士が寄ってきたみたいだな。

しかし失礼な、俺は人の飯に手を出すようないやしんぼじゃないぞ。気になるけど。

「それ、やっぱ猫だったんだな。昨日までネズミだと思ってたぜ」

クルルの隣に腰をおろした兵士は若く、まだ幼い顔つきをしていた。くったくない笑顔で横に腰を下ろすと、見上げる俺の頭をつつき耳の後ろをかいてくれた。

ふむ、中々心得てるじゃないか。気持ちよくて喉が鳴る、いかん、眠気が再燃してきた。

「おいリック…」

「なんだよ?だーいじょうぶだって」

もう一人の兵士が若い兵士を咎めるように声をかけるも、すぐ笑いとばされる。

「ちょっと珍しいってだけで、普通の人と変わらないよ。な?」

肩をばんばんと叩かれて、クルルが小さく頷く。

そっか、もしかして獣人って聞いて怖がられてたのかな。クルルはわかってないっぽいけど。

「顔中傷だらけだったからおっかなく見えたけどさ、まだ子供じゃん。な?」

「え、あ、う…子供、じゃない。…多分」

「ん?どういう意味…あれ!?顔が違うっ、傷が消えてるぞ!」

今気が付いたんかい。でもクルルの顔は髪の毛で下半分くらいしか見えないし、無理もないか。

あーもう本当こいつの頭もさもさでうざってーなー、だれかハサミ持ってないかな。って今の俺の手じゃ無理か…


それから二人の兵士は俺たちの隣へ並び、食事を始めた。メニューは一緒のようだ。

若いほうの兵士はリックという名で、俺を膝に乗せてにこにこ顔である。もう一人とあわせて、部隊の最年少であるらしい。背の高い彼はハロルドというのだそう。こいつのほうが頭良さそうだな。くんくんくん。

「こらこら。チーズはやらないぞ、賢者様からの特別な差し入れなんだから」

「お、クルミ食べないのか?なら俺が」

「あー!?」

俺が鼻をくっつけていたチーズをリックが取り上げると同時に、ハロルドがその脇のクルミをさらっていく。悲鳴を上げて怒るリック。

わかるぜハロルド、なんかこのあんちゃん、かまいたくなるんだよなぁ。

若い二人のじゃれあいを見上げつつ、この隙にとこっそりチーズを舐める。ぺろぺろ…

うーん、塩気が効いててなかなか美味である。ちょっとしょっぱいくらい味が濃くて、やや匂いが強いけどこれはパンに合うだろうな。うーまー。ぺろぺろぺろ。

ぺしっ。

「ミャッ!?」

何かに後ろ頭を小突かれたと思ったら、ふわりとしたものが体に巻き付き、そのまま上に持ち上げられた。

クルルが、しっぽで俺を持ち上げたようだ。っておいしっぽ、そんな使い方もできるの?

目線の高さで固定されぷらんと手足をぶら下げる俺を見て、少し困った顔をするクルル。

「だめだ」

うっ、ばれてた。すんませんした。

反省していると、なんとなく伝わったらしくしっぽから解放された。うう、ちょっとドキドキしたけど、異世界で初めての固形物うまかった。歯が生えたら今度は齧りつこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ