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Re:Voice -声の再開-  作者: まぐろ牛丼
5/5

#5 That Day

ーーーこの話は、今から5年くらい前の話になるだろう。


もう5年、私の息子が交通事故で植物状態になって2ヶ月は経過していただろう。

私は既に絶望の真っただ中にいた。

息子の名前は・・・そう、シルビア。だった


シルビア・アーノルド・アレスティア。私はアレスティア家の大黒柱だ。

しかし、今の私は、この(アーノルド・)名前(アレスティア)を失ってしまっている。

その経緯に関する細かい記憶は私が言葉を尽くして語れる程鮮明に覚えてはいない。

気づいた頃には違う名を名乗っていた。それがなぜがか、分からないが、それだけの話だ。

アレスティア家はロシアの小さな田舎にあったが、どちらかと言えば裕福な家庭で近所の知り合いを招いてはイベントがある時はよく庭でパーティーを開催していた。


そんな家庭だったがとにかく私は1人息子であったシルビアを心から愛していた。

シルビアは素直で、真面目で、心の優しい子供だった。

もうすぐ幼稚園を卒園し、春休みが終わったら小学生となり、学校に通う事になる、そのことに心の躍動感を抑えられなかったシルビアは、まだ幼稚園すら卒園する前から真っ黒のランドセルを背負い、まだクラスも決まっていないのに'1年1組シルビア'と書いたワッペンを右胸に付けた格好で、この先通る事になるであろう通学コースを朝食のスクランブルエッグとトーストを食べる前と日が暮れ、夕食になる前の2回、ランドセルを手にした日から毎日欠かすことなく歩いていた。シルビアの心は一足早く小学生になっていた。


私の妻、アンナもシルビアの身を心配しており、シルビアが通学コースを歩く為に出掛けた後、気づかれない様に陰から見守っていた。よそ者が見たら誰もがアンナをストーカーと勘違いするだろうが、近所の人は話さずとも事情が分かってくれた。

シルビアの事を2人で愛していた。それも近所の人は黙認していた。


私達のそんな幸せを、神は妬んでしまったのであろうか。

神が幸せを奪ったのは、いつもの晴れた日。

雪はいつものように積もっていたが、シルビアは気に留めることなく小さなスパイクが付いた長靴を履いて今日2回目の日課を行った。日はまだ夕焼けだった。


時間としては私の仕事があと少しで終わるところであった。

シルビアが夕方の通学コースから帰宅するタイミングが私の仕事が終わるタイミングなのだ。


幸せを奪った瞬間については、当時のアンナから聞いた話になるが、アンナも毎日の様に陰からシルビアを見守っていた。

場所は小学校へ続く最後の信号機の前であった。

押しボタン式の信号機が青に変わって、シルビアはみんなの見本になるように、天に掲げるが如く、手を垂直に挙げて横断歩道を渡った。

アンナもシルビアが安全に横断歩道を通過した事を確認した後、急ぎ足で横断歩道を渡ったが突然アンナの右側から大きなモーター音が接近して迫ってきた。

聞きなれない横断歩道からのモーター音に対して、異変を察知したシルビアは後ろを振り向いたが、目に映ったのは、トラックが速度を落とさずに自分の母親に突進している光景。

「あぶないっ!」と声を上げるよりも早く体が動いた。感謝してもしきれない、愛すべき母親を助けるべくシルビアはガムシャラに走り、横断歩道でトラックを前に立ちすくんでしまったアンナを突き飛ばし、そしてシルビアがアンナの代わりにトラックに衝突する事故となった。


事故の後で医師から聞き発覚した話では、どうやらトラックの運転士は運転中に持病の発作が起き、意識を失っていた様子で、シルビアに衝突した後、進路が僅かに逸れ、電柱に衝突する事でトラックは停止。大きな事故にはならなかったが、トラックの運転士はその衝撃により発作から回復する前に命を落としてしまった。


事故に気付いた散歩中の老人により、シルビアは10分後には救急車に連れていかれ、私が会社から帰宅し、普段と違う光景に首をかしげるまえに病院からの連絡を受け、帰宅した時の癖になっているネクタイを緩める事さえ忘れて病院へ飛び出した。あまりにも信じられない事を告げられ、冷や汗が止まらずにあふれ出していた。


柄にもなく多少危険な運転を行った私だが、通常の運転より10分は早く到着できた。幸いトラブルも起きなかった。

病院の自動ドアを潜り抜けた私はすぐにシルビアの所に案内され、着いた先は手術室だった。

手術室の前に座って顔を伏せているアンナは私に気づいて、事の顛末を話してくれた。

シルビアの背中に背負っていたランドセルが奇跡的にも衝撃を吸収していた為に命を落とす事は無かったものの、体への衝撃はゼロにはできず昏睡状態で、回復したとしてどこまで障害が残るかは不明な所だという。

「命があるならそれだけで充分さ、シルビアに障害が残っても家族で乗り越えよう」

私の放った励ましのセリフは、果たしてどこまでが私に跳ね返ってくるのだろうか。

アンナはこの時私の体が恐怖で小刻みに揺れていたことに気づいてたのか、今となっては知る由もない。


シルビアの手術から約1時間。看護師が1人、手術室から姿を現し、私とアンナは顔を上げた。

2人は希望を忘れてはいなかったが、看護師の表情を見て全てを察してしまった。

「・・・もう、あなた方を認識する事は、難しいかもしれません。」

看護師の言っている意味が全く理解できなかった。アンナは薄々気づいてたようだが、分からないフリをし、下を向いた。分かりたくなかったんだ。

現実逃避の念は次第に声に変わり、病院内を叫び声で覆い尽くした。


結果として手術室から出てきたシルビアは、見た目こそは怪我もなく、今まで通りの容姿であったが

どれだけ時間を要しても私たち家族を決して認識しない。家族どころか世話をしてくれる人も認識しない

全く感情を持たず、意思も持つことのない植物状態になってしまったいた。


その時、避けられない現実を。

決して乗り越える事が出来ない障害が、私とアンナを唐突に絶望に突き落とした。


アンナは当時の事故の原因を自分と決めつけ、自分を責め続けた。

責めに責め尽くした挙句の果てには責任の重さと現実の辛さから逃れるために薬に溺れる事になった。

薬に手を出した頃には既に、あの時の美しい肌と髪を持っていたアンナの面影は既に失われ、皮を被ったガイコツのように痩せこけてしまった。体はシワにまみれ、髪はボロボロで抜け落ち、部分的にハゲてしまうほどに栄養失調になっていたのだ。

それから自ら命を絶ったのは数日後の事だった。睡眠薬を多量に服用し、起きる事は無かった。

アンナが薬に溺れるようになった頃にはシルビアは病院で診る事は叶わず、補助金での援助の元に障害施設に移動になった。

私はシルビアに会う事を恐れ、電話越しで施設での看取りを、私は伝えた。


絶望の淵にいたのは私も同じだった。

現実を直視できない為に休む時間も惜しみ毎日仕事を倒れるまで続ける日々を送っていた。

時には酒に溺れたり、非行に走る事もあった。

「障害を家族で乗り越えよう」そういった私が、家族を見捨てたのだ。

自分を責め続けたアンナを励まし、夫として、支える事もできず。

本人が一番辛いハズなのにシルビアから逃げ、最終的には愛する息子を見捨てた。

私は史上最低の父親になっていた。同じ人間として全人類に申し訳ないほどに落ちぶれた。


考えれば考えるほどに自分を追いつめてしまう。

誰よりも学校に行くのを楽しみにしていた。たった1人の愛する息子が、学校に行く事が叶わずにいる。

それどころか、一緒に通うハズの小学生は友達と固まって楽しそうに学校に通っている。

彼らのランドセルは傷1つないピカピカなものなのに、シルビアのランドセルはトラックから命を守る為に犠牲になり、もはやランドセルと一目で認識できないようなものになっていた。


神様から大切なものをとことん奪われた私は、とにかく生きる理由が無く死を待ちきれない状態。


死ぬことで逃げようとしていた。


そんな死を求めて過ごす人生を送っている私に、転機が起きた。

いや、これさえも他の人から見たら最低のエピソードなのだろう。


雪も溶けてきた、春の出来事。

私はいつものように、現実から逃げる様に死を求めるように仕事に明け暮れていた。

しかし、疲れが積りに積もったのだろう。私は仕事場で倒れてしまった。

ついに死ねる。私は解放されたと期待してしまった。


期待は見事にぶち壊され、私が倒れたことに気づいた現場の人が駆けつけて私を病院に連れて来た。

(余計な事をするな!このまま私をほっといて、死なせてくれ・・・!)

言葉を出せないほど疲労を貯めこんでいた為、とにかく念じたがその願いは届く事は無かった。


私は病室で目が覚めた。1つの部屋で患者が4人いる。スタンダードな病室。

あたりを見渡すと患者は私の隣に1人、女の子が泣いていただけだ。

見た目はシルビアと同じ年頃の少女で、私に辛い記憶がフラッシュバックし、とても辛い気持ちになっていた。

・・・辛いハズなのに、少女の事が気になって仕方がなく、何度も少女を見ていた。

そのたびに何度も辛い感情が蘇った。


私の視線に気づいた少女は私をみるなり、泣き止んだ。

「おじさんはどこか悪くなっちゃったの?」

「いや、無理しすぎて倒れただけさ、少し休んだら帰るよ」

「・・・じゃあおんなじだね。あたしはね、お医者さんが言ってたんだけどね

'しんぞう'って場所が悪いみたいなんだ。私ももうすぐ'おむかえ'が来て帰るんだよ」

少女は笑顔で私に話し掛けていたが、とても悲しい目をしていて、強がっているのが分かった。

今の私の感情では上手く表現できないが、少女の悲しみが伝わって私の胸に何度も訴えかけて来る。


シルビアとアンナを見捨てたあの日から私が失ったものが、私の目を、頬を伝って、下に流れ落ちる。

「私は、君を苦しめてる悪い悪魔から守ってあげられるかもしれない」

こんな事を口走ったのも失った感情が1つ戻って来たから、だったと思う。


次の日の朝食後に私は退院できた。元はと言えば疲労が溜まっていただけだから、体が回復したら退院なのは普通だろう。

私の隣のベッドでにいた少女は私と会話を弾ませながら朝食を食べた後、また眠りについていた。

最後にお別れの言葉を言う事が出来なかったのが心残りだが、たった1日の付き合いで、こんな中年オヤジの事なんて、忘れてくれた方がこの子の為だ。


私は病院から出た後、シルビアが居る障害施設に急いで向かった。


場所こそは知っていたものの、施設に来ることは初めてであり、ここで過ごしている人は色んな特徴を持っていた。

(1回でもここに来ていれば、私はシルビアと向き合えたのかもな・・・)

施設では私は職員の人に責められる事もあれば同情の声もかかり、とても惨めな思いをした。

案内された一室でシルビアはベッドから体を起こして、正面を見続けていた。

実際には正面はただの木製の壁で眺めるものではない。

「・・・シルビア、シルビア・・・!

今まで来てあげれなくてごめんな・・・私の事が分かるか・・・?」


何度もシルビアに私は呼びかけた、顔を触ったり、肩を揺らしたりした。

顔を叩けば反応してくれると期待もしたが、傍にいた職員が私を静止した為に実行できなかった。


シルビアは正面を見据えたまま、私を見る事は一切なかった。

植物状態だから私を見ているのだ。頭では分かっているのに

()()()()()()()()()()()()()。そう感じてしまい自分を責め立てる。

今まで逃げていた現実に再度直面し、今以上に逃げたくなった。


逃げたい、逃げたい、逃げたい・・・逃避の感情が頭の中で蹂躙する。

「私はもうここには来ません・・・最後に頼みがあります」

職員は静かに私の顔を見ていた。

その視線は、同情か、哀れみか私には全く分からなかった。

既に私は、全てをマイナスにしか感じられなくなっている。アンナの精神状態に近づいているのを自覚していた。

「シルビアには叶わなかった未来を、これから叶えられる可能性のある子供に託してもいいでしょうか」


私が施設でシルビアに最後の別れを告げてから2年は経っていた。

あれから吹っ切れたのか、ヤケクソになったのか分からないが、心と身体が軽くなり前ほど死ぬことを求める感情は薄まった気がする。


あの時の判断は正しいのか、間違っていたのか、それを答えてくれる人はいなかった。

私が行った行動は、時としてシルビアを'殺し'、時としてシルビアを'生かす'ものだったからだ。

吹っ切れた、とはいえ、私の日常は変わることなく'無'そのものであった。


2度目に過労で倒れてまた同じ病院に入院する事になった。

その時にふと少女の事を思い出し、会話のネタを兼ねて看護師に聞いたところ、看護師の目はクワっと見開いた為、私は危機回避本能が働きベッドに倒れ込んだが杞憂に終わった。

「奇跡的にも年齢も同じ子供の心臓を提供して下さった方がいて、移植したら、容体が治ったんですよ!その後、リハビリして、つい先月退院して、家族の方と一緒にWel City(ウェルシティ)に移住するそうです。ほんっとうに奇跡ですよ~!」

看護師は本当に、感動したのか熱く語った後に涙を流していた。

私も一緒に泣きそうになってしまったが、'安心'が強く出たため、堪える事ができた。

中年オヤジが泣いている姿なんて、需要がないんだからな!


ーーー少女を救うために、犠牲になった1人の子供の命を、私は一生忘れない。


愛する息子、シルビアの代わりに、夢を叶えてくれれば、もう心残りは無いのだから・・・


今回の退院には3日かかった、栄養失調もあり痩せこけていた為に、多少のリハビリを行った。

私はまた、何度も過労で入院するんだろう。しかし病室には少女はいない。


2度目の過労による入院生活を終え、退院した。

病院を出た後は、そこから・・・()()()()()()()()()()()()・・・?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー何か、小さな声が聞こえた。


目が覚めるとそこは見覚えのある光景だった。

古めかしいインテリアバーの様な間取り、ソファに横になって眠っていたのだろうか。

私の寝顔を3人の成人とがまじまじと監視し、1人の少女が私の手を握っていた。

小さく、寒さに耐え忍んだように、冷えきった手だったが、私は暖かく感じた。

そして、どこか懐かしさを感じた。


「まじかよ・・・生き返った」

誰に向かって言うつもりもなく言葉を放ったのは、私も見覚えのある日本人の男(ジャパニーズ)、立花王政だった。

「お前さん、審判の子供達(チルドレン)のガキに'死ね'って言われて、文字通り'死んだ'んだぜ?

それで、ついさっき突然返ってきたお前さんの相方がお前の手を握って・・・」

「私も心配停止を確認したのに、この子が手を握った後に'戻ってきて'って言っただけで・・・」

王政の言葉を遮って、女性が話した、名前はツォンリーと言っていたのをどこかで覚えている。


私は、重くて思うように動かない体を起こし、ソファに腰かけた。

「信じられねぇ・・・いくらバケモノの審判の子供達(チルドレン)でも人を蘇らせるなんて・・・

()()()()()()()()()って聞いてたのによう。こんなん情報にねぇよ・・・」

立花を含む3人の成人は私の手を握っていた少女、メイから距離を開け、拳銃をメイに向けた。

「なんのつもりだ!!」

「ハン!殺すつもりはないさ、ただ、口を開けたら俺は打ち殺すかもしれない、能力が強すぎる・・・

お前さんも飲み込めない状況だろうが、聞いてくれ」


そう言った後にフェレスはもう1人アジトに居た少年を指さした。

少年は手足を縛られ、口をテープで塞がれて置かれていた。

うっすらと記憶にある。突風を起こしていた少年だ。

そして、私はこの少年の力で'死んだ'んだ。


「このガキ気性が激しいし、ヤバいからよ、筆談で情報を聞き出す。力を貸してくれるか?」

私は、あまりにも道徳に欠ける少年の状況に一瞬判断に遅れたが、メイはすぐにうなづいた。


立花の仲間の女性、ツォンリーと言う若い女性が少年の手を縛っていたロープを解き、腕を抑えた。この状態では少年が動かせるのは手首がせいぜいだろう。もし手をこれ以上自由にしてしまうと、口に貼っているテープをはがされ、言葉を放ち能力の発動してしまい大惨事になるだろう。


そしてWel Cityの役員も兼ねているフェレスが少年の前に立ち、質問をする。

立花に聞いた話によるとフェレスは読唇術の外にも心理学にも秀でていて、相手の嘘を瞬時に見抜く事が出来ると言う。3人の少人数のくせに抜かりのないチームで恐れ入る。


心理学を全く知らない人からしたら、ただの会話に見えてしまうが、周りにはただならぬ緊張の張りつめた空気が漂っていた。フェレスは淡々と質問を投げかけ、少年はまるで操られているマリオネットの如くスラスラと紙に文字を書き綴っている。

フェレスの目は真剣で、少年の目の動きですら見逃していない。

1番相手にしたくない。この男に尋問されたら逃げられないだろう。


フェレスの質問は20分続けたあと同じく20分の休憩を挟み、それを4回に渡って行われた。計160分と、長丁場だったが、フェレスのおかげで、ある程度の情報を得る事が出来た。


まず、審判の子供達(チルドレン)はWel Cityの中にしかいない事、親のみ入国審査に通り、入国できなかった子供が、特例として保護された子供は学校のような施設に入る事になり、審判の子供達(チルドレン)として能力を与えられる事。つまり、ここ(Wel City)に来る前は普通の少年少女だ、という事だ。

そして、審判の子供達(チルドレン)は治安維持の為に駆り出されている(この少年はミスをした腹いせでグループから逃げ出して暴れていたそうだ)


ざっくりまとめてしまうと少ない情報量と思われたが、立花は満足そうな表情で席を立った。

「少年、ありがとな。後はお前さんを普通の人間に戻してやるからな!」

「・・・立花、そんな事ができるのか!?」

「あぁ、今持ってる能力も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだぜ?

俺の推察だと、後から身に付いた後天的な能力だし、感受性豊かな年頃だからこそ、だろうな。」


それってつまり、メイもこのまま生き続ければバケモノ扱いされる事なく生きていけるってことか。

私はメイを見て、目を光らせた。メイの表情は特別変化は無かったが、私には希望を感じた。


立花達3人は少年を拘束したまま、外に出た。どうやら能力を失う時まで審判の子供達(チルドレン)を管理できる施設があるらしい。彼らの目的は殺す事ではなく、施設に送り、普通の人間に戻す事だとこの時になって知る事になった。

そりゃあスナイパーライフル持ってれば、殺すって思うだろう。


去り際に「じゃ、1時間くらい留守番よろしくっ!」と言い放ち、扉が閉まった。

嵐が去った後の様にぽつんと。あたりは静かになった。アジトには私とメイの2人きりだ。


ーーーそう言えば、メイは公園ではぐれてからどうしたんだろう。

そう思った私は少年に情報を聞き出した手法に合わせ、紙とペンをメイに手渡し、公園ではぐれてからの顛末を尋ねた。

その行動にメイは嫌がる素振りも無く、テーブルに紙を置き、前かがみになり淡々と文字を書き始めた。


目を開けた時に懐かしさを感じたと言う事は、私はこの少女、メイをずっと前から知っていたようだ。

(たった1日だけの付き合いだったし、メイはあの中年を覚えているとは考えられないが)

あの時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

もし、同じ人物だったとしたら、シルビアの希望はしっかりと受け継がれている。

それだけで私は許された気がしてしまった。まだ全てが解決したわけではないのに。


記憶を辿り、感傷に浸るのも後にしよう、メイが私に文字を通して伝えてくれているんだ。

文字は丁寧なものではなく、どこかで覚えた漢字も部首が違ったり、意味が違う漢字もあったが、ニュアンスで読み取れた。

メイの書いた紙を受け取り、読んだ。


'いきなりうしろからつかまれて、気づいたらくらい場しょにいて、あたしとおんなじ、チルドレンが3人おそってきたから、あたし、コロしちゃった。ごめんなさい

スノウのところにはあたしの力でかんたんにもどってこれたんだよ'


書いてある文字の隅っこには小さくこう書いてあった。

'あの時、たすけてくれたのは、おじさんだよね?'

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