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白銀の半身

ドワーフのニットは巨大な白銀の鱗を加工しようとしていた。

しかしそれは鱗ではなかったのだ。助けを求め工房を出るニット。


ちょうど魔法の使い方とこの世界の文字を理解したミヒト。

白銀のドラゴンのミヒトは、ニットたちを助けるべく工房へ向かう。


 ドワーフに案内されて、ミヒトとモナは村の奥へ進む。ニットから話を聞くと、鱗を加工しようと様々な方法を試していたものの、熱を加えたところ厚みを増して手足が出現したのだという。


 話を聞きながら、ミヒトは村の家と自分の体を比較した。体長はやはり4m程。姿勢を正して尻尾も合わせれば全長を8m弱といったところだろう。



 家と比べると5mくらいかな?魔法と同じではないけど、やっぱり比べてみればよくわかるものだな。とにかくこの世界は基準となるものがあまりにも少ないし、まだどんな生物が生息しているのか理解できていない。

 あの鱗でさえ手足を出して動いたというのだ。何がどう動くか生態を理解していない僕に対応できるのだろうか?

 とにかく今のところ被害は無かったみたいだから、凶暴な奴ではないにしろ慎重、よく考えて行動しよう。



 到着すると、横長のレンガ造りで大きな煙突が付いている大きな工房があった。入り口は幅広く扉は無い、ここで作られたであろう刃物やハンマーなどの道具が並んでいた。

 外にはドワーフと人間の男達が6人ほど。工房の中には、白銀の鱗を甲羅にして背負った亀を思わせる生物がいた。


 しかし、仮称“鱗亀(うろこがめ)”はミヒトと目が合うと、体を180度向き直し工房の壁をぶち抜いて去っていってしまった。

 村人たちは唖然として、ニットもモナも。そしてミヒトですら困惑して固まってしまった。


 いや、ミヒトの場合は今得た情報をもとに思考しているだけである。しかし何千何万というパターンを脳内で常人の知能で展開しているのだ、いくら30~40年という人の一生涯を一瞬で思い出せるとしても、思考と行動を瞬時に切り替えるのは至難であった。

 そうしてミヒト達が後手に回ったところでニックが口を開く。



「鱗が逃げおったぞい・・・白銀の!頼む!追いかけてくれんか!」


「わかった。まかせて!」



 簡潔に返事を返すと、ドラゴンは畳んでいた翼を広げる。大地を蹴り上げ空へ跳ぶ。一度蹴り跳んだだけでニットとモナが小さく見える。

 視界内に“鱗亀”を捉える。周囲に森は無く草原が広がっていた。しかし川までは近い。北と南から川が合流していて東に向かって大きな川になっている。

 ミヒトは川に逃げられると厄介だと考え、翼を羽ばたかせ猛烈な速度を出す。“鱗亀”の進路先、川よりも前方に狙いを定め翼を畳みロケットの様に急降下し始める。

 “鱗亀”を追い越し地面が迫る。と、白銀のドラゴンは翼を広げる。翼に大量の空気をぶつけながらも両足で地面をえぐる。翼で空気をつかみ、ガリガリと地面に半円を刻み込みながら鱗亀へと体を向き直す。

 地面にJの字を見事に作り上げると、ミヒトは少しバランスを崩し、思わず地面に手をつく。



 ふー、思った以上にスピード出たな・・・。それに空を飛ぶって言うのも割と簡単だな、体が出来るようになっているっていうのもあるけど泳いでいる感覚に近い。さっきの着地も完全にスキー感覚だし。

 というかあの亀、動きを止めたな。着地跡の前で止まっているし、逃げるだけ無駄ってわかったのかな?



「逃げ出してすまなかった!話をしないか!」


(なんだ、話せるじゃんか)

「わかった!安心してくれ、話をしよう!まず逃げた訳を聞きたい!」


「実は僕はこの世界で生まれたばかりなんだ!何とか馬車を巻き込まないように軌道を変えたが、もし彼らの命を奪ったのなら償いをする!」


(なるほど、生まれたばかりか・・・・ん?)


「彼らが僕を叩く理由も解るが僕は神様からの使いで来たんだ。事情は知らないが世界を脅かすかもしれない悪魔がいるんだ!使命を果たしてから償いをする!だから・・・」


(ん!?悪魔?何のことだ・・・いや堕天使だから悪魔と言えるか。と言うより、もしかして・・・)

「その~質問だが映画は好きか?」


「えっ!?あ、え。だ、大好きですけど・・・」


「じゃあ、嫌いなものは実家の煮物か?」


「ああ、そうだ!」


「この世界に来たのは発展を見届けるため?」


「そういう君も!」



 ああ、間違いない。コイツは僕だ。



 二つの白銀はともに歩み寄る。二人は目を合わし自分の人生を語り合う。嬉しかったこと、悲しかったこと、後悔だったり叶わなかった夢の話を・・・。

 散々語った。と言うより記憶のすり合わせをし、この世界に来た時の話を終えると、辺りはすっかり夜になっていた。

 二人は空を見上げる。夜空には大と小の二つの月が草原を照らしていた。改めて自分の知る世界ではなく、違う世界なのだと二人は心に刻む。

 自分は、自分たちは前の世界を知っているのに、もうあの世界には自分はいないと考えると胸が苦しくなる。考えていたことは同じで二人の目には大粒の涙が溜まっていた。

 ポトリと涙を落とすと二人は声をそろえて言う。この世界で生きようと、あの世界の自分ではなく、この世界の住人として・・・・・。





「ところで魔法を作ったんでしょ?僕にも使って見せてよ」


「そうだな、記憶や性格的なものは一緒だけど、体は同一個体じゃないもんね。じゃあ使うよ?《ステータス》!」



 ミヒトはちょっぴり自慢げに魔法を発動する。もう一人の自分、そのステータスが頭の中に映し出される。



―――――――――――――――――――――――


 ≪種族≫ セイヴァー・ドラゴン・スケイル・タートルドラゴン Lv.1

 ≪名前≫ ムーミヒト・デュー・エルピス


 ≪筋力≫ 1475 ≪体力≫ 1602

 ≪敏捷≫  130 ≪知性≫  971

 ≪精神≫ 1013 ≪魔力≫ 6102

 ≪生命≫ 7816 ≪ MP ≫ 7115/7115


 ≪特性≫

・願い ・救世主 ・神の使い ・観測者 ・浄化 ・竜 ・頑強


 ≪魔法≫


―――――――――――――――――――――――



 なるほど、一応ドラゴンなんだ。ていうかなんか全体的に強くないか・・・?特に知性と精神が高いのが何とも言えない。

 勝っているのは敏捷と魔力ってねぇ。

 スケイルは確か鱗の意味。意味は救世主竜の鱗の亀竜か。

 というかムーミヒト・デュー・エルピス?これって神様がつけたあの長ったらしい名前の一部じゃ・・・。

 ていうか僕だけ見ても意味ないじゃんか。そうだ《継承》を使えばすぐに発動できるようになるのでは?



「《継承》!」



 そういうと二つの白銀の間に細い霧の橋が架かる。霧の橋はベールに変わり白銀の“鱗亀”もとい亀竜を包みこむ。

 そしてすべてを理解した亀竜は自分をエルピスと呼ぶように言った。


「ミヒト、多分だけど僕たちの半身のような物はまだまだいるだろうね」


「じゃあどうすれば?」


「簡単だよ。あの妖精、メントにやったことを世界レベルでやればいいのさ」


「えぇ!?さすがにそれは無理なんじゃない?情報が多いと知恵熱出すし・・・」


「魔法は万能なんでしょ?できるさ。とりあえずこの世界の人に僕たちを認知させることだよ」

「それと魔法の使い方と《ステータス》の魔法。あと時間とメートル法についてかな?」


「なるほど、でもメートル法でいいの?なんか異世界感がなくなるような・・・」


「でも、理解できない単位出されてもピンとこないでしょ?せっかく話もできて文字も統一されているならさ、単位も統一した方が発展に繋がるよ」


「わかった、そうしよう。魔法は・・・」


「ネットワークみたいにブワって感じのイメージでいいんじゃない?名前は・・・」


「「共有化」」


「じゃあエルピス、早速やってみるよ」



 ミヒトは空へと跳び上がる。星の裏まで幾重にも分かれる光の筋をイメージする。CMなどで見かけるネットワークのイメージを思い描き、必要な知識を詰め込む。

 そうしてもう一人の自分、エルピスと話した三つのことを思い浮かべると目の前に光の筒が5つ現れる。

 どうやら知識と魔法は一緒にできないようだ。異なる知識も別とされ、時間の数え方とメートル法は二つに分けられた。ミヒトはmとgをわけられなくて良かったと安堵すると、五つの知識を束ね、魔法を放つ。 

 ミヒトが《共有化》の魔法を唱えると光の筋が夜空を駆けていく。光の筋は途中で幾重にも枝分かれしながら地平線の彼方、あるいは成層圏を貫いて星の裏を目指すものと様々だ。


 そしてまた、すぐ近くにも落ちていく。下を見るとモナが近くに来ていたようで、光の筋はモナに当たるとフッと吸い込まれるように消える。

 ミヒトは魔法の確認のために地面に降り立ち、エルピスと共にモナの傍に寄る。



「モナさん、どうですか、大丈夫ですか?うっ・・・」


「如何なされましたかミヒト様!?」


「ミヒト、あの魔法燃費悪いみたいだね。《ステータス》で見てみるとMP(マナポイント)が1800くらいしかないよ。一つの知識で1000MPくらいかな」


「なるほど、一気にMPを消費したからクラっとしたわけか・・・。でも、もう大丈夫だ。それよりモナさん、僕からの知識は受け取ったかな?」


「はい、しっかりと受け取りました。ミヒト様、そしてその半身のエルピス様」


「僕の名前を言えるって事は大成功みたいだね!あ、でもこの魔法とは別で教科書の約束はちゃんとやるからね!」


「ありがとうございます!神様の使い様からの新たな教典、楽しみに待ってます!」


「あはは・・・教科書ね。さぁ、帰って寝ようか」



 モナをエルピスの頭上に乗せ、村へと帰る。


 村では新しい知識に沸き立ち、祭りのような騒ぎであった。また、誤ってエルピスを加工しようとした男衆はエルピスに何度も何度も誤ったりと、帰ってからも大変であった。

 それから村人たちは炎を焚き、踊りをはじめる。モナはニットにしつこく頼まれ、神様に奉げる用のお酒を持ってくる。ニットたちドワーフはそれを浴びるように飲み、また人間たちと共に酒と喜びに溺れていた。


 ミヒトとエルピスは村人たちから感謝の気持ちとして酒樽と特大の肉を貰った。しかし二人はこれと言って空腹ではなく渇きも無かった。取り合えず口に含むも、エルピスはたくさん食べられる気はしなかった。

 逆にミヒトはエルピスの5倍ほど食べられたが、村人たちが用意した肉全てを平らげることはなかった。恐らく食事を摂取しなくても大丈夫な体なのだろう。

 ミヒトもMPも消耗したから恐らく食べられただけで、精々牛丼大盛り10杯程度しか食べていない。

 二人は食事は必要ではないと感じると、心という家に食卓やキッチンが取り除かれた気がした。

 それでも食べられないわけでは無い為、気に病むことは無いと考えなおした。




 そうして祭りに騒ぎ疲れ、村人たちが寝静まる頃。ミヒトとエルピスの二人、いや2体のドラゴンは困り果てていた。



「ねぇミヒト・・・」


「やっぱりエルピスもか」


「「寝れない、眠くない」」


「ミヒト、どうしよう?」


「そういうのは僕より知性が高いエルピスが考えるものじゃないか?」


「むむ、言うね。だけど一理ありだね。じゃあ空を飛んでマッピングって言うのはどう?」


「なるほど、どうせ遅かれ早かれ世界を見なきゃいけないんだから今のうちって事か」


「そうそう、魔法もあることだし便利なのを2~3個作れば行けるでしょ」


「なるほど!魔法をバンバン作ればいいんだ!堕天使も探さなきゃいけないし作って損はないね!」





 ・・・・そうして、二人は現在の文明レベルを超越した魔法製作に(ふけ)っていくのであった。



前書きにいっこ前の話のあらすじつけました


便利だといいですけど

使い方違うようであれば辞めます


またブックマーク一件増えていたのでちょいちょい頑張りますね

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