人を見つけた
川に向かって飛んでいる途中、転倒した馬車を視界の端に見つけた。
「馬車か。誰かいるかもしれないし見に行ってみよう」
方角を変更して馬車に向かう。馬車は横転しており、ピカピカと白く輝く3mほどの石が見える。
馬車から少し離れた所に荷物広げている人が二人見えた。
一人は背が低い寸動の男で作業服を着ている。もじゃもじゃしたこげ茶色の髪と髭があり大きな鼻が特徴的だ。
もう片方は女性で、男より少しだけ背が高い。ピンクのウェーブに男より清潔な白い服を着ていた。
そっと馬車の近くに降りると、二人は目を見開いて固まってしまっていた。
こういう時は、まずは自己紹介だろうか。
「僕の名前はミヒト。見ての通りドラゴンだ。・・・えっと、魔法をについて聞きたいんだけど」
ミヒトが声を出すと二人の反応は分かれた。
男は叫び、腰を抜かし口をパクパクしていた。女、というより女の子は跪き、神に祈りを奉げる言葉を紡いでいた。
しばらく、待っていると女の子が話しかけてきた。
「わたしは神官のモナ。こっちはドワーフの鍛冶師、ニットさんです。あなたの白い体を見ればわかります・・・・神様からの使いですよね?」
よかった、ちょっと不安だったけど言葉は通じそうだ。それに僕が神様からの使いだってわかっているみたいだし、それにドワーフの容姿も確認できた。
神様はドワーフは火を扱うのに慣れているだとか種族事の得意事を教えるばっかりで外見的な特徴は教えてくれなかったからなぁ。
隣の女の子はおそらく人間だろう。以前は人間だったのだが、心の中の親近感はどこか遠慮がちだった。そんな自分の心はひとまず置いておき、彼女、モナに返事をする。
「そうだよ、神様からの使いで来たんだけれど・・・魔法の使い方がわからなくてね。使い方を教えてくれないかな?」
「魔法の使い方?いいですけど、その前にわたしたちを村まで運んでいただけないでしょうか?」
確かに、ここで教えてもらうより村に行ったほうがいいかもしれない。そこで腰を抜かしているドワーフのニットさんみたいに、僕に驚いてしまうなら早く受け入れてもらったほうが良いかもしれないし。
分野によって扱う魔法が違うかもしれないから、話を聞ける人が多いに越したことはない。
「わかった、僕なら馬車ごと運べるかもしれない。二人は馬車ごと運ぼう」
両手で馬車一つくらいなら運べるだろうと思った僕だったが、その考えはすぐさまニットに否定された。
「馬車はどうでもいいんじゃ!それよりもあの鱗を運んでくれ!」
指をさした先には、恐らく馬車を横転させたであろう白い岩があった。ピカピカと輝き、その光沢はまるで金属のようであった。
白銀の金属のような塊。僕の鱗にそっくりだった・・・・大きすぎる点を除いて。
金属のような光沢を出す大きな岩。大きすぎるが僕の鱗と共通点が多い。
というよりも、細部に至るまで自分の鱗を大きくした物であったなので少し驚いている。こんな鱗が落ちているのも、もしかしたら自分に責任があるのではないだろうかと?
情報が少ないためハッキリとは言えないが、何となく罪悪感が自分の心に乗っかりこんできた。
そんな心を誤魔化すためか、ドワーフのニットに疑問を投げかける。
「でもどうして持っていく必要があるの?馬車の荷物は・・・・」
「それなら心配いらんわい。馬車の荷物は食いもんじゃ。だから村に戻るために、こうして貴重品だけまとめておったんじゃ。」
「それにあれは竜の鱗じゃ・・・マナに疎いドワーフの身でも、十分過ぎるほど強いマナを感じる。腐る食べ物に比べ、皆で使える道具のほうが重要じゃて」
なるほど、大量の食品類を二人で持っていくのは無理がある。
よって持ち物は最低限に絞られるし、あの鱗をうまく加工して上等な道具を作った方が生産性は高くなる。トータルで見ればあれを回収していった方がいいわけだ。
しかし、それはニットの持つ知識から見た話である。空を飛び、数km単位を一息で飛ぶことができるドラゴンのミヒトであれば、それこそ何百km単位で無い限り、単に往復して運べば良いのである。
ミヒトはそう考えたが、改めて馬車を見直すと考えを改めた。
馬車の荷台が欠けて壊れかけているのである。耐久性に難がある馬車と鎧の様に固い自分の鱗に似た物であれば、後者が二人を安全に運べるといえよう。
そう思考を巡らせていたミヒトを肯定するようにモナ達が補足してきた。
「馬車をもう一度走らせることができないかと思いニットさんに見てもらったんですが・・・」
「ありゃ駄目じゃ、金具が緩んでおって直ぐに壊れるわ。どのみち、安全に送ってもらうには十分すぎる固さの鱗の方が都合がいいんじゃよ」
確かに、空で馬車が壊れても困る。安全に二人を運ぼう。
「よくわかったよ。じゃあ荷物をまとめて、村まで飛ぼう」
二人が荷をまとめている間、僕は巨大鱗を拾い上げた。自身の三分の二程のサイズであるが、簡単に持ち上げられた。見た目によらず軽く、硬い。
腕を大きく広げるが、十分二人を乗せられるだろう。
荷物をまとめた二人を乗せると、空へと浮かび上がる。
「僕はどこへ飛んだらいいかな?」
「北へ飛んでください。川の流れの先、私たちの村『アムレト』まで!」




