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いきなり!?天空料理対決?

 海を思わせるような広大な水面、雲一つとない青い空と大小二つで一つの光がまばゆく反射している。だが海のような荒々しい飛沫を上げることなく、その流れは真っ直ぐ東へ向かって統率されており、穏やかでゆったりと流れていく。


 大河の流れに逆らう魚たち、一匹、また一匹と東へと向かう。そこに大きな影が差しかかり、そして彼らを越して先に行ってしまった。

 青空には大きな木と布の塊が浮かんで、それを白銀の大きなドラゴンが押すように、空を飛んでいた。


 木造の大型船、箱舟(アーク)と名付け大河を出航したハズだったミヒトだが、それが今は飛行船の動力兼、調理用のコンロになっていた。

 口はまるでピザ窯の様になって、口腔の奥で炎が揺らめいている。ドラゴンの歯の間には串に刺された肉だったり水が入った鍋、火種にする薪が差し込まれていたし、歯の裏を見れば文字通りピザが金属のパーラーの上に置かれている。

 不用意に首を動かせないミヒトの眼下では、彼など気にもとめずに、ひたすら様々な料理を作り続ける

ドール。そして、淡々と4つほどの料理を一生懸命に作るモナの姿があった。


「できましたよ、それがピザ風の物で、こちらが唐揚げ。それはちょっと仕上げが足りませんがローストビーフのような物です。どんどん持って行って食べてもらえます?」


「皆さん、しっかり噛んで食べてくださいね。さあ、私もスギタラ仕込みのお料理をどんどん作っていきますから!ミヒト様、もっとお野菜を出せますか?」


「ミヒト、私にも。野菜を使うからありったけ出していただけると助かるのですが」


 別に口を開けようが開けまいがミヒトの声は空気さえ通れば出すことが出来る。しかし、肝心の通り道に炎が燃え盛っている為か、まともにしゃべることすら出来ない。

 もとより抗議する気持ちなどはミヒトは持ち合わせていないが、せめて具体的な注文が欲しい所だった。


 何故ミヒトが調理コンロ代わりになっているのか?それはドールがモナとミヒトに話しかける前まで時を戻すことになる―――。




 飛行船へ姿を変えた箱舟(アーク)の甲板に立つドール。彼女は鈍色に輝く太いロープを擦る。見上げればこの船よりも大きい布袋が大量の気体を詰め込んでいる。

 元々はドールが用意した刃のついた傘だった。それを宙へ投げ出せばミヒトの扱う魔法によって船と結びつきながら形状と性質を変えて規格外の船をこれまた規格外の飛行船にしたのだ。

 ドールは朝からモウル、イェレアスという質問攻めに終止符を打つべく、船の一番後ろにいるミヒトのもとへと向かう。

 それは首を伸ばしているミヒトも理解していた。眼下にいるモナにも自身が理解したことを伝える。


「モナさん。ドールさんがこちらに向かって来ているみたいなので、二人で待っていましょうか?」


「そうですね、行き違いになってしまうとあの方に聞きたいことも聞けなくなってしまいますもんね」


 今朝の事、そしてミヒト自身、今までさんざん聞いてきたが、頼りになる返答は無いに等しかった。そう思えばドール自身もあまり明言しないようにして周りから情報を引き出すようにしていたのかも知れない。


「多分、ドールさんから聞けることはあまりないのかもしれませんね。」


 そう思ったからこそミヒトはポロリと本音をつぶやいた。


「あら、そうですか?それでは、あの方が来られるまでミヒト様が何か面白いお話をしてくださいませんか?」


「ええ!?突然ですね……。では、桃太郎を。じゃなくて!かぐや姫でもお話ししましょうか」


「わぁ、ぜひ!聞きたいです」


 モナの期待の眼差しに応えるようにつらつらと語りだすミヒト。

 ミヒトが桃太郎の話をしようとしなかったのは鬼退治の描写が良くないと感じたからだ。そもそもこの世界に鬼人(オーガ)という種族として鬼が存在しているのだから、誰かが一方的に悪役になってしまうような話はよくない、と。同じようにミヒトが好んで見てきた映画の類は殺傷や複雑な設定を説明するには難しい。

 何よりも、この世界の住人達が子供の様に見えて、ミヒトは自由に話すのが難しかった。


 ドールが来るのを待っていたミヒト達。だったが、向かっているドールは次から次へと甲板に上がっている住民たちに声を掛けられ、なかなか進むことが出来ずにいた。

 鬼人には力比べと腕相撲を挑まれ、ドワーフたちにはどういったものが作れるのだと腐るほど刃物の展覧会を開かせられる。ドールに対してあっさりとした対応はエルフや獣人ばかりで一言二言の知識欲を満たすと先を通してくれていた。

 最も厄介なのが人間で、ドールの服、頭の先からつま先に至る何から何まで、どのような構造か聞きにくる知識欲の虫か、あるいはその人形のような瞳に吸い込まれるように、口説きに走る者だったりと千差万別だった。


 モナに馴染み深い昔噺を聞かせていたミヒトも、彼女の状況は理解できていた。恐らくドラゴン達が自らドールに質問しないのもミヒトと同様に彼らが交わす問答のすべてが聞こえているからだろう。

 時間つぶしに聞かせていた昔噺が終わるとモナに次の話をせがまれる。傘地蔵や鶴の恩返しなど、なるべく道徳的な話だけを取り上げるが、船が大きく乗せている人々の数が多いために、いちいち絡まれるドールもなかなか進まず、ついに昼頃になっていた。



 その頃にはミヒトは()を上げて、モナにわかるように語句を変えながら自身が多く見てきた映画の内容を話していた。

 そんな中、フフを抱き上げたモウルがミヒトのもとに来る。


「ミヒトよ。蓋を開けたらいつでも飯が出てくるなんておめぇはすげぇよ……」


「とうちゃん、はらへった~」


「だけど、すまないがただの肉なんかは出しちゃくれねぇか?フフの口に合わなくてな」


 どうやら、船の中に設置した魔法の料理皿の中に、モウルの息子フフには口に合わなかった様子。

 それもそのはずだ。フフにとって、狼である獣人の彼らにとっての御馳走は生の肉で、ミヒトにとっての御馳走は手間も時間もかかる料理だ。

 ミヒトが好んで食べてた料理はシチューにカレー、餡かけなど、とろみがついた料理に偏っていた。モウル達は食事の際に食器を扱うことが少ないため、それに不自由を感じていたし、歯ごたえの無い飯というのが良くなかった。

 ミヒト自身も、生の魚を食べることはあっても一切加工しない肉を食べる発想は無いし、例え目の前で食べていても要求されるまでそれをもてなしの品とする発想は出てこなかった。


「お肉ならすぐに出せますよ。でもそれだけでいいんですか?」


「そうだな、後はカチの実があると嬉しい」


「カチの実ってどういうものなんですか?」


 ミヒトはこの世界の食事についてはまだよく知らない。その為、彼らが呼んでいるカチの実というのも、香辛料的な豆の一種なのか、はたまた果実的な物なのかわからない。

 モウルの代わりモナがミヒトに説明をする。


「カチの実は赤い実を2つづつ実らせる木の実です」


「2つずつで赤い実……」


「それでいて中の白い身は蜜が詰まって甘くて、歯ごたえがあります。あと、外の皮はとても痛くて、かじると汗が止まらなくなるんですよ」


「痛いというか、辛い皮なんですね。辛くて赤い皮に甘くて蜜が詰まった実が二つの果実……ですか。」


 ミヒトの頭の中にはリンゴがさくらんぼの状態で皮は唐辛子というイメージが作られていくが、憶測の域を出ない。

 結局、自分の想像で何が出てくるかわからない為、モナに魔力を間貸しすることで彼女の記憶から再現できるようにした。


「本当に想像するだけでいいんですか?」


「はい、想像してください。モナさんの手のひらに、望むものが出てきますから」


 モナは目を閉じて自身の記憶を呼び起こす。次第に光が彼女の手のひらに集まってくる。ミヒトは自分の魔力をそこにめがけて優しく吹きかけた。光ははっきりとした輪郭に変わり、枠から光がこぼれていく。

 船を押す両腕の代わりにミヒトの思考に反応して《念動力(サイコキネシス)》の魔法がモナの周りを包む、こぼれたマナの光を、彼女の手のひらに押し込む様に見えざる手が重なった。


 モナが目を開く。彼女の手のひらにはリンゴよりも小ぶりな丸々とした実がさくらんぼの様に、それでいて真っ赤でつるりとした果皮はパプリカの様だった。

 モナは二つの実を結んでいた茎を折って、丸々一つの実をミヒトに差し出す。


「久しぶりに見ました、懐かしい……。ミヒト様のおかげです、ありがとうございます!どうぞ、これがカチの実です」


「ありがとうございます。それにこれは僕のおかげじゃなくて、神様のおかげですよ。神の愛っていうのがマナの、魔法の源なんでしょう?」


 モナから渡されたカチの実を容易く真っ二つに割るモウルが答える。


「その神様の愛に応えられるのも、ミヒトだからじゃねえか?俺じゃこんなに簡単には応えられねぇさ」


 モウルからさらに半分にされたカチの実を貰ったモナも同意する。


「ええ、そうです。ミヒト様は私たちが束になっても決して勝ることのできない、とても大きな力を持っているのです。ですから、自信を持って、誇ってください。それが神様から与えられたものだというなら、尚のこと誇っていいのです」


 と、モナは言った。きっと彼女からすれば、神様が呼んだ僕という存在がすでに誇らしいのだろう。


「そうですね、聞いたところ神から与えられる愛に応えるために、知識の研鑽を行っているのでしょう?そうなのでしたら食べ物も常に工夫し続けるべきではないです?」


 長い時間を掛けて、ようやくドールはミヒトたちのもとへ来た。

 黒緑の毒々しい三つ編みを風に揺らしながら刃物を突き付けた。悪魔に浮かぶ不敵な笑み、その瞳は強く、今まさに何か企んでいるような目だった。

 ミヒトは彼女が手に持っていた刃物の形状から、そして突飛な挑発にも似たセリフから次に何と言葉を発するのか、想像が付いてしまった。


「モナ、私と料理勝負です!」


 


 ―――モナとドールの間を凝視する。光の粒がミヒトの記憶を頼りに輪郭を再現していく。人参や玉葱など自分でよく使った野菜はもちろん、幼い頃にしか食べたことが無い彩色豊かな野菜たちが山の様に盛られていく。

 モナは初めて見る物が多いのか、匂いを嗅いだり、かじったりと食材を調べるところから始まっていた。

 それを尻目に出てきた野菜を次から次へと、奇天烈な刃物で効率よくそして大量に刻んでいくドールは、まさに悪魔的な速さ、彼女が使う刃物は宙を舞いながら開いた花弁が再びつぼみに戻り、そしてまた開花する様な動作を繰り返し、いくつもあるフライパンへと切り刻まれた野菜が正確に落とされ、ミヒトの歯に挟まれた薪を取り出して手製のグリルに投入して火力を上げる。


 何故、突然料理対決になっているのか。ミヒトは理解に苦しんでいるが、ドールの心境に何か変化でもあったのだろうか。想像することは勝手にできても、ミヒトは心が読めるわけではない。答え合わせするには本人に聞かねばわからない。

 だが、少なくとも二人の料理を振る舞われた者たちは嬉しそうだった。


 恐ろしい数の料理を並列処理するドールに比べ、モナの調理は遅く見えてしまう。

 ミヒトが次々出す野菜の一つ一つを吟味しながら串に刺した肉の焼き加減を見ては、それに選んだ野菜を巻いたり差し込んだり、あるいはほぼ生のままで渡したりと、肉料理の調理法にこれと言った決まりはない様だった。

 強いて言えばサラダの作り方だけは決まっていた。焼いた芋を潰し熱をとる、そこに細かくした根菜と茹でた豆、香草を入れる。

 気付いたらすでにいたイェレアスがひたすら潰していたカチの実、アボカドやオリーブなど油分が多く含まれた実も潰して先ほどの物に入れて混ぜ、それをまとめて柔らかい葉物に包む、特に名前は無いようだが、ともかくその包みサラダだけは安定した調理で、次々と渡していった。

 その動作が悠長に見えたのか、ドールは調理の手を止めることなく挑発する。


「あら、そんなにゆっくりしていてはとてもでは無いですがここの皆さん全員には料理をお出しできませんよ?」


「大丈夫ですよ。皆さん私の料理も、ドールさんの料理も楽しみにしていますから!私は心を込めて作りたいんです」


「そうよ!モナお姉様には私が付いているんだから!モナお姉様、私がどんどん潰しますから!すぐに出来ますよ!」


「ふふふ、イェレ―ったらちょっと変よ。でも、あの頃よりもずっとずっと上手になってる。おねぇちゃん嬉しいよ」


「そんな作業量では皆さんの手元に届くころには夜になってしまいますね」


 きっちりと煽りで絞めて、薪グリル、ミヒト窯、プロセッサマシンのような刃物をフル回転させ、必要な食材をミヒトに頻りにオーダーする。

 ドールのもとにはファミリーレストランでよく見るような料理を次々と作られ、それがひとから人へと渡っていった。


 際限なく刃物を出しては様々な調理器具に変形させる全自動フードマシンの悪魔の隣で、

こちらもまた全自動鉄拳マッシュシスターが次々に実を潰していく。イェレアスは熱々に焼かれた芋だというのに、それをものともせず次々にその拳を持って優しく、それでいて形残さぬまで潰していく。


 後にイェレアスは、ドワーフすら慄く炎の料理人、鬼人(オーガ)に膝をつかせる沈黙の料理人(コック)などと料理の才能を開花していくことになるが、それはまた別の話。



 最初こそ物珍しい料理を次々に作り続けるドールに人だかりが出来ていたが、食材の吟味が終わり小気味よく料理を作り続けるモナのもとに列が伸びていた。

 モナのもとに出来た列がなくなる頃にはすっかり夕方になっていた。


「あら、存外早く作り終えたのですね?もっと時間がかかると思っていましたが」


「はい、イェレ―のおかげでこんなに早く皆さんの料理が作れました。はいっ、ドールさん」


 モナは柔らかな葉で包まれた料理をドールに手渡す。思わずドールは受け取ってしまうが、悪魔は直ぐに問いただした。


「これはなんです?」


「ドールさんの分です!わざわざ皆さんの食事を手作りしてくださってありがとうございます」


「いえ、貴方と格が違うのだと教えてあげたかったのです。よく知れたでしょう?自分の力がいかに私と劣っているのだと」


「はい、教えてくださりありがとうございます!」


 ドールはそっぽを向いてその場を立ち去ってしまった。

 思い出したようにイェレアスが大声を上げた。


「料理対決でしょ!勝ち負けはどうやって決まるのよー!」


「みんなお腹一杯になったんだからいいじゃない。イェレ―の分もちゃんと作ってあるわ、一緒に食べましょう?ミヒト様の分も、足りないかもしれませんがお作りしました」


 ただモナがキャベツ1玉を抱えているようにしか見えないが、中身はキャベツの葉では無くモナ特製のサラダだ。これが彼女の言うスギタラ仕込みの料理と言う訳だ。

 ミヒト、ドラゴンは全く食事をしなくても良い。かといって食べられないわけでもない為抱くことにするミヒトだった。

 しかし、彼女らの後ろには食材の切れ端の山が出来ていた。特にドールは料理を多く作りすぎていたようで、彼女のもとにはまだ多くの食材が残っていた。


「イェレ―。食べてからはお片付けですね……あはは。」




 片づけを始めた二人の掛け声に交じって、ミヒトはドールの声を聴いた。それは紛れもなくミヒトに向けて語られた悪魔の言葉だった。


「次は、このような生易しい勝負ではすみませんよ?ユウト様の一声で、私だけでは無い……炎華(えんか)も、(げん)も、ルブルも、私だってまとめてかかってきますからね」

「今回は私の負けです。ミヒト、モナにはそう伝えてください」


 悪魔は自分の負けを認めていた。だが、ミヒトはそうは思わない。

 確かに、船に乗る誰もがモナの包みサラダについて話している。ドールが自分の負けを認めるほどに、今船の中はその話題でいっぱいだ。

 モナの料理は一人一人に向けて作った料理だ。甘いものが口に合わない。硬いものが好き。肉に香りがあると旨い。脂だけは炙った物が良い。一貫しない肉の焼き方、同じように見えた包みサラダ。それらは全てその人の為に調理されていた。

それでも、皆がドールの料理を忘れたわけでは無い。食べていたあの時、そして今だって。彼らは静かに、刺激的な調理に隠れてしまっていたドールの料理を思い出していた。

 耳を澄ませば聞こえる。『どうやって作るんだ』『たしか……何かをこねてから伸ばして』、神様に知識を捧げると豪語する彼らは各々ドールの料理が頭から離れないのだ。明日には疑問が固まった彼らからまた質問攻めを受けることになるだろう。

 だから、勝負事に相応しい答えではないが。ミヒトは、二人の勝ちだと言いたかった。


 結局残った食材はドラゴン達の腹に、ドールが作りすぎた料理はモナとイェレアス、そしてその大部分がモナの料理と共にミヒトの腹に収まった。



 夜を超え、明け方。ミヒトは船にいる誰よりも先に、地平の彼方で大河の合流を見つける。北と南からくる川が合流し、大きな大河となって東に流れて来る。

 ミヒトはついに戻ってきたのだ。この世界で始めて見つけた村落、アムレト村に。


「やっと、帰ってこれた」


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