新しい体
青空がまぶしい。身体が重い、痛・・くわない。この体は頑丈なようだ。周りはどうなっているんだろう?
首を上げたつもりが空に向かって大きく飛び上がるように見え、一面緑の草原が視界に広がる。驚いて固まってしまったが、以前の人間の身体に比べて自分が大きくなったのだ。以前の尺度は通用しないとミヒトは頭に留める。
ドラゴンへと転生した自分の体を見る。雪のように白い蛇腹と鎧のような白銀のがっちりとした太い脚。
腕は細く鋭利な爪が生え、器用に動かすことができる。魚の鱗というより、磨かれた金属の塊のようで、綺麗に反射した鱗は鏡のようになっており、雪のような白い鱗に灰色がかった瞳を持った自身の顔が映る。
ドラゴンの顔を見たとき、不思議と恐怖は感じなかった。自分の顔と認識したのか、それとも現実離れした状況に頭が追い付いていないのだろうか?
どちらにせよ、ミヒトはまず、立ち上がることにした。
地面に手をついて立ち上がる。小高い丘から身を上げ、白銀のドラゴン、ミヒトは立ち上がる。
目をつむり大きく両腕を上げ背伸びする。背中にある翼がバサリと開き、蝙蝠のような白い翼膜が見えた。
「体が、白い・・・まるで神様達みたいだ。やっぱり何かあの二人から影響を受けたのかな?それに立って2足歩行できるし、翼があるから空も飛べそうだ。言葉も出るし割と人間だった頃と変わらないみたいだ」
それでも実際にどこかの種族にあって話してみないとわからないな。神様は知性を持つ種族は七ついるって言ってたな。
えーと、人とエルフとドワーフと・・・。いや、それより自分が話す言葉が他人にはわからないなんてことだけは避けたい。
ここは草原のようだ。足元に生えている花から推定して見ると、自分は大体4~5mくらいの大きさだろうか?とにかく町でも集落でもいいから誰か見つけよう
と、その前に僕がどれくらいの強さなのか分からない物だろうか。例えばゲームみたいにステータス表示できないだろうか?
ミヒトの頭の中には不思議と以前の記憶がハッキリと巡ってくる。CMで見たゲーム画面、サークルで一度だけやったテーブルトークゲームや小さい頃に親友とやったRPGなどだ。
しかし、どれ程想像を巡らせてもステータス画面のような物を考えても出てこない。自身の強さも魔法で図らなければならないのか?あるいはそんなものはないのだろか。
ひとまず翼が使えるか試して、近くの集落で魔法について聞いてみるようか。
大地を蹴り上げ翼を羽ばたかせる。白銀のドラゴンは地に落ちることなくゆっくりと空へ昇ってゆく。十分に高度を確保すると翼をはためかせ。広大な草原の上空を滑空して行く。
眼下には馬や牛、兎などの動物たちが見える。それどころか地面から出てきたリスに似た動物も、草に巣を張る蜘蛛や、行列をなしたアリまでもくっきりと見える。
「すごい!こんなに目がよくなっているなんて。すぐ先の川も見えるし、地上のミミズだって見える!すごい・・・すごいや!」
今までの自分がちっぽけに感じるほど、ドラゴンの能力は比べ物にならなかった。
上空を飛んでいるのに寒さは感じず、ぶつかる空気の抵抗も辛いものでは無い。それどころか心地よい風が体を撫でばかりで清々しい気分だ。
聴覚は敏感で、眼下に見えるアリの行軍が軍靴のように聞こえる。
しかし、それと同時に牛の鳴き声も頭に響くことはなく、あらゆる音をそれぞれを正確で適切に聞き取り処理できている。
視界も驚異的であり、だいたい10km先のミミズを確認できるのだ。それでいて頭は軽く、思考がよく回る。疲労や栄養不足でボロボロだった人間の頃とは大違いである。
まずは約30kmくらい先の川まで飛んでみよう。そのあとは川の流れに沿って集落を探そう。
この時の僕。ミヒトは、新しい身体への感動と興奮の余り、神様のことなどすっかり忘れていたのだった。
幾ら思考が回ろうが、知識や記憶を取り出そうとしなければ意味が無いのであった。