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光の剣

復興していくスギタラの森だったが、食糧問題は解決せずその半数をモナたちのいるアムレトの村へ移民することに。

先んじて移動したイェレアスとミヒトは移民者たちの船を作ることになったハズ。


 空は快晴で雲一つない、澄み切った青空が広がっていた。川と呼ぶには似つかわしくない、湖を彷彿させるような雄大な大河が、白銀のドラゴンの目の前に広がっていた。

 白銀のドラゴン、ミヒトはこの川を遡り西方に位置するアムレトの村まで、万を超える数の住民たちを運ばなければならないのだ。

 巨体を持つドラゴンの体を持ってしても、その両手で運べるのは精々十人乗ることが出来れば大したものだろう。常識的に考えれば万を超える住民をミヒト一人で運ぶのは不可能に近い。

 だが、地球で生まれ育ってきた常識を破壊する法則が、転生してきたこの異世界、カミシュの大大陸にはある。それが“魔法”である。


 今まさに自身の白銀の体を超える巨木に、やすやすと切り込んでいく光の(つるぎ)こそ魔法によって生み出された力である。

 ミヒトは唯一川まで運んできたな赤髪の少女に注意を払いながら巨木を切り倒していく。一本、二本、と切り倒しては《念動力(サイコキネシス)》で宙に浮かせる。三本切る頃には市民会館でも立てられそうな広々とした空間が出来上がった。

 《念動力(サイコキネシス)》の魔法で浮かせた三本の巨木を改めて見つめるミヒト、彼が地球上で見た最大の木は何だろうとふと思い耽る。見て聞いてきた記憶、それこそ赤子から人として死ぬ寸前まで思い出すミヒトだったが一秒とかからず結論が出た「そんなものは無い」と。


 はっきり言ってしまえば異常な環境だ。広大であまりにも長い川、ビルを連想するほどの巨大樹、それらがぎっしりと詰まった大森林。いや、一面を樹で構成された海だ。

 最初に異世界の空を飛んだときは穏やかな平原や地球と変わりない樹々や動物たちが見えていたが、この東の大森林に来てからはミヒトの想像を超えた自然と種族達に出会えた。

 異世界に転生し初めて経験した自然や体験、死にかけたこともあれど、過ぎ去った過去、それはミヒトからすれば思い出という映画となる。自分のドキュメンタリーに感嘆に包まれていたミヒトであったが少女の声で一時上映は中断された。



「ミヒト―!その光の棒みたいなの魔法でしょ?もしかしてだけれど、二つの魔法を同時に行使していたの?」



 片方に縛り上げた赤髪をピョコピョコ揺らしながらイェレアスはミヒトの足元に駆け寄る。



「そうだね、二つと言っていいのか・・・」



 ミヒトは自分が巨木を切っていた状況を軽く思い出す。

 光の剣で切り倒し、《念動力》で宙に持ち上げる。だがそれ以前に巨木に蓄えられている魔力の量を《魔力感知(マナセンス)》の魔法を常時得た瞳で、材木の選別と川の様子を確認していながらの作業であった。



「どちらかと言えば三つになるのかな?」


「そうなんだ!同時に魔法を使えるなんて初耳だわ!これが出来ればモナお姉様にも褒めてもらえること間違い無しだわ・・・」



 イェレアスさん、何か考えているみたいだけど魔法を同時に複数使うのって結構画期的だったんだな。

 僕も最初は結構戸惑ったけど、使っていくと魔法って言うのは結構簡単だ。式や法則があるわけじゃなく、どっちかって言うと感覚的でスキーみたいなものに近い。

 最初こそは難しいけど感覚さえつかめば出来ることが増えていく。魔法の上達という点では堕天使、ユウトさんに感謝するけど。僕は彼に本気で殺されかけたんだ。次は。



 ミヒトの頭の中、心ともいうべき内に黒い感情が差し込む。一瞬だけミヒトの紅に染まった瞳が虚空を睨むがすぐさま穏やかな表情に切り替わり、何か言いたげなイェレアスを見る。



「ねぇねぇ、私にもその光の棒教えてよ!なんて言う魔法なの?」


「これはライト・・・いや、レーザーセイバー?あ、いやいや!まだ決まってないんだよ!だからどういう名前にしようかって困っていたところだったんだよ!イェレアスさんに名付けてもらえないかな!」



 映画に登場した道具の名前をそのまま言いそうになり一部もじったミヒトだったが、瞬時に憎き堕天使の一言が頭を過った。『お前、ドラゴンのくせにファンタジーっぽくないんだよ!』その一言はミヒトにとって思いもしない一言だった。

 たった一人だけその世界から浮き出るというのは望ましくない。もしもそんな映画が有ればミヒトは不快の余り席を立ちかねないだろう。そう考えると科学的な名前を付けるミヒトは実に軽率な行動だったと言える。

 慌てて名付けをイェレアスに譲ったのは一瞬のファインプレーだった。



「名付け?それって棒なの?剣なの?」


「剣になるね、なんだって切れちゃう光の剣だね」


「なら―――《ムーの(つるぎ)》なんてどうかしら?」



 何気ない名前だが、ムーというのはミヒトをこの世界に転生させた双子の神の一人、男の子の神様の名前である。



「《ムーの(つるぎ)》。ムーって神様の名前だよね。理由は?」


「それも教典を見ればわかることだと思うけど?まあいいわ、ムーは行動の神様、教典の絵には白い棒を持った姿で描かれているの。だから何か持ち手のある道具を初めて使うときだったり何かをするときはムーに祈りを捧げるの」


「へー、それで《ムーの(つるぎ)》か。ムーが行動の神様なら、それじゃあデューは何の神様なの?」


「デューは知識の神様、教典には白い四角を持った姿で描かれているわ。教典の原本とも言われているから普段生活するときはデューに祈りを捧げることが多いわね」


「なるほどね」


「ところで早くその魔法を教えてよ!」


「あーわかりました。まずは木を置かせて」



 ミヒトがそう言うと、いつの間にか足にしがみついていたイェレアスはミヒトから離れ、距離をとった。

 《念動力》でずっと浮かせていた三本の巨木を川辺に降ろすと、ミヒトはイェレアスに向き直る。



 さてと、どう教えたらいいのやら。多分教え方としては数学みたいな教え方じゃなくてスポーツを教える感覚なんだろうけど。

 一から教えていったほうが良いかな?そうすればイェレアスさんから他の人へ伝わっていくだろうし。イェレアスさんも頑張り屋さんな所があるみたいだから、しっかりと教えるのが一番だよね。



「イェレアスさん、大火災を消した理屈は覚えているかな?」


「えーと、もちろんよ!まず自分のマナだけじゃなくて他の物からマナを貰って魔法を使うんでしょう?そのための、その、けいやく?せいやく?えっと約束とかで貰うんでしょ?これを応用すれば・・・」


「うん、大体わかってくれていればいいんだ。あくまでも必要なマナを他から持ってくる方法ってだけだから。それじゃあ普段魔法を使うときどうやって使ってる?」


「どうやって?って言われても。こう、むんってやってぐっとすれば出来るわ!」



 イェレアスさん、結構適当ていうか感覚的なんだな・・・。でもここに着いた時に説明したことをしっかりと理解できてるみたいだし、僕の説明次第だな。



「魔法を使うときは詠唱している?」


「そうね!大体やっているわね」


「じゃあ料理するときに火をつけたりするよね?その時は詠唱したりする?」


「・・・しないわ。ええ、詠唱することは無いわ」


「魔法は自分の頭で思い描いたことを体にあるマナを使って発現できるんだ。それこそ毎日見ていたり毎日使う魔法は想像が簡単だから詠唱しなくても簡単に使える。想像が出来ない複雑な魔法ほど詠唱することによってイメージを固めるんだ」


「確かに、言われてみればそうだわ」


「だから僕が教えるというよりも、僕が使っている魔法を見て、頭の中に焼き付けるのが一番早い魔法の教わり方だと思うんだ」


「見て、覚える」



 イェレアスは淡く白く光る剣に焦点を合わせる。収束した光の刃、それをうっすらと包み込むような光の膜。切っ先ともいえる先端からは今なおジリジリと空気を切り裂く小さな稲妻が漏れ出る。

 ミヒトはゆっくりと巨木の切り株に“ムーの(つるぎ)”を当てる。触れた端から木の繊維が破壊され消えてなくなる。切り株が(つるぎ)を飲み込んでいる様にどんどん焼灼されていく。


 綺麗に一直線の傷を切り株につけるとイェレアスが光に手を伸ばしていた。なんでも切れてしまう危険物であるが刃物の延長のような物だろう。

 危険であると頭の中で警告が鳴り響くが、ミヒトは実際に使ってみるのも悪くはないと考える。百聞は一見に如かず。しかしながら百回見るよりは一回実際に扱った方が理解としては早く済む。実際スキーなどのウィンタースポーツは見て聞くより一度やってみた方が理解が速く済む。

 それにイェレアスは少女と言っても高校生程度の歳は重ねている。ある程度の危険も理解しているだろうとミヒトは考えた。

 頭の中で少々考えたミヒトだったが、現実では刹那も掛からずイェレアスに(つるぎ)を差し出した。


 燃えるような赤髪の少女は額に青い汗を一筋掻くと恐ろしくも神々しい光に手を伸ばす。ドラゴンの持つ光の剣は少女の背丈を遥かに凌駕する太さと長さだったが、光の球体に姿を変えてゆっくりと少女の手に落ちていく。

 イェレアスが光の玉を握ってみせると、ゆっくりと切っ先が伸びていく。光の刀身にいくつもの稲妻が走り。漏れ出た稲妻が地面をジグザグに消し飛ばしていく。



「ひっ。」



 イェレアスの口からは恐怖が漏れ出た。その目は希望を拝む眼差しから、寒さのような恐怖に釘付けにされた凍った眼に変わってしまった。

 柔らかな手足は筋肉が強張り毛が逆立っていた。恐怖と後悔が混じりイェレアスの全身が固まる。



「やっぱり、私には、無理、だったんだ」


「イェレアスさん、大丈夫です!落ち着いてイメージを固めてください!」


「わたし、なんか。」


「集中して!光を包むイメージを!自分に自信を持って!」


「でも、でも!」



 イェレアスの中に強い後悔が渦巻き急速に劣等感がそびえ立つ。自分の心を支配する姉の存在。それがそっくりそのまま抜け落ちた巨大な穴、孤独感。

 目の前の恐怖によって目を合わせないように、逸らしてきた姉、モナという大きな存在を強く望む。抜け落ちたその穴から、その不足からくる攻撃性、否定性が泥の様にイェレアスの心を飲み込んでいく。

 今までイェレアスが綺麗に保ってきた社交性がぼろぼろと崩れていく、涙があふれ惨めな気持ちが止めどなく流れ落ちる。


 光の刃は形を保てずバリバリと音を立て放射する。地面を抉り、巨大な樹木を焦がし、ミヒトの鱗を引き裂く。



「落ち着いて!優しく、包みなおして!」


「ごめん、なさい!ごめんなさい!あたま、よくない、わたし、うまくできない、なにもできない、おねえちゃんに、なにもしてあげられないの!」


(そんなことないよ。イェレ―はいい子だよ。お姉ちゃんの、自慢の妹だよ)


「でも、おねえちゃんみたいにあたまよくないよ」


(イェレ―は一度教わったら忘れないじゃない。それに体は丈夫だし、何度もお姉ちゃんを守ってくれたよ?)


「でも、でも。」


(今日のイェレ―はとっても泣き虫さんね。あの頃に戻ったみたい。覚えてる?お姉ちゃんに泣き顔見られたくなくて顔を隠して泣いてたの。)


「うん。おぼえてる」


(そう?ちゃんと覚えてる?お姉ちゃんとの一緒にいたときの事、思い出してみて?)


「おねえちゃん、うしろから、ぎゅっとしてくれた。とっても、温かい、思い出。」


(どんなに離れていてもお姉ちゃんはイェレ―のこと思っているよ。それにこれからは一緒だから、もう泣かないで」



 いつの間にか、イェレアスの後ろから真っ赤な髪を薄めたような桃色の髪が漂っていた。無地の白いローブを纏った女性、モナがイェレアスを抱きしめていた。

 放射しバラバラに裂けていた光は徐々に収束していく。イェレアスの負の感情が張り付いた顔は綺麗に落ち、穏やかな雰囲気を取り戻した。

 完全に収束しきった《ムーの(つるぎ)》は少しずつ短くなっていく。やがて再び光の球体に戻るとイェレアスの両手に消えていった。


 緊張の糸が切れたイェレアスはモナに向き直って抱きしめ、姉妹は互いを抱きしめ合った。

 初めて出会った時に比べ、モナの胸を涙で濡らすイェレアスの表情は幾分か幼く見えた。



「甘えん坊なイェレ―。いい子、お姉ちゃんはここにいるわ。まるでちっちゃい頃に戻ったみたいね」


 泣きじゃくるイェレアスを撫でるモナは姉というより、もっと大きく豊かな雰囲気を漂わせ、必死に抱きしめてるイェレアスをゆったりと抱き返していた。



 当のミヒトはというと唖然。まさに鳩が豆鉄砲を食ったように目を見開いたまま混乱していた。

 次第に状況を整理すべく忽然と現れたモナに質問をぶつけた。



「何でモナさんがここに?アムレトにいたんじゃなかったの?」


「エルピス様が魔法の~。えっと、なんとかワープ?で人をたくさん移動できないかと言っていたので、試しにイェレ―の所に行ってみたいと言ったのですけれど・・・」



 そう言って辺りを見渡すモナであったが亀型のドラゴンであるエルピスの姿は何処にもいない。

 状況だけ見てみればモナが《座標跳躍(コーディネイトワープ)》一人でしてきたようにしか見えない。



 モナさんの様子、多分誰か一人しかで移動できないのだろう。

 事前に作ったときは自分にしか《座標跳躍(コーディネイトワープ)》を使わなかったから気づくことが出来なかった問題だ。

 それにしてもそのまますぎる名前・・・じゃなくて。それならもうすぐもう一人の自分であるエルピスがすぐに来るはずだ。僕だったらすぐにモナさんを追いかけると思う。



(ミヒト、聞こえる?恐らくモナさんがそっちにワープしたと思うんだけど)


 エルピス?モナさんなら無事だよ。僕の目の前にいるよ。


(それならよかった。僕まで飛んで誰か下敷きにしたら大変だからね。これからどうするの?)


 これからアムレトの村にたくさん人を連れていく予定なんだ。だから食料と住むところが欲しいかな?


(そう言うと思って大体準備してあるよ。それに今は村というより町に近いかもね)


 結構色々したんだね。でもそんなに日は立ってないと思うとけど。


(アムレトの人たちが魔法を覚えたからね。皆で頑張ったよ。それでどれぐらいの人たちが来るの?)


 万単位かな?一応船を作って川を上がって行こうと思う。


(万単位!?わかった僕も全力で準備することにするよ)


 うんよろしくね。



 ミヒトは自身の分身、または半身というべきエルピスから掛かってきた《通話(コール)》の魔法での会話を済ませると姉妹の安否を確認する。

 姉妹は久しぶりの再会に会話の花が咲いていた。



「イェレ―ったらモナお姉様なんて言うんだもの、お姉ちゃんびっくりしちゃった」


「だって、モナお姉様は、凄い人だから。そう思ったからそう呼んでいるの。それに私はもう大人よ、子ども扱いしないで」


「そう?でもイェレ―はまだ14じゃない。まだまだ子供。お姉ちゃん魔法がうんと上手になったから昔みたいにまた教えてあげるよ?」


「う、うん。モナお、お姉様」




 モナ、イェレアスに目立ったケガもマナの欠乏も無いことを確認すると、切り倒した三本の巨木を見る。

 二人の姉妹と比較し、もう少し木材が必要と考え、住居にも改造できるように改めて頭の中で船の設計を練り直す。



 あとはこれで全員入る船を作るだけだ。頑張れ自分、何とかできるはずだ。



 気が付けば辺りは夕刻。ミヒトの作業はこれから始まったばかりだった。


挿絵(By みてみん)

設定や話の統合性とか考えてたら別物になりそうだったのでとにかく話を上げるようにします

本当は書き直したいし加筆したい気持ちでいっぱいですが臥薪嘗胆ということでそのままで

それと主人公のミヒトの立ち絵を描こうと思ったのですがめちゃくちゃ難しくて断念しました

代わりに大陸地図を乗せます

白線がミヒトさんの移動経路。橙色がアムレト。黄色がスギタラです。

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