新しい名前
気が付くと白い所にいた。前も後ろも上を見ても白い。だが下を見たとき自分の身体が真っ黒の靄に包まれていた。
慌てて振り払おうとするが取れない。気が付けば自分の身体には服が身についておらず、この黒い靄が自分の身体だと気が付く。
恐る恐る顔を触る、プラスチックのような感触で自分の顔とは到底思えなかった。ふと後ろに気配を感じた。
振り向いてみると一言で白といえる、小さな男の子と女の子がいた。そして二人は自己紹介を始めた
「僕の・・・えっと、わが名はムー・デ・レソウ・キント・レイ・リ・ディナト!おまえに使命をあたえる神さまである!」
「私はデューと呼んで、こっちは弟のムーよ・・・楽に聞いて」
どうやら兄弟の様だ。天使だとばかり思っていたが、僕に声を掛けていたのはこの二人の神様?みたいだ。二人の身なりは同じで白いダボダボの布を纏って短くそろえた白い髪している。瞳は黒く紺色に近いかもしれない。
どちらが姉か弟かわからないが、よく見ると身長が少しだけ違う。若干高いのがムーだろうか?
そんなことを考えていたら背の高い方の神様が話を始める。
「話をする前にわかりやすくしてあげましょう」
そう言うと髪をかき上げた。ふわりと揺らぎ髪が伸びてゆくそうしてセミロング程に伸びると髪にほんの少しばかり赤みがかかり可愛らしい女の子に見えた。
予想に反して背が高いほうが女の子の神様デューであった。
その様子を見ていた男の子の神さまムーは目を輝かせ頭をクシャクシャにする。すると一瞬で髪は青みがかかり、薄い水色に。先ほどに比べてほんの少しいたずらっぽく見える。
姿をほんの少し変えた幼い神様達が口を開く。
「あなたの魂は私たちのマナで包まれているの。これも私たちが生み出した知性を持たない種族の一つでアンブルと名付けたわ」
「僕らが生み出した世界、カミシュの大大陸のお掃除係さ」
「私たちのマナはあらゆるものと結びついている。その中で発生した穢れや淀みを食べるの」
そういうといつの間にかバランスボールほどの黒っぽい色の球体が現れていた。ムーが手をかざすと次第に光の点が渦を巻いていく。これは銀河だ。いくつもの星々をかき分けて一つの星を映した。
青い星に赤道を中心に東西へ大地をくるりと巻き付けたような星だ。大陸の間には島々が見えた。また北半球の端、大陸の最北端の海岸線には白く雪がかかっている。対して大陸の南側は緑が少なく砂漠や荒野チラリと見える。
パっと地球と比べると大地の比率が高い気がする。地球は陸と海の比率がだいたい3対7に対して、この星は5対5くらいだろうか?大地が一ヶ所にあるからそう見えるのかもしれない。
そう考えた矢先、球体は大地に急接近して草原を映した。
草原には薄黒い水たまりのような物がプルプルと動いていた。その隣には黒い靄が草に纏わりついている。黒いゴマプリンあるいはゼリーが草に近ずき靄に触れる。すると靄は綺麗さっぱりに消え去ったのだ。
なるほど、アンブルというあのゴマプリンみたいなものが奇妙な靄を取り除くというなら、確かにお掃除係と見える。じゃあ僕はこのアンブルに転生したのか、何だか覚束ないなぁ...。この先大丈夫だろうか?
そう考えているとデューが答えを返してくる。
「大丈夫よ、それは最初の状態。状況に応じて形を得れば、破壊されない限り永遠に存在し続ける」
「そして僕たちから永遠の命をもらうことで壊されても復活して世界を見続けられるんだ!」
どうやらデュー達は思考を読んでいるようだ。よくわからないけど、このもやもやは嫌なので早速お願いします。
そう思考するとデューは頷き、ムーと共に手をかざす。暖かい光が僕を包み込んできた。黒い靄が剥がれていき黒い身体に明るい色が付き始めた。
僕は形を得るまで色々なことを聞いた。神様達は新たに生まれた神様であり、溢れる生命を無駄にしないために新しい世界を創造した。
生み出した生命に直接干渉出来ないが、神の使いの天使たちが大体10万程おり、また知識ある生命を転生させ助けを受けられるということ
そしてアンブル以外にあらかじめ形を与えた種族は7種族いること。魔法は自分が想像したことを体のマナを使い発現させるもの。
カミシュの七種族達はまだ上手く魔法を使いこなせておらず、まだまだ発展途上であること...。
・・・ん?
最初の転生者を天使にし知識を借り頑張っていたこと。
しかし、悪しき心の持ち主で危険と判断し堕天させたこと。頑張って対処しようとしたが見失ってしまったこと。
それらの解決のために清らかな心を持った、優しい二人目の転生者をやっと見つけたこと...。
あれ?異なる種族たちが魔法を使っている文化があるって・・・。
「私は作り上げているといったのです。それに魔法はちゃんと使ってます!たぶん・・・」
異世界の発展を見届けるのが使命だって・・・!
「それも使命ですが、見届ける世界が滅んでは使命が果たせないでしょう?」
それを隣で聞いていたムーが心配そうに顔を覗き込んでいった。
「ごめんよ・・・おぶざーばー。でも堕天しない限り不死身だし僕が最強のドラゴンにしてあげるから!」
するとデューが呆れ声で返す
「なにそれ?この子はエーヴィヒカイト・ハルモニーよ名前も二節で強くなるわ!」
それを皮切りに二人は交互にああでもない、こうでもないと言い合う。聞きたいことが山ほどあるのに聞けなくなってしまった。
それにしても僕の名前か。世界の観測者?いや、それ以前にドラゴンになっちゃうんだよな・・・。ドラゴンになっても人間だったことは忘れたくないな。でも見なければいけない、神様にお願いされてるし。人ではなく、世界を観測するドラゴンとして・・・。
今考えてみたらドラゴンじゃなくて世界を見る人でいたかったな。見る人。みひと。ミヒトなんて名前はどうだろうか、でも名前なんて何でもいいか。
そんなことをぼんやり考えていたらデューがいきなり大声を出す。
「いいわね!ミヒト!ミヒト・デュー・エーヴィヒカイト・ハルモニー・エルピス!かっこいい名前だわ!五節の名前でかなり強いわ!」
「まってよ!僕だって名前つける!ムーミヒト・ムー・デュー・オブザーバー・えーと」
「駄目ったら!名前つけすぎよ!私と合わせて九節になる!マナが集まりすぎて爆発するわ!」
え?爆発?!何が起こって・・・・。
その日、カミシュの大大陸を大きな光が照らした。人々は光を恐れなかった。暖かく希望に満ちた光だったからだ。