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作戦決行

堕天使ユウトが発動した《地獄の炎》から生還したミヒト。

ボロボロに焦げた体で、何とか戦いの場を空中に移すことに成功する。

この空で決着をつけるべく、ミヒトは情報を整理する。


 《紅炎(プロミネンス)》と口に出したけど、本当は出力を上げた《発火能力(パイロキネシス)》だ。

 さっき発動したときは詠唱だとか、魔法の名称を唱えては無かったけど、それでも魔法は発動した。

 つまり、魔法はわざわざ口に出す必要は無いという事だ。一応、《ステータス》の魔法で確認してみよう。



―――――――――――――――――――――――


 ≪種族≫ セイヴァー・ドラゴン Lv.16

 ≪名前≫ ミヒト・ムー・デュー


 ≪筋力≫ 1107 ≪体力≫ 1319

 ≪敏捷≫ 1593 ≪知性≫  638

 ≪精神≫  635 ≪魔力≫ 7381

 ≪生命≫ 5034 ≪ MP ≫ 2103/6816


 ≪特性≫

・願い ・救世主 ・神の使い ・観測者 ・浄化 ・竜 ・飛行 ・魔法製作


 ≪魔法≫

・《ステータス》《継承》《瞬間移動》《座標跳躍》《発火能力》《念動力》《念写》《千里眼》《生態探知》《音波探知》

《熱源視覚》《弾丸》《熱光線》《振動斬》《製紙創造》《衣服創造》《鋼鉄創造》《食物創造》《精水創造》《地図創造》

《共有化》《複製》《通話》《経路》《魔力探知》《治癒》《武器創造》《魔力吸収》《火炎抵抗》


―――――――――――――――――――――――



 《紅炎(プロミネンス)》の魔法はないけれど他の魔法が増えている、セレヴェラさんを治した時に発動した《治癒》の魔法、さっき武器を作った《武器創造(ウェポンクリエイト)》。そしてこれから使う魔法たち。

 ん、Lvが増えている?1から16、一気に15も上がっている。一体どうやってこんなに。

 いや、この魔法を作ってから自分にかけるのはこれで二度目だ。今日に至るまでに、何処かにLvが上がるきっかけが有るはずだ。

 一番に考えられるのは、この戦闘だろうか?もしくは魔法の作成、あるいは人物との出会いか。だがそれだと妖精の、メントのLvは異常に高いものになるだろう。だったら魔法の使用回数では無く戦闘回数か、あるいは戦闘の内容だろうか?

まさかと思うが死にかける事、なんて言わないよな?いや、断定できない。

 それよりもステータスを隠すべきだ、さっき唱えた《紅炎(プロミネンス)》がブラフだと気づかれてしまうし、何よりこちらが後どれくらい魔法を撃てるのか参考にされると厄介だし戦いにくい。

 魔法は見えなくして、いや、この際だから名前と特性以外すべて隠そう。《偽装情報(フェイクステータス)》?というべきだろうか。

 え!?この魔法に100も使うのか?どの魔法にどれくらいMPが使われるとかコスト的なことを考えていなかったけど、一度ゆっくり検証する必要があるかもしれない。



 ミヒトは自分のステータスに困惑したが、すぐに思考を切り替える。

 自身のステータスを隠し、堕天使に対して有効な攻撃方法を模索する。なるべく殺傷を避け、無力化できる攻撃を。

 夜空に浮かぶユウトは、黒い翼をはためかせ期待交じりの視線をミヒトに向けてくる。彼は期待しているのだ。ミヒトが放った《紅炎(プロミネンス)》以外の、ほかの魔法を。

 もちろんミヒトにはこれ以上の魔法は無い。そもそも《紅炎(プロミネンス)》などという魔法は無く、この場で新たに作り出すしか堕天使の欲求に応じる方法は無いのだ。

 ユウトに対しての《発火能力(パイロキネシス)》は続いている。炎は付いた先から消えていく、だがそれでも魔法は止めない。その炎から彼が掛けた《火炎耐性(ファイア・プロテクト)》の性質を見抜くことに集中しつつも新たな魔法を考える。



 どうやら炎は付くがすぐに消えてしまうみたいだな。一度発動したら永続的に続くのか、はたまた燃えたらその度に展開するのか?

 肩で息を切らしてるから呼吸はしているみたいだし、僕と違って一酸化中毒でも無力化できそうだな、普通に気絶させる方法は使えるだろうけど。窒息や脳震盪などの攻撃を仕掛けるべきか?

 いや、相手に気づかれてしまえば終わりだし、もし逃げられたら話が聞けなくて困る。だったら、ユウトさんに協力してもらって作戦通りにするしかない。うまく決まればいいけど、その前に新しい魔法がその場で発動するか、それが問題だ。

 この空で、確実に決めるしかない。



「《弾丸(バレット)》!」



 白銀のドラゴンの目の前に一瞬で大小さまざまな鉛が形成され撃鉄も無しに堕天使に向かって飛んでいく。風を切る音を置き去りにし、ユウトに向かって発射される弾丸。

 だが、ユウトは手に持っていた槍“ヴェイノ・スピア”を振り回し、弾丸を切り払い致命傷を避けた。数発は避けきれず羽を貫通していたが、それでも空を浮かぶ事が出来ている。



「痛ってぇな・・・けど、弾丸を打ち落とす事が出来るなんて感動するよ」


「僕もそう思うよ。それよりも傷を負うなら、打ち落とすより回避した方がいいんじゃないん無かったかな?」


「アドバイスのつもりか?だったら俺からも教えてやるよドラゴン!魔法ってやつをなァ!《火炎の弓(フレイムボウ)》」



 堕天使が魔法を唱えると炎の矢が次々と現れる。矢は数えて50になると一斉にミヒトに向かってくる。

 ミヒトは高度を取って回避を試みるが、炎の矢は軌道を変えミヒトを追ってくる。すかさず体を捻り旋回、上げた高度を一気に下げて振り切ろうと飛び回るが、それでも尚、炎の矢はミヒトを追尾し、夜空に黒煙の軌跡を残す。



 なんなんだコレ!?ミサイルでもこんな軌道しないだろ!今だって完全にすれ違いになったのに?!大体フレイムボウって矢じゃないし!矢はアローだろ!?

 駄目だ、このまま追いかけられ続けたら有効だと思われる。これがどれくらいMPを消費するかは分からない、けど。



 ミヒトは回避行動のさなか横目でユウトの様子を確認する。

 堕天使の様子は余裕そのものだ。笑みを浮かべ、呼吸を整えている。槍を作り出した時は肩で息を切らしていたが、今は呼吸が整いつつある。

 その様子を確認したミヒトは銀の翼を大きく広げ一気に急上昇、再び高度を高く取ると接近する炎の矢を見据える。

 炎の矢は一つ残らず白銀のドラゴンに命中する。爆炎と煙に包まれ夜空から白い輝きが消える。爆炎の中からミヒトの声が響く。



「なるほど、魔法だから物理法則に囚われなくても良いわけだ。確かに、熱光線なんてどこからそんなエネルギーが来ているんだってなるね」


「やっぱり生きていたか、ドラゴン!分かってきたみたいだな」


「僕の名前は、ミヒトだよ」



 翼を羽ばたかせ爆発の煙を払いのける。黒煙が夜空に溶けるとミヒトの姿が現れる。彼の体は本来の白い輝きを取り戻し、ボロボロだった翼膜は元通りに、鱗も均一で整った直線に治っていた。

 爆発の中、ミヒトは《治癒》の魔法で体を直していたのだ。《地獄の炎(インフェルノ・バーン)》を食らう前の姿を取り戻したミヒトを見たユウトは、目を輝かせる。

 まるで、テレビのヒーローを見るような、純粋な眼差しを。一切の曇りのない視線に戸惑うミヒトだったが、そんな視線はすぐに邪悪に変貌していく。



「これでまだ遊べるぜ、とことん俺の魔法を食らいやがれ!」



 追加の炎の矢を作り出し、機関砲の様に打ち出す。白銀のドラゴンは打って変わり回避をしない。腕も翼も使わず防御の動作を行わなかった。

 白銀のドラゴンは再び爆炎に包まれ夜空に隠れる、ユウトの口角が吊り上がり邪悪さを増した表情になる。

 ミヒトの声が響く。無造作に翼で煙を払いのけると先ほどの落ち着いた声とは違い、やる気のないおどけた声が聞こえる。



「あーあ、これだけかい?結構簡単に対策できるんだねぇー。ドラゴンの鱗ってさ、一度受けた攻撃は食らわないみたいなんだよね?」

「バカの一つ覚えって言うけど、君が炎の魔法しか持っていなくて助かったよ。まあ?炎以外でもショボい魔法は話にならないと思うけど、とことん遊んであげるよ?」

 

「は、は?ふ、ふざ・・・。いや、俺の、俺の作った魔法を舐めるなよ、杖が無くても十分強いんだよォ!」



 堕天使は槍を一回転させると魔法を唱え始める。


 未だに炎に襲われている大森林の上空は超常の空と化す。氷の飛礫が飛び交い、電撃が夜空を照らす。暴風が、炎が、光線が、万華鏡のように移り変わり次々と魔法が飛び交う。

 矢継ぎ早に次々と魔法を唱える堕天使、そして打ち出される魔法に対抗するような魔法などを返すドラゴン。炎を体で受け止め、氷を電撃で粉砕し、岩石を翼で生み出す暴風で弾く。10分とかからず状況は変わった。

 ユウトは息を切らす。黒い翼は弱々しく、その目は薄れる意識と焦燥に挟まれ、閉じようとしている。それに対峙する白銀のドラゴン、ミヒトは冷静であった。

 一方的に攻撃してきたユウトの攻撃を迎撃するだけで、被弾すらしているミヒトは全くと言っていいほど無傷であった。



「テメェ、なんで、なんで?食らわないんだ?」



 息を切らしながらミヒトに問いかけるユウト。ユウトは汗を流しながら額を押さえている。



 作戦は大方成功、かな?彼が挑発に乗っかってくれて良かった。もしも冷静な思考ならあれほどの魔法で攻撃してこなかった。

 これでMPをかなり消耗しただろう。MPが切れると意識が吹き飛ぶ。これは僕が地図を作ろうとしたときに起きたこと。MPを使い切れば彼にも同じことが起きるはずだ。

 それにしても咄嗟に作った《火炎吸収(フレイムアブソーブ)》が上手くいって良かった。本当は《火炎抵抗(フレイムレジスト)》で耐久戦の予定だったけど、まさか本当に魔法をマナに戻して吸収できるとは思わなかった。

 完璧じゃないから抵抗魔法も必要だったけど、MP(マナ)切れを起こさないのはかなり役立った。

 それに彼は魔法の打ち合いがお望みだったみたいだし、かなり早く決着がつきそうだ。後は、残りのMP(マナ)を奪えば気絶すると思う。



 ミヒトには勝利が見えた。彼が思い描いた作戦通りにユウトをMPの枯渇に追い込んだのだ。

 殺傷でも、拘束でもない、彼自身に魔法を撃たせ、最後に残ったMPを奪いMP欠乏による気絶。それがミヒトの作戦だ。

 しかし最後にMPを奪うのが問題だった。MPを奪う魔法《魔力吸収(マナアブソーブ)》だが、吸収する事が出来ない。正確に言えば手で触れる範囲でしか吸収できないのだ。

 《火炎吸収(フレイムアブソーブ)》でも炎の勢いだけでなく、発動に使用したMPを吸い取り、自身のMPに還元する事が出来たが、発動するためには攻撃を食らう必要がある受動的な魔法だ。

 逆を言えば、今彼に触れるだけで任務完了といえるが、それを躊躇わせる要因が一つ。

 ユウトの持つ槍、“絶死の槍、ヴェイノ・スピア”である。



 ユウトさんはかなり消耗している。《魔力探知(マナセンス)》で見てもかなり暗い色になっているし、MPは底を尽きる頃だろう。

 そもそもセレヴェラさんのステータスは600で統一されている。ここから考えれば元が天使のユウトさんも全て同じステータスが統一された能力を持つハズ。空に上がってからは僕が900MPくらい使ったから向こうも同じくらい、いやそれ以上に使っているだろう。

 でも《魔力吸収(マナアブソーブ)》を発動する為にはあの槍は危険だ。動きを止めるか、注意を逸らさなければ接近すること自体が危ない。

 二つ名、詠唱の通りの効果であれば触れれば即死する猛毒の槍。僕は魔法の万能さでここまで立ち回る事が出来た。でも、逆に言えば相手にも同じことが言えるし、本当に即死する槍かもしれない。

 もう一度《念動力(サイコキネシス)》で動きを止めるか?ユウトさんは《火炎耐性(ファイア・プロテクト)》みたいに対抗する魔法はここまで詠唱していなかった・・・。だったら!



「《念動力(サイコキネシス)》!」



 ミヒトが詠唱するとユウトは目を見開き硬直する。夜空をゆっくりと下降していく堕天使にミヒトは右手をかざしながら急接近する。

 最後まで油断せずに、頭の中で切り札である《魔力吸収(マナアブソーブ)》を詠唱する。右手には気泡がぶつかるような感覚が湧き上がる。大気中のマナがぶつかって吸収されているのだ。

 巨大なドラゴンの手のひらがユウトに覆いかぶさる。

 ミヒトは確信した、勝利条件の達成を。半ば騙された形でこの世界に来た。だが、この目の前の堕天使を捕まえれば、言うところの引継ぎ完了でゆっくりとこの世界を見て回る事が出来る。

 観光、鑑賞などを自由に行い、本を作り歴史を刻む。人の身で行えないのは少しばかり不満ともいえるが。このドラゴンの体もミヒトは気に入っている。

 筋肉痛や頭痛もなく、超越した思考速度に空を羽ばたく感覚、この巨体で自然に感じる優越感は人間の体では味わう事が出来ないものだ。

 それに魔法の存在。魔法が有れば科学技術に頼らなくても世界は発展する。魔法で麻や絹を、石油や鉱石を、食べ物や水を。資源に縛られない、それどころか言語や宗教も一つしかないこの世界はどれ程の楽園なのだろうか。

 種族観の違い、容姿は違えどこの森は全ての住人が助け合って暮らしていた。友人も誘ってやりたいと思えるいい世界だ。ミヒトは二人の子供の姿を思い出す。心の中でちいさな二人の神に感謝をする。


「“ヴェイノ・スピア”」


 束の間の夢想に酔っていたミヒトは胸に違和感を覚える。ドリルでもねじ込んだかのように白銀の鱗は抉れ、槍が刺さっているのだ。

 困惑するミヒトの思考、ふとユウトを見れば風穴の空いた黒い翼を広げ、空に浮いていた。どんどんと距離が開いている。否、ユウトは高度を保っているだけだ。離れていくのはドラゴン、自分自身の方だった。



「言ったろ?プレゼントだってな、お前が近づいた時点で勝手に刺さる槍なんだよ、そいつは」


「な、そん・・・・・・」



 口が上手く開かない。腕も翼も動かない。堕天使はミヒトに背中を見せ、夜空に消えゆく。彼を逃がしてはいけない。彼を逃がしてはいけない。心の中で思い描いた楽園が彼の翼と同じように煤が積もって黒くなってゆく様な気がした。

 ミヒトは最善を尽くしていたが、一歩及ばなかった。

 この世界に生まれて出会った、ドワーフのニット、神官のモナ、アムレト村の人たち、自分の半身のエルピス。それからこの森であった多くの種族の顔が浮かぶ。



 そうだ、ここで死ぬわけには。このままを落ちるわけにはいかない。だけど、どうすればいいんだ?



 ミヒトは下を見る。燃える森が見える。逃げ惑う人々が、泣き叫んでいる子供が目に映る。助けなければと頭に浮かぶが腕も翼も動かない。

 ただ、何もできずに落下した。ミヒトが落下した場所には狼の親子、狼の獣人(ビーストマン)がいた。

 幸いミヒトの下敷きにはならなかった為、親の狼がミヒトに声をかける。



「おい、あんた大丈夫か?」


「た、だい・・・・・・」



 大丈夫、そう伝えたかったが声が出せない。ミヒトは狼の獣人(ビーストマン)を見て一つ思いつく。彼にこの火事を消す手段と自分の伝えたいことを最低限に収め、《継承(インヘリタンス)》の魔法で伝えるのだ。

 暫く思考し、魔法を彼に発動する。



「この馬鹿野郎!このモウル様がそんなんで頭が爆発すると思ってんのか!だけど分かった、あんたの言うとおりセレヴェラに伝えてくる、いいか?それまでくたばんじゃねえぞ!」



 狼の獣人(ビーストマン)モウルはそう言うと、子供を口に銜え全速力で湖に走っていった。

 ミヒトはそれを横目で確認すると安堵し、ゆっくりと意識を閉じてゆく。真っ白な思考の海は次第に黒く沈んでいった。

一応僕の中では一区切りです・・・一部二部ってやりたかったんですけどわかんなくて

とりあえず日曜までに16話作りたいですね

あと評価を頂いてちょっと混乱しましたけど

いい感じの暇つぶしになってるってことでしょうか?だとしたらいいですね


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