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スピンオフ「藤ノ下未央奈のダイアリー。忘れられた12月24日」

あたしは小2の頃から、毎日日記をつけている。最近は交換日記が流行ってるけど、別に誰かに見せて共有したい訳じゃない。特別な日、そうでない日、とにかく「藤ノ下未央奈」がここに居たということを「記憶」ではなく「記録」として「形」として残したかった。


・・・なんてカッコいい事を言ってみる。実際のところ、いつしか日記を書くことが当たり前になり、それが日課になっているだけ。嫌ではないんだけどね。


なんとなく、昔の日記を振り返ってみた。・・・これは2年前の日記かぁ


12月○日


孝ちゃんがうちに忠義くんを連れてきた。・・・それはいつもの事なんだけど、私はまた「いらっしゃい」の一言だけ。私は彼に何て言いたいんだろう。そして何て言ってほしいんだろう。悩んでも変わらない。そう、私が変わらなきゃ、何も始まらない。


12月×日


いつものように忠義くんがうちに来た。今日は夜ご飯を孝ちゃんと私と忠義くんの3人で一緒に食べた。葉月ちゃんの作る料理はどれも美味しいから、ついたくさん食べてしまうんだけど、ふいに忠義くんが「俺、たくさん食べる子って好きなんだよね~」なんて言った。「小学生が何言ってんだろう」って私は思ったけど、結局真に受けてその後葉月ちゃんが作った料理を残さず食べた。多分3人の中で一番食べたと思う。私ってバカなのかな、、、


12月△日


珍しいこともあるものだ。今日は孝ちゃんはうちに2人の友達を連れてきた。一人は忠義くん、もう一人は私と同じクラスの草深くん。孝ちゃんが忠義くん以外の人をうちに連れてきたなんて初めてじゃないかな?それにしても草深くん、孝ちゃん達と知り合いだったのを初めて知った。何してたんだろう?ちょっと気になっちゃった。





・・・なんだか昔の日記って恥ずかしい。若気の至りで書いていたと思う。なんか忠義くんのことばっかりだ。今でこそ、仲の良い幼馴染みとしか思っていないけど、この頃は、やたら忠義くんのことが気になっていた。だってほぼ毎日会ってたんだから、気にならない方がおかしい。それはつまり「好き」だったのかな、、、それは今でも分からない。


いつからだったかな、余りにも孝ちゃんと忠義くんが一緒に居るものだから、なんだかムカついてた。だから二人遊んでる所に私も混ざるようになった。あの時の感情は「嫉妬」だったのかな、、、でも、そのお陰で忠義くんとの距離は、より近いものになった。それでも私の想いが忠義くんに届くことはなかったんだけどね。それは、私が直接言葉にしなかったのも悪いけど、忠義くんめちゃくちゃ鈍感なんだもん、、、


・・・それは置いておくとして、恥ずかしさと同時に懐かしさもこの日記を見て感じた。この頃の藤ノ下未央奈はどんな子だったのだろう。自分の頭の中の「記憶」とこの日記によって残された「記録」を頼りに思い出してみよう。そう思い、私は次のページをめくった。




確か3年生の頃は、なんかやたらと男子からたくさん告白された気がする。所謂モテ期というやつだ。もちろん、すべて断った。でもなんか印象に残ってる一幕があるんだよね。もしかしたら、その事日記に書いてるんじゃないかなー。


私は日記帳をペラペラとめくった。


12月□日


いきなり孝ちゃんから「今日うちに草深くん来るから」と言われた。わざわざ私に言わなくたっていいのに、「勝手にどうぞ」と私は軽くあしらった。それにしても最近は孝ちゃんと仲が良いのか、草深くんがよくうちに遊びに来る。私が自分の部屋にいると、となりの孝ちゃんの部屋から声が漏れて聞こえてくる。二人はどんなお話ししてるんだろうか、なんて考えていたらインターホンの音がした。私が出てみると忠義くんの姿が。「お!未央奈ちゃん!お邪魔するよ!」といつものようなやり取りをしてると、靴を脱ぎながら忠義くんが「今度孝太郎とご飯食べに行くんだけど、未央奈ちゃんも行こうよ!暇でしょ?」と言ってきた。最後の言葉に少しイラッとしたけど、誘われたことは素直に嬉しかったので「暇じゃないよ、バーカ」と答えた。もう!私のバカ!もっと素直になれ!藤ノ下未央奈!


・・・二年前の私、ホントバカだわ。ツンデレにも程がある。いや、そもそもデレてないから、ただのツンツンだ。印象が悪いだけ、最悪。


それにしても、この月の日記には草深くんの名前がよく出てくる。草深くんとは草深遥くさぶかはるかくん。

私の同級生の男の子。男子とも女子とも分け隔てなくコミュニケーションを取っていて、みんなから慕われる存在だった。だけど3年生の冬に両親の都合で北海道に引っ越してしまった。草深くんの引っ越しを悲しんだ人も少なくなかった。私はたまたまその時、ケータイを持っていて同じく草深くんもケータイを持っていたため、引っ越す少し前にメールアドレスを交換していた。


あ、思い出した。12月って確か、、、


12月24日。言わずもがなだけど、クリスマスイブ。今日は、孝ちゃんと忠義くんとクリスマスパーティ。今頃うちに帰れば、葉月ちゃんがたくさん料理をつくって待っててくれているだろう。私は鼻唄混じりで、家へと向かっていた。その途中、メールが届いた。・・・孝ちゃんからだった。


「未央奈、このメールを見たら家に帰らず、すぐに四宮公園に来てね。」


四宮公園とは、家から5分ほど歩いたところにある公園。だけど、折角パーティがあるというのに孝ちゃんはなぜ私をわざわざ公園に呼ぶのだろう?少し不安になりながら、私は家を通りすぎ公園へと向かった。


メールが届いてから約15分、公園に着くと一人の男の子がブランコに乗っているのが見えた。しかし、その男の子は孝ちゃんでも無ければ忠義くんでもない。でも、見覚えはある。・・・草深くん!?


「あれだよね、孝太郎くんのメールで来たんだよね?」


探り探りで話をする草深くんに対して、私は不安を隠しきれなかった。


「草深くん、どうしたの?っていうか、孝ちゃん達はいないの?」


「孝太郎くん達は、今頃家にいるんじゃないかな。ここにはボク一人だよ」


ただならぬ雰囲気を感じた私は、軽く息を飲んだ。


「そういえば、、、引っ越し明日だったっけ?」


メールをしてる中で、草深くんが引っ越しする日が12月25日だということを私は事前に知っていた。


「そうだよ。だから、来てもらったんだ。今しかないと思って。」


「ごめんなさい」


「えっ」


「ごめんなさい」


私は念を押して、二回言った。だって、このシチュエーション「告白」でしょ?引っ越しの前日に二人きりになるなんて。だから私は、断りを入れたの。早く帰りたかったから。草深くんは、驚きの余りしばらく固まっていた。


「それじゃ、私帰るね。引っ越しても元気でね。」


そう言い残し、私は公園を後にした。それと同時にケータイを取りだし、草深くんのアドレスを削除した。その後の草深くんがどうなったか、私は知らない。


家に戻り、玄関を開けると孝ちゃんと忠義くんが出迎えてくれた。その二人の顔は少しニヤついていた。


「おかえり未央奈!・・・で、どうだったの?」


「な~んか、ここ最近草深くんと一緒にいるなぁーっと思ったら・・・ちなみに、断りました」


「え!!なんで!?何がダメだったの!?」


「楽しみにしてたクリスマスパーティの日に、公園に呼び出したりしたから。しかも、私のアドレス持ってるのになんで孝ちゃんを使ったりしたのかなって。自分が告白するってのに、自分で呼び出さないとかありえないでしょ!!」


私は、貴重なパーティの時間を削られたことにだんだんと腹が立ってきた。そして、その怒りの矛先は孝ちゃんに向けられた。


「なんか、ごめん。未央奈の気持ち考えてなかったよ。草深くんには、悪いけどこれでおしまいにしよう。本当にごめんね」


私の気迫にやられたか、孝ちゃんは素直に謝ってきた。


「ま、俺は最初から断ると思ってたけどな~。・・・で、3人揃ったことだし、パーティ始めようぜ!!」


「断ると思ってたけどな~」


忠義くんのこの言葉に、私はなんだかホッとした。そして、理由はよく分からないけど、なんだか嬉しかった。


「うん、ありがとう。忠義くん」


「ん?なんか言った?」


「・・・さぁ!葉月ちゃんの料理が待ってるんだから!早く始めよっ!」


今日は楽しいクリスマスパーティ。嫌なことは忘れて、大騒ぎをする日。私は目一杯楽しんだ・・・




そうだった。この日はホントいろんな事あったんだよね。草深遥・・・そんな人も居たなー。でも、この人の事は今すぐにでも忘れたい。


そういえば、この日も日記を書いてるはず。私は、2年前の12月24日の日記を探した。


・・・あれ?ないなぁ?


私はもう一度日記を見直してみた。しかし、23日の次が25日の日記となっており24日の日記はそこには書かれていなかった。


例え風邪を引いたって、毎日欠かさず日記は書いてきた。ましてや、こんなイベントのオンパレードだったのだから、書くことはたくさんあったはず。


「未央奈ー入るよ」


すると、孝ちゃんが私の部屋に入ってきた。


「うわっ、何さこの散らかしっぷりは!何か探してるの?」


「ちょっとね、片付けをしてたの」


「うん、手を付ける前の方がキレイだったと思うよ。」


「これからしっかり片付けんの!!・・・それよりどうしたの?」


「あ、そうそう!これから、忠義とファミレスでパーティするんだけど未央奈も行く?」


「パーティ?何かあったの?」


「あ、ちょっとね。忠義に嬉しいことがあったらしくて、そのお祝い。忠義、今上機嫌だからおごってくれるってさ!」


「え!ホントに!?じゃあ行く!!あ、あとさ、、、」


パーティというフレーズが出てきたから・・・というわけではないのだけど、2年前のクリスマスパーティの事を聞いてみることにした。


「2年前のクリスマスイブのパーティって覚えてる?」


「2年前?えっと、、、」


孝ちゃんは、腕を組み考え始めた。


「あー!草深事件の時の!」


あんたは、そんな名前をつけていたのか!そもそも事件の発端は孝ちゃんが草深くんに手を貸していたのが悪かったというか、、、あー!また思い出したくないことを思い出してしまった、、、、


「もう!その事はいいから!その後のクリスマスパーティ!」


「パーティがどうしたの?」


「私どんな感じだった?」


「ずいぶんアバウトな質問だね、、、普通に楽しんでたと思うよ。料理もたくさん出てきて、はしゃいでたんじゃないかなー。あ、でも」


「でも?」


「草深事件のせいなのか、パーティではしゃぎすぎたからなのか、途中で寝ちゃったんだよね、未央奈。」


「え?そうだったっけ?」


改めて、私はその日の事を思い出してみる。・・・ほとんど覚えていない。でも、それは覚えていないのではなく、パーティの時間ずっと寝てたから!?


「そうだよ!結局最後まで起きなかったから、ボクと忠義で未央奈の部屋まで運んでやったんだから!」


「それは、、、どうも」


なんだか恥ずかしくなってきた。自分の寝顔を他人に見られてたなんて・・・でも、これで24日の日記がない理由が分かった。


24日は、私は寝てしまった。だから書けなかった。後にも先にも、日記を書かなかったのはこの日だけだろう。ある意味貴重な1日だと思う。・・・そうだ!今からでも、この日の事を日記に記したらどうだろう?・・・


・・・いや、やめておこう。だって、この後もっと楽しそうな事が起こりそうだから。今日はこの事を書かなければいけないからね。だって、嫌なことより良いこと書きたいじゃん?


だからこの話はもうおしまい。私は出掛ける準備を始めた。


「孝ちゃん!準備できたよ。」


「あ、うん。・・・あのさ、ファミレス終わりに、部屋片付けよっか。手伝ってあげるから。」


孝ちゃんって優しい。そう思った瞬間でした。この日の日記は、部屋を片付けてから書くことになりそうです。

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