キミにしか頼めないコト。
そんな憧れの人と、今日組体操の練習でペアになった。内心とてもテンションが上がっていた。ただ、周りの人に気付かれたくないので顔には出さない様にした。
「ねぇどうして、にやけてるの?」
・・・つもりだったのだけれども、思いっきり顔に出ていたらしい。あぁ恥ずかしい恥ずかしい。
「ごめん、気にしないで」
「ふーん、分かった」
理由もなく、にやけるわけがない。だから普通、気にしないでと言われても「なんだよ~教えろよ~!」なんて弄られたりする。正直めんどくさい。気にするなと言っているのだから、そっとしといて頂きたいのだけれども・・・
でも高宮は、僕の言葉を素直に受け入れてくれた。ありがたい限りだ。しかし受け入れたのは、全く持ってボクに興味がないからかもしれない。そうだとしたら、それはそれで悲しい限りだ。
「そういえばさ、さっきの質問、答えてなかったよね。」
「質問?あぁ、逆立ち出来るかってやつね。でも、実際にやってくれたのだからyesでしょ。」
「いや、NOだよ。」
高宮の口から、予想外の言葉が返ってきた。
「ごめん、ちょっとカッコつけてみた。あのとき藤ノ下君が支えてくれてなかったら私は、豪快に倒れてた。なんか、みんなね私は運動が出来るって思ってるらしいの、なぜか知らないけど。実際体を動かすことは好きなんだけどね、どうせならみんなの想像以上なことがしたいんだよね。それでね、藤ノ下君にお願いがあるんだけど・・・」
「・・・お願い?ボクに?」
ボクは会話に?マークを浮かばせながらも、なんとなくではあったがどんなお願いをされるのかが想像がついた。なぜならボクは出来るからだ
「逆立ち」が。しかもクラスで唯一。恐らくお願いは
「逆立ちが出来るようになりたいから練習に付き合って」
とかなんじゃないかと。
もっと願望を言うと「練習以外でも付き合ってくれたら・・・」なんて。いや何度でも言うけどあくまで「願望」ね。
「藤ノ下君に逆立ちの練習に付き合ってほしいなって、、、」
周りの目を気にしながら、高宮は声をひそめてボクにそう言ってきた。その状況からして、みんなには内緒にしてほしいのだろう。なんか良いよね、「二人だけの秘密」って。それを聞いたボクの答えはもちろん・・・
「そのお願い、快く引き受けましょう」
ジェントルマンがよくやる、片手を前に払いお辞儀をするやつ(正式名称は、bow and scrape)をして見せた。
「藤ノ下君、それはちょっと似合わない・・・でも、ありがとう。」
彼女に礼を言われた。でもそのありがとうはまだ早いんじゃないかなと。なにせボクは「逆立ち」を教えなければいけないのだ。ボク自身逆立ちはできるが教えたことはない。正直言って出来るか出来ないかは彼女のそもそものポテンシャルと、これからの頑張りにかかっていると言っても過言ではない。それでも、ボクはボクができる精一杯の事を教えるつもりだし、サポートもするつもりだ。その結果、高宮が逆立ちが出来るようになる。そうなった時、もう一度その言葉を聴きたいな。
「キーンコーンカーンコーン」
話をしているあいだに、授業の終わりを知らせるベルが鳴った。
「今日はこれで授業終わりだね、、、藤ノ下君、放課後暇?早速だけど、練習付き合ってよ!」
クールな高宮が無邪気な笑顔でこちらに問いかける。その表情を見ると「あ~高宮もボクと同じ小学生なんだよな、、、」と当たり前の事を思う。もちろん付き合うよ、付き合いたい・・・のだけど、直前に体育の授業があったからボクもそうだし、高宮も疲れているだろう。その状態で練習をしても、恐らく身が入らないはず。
「今日は、高宮も疲れてるだろうから明日以降にしない?怪我しちゃあれだからさ・・・」
「それもそうだね、明日からよろしくね。じゃあ。」
じゃあの一言を残し、高宮は体育館を後にした。代わりと言ってはなんだけど、一緒に帰ろうか・・・なんて言うことも出来ず、体育係のボクは一人、授業の後片付けに勤しんだ。
「こんな重労働なのに、なんで体育係はボク一人なんだよ!!」
やたらと天井が高い体育館全体に、ボクの悲痛の叫びが大きく響き渡った。余りにも響き渡るので、寂しさがより一層募った。
でも明日からは楽しい1日になりそうだ。寂しさとワクワクが入り混じる、ボクは今まで味わったことのない感情を味わった。