公園
僕は息を切らし公園にたどり着く。
思ったより息は切れなかったが気のせいだろう。
「おーい!時流!どこにいるんだ?」
月が昇り深い闇に覆われた公園は不気味に感じた。
なぜだろう?
昼間ならこんな感情は表れないのに。
「ってか!大丈夫かあいつ!公園なんかに置いてくんじゃなかった」
僕は激しく後悔をし足下にある石を蹴飛ばした。
「なにやら慌てておるようじゃのう」
「時流!」
ほっとしたんだけど、なぜ時流は自分の尻をなでているのだろうか?
「雲母よ。知っておったか?この金属の坂に座ると火傷をする事実を」
「昼間言ったじゃねえかよ!」
「なんと恐ろしい。この世界では金属を焼いて罠をしかけるのか?」
「遊具だよ!だから夏場の滑り台に座るなって言ったんだ!」
「すべりだい?これは焼けた鉄板を上って足腰を鍛錬する道具ではないのか?」
「滑って遊ぶの!どうみたらそう見えるんだよ」
つっこんだものの、夏場の滑り台は鍛錬する機械に見えなくもなかった。
「いやはや。なんと恐ろしいものがあるものかと感動したものじゃ」
「感動するな!逆に上っていたならなんで尻を火傷してるんだよ」
「疲れたから坂を下ろうと思っての。尻から滑れば転倒の心配はないと思ったのじゃ」
「うん。それは正しい使い方したんだね」
僕は呆れながらもベンチを探し腰をかけた。
「ほら。お腹すいただろうと思ってさ。おにぎり持ってきたぞ」
「ほほう。下僕にしては気が利くではないか」
時流は座らない。
よほど尻が痛いのだろうか?
「うーん」
時流はラップにくるまれたおにぎりを不思議そうに見つめている。
食べ方がわからないのかな?
僕がおにぎりのラップを剥くこうとすると膝に柔らかな感触が感じられた。
「仕方ない。木の椅子に座るよりは人の肉の方が尻は痛くないわ」
僕の膝の上に座り、足をぶらぶらさせながらラップを綺麗に剥き取る時流。
ラップの存在を知っていたのであろうか?
「うまい!!!うまいのお!!!なんじゃこれは!?」
時流は口をもごもごさせながら大声をあげた。
「え?チャーハンだよ。知らないのか?」
「たーはん?」
「チャーハン」
「ピラフとは違うのか?」
「お前、微妙なところで詳しかったりするよな」
「いやいや。これは驚きじゃ!炒飯をおにぎりにしようとは!誰も考えつくまい!雲母!お主なかなかの切れ者じゃのう」
「残念がら大手コンビニが既にやってるから」
時流は嬉しそうにチャーハンむすびにかぶりついている。
顔から音符が飛び出してきそうだ。
(ま。喜んでくれるなら嫌な気分しないけど)
僕は時流がおにぎりを堪能する邪魔をしないように星空を見上げた。
「すごい・・・・・・。空ってこんなに広いのか」
僕は思わず呟く。
「この世界はお主が思っているより大きいぞ」
おにぎりを平らげた時流れは指をしゃぶって米粒を口に運んでいた。
足りなかったのだろうか?
次は多めに持ってきてやるか。
「さあて」
時流が突然立ち上がる。
両手で甚平をぱんっと叩き僕に振り返った。
「雲母。お主やるのう。むすびと一緒に標的も連れてきてくれるとは」
時流れは熟れた石榴のように薄い唇を歪めた。
「標的!?いや。僕はまだ!?」
僕は慌てて時流の視線に合わせた。
「お主の努力でなければ、餌につられたという事じゃろうかのう」
暗闇に浮かぶ真っ白なワンピースが生ぬるい夜風に揺られている。
そこには無表情の神坂雅が立っていたのであった。