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授業中

僕はあおいの言葉を反芻していた。

授業中に飴を舐めながら。


不良じゃないよ。

時流に貰った飴口に含んでいるだけだ。

午後の授業は数学。

さっぱりわからむ。

僕なりに授業を理解しようと糖分を摂取しているだけだ。

脳には糖分が必要と聞く。


これは受験生にとって大事な行動なのだ。

飴を舐めていれば難解な問題も答えられるって昔の人は言ったそうな。

思いついたのは今だけど。


(しかしこれ。なんか懐かしい味だな。どこで食べたっけ?)


琥珀色の飴。

べっこう飴って言うんだったかな?

僕の知っているべっこう飴は某有名ロールプレイングゲームに出てくるクリスタルみたいな形してたんだけど。

この飴はとても異様な形をしていた。

テトラポットのような形である。

まあいいんだけどさ。おいしいし。


僕は糖分の行き渡った頭で思い返す。

あおいの表情。

時流の命令ががなくても僕はあおいの為になりたかった。

幼少の頃から僕と違いなんでもできるあおい。


あのあおいが、僕に「後悔している」と言ったのだ。

しかも他人の事で。


あおいはいつも自分以外の事で心を痛めているように見えた。

昔だって「私・・・・・・○○ちゃんの役に立てなかった」って。


ん?

あれ?

その○○ちゃんって誰だ?

誰の事を言ってたんだっけ?


僕はペンをくるりと回す。

思い出せない。


それよりも。それよりもというよりも目下の問題点だ。

神坂雅。

2年生らいしいがどうやって近づけばいいのか。


時流の命令は公園に連れて来いという話ではあったけど。

まさか女子であるとは。


下級生の女子をどうやって呼び出すのか?

それが僕の目下の悩みである。


しかも既に学校は後半戦だ。

帰宅まで残り7200秒しかない。

ようは2時間しかないという事である。

今まで絡んだ事のない後輩の女生徒を公園に連れ出すのは不可能に近い。

いや。

不可能であろう。

どうしようない無力感を感じてしまう。


よしんば彼女を連れ出せたとしても、明日からは学校中の噂になってしまう。

僕は頭を抱えた。


「ええい!当たって砕けろだ!」

「何が当たって砕けろだ雲母?よし。じゃあこの問題を解いてみろ」

授業中だった。

そして当たって砕けたのは僕だった。


休憩時間、机に頭を擦りつけている人類の底辺と化した僕にあおいが言葉をかけてくる。

「雲母やるねえ!あの問題にチャレンジするとは」

「チャレンジしたわけじゃない。むしろ知らない間に発射台に乗せられてた」

「いい?あの問題はね・・・・・・」

「ふんふん」

「って解けばいいのよ」

「あおい天才だな!教師になればいいのに」

「教師ねえ。将来の目標はあやふやなんだけど」

「いや。絶対教師になるべきだよ。こんなに分かりやすく教えられるんだから」

「ふうん」

あおいはなぜか気のない返事をした。

「それよりも」

「それよりも」

同時だった。

「そちらからどうぞ」

「あおいから言えよ」

「私は男性を立てる人間なんです。雲母から言って」

僕は軽く咳払いをする。

「神坂雅のクラスを教えてくれ」

「・・・・・・言うと思った」

あおいは困ったように笑う。

「雲母って昔からそうよね」

「そうか?」

「うん」

僕らは顔を見合わし、そして笑ってしまう。

「いいわ。2年のA組よ。私に出来なかった事をお願いしてもいい?」

「任せろ」

僕は胸を叩き教室を飛び出す。


2年A組に向かって。

(さて。どうしよう?)

そう。

僕は2年A組の教室の前で右往左往する事となったのだ。

こんな事ならあおいに付いてきてもらうべきだったと思う。

3年が2年の教室に入るってどうなんだ?

しかも相手は女子だ。

JKである。

女子高生をJKってなんなんだろう?

男子高校生はDKか?

ダイニングキッチン・・・・・・・なんでもない。

僕は意を決する。

どの道、あと5分もすれば休憩時間は終わってしまうのだ。


「たのもーーーーー」

目だってしまった。

道場破りと思われてしまったのかもしれない。

教室は静まりかえり視線は僕に降り注ぐ。

痛い!視線が痛い!

でも負けない!男の子だもん!


神坂雅を見つけるのは簡単だった。

包帯はもちろんだったがクラスで一人浮いているように見えたのだ。

いや。クラスのメンバー全てから空気のように扱われていたのかもしれない。

彼女の周りに人はいなかった。

雅に近づくのはグループを組んでる女の子達よりは話しかけやすかったけど。

ええい!直球勝負だ!

「神坂雅!君に話がある」

神坂雅は僕に興味を示さず何もない天井を見つめていた。

腕に巻かれた包帯では無く、初めて見た彼女の顔を見て僕は後ずさりをしてしまう。

長い睫。

糸のように伸びた細く煌めく髪。

教室に風が吹き込むたびにゆらゆらと香るシャンプーの香り。

ごめん。

思春期だから。発情期だから。

うっかり目的を見失ってしまいそうになる僕を神坂雅は興味なさげに見つめてきた。

「・・・・・・なにか用?」

「え?用がなくちゃ話しかけちゃいけませんか?」

敬語になってしまった。


「用がないなら話しかけないでくれるかしら」

神坂雅は興味なさげに目を背ける。


無理。

これは無理。

ミッションインポッシブルである。


諦めかけたその瞬間。

神坂雅が突然立ち上がった。


遠慮無く立ち上がった勢いで椅子が後ろに倒れる。

「んん・・・・・・あなた。いいニオイがする」


神坂雅が僕の口に鼻を近づけてくる。

いやん。恥ずかしい。恥ずかしい。

僕の口からは焼きそばパンのニオイしかしないから。

てか近いから。

暫く僕のニオイを堪能した彼女は僕に向き直った。

顔が紅潮いているように見えるが気のせいだろうか?

「いいわ。話って何?」

神坂雅は初めて僕の目を見た。

「ここじゃなんだから・・・・・・。携帯番号を教えてくれないか?」

教室がざわめいたように聞こえたが気のせいだろう。

気のせいであってもらいたい。

「○○○ー○○○○ー○○○○よ」

あっさり教えてくれた。

こんな美人な後輩の携帯番号を教えて貰えるんなんて。

僕は携帯のアドレス以外に、家のパソコンに保存しておこうと誓うのであった。







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