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関西弁

「あ。ああ・・・・・・」

僕は言葉に詰まる。

とうの時流はどこ吹く風とも言わんばかりに遠くを見つめていた。

「ああ。答えたくなければ答えんでもいいんや。昼間、見た時は、兄ちゃ・・・・・いや。雲母君の肩に乗っかってたんで、取り憑かれてるんかなぁとは思ってたんやけど。まあ色々事情があるんやろ?その姉ちゃんとは仲良う話してたみたいやし」

鬼頭さんはそう言って、煙草を消した。


「まあ。えせ関西弁も疲れてきたし、そろそろ言葉を戻そうか」

「言葉を戻すって」

「キャラ作りだよ」

「ええ!?そんな大事なものを捨てるんですか!?」

「そりゃ、特徴的な話し方すれば、キャラは立ちやすいからねえ」

「作者的都合になってる!」

「ああ。それに鬼頭「さん」なんて敬称つけなくてもいいよ」

「ええ!?いやいや。それはいくらなんでも年長者に失礼過ぎるでしょう」

「僕の名前は鬼頭じゃないからさ。偽名だから「さん」とか「様」とかつけられようがつけられまいが、別に気にもならないしね」


鬼頭は再び煙草に火をつける。


「雲母君。君はさっき、苗字を言わなかったよね?それはなんでだい?」

「そりゃあ、個人を特定されたくないからですけど」

「そう。それそれ。最近では個人保護観点だけじゃなく、わが身を。いや。家族構成まで隠すために表札に子供の名前も書かない方が良いって話しみたいだよねえ。このままいくと表札すら無くなりそうだ」

「それとなんの関係があるんですか?」

「郵便屋さんが大変だろうなあと」

「関係なさ過ぎません?」

「いやいや。関係あるんだよ。名は体を表すなんて言葉があるだろう。でもあれは違う。名が体を縛っているのさ」

「体を縛る?」


「雲母くん。いい響きの名だね。その名前は両親がつけてくれたのかい?」

「そうですけど」

「名前というのは呪いみたいな者なんだよ。両親が君に幸せになってほしいという呪いをかけかんだ。いや。この場合はお呪い(おまじない)といった方が響きがいいかな」


「おまじない・・・・・・ですか」


「制服効果って知ってるかい?」

「制服見ると萌えるってやつですか?」

「僕は、君の性癖なんて知りたくなかったんだけど、一般人に囚人服と、刑務官の制服を着せたらって話」

「ああ。時間がたつに連れて、刑務官側が、囚人服を着た人間に高圧的になっていき、囚人側は服従する姿勢を見せたって話でしたっけ」

「そうそう。心理的にとは言え、一般人は刑務官になったし、一般人は囚人になった。それは刑務官であれという一種の自己催眠であり、囚人であるという自己催眠だ。これだって一種の呪いじゃないのかい?」

「どういうことです?」

「僕は縛られたくないんだよ。便宜上、偽りの名を使っているだけさ。まあ偽りの名とはいえ、その偽名に縛られていないわけではないんだけど。えせ関西弁もそう。さっきキャラ作りなんて言ったけど、僕は縛られたくない。とくに人間ではない、あやかしみたいな存在にはね」


鬼頭は時流を一瞥し、そして僕の顔を見た。


「雲母君はそのお姉さんにばっちり縛られちゃってるみたいだけどね」

「縛られてるなんて・・・・・・そんな言い方」

「まあ困った事があればいつでも言って来ればいいよ」


鬼頭はにんまりと笑う。

「もちろんタダじゃないけどね」


名刺には真贋師なんて書いてあったけど、鬼頭本人は噓だらけじゃないか。

今の話だってどこまで信じてよいのやら。


「ところでさあ、雲母君」

「なんですか?お金なら貸しませんよ」

「君は大人をなんだと思っているんだ。とは言わないよ。大人なんだからなんて言ったら大人という理想像に縛られちゃうからね」

「ああ。わかりました。で。なんですか?」


鬼頭は右手を自分の胸あたりに掲げた。

「これぐらいの女の子。こっちに走って来なかったかな?」



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