帰り道
ああ。全然帰り道にならなかった。
サブタイトルと中身が一致してなくてすいません。
「はふう。美味しいのう」
時流はまだコペンハーゲンダッツを食べていた。
既に容器は空に見えるが、丁寧に滴を集めては口に運ぶ。
その姿がやけに艶めかしい。
体は大人。衣服は子供なのだ。
子供サイズの衣服。さっきまで着ていた。いや今も着ているが、甚平からはだけた太ももがあまりに露わになって僕は目のやり場に困ってしまう。
「甘露の話じゃったかのう?ってお主!どこを見ておる!」
バレていた。
時流がアイスの容器をゴミ箱に捨てる後姿があまりにも美しくて。
「お主が見ていたのは我の尻じゃろう」
「尻じゃねえよ!腿だよ!」
「お主、脚フェチか」
「フェチとか言うんじゃねえよ」
「しかしまあ、鼻の下って本当に伸びるんじゃのう」
「伸びてねえし」
えい。
「ぐああああああ!!人中を突くんじゃねえよ!」
「あまりに無防備だったんでな」
ノーガード戦法なんて、聞くだけで憧れてしまう戦い方だが、時流の目には憧れという光はさしていなかった。
腕をだらりとぶら下げるどころか、伸ばしてたのは鼻の下だからな。
そこは仕方ない。
「まあ。甘露とはそういうものじゃな」
「どういうものだよ」
「まだわからんのか?お主、さっきも我に目を突かれたであろう」
「失明するかと思ったよ」
「だから、その回復力じゃ。本当に、甘露を知らんのか?」
「甘露?甘露煮とか・・・・・・なんか甘いものってイメージだけど」
「うむ。これを人間が食べると、導師となり仙人となる。まあ修行した者でなくては本来、目にすることも口にすることも出来ぬのじゃがのう。仙人が霞を食べるという話くらいは聞いたことがあろう。天の露。天の霞でもある。ようは天が齎す恵みじゃ」
「それが僕の回復力とどう関係があるんだよ」
「今のお主はそうじゃな。仙人とは言わんまでも導師くらいの力はあるじゃろう。その力の一端が、言うなれば超回復ということじゃな」
「・・・・・・超回復」
「心配しなくとも良い。暫くすれば元の体には戻るじゃろう。お主は修行しておったわけでもないし、修行しているわけでもない。これから先、修行する事もないじゃろうしな」
「修行って何をすればいいんだよ!」
「なんじゃ?お主、仙人にでもなりたいのか?」
「仙人とか憧れちゃうじゃないか!?凄い人って感じだし!」
「ではまず、性欲を捨てよ」
「無理です」
僕は早々に仙人への夢を捨てた。
「ところで、時流?なんで僕に甘露を食べさせたんだ?」
「なんじゃお主?自分はなにかに選ばれた人間だとでも思っているのか?甘い甘い。練乳のように甘い考えじゃ」
「練乳ってすごい言葉だよな。乳を練るとか」
「お主の頭は乳でいっぱいじゃのう。ちちくりあうなんて言葉を漢字変換したらお主は発情しそうじゃのう」
「どんな漢字だっけ?」
「乳繰り合う」
「乳繰り合うって誰が考えた言葉なんだろうな」
「女性運動家のちちくりあうさん」
「そんな運動家いねえよ!?」
「おお!けったいな兄さん!また会いましたな」
僕と時流の楽しいデートを邪魔するようにノイズが走った。
上下スーツ姿、黒縁眼鏡の男。鬼頭さんだ。
しかし、いつの間に隣にいたんだろう。
僕が時流のはだけた谷間にに夢中になっていたときだろうか?
「ああ。昼間の。海老塚さんの家には行けましたか?」
「うんうん!そう!けったいな兄さんにまた会うことができたらお礼を言いたいと思ってましたんや」
「そのけったいな兄さんってやめてくれません?僕には雲母って名前があるんで」
「おお。そうかそうか。雲母くんか。雲母君って苗字?名前?苗字が「き」で名前が「らら」か?」
「名前です」
そう。僕は苗字を伏せた。
個人情報保護の為だ。
うっかりフルネームを出すなんて愚行はしない。
しているけど、今回はしない。
相手は得体のしれぬ真贋師とかいう肩書なのだし。
「雲母くんありがとうな」
鬼頭は頭を下げた。
なんだこいつ。意外といいやつなのかもしれないな。
鬼頭「さん」に格上げしてやるか。
「しかし、この町はコンビニ少ないなあ。タバコが買えんで困ってたとこや」
「まあ。田舎ですからねえ。このコンビニも23時には閉まりますし」
「はあ!?コンビニって24時間やってるものやないの?」
「むしろ24時間やってもこのあたりじゃ誰も来ませんよ」
「はああああ~。そんなもんなんやねえ」
「そんなもんです」
「ところで、雲母くん」
鬼頭さんは灰皿の近くに歩いていき、煙草に火を点ける。
ひとつ深い呼吸をすると、口から煙を吐き出した。
「その、隣に座ってるもん。人間やないよな」
拙い文章で申し訳ありませんが、読んでくださっている皆さま。いつもありがとうございます。