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お買い物

「ふう。おいしかったぁ」

澪はお腹をさする。

家族団らんの夕食を終え、澪は僕の部屋で寛いでいる。


澪が学校に行った母さんなりのご褒美だったのだろう。

今日の晩御飯はハンバーグだったのだ。

成長期の僕たちにとってハンバーグは至高のメニューである。

「お兄ちゃんったらハンバーグ3個も食べるんだもん。お父さん、1個しか食べれなかったじゃない」

「大丈夫だって。父さんは今頃、冷ややっこでも母さんにリクエストしてるさ。父さんはお酒のつまみに色々食べたいって方だから、逆に感謝されてるんじゃないかなあ」

「違うね。父さんの大好物はお母さんの作ったハンバーグなんだから」

澪は裸足の足をパタパタさせながら僕を指さす。

「え?だって父さん、最近、野菜とか豆腐とかばっかり食べてたよな」

「お兄ちゃん鈍いなあ。もうすぐ健康診断があるからって節制してたんだよ。いわゆるダイエットって事じゃないの?」

「ダイエット中ならなおさら僕はお父さんを助けたという事になる。命の恩人といっても過言ではない」

「んー。それはお兄ちゃん間違っていると思うよ。私は親が子を育てるのが当たり前じゃないと思う。むしろ毎日、ご飯を食べさせてくれる。これだけでも命の恩人なのはお父さんやお母さんじゃないのかなあ?」

「親が命の恩人か。考えた事もなかったな」

澪が胸を張る。

「お兄ちゃんは感謝の気持ちが薄すぎるよ。テレビを観てると誕生日なんて来ても歳を重ねるだけだから嬉しくないないなんて言う人をよく見るけど、誕生日こそ、お腹を痛めて生んでくれた母親や私たちを一生懸命育ててくれた父親に感謝の気持ちを伝える日だと思うんだ」

「そういえば、澪はいつも自分の誕生日になると、両親に肩たたき券とか送っているよな」

いつも引っ込み思案の澪が饒舌だ。

もしかしたら昼間、学校に行った興奮が冷めやらぬのかもしれないな。

でも、僕はこの時間が嬉しい。

いつも僕の背中に隠れている澪が、僕に意見するなんて。

「お兄ちゃんは誕生日、なにもしてないの?」

「彼女もいないしなあ」

「そういうことじゃなくて。誕生日こそ、父さん母さん。僕を生んでくれてありがとうっていうべきじゃないの?」

「ありがとうって言うのか?自分の誕生日に?」

「あたりまえじゃない!お兄ちゃんはもっと父さんや母さんに感謝の気持ちを伝えるべきだと思う」

「それは、父の日や母の日にはプレゼントしてるよ」

「プレゼントだけじゃなくて!!それに年に1回じゃ足りないの!」

澪は僕のクッションを腕に抱いてじたばたしている。

そうなんだよ。

もともと澪はこんな子だった。

いつの間にか学校に通わなくなって部屋に閉じこもってばかり。

声を出したとしても必死に絞り出したような声だった。

でも、今日の澪は昔に戻った気がする。

天真爛漫だった澪に。

「じゃあ、誕生日は両親に感謝の気持ちを伝える・・・・・・ようにするよ」

「もー。お兄ちゃんは人の意見に流され過ぎるからなあ」

痛いところをつく妹である。

事なかれ主義である僕は人の意見を丸のみしていまうきらいがあるのだ。

「でもそれが、お兄ちゃんの良いところでもあるんだけどさっ」

澪はぼふっという音とともにクッションに顔を埋めた。

「良いところねえ?僕は自分の事、あんまり好きじゃないけどな。澪の言う通りだよ。僕は人の意見に流され過ぎる。言うならば、意見の違いで争いたくないんだ」

「それはどういう事?」

澪は目だけを僕に向ける。

顔が赤いように見える気のせいだろうか?

「争いたくないって言うのが答えなんだろうな。だいたい意見がぶつかったとして僕の意見が絶対に正しいなんて事は過ぎてみないとわからないんだし」

「そう?お兄ちゃんの意見が正しいことだってあるんじゃない?」

「うん。時間が過ぎてみれば僕が正しかったこともある。でも、僕はそれを他人に押し付けたくないんだ」

「それは逃げというものであろう。責任転嫁ここに極まれりじゃな」

背後から時流の声が聞こえた。

でも僕は自分の意見で他人を巻き込みたくない。

それこそエゴというものだと僕は思う。

「お兄ちゃんは優しすぎるよ」

「優しくないさ。僕は僕を守っているだけ。責任を負いたくないんだ」

「でも・・・・・・お兄ちゃんは私を守ってくれる」

「それはそうさ。家族なんだ。僕にとって澪は大切な存在なんだから」


澪は耳まで真っ赤になっていた。

腕に抱いていたクッションから顔を上げる。


そして潤んだ瞳で僕の顔をじっと見つめた。


あれ?前髪直さないな?

俯きながら前髪を直す。

そんな澪の癖が、今、出ない。




ため息。

いや。違う。

深く深く呼吸を吸い込む。



耳まで真っ赤だった澪の顔がさらに赤くなっていく。


歯をぐっと食いしばり、そして笑顔に変える。


澪の瞳は僕の目をまっすぐに見た。


「お兄ちゃん。今まで言えなくてごめんね」


「なにを?」


澪は今にも泣きだしそうな目をしていた。

それでも僕の目から視線を離すような事はしなかった。


「お兄ちゃん・・・・・・今日はありがとう。そしていつも私のお兄ちゃんでいてくれてありがとう」


澪のふり絞る声


その言葉に僕は声を出すことができなかった。







お買い物に出かけるつもりが、買い物に出かける事無く終わってしまいました。

プロット通りに進めるつもりだったのですが、書いているうちにキャラを好き勝手動かしてみたくなりました。

鬼奇譚後半は私の趣味で書かせていただきたいと思います。

読んでくださる皆さま。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、お付き合いしていただければ幸いに思います。


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