狐奇譚
僕は学校の帰り道、公園に立ち寄る。
日が伸びた夏とはいえ、太陽は斜めに構えている時間帯だ。
「よう。時流」
「ああ。お主か」
時流は砂場で遊んでいた。
「今回の件だけど」
「狐憑きの事か?」
時流は僕の目を見ようともしない。
砂の山に視線を合わせたままだ。
「ああ。なんで雅は狐に憑かれたんだ?」
「わからぬのう」
時流は砂の山へ小さなその掌ですくった砂をさらにかける。
「わからないって。そんな無責任な!」
「わからぬからわからぬと言ったまでじゃ!」
「だって!それじゃあ雅は救われないじゃないか」
僕は思いもよらず大きな声を出してしまう。
自分の声にびっくりしてしまったほどだ。
雅は目を細めて西日を見つめる。
「お主。釣りはするか?」
「趣味でした事はないけど。子供のころ友達の竿を借りてやったくらいかな」
「そうか・・・・・・」
時流が今日、初めて僕の目をまっすぐに見つめた。
「ならば言おう。我ら異世界の人間は好んでこの世に呼ばれたわけではない」
「それと釣りの何が関係あるって言うんだよ」
「ただ。釣りに例えただけじゃ。他意はない」
「我の想像の域を得ぬが、雅という娘。肝試しで狐をからかったか、もしくは狐に守られている家系であった。のであろう。だが。守られていることを忘れ、敬い奉る事を忘れてしまったからか?どちらかであろうな」
時流はさみしく笑う。
「異世界の住人である我らはこちらの世界に願われねばわざわざこちらに現れるような事はせぬ」
願わくば、我らをからかって祟られたのではないことを祈るばかりじゃ。
遠くを見つめる時流の最後の言葉は声になっていなかった。
ただ唇の動きで言っている事がわかっただけだ。
僕は公園を後にする。
神坂雅。彼女の腕の傷は薄れたとしても決して消えることはないだろう。
深い傷だったのかは事は僕の目にもわかほどであったのだ。
それでも彼女は笑って過ごしていくだろう。
今日。
僕の目に映る彼女の笑顔はそれだけの決心を目に宿していたのだから。
神坂雅の狐奇譚、これにて終了。
しかし、この回で登場した、雲母。あおい。時流。神坂雅はこれからも登場します。
次の回は鬼奇譚となります。
拙文ですが、お付き合いしていただければ幸いに思います。