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玄関開けたら異世界だった!

あたしの幼なじみは誰にも渡しません!

作者: 若桜なお

「アヤちゃ〜ん」

「ん〜、なぁに〜?」


 目の前で、世界で一番可愛いあたしの親友が、白い頬を桜色に染めて、全開の笑顔であたしの名前を呼んだ。


「えへへ、アヤちゃんといるの、幸せ〜〜」


 つやっつやの漆黒の髪、透き通るみたいな白い肌、華奢な骨格、百五十センチしかない小さな身体、長雨まつ毛に縁取られた、ちょっと目尻がタレた大きな目、小さな桜色の唇。ガラスケースに入れて大事に大事にしたくなる可愛いさだ。

 性格だって、素直で、まっすぐで、努力家で、ちょっとニブくて、でもいつだって前を向いて頑張る姿は健気で可愛い。

 父に似て、デカくて色素が薄くて女らしくない(中身よ! あたしは自分で言うのもなんだけど、外見はそこそこ整ってるんだから!)あたしとは真逆の人間だ。

 可愛い、女の子らしい外見のくせに、自分の可愛さに気がつかなくて、元気いっぱい跳ね回るのも可愛い。可愛いは正義! つまり凪沙は正義! ぃやっほぅ!


 ああ、もう、どれをとっても可愛すぎる。なにをしてても可愛いのに、今この可愛らしい幼なじみは、ただいま、お酒の力でさらにさらに可愛らしさ倍増だ。なにこの可愛すぎる生き物! 襲っていいですか? いいですよね! はい、ではいただきます!


「凪沙ぁ〜、ちゅーしていい〜?」

「あはは、アヤちゃんおもしろ〜い!」


 ケラケラと楽しそうに凪沙は笑う。今、この無邪気な笑顔はあたしだけのものだ。ああ、幸せ。誰にもわたさん。


 凪沙はあたしの大切な幼なじみだ。

 産まれたときからお隣さんで、幼稚園、小学校、中学校、高校と、ずっと一緒に過ごしてきた。

 そりゃもう、陰に日向に凪沙を守り抜いたわよ、あのうるっさい羽虫どもから。可愛いあたしの凪沙を、下心満載な男どもから守るのは、あたしのライフワークだった。


 それなのに、大学に入って、あたしと凪沙は初めて別々な道を選んだ。幼稚園教諭になりたかった凪沙は、あたしを置いて県外の大学に行ってしまった。しかも一人暮らしまではじめる始末!


 慌てて志望校を変えようとしたあたしに、凪沙は初めて怒った。あたしはあたしでなりたいものがあったから、将来それを考えなしに捨てるなと、こんこんとお説教された。あたしのために怒ってくれるなんて、あたし愛されてる!


「アヤちゃん、変わらないねぇ」

「だって久しぶりの凪沙だもの。堪能しなくちゃ! 凪沙チャージしないと、あたし死んじゃう!」

「大袈裟だよ〜」


 そう、凪沙が一人暮らしをしてから、あまりあたしたちは会えていない。高校までは毎日会っていたのに、さみしすぎる!


 あたしは凪沙を愛でながら、手にした缶チューハイをぐびりと飲み干した。おつまみ? そんなもの凪沙で十分よ!

 とはいうものの、おつまみは枝豆唐揚げ冷奴に乾き物、各種取り揃えてありますが。主に凪沙用に。


 ちなみに、凪沙と飲むのは今日が二回目である。ハタチになってすぐに二人で家飲みしたんだけど、一回目は凪沙は顔を真っ赤にしてすぐ寝てしまった。あたしはお酒に強いタチだったけど、凪沙は弱かったようだ。可愛い。


 なので今日の凪沙はあまり飲んでいない。うちの母の自家製梅酒を少し口に含む程度。あとはずっと紅茶を飲んでいる。

 だって酔った凪沙は心底可愛いけど、凪沙と喋れないのはさみしいんだもの。


「凪沙、コンパとか出てないでしょうね? 合コンとかロクな男はこないんだから、行かないでね。あと、男がいるとこや外で飲んじゃダメだからね? できたらあたしの前だけで飲んで欲しいくらいよ」

「アヤちゃん心配性だなぁ。大丈夫だよ。新歓コンパのとき飲んで以来、飲んでませーん」


 お酒が入った凪沙は、いつにも増してよく笑う。可愛い笑顔が大セール中になるので、一緒に飲むのは眼福なんだけど、この無防備な笑顔を他所の男になんて披露したくない。しかも寝落ちなんてされたら、そのままお持ち帰りされてしまう危険性が! ダメ! 凪沙の貞操の危機とか、絶対ダメ!


「ホントもう、気をつけてね。あたしのためにも!」

「ねぇ、わたしそんなに酒癖悪い? 大学の友達にも飲むなって釘刺されたし」


 桜色の唇を尖らせて、凪沙が可愛くふてくされる。

 うん、凪沙の大学の友達、グッジョブよ! その調子で凪沙を守ってください。あたし、その子たちとは、凪沙守り隊を結成できる気がする。


「ねぇ、夏休みに入ったら旅行行きましょうよ」


 拗ねた凪沙も可愛いけれど、笑った凪沙が一番なので、あたしは違う話題を投げてみた。予想通り凪沙は笑って応えてくれる。


「そうだね。どこがいいかなぁ? 海外? 国内?」

「どっちも捨てがたいわねぇ。でも海外のほうが面白いかも。言葉も風習も違うから、現地の人とのコミュニケーションひとつでもすごい刺激的でしょ」

「たしかに! おじさんの故郷、スコットランドだっけ? そこ行くのもいいよね」


 くすくすと笑う凪沙の可愛さに、あたしは相好を崩した。ニヤニヤのデレデレだ。お酒はおいしいし、凪沙は可愛い。ああ、最高の夜だわ!


 凪沙と行くなら、どこでだってきっと楽しい。国内だって海外だって、それこそ異世界だって。

 ただね、現地の男ども! ナンパはさせないわよ!

 あたしの可愛い可愛い大親友に手ェ出したら、タダじゃおかないんだから!

アヤちゃんは少々凪沙を溺愛しすぎだと思う。

そんな彼女のあだなは“残念美女”。顔もスタイルもパーフェクトでも、それを補ってなお余りある変態さ。

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