交わるところ
君の口癖は
「何かあったら世界樹の下で」
そのたび俺は嘆く。
だからそれってどこにあんだよ!
何から何までてきとうな男、松木優刃【マツキヤサハ】は俺の幼馴染み。
漫画なんかでよくありそうなお隣さんて奴で、しかも何の運命の悪戯か保育園の頃から高校生、現在に至るまで同じ学校同じクラス。
いくら、田舎で少子化だからってこんな偶然あるものなのか、と何度か思いもしたけれど
まあ、そんなに気にするほどの存在であったわけでもないので
気付いたら15年も人生を共にしていたのだな、と思う程度だった。
俺は生来運動が好きで小学生の頃はスポーツ少年団という各ジャンルのスポーツをまとめあげている団体に所属し、空手を習い続け
中学、高校と常に武道と寄り添い続けていた。
しかし反対に、運動が得意ではないらしい松木は
教室の隅でいつも読書をしていて、中学の時強制的に入らされたらしい剣道部でも良い戦績を残してはいなかった。
ただ、こちらも残念なことに俺とは正反対で、勉強がすこぶるできる男であり
学年トップの座を降りるところを俺はこの義務教育の始まりから終わり、おまけの三年間(まだ高二だが)で見たことはなかった。
俺は中の下も良いところである。
脳筋、というのはこういうことだろう。
そんな、一点の交わりも無いような男と幼馴染みであったために、俺は幼い頃こそ対抗心などを燃やしたりもしたのだけれど
小学校高学年にも上がる頃には奴は空気と化していた。
「あのね、おばさんに頼まれて」
だが、その関係も高校二年に進級した次の日には変わることとなる。
親同士の付き合いは中々の良好らしく
よく母さんが旅行のお土産を渡したり松木のおばさんがお裾分けをくれたりしていたようだけれど
母同士の井戸端会議というのは成る程厄介だと思う。
「なんっで、俺がお前に?」
「うん、だからおばさんに頼まれたんだってば」
校了後、帰宅の準備を始めた俺の側に珍しい人物が寄ってきた。
話を聞けば母さんが俺の勉強を見てほしい、と松木に頼んだらしい。
余計なお世話もいいところだ。
母さんも、こいつも!
「いや、まじで必要ねえから、母さんが何言ったかしねえけどお前に教えてもらうほど切羽詰まってねえし」
「?なんでそんなにイライラしてるの?」
「は?」
は?
あ、ほんとだ。
なんで俺、こんなにイラついてんだろう。
そもそもほぼ10年近く絡んでも無いような幼馴染みになんで俺はこんなに喧嘩腰なんだろう。
「もしかして、いまだに怒ってるの?あの時のこと」
「あ?あの時…?」
「ああ、そっか覚えてないんだっけ。まあいいや」
「ちょ、待てよ!何のこといってんだ?てめぇ」
「怖いよ」
何を言ってるんだろう、この男は。
唐突な展開に少し俺は動揺していた。
俺は記憶喪失になった覚えはないし、そんな大きな事故も起こしてねえ。
こいつのことだって、いくらずっと側にいたからって
ほとんど接してなかったんだ。
現実は漫画とは違う、お隣さんの幼馴染みでずっと同じクラスでも何も知らねえんだからよ。
「まあ、いらないっていうならいいよ。俺も暇な訳じゃないし、もうすぐ新生徒会の選挙が始まるから忙しい」
「え、あ、お前選挙出るのか」
「…」
あからさまに呆れた顔をされた。
「あのね、俺のこと興味なくても流石に自分の籍を置いてる学校のことくらい把握した方がいいんじゃないかなあ
後ろの黒板にでかでかと書かれてるんだし」
「え?」
指を指された方に視線をやれば、見事な垂れ幕が黒板を占拠していた。
『推薦おめでとう!頑張れ松木優刃!』
推薦かよ!
立候補じゃねえ生徒会選挙とか初めて見たわ!
誰からの推薦なんだよ!
まじでこいつ漫画かよ!
様々な突っ込みが頭の中を巡ったが、全て喉から出さないように胸中に秘めた。
「すげえのな、お前」
複雑なものを全て抑え込んだせいか口から漏れてしまったのは素直な感想だった。
「え」
はい、後悔。
「母さん、俺そんなに成績悪くないじゃないですか。
なんで松木にあんなこと頼んだんだよ」
「何言ってんの?頭悪いじゃない脳筋」
「手厳しい!成績をなんで頭に言い換えるんだよ!」
「優刃くんにちゃんと勉強教えてもらいなさいよ、空手ばっかにしがみついてないで」
「余計なお世話だっつーの!俺はスポーツ推薦で大学行くんだから!」
「あのねえ、あんた
いつまでそんなこと言ってる気?
あんたはもう、」
出来ないんだから。
目を覚ますと朝だった。
どこからどこまで夢だったか覚えてないけど
何故か起き抜け俺は涙を流していた。
何があったわけではないはずなのに、流れる涙は痛みを伴っていた。
登校すると、朝早いというのにすでに松木は教室に居た。
誰もいないので、仕方無く挨拶をする。
昨日の今日なのでどこか居心地が悪い。
「はよ」
「おはよう、早いね」
「俺は朝練あっから。お前こそ」
「朝練?俺はいつもこのくらいに来てるよ」
「あっそ」
「暇なら勉強でもしようか?」
ふふ、と男の癖に柔和な笑みを見せる松木は、どこか悲しそうに見えた。
朝日が遠慮なく教室の大きな窓から注ぎ込まれる。
前の大きな黒板の隣に置いてある花瓶の水を変えていたらしく
水に濡れた手が登り始めたばかりの白い日光で光っていた。
なんだか線の細い奴だなあ、と俺はぼーっとその姿を見ていた。
「どうしたの?」
訝しげな目線を向けられ、はっと我にかえる。
「いや…まだねみーのかな」
「…とりあえず、鞄でもおろしたら?」
気付けばまだ鞄すら下ろしていなかった。
いそいそと自分の席に着くと、松木が前の席に腰かけた。
「おいおい、次期生徒会長様が机に座るなよ」
「いいんだよ、学校のもの、全部俺のになるんだから」
「おっそろしー発言」
「…課題やった?」
「え?」
「昨日、ライティングの授業でプリントの単語調べ出たでしょ?今日提出だよ」
「え、え、まじかよおおお」
プリントなんてもらったっけ!?
ぎゃあああ、いつもの教科書に挟んで忘れてたパターンかああああ
「ふふ、やろっか」
あー、やばい。
ちょっとこいつが神様に見えてきた。
私には高校一年生の一年間以外、保育園に入園した三才から高校卒業までずっと同じクラスだった幼馴染みが実在します。
まあ、こいつらは一応出会いは二才ってことにしてるのですが
幼馴染みって奴はどうなんですかね。
保育園の時の記憶なんて皆無だし、家も近かったけれど一回しか遊びにいったことないし、来たことも…あったけなあ。
気付いたら話さなくなってましたね。
高校卒業してから私は東京に来てしまったので流石にもう連絡も取り合っていないし何も知らないのですが
思い返すと同じ時間を過ごしていた間も何も知りませんでした。
加工されてないトマトと、粒になってるコーンが嫌いで
音楽やファッション、アニメなんかに関しては何かと趣味があったりしてましたけど
それについて語り合ったこともなければ知ったのも偶然だった気がします。
ただ、同じ時を過ごしていたからか、友人伝に聞いた話なんかだと私が金髪の時期には奴も金髪にしていたり、メッシュもおんなじところに入れてたりと何かと似るところはあったみたいです。
因みに我々は男女の幼馴染みだったのですが
同性同士だとまた何か違ったりするのでしょうか。
と言うわけで、ふと思い出した幼馴染みを題材に書かせて頂いたこの連載。
まだまだ続きます、と言っても長編が得意ではないので三話くらいで完結するでしょう。
適当に読んでやってください。
ここまで閲覧いただき恐縮です、お付き合いくださりありがとう。