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追悼歌

作者: 子猫&夕焼

 ……もしもし。なんだ、また記者か。別にスキャンダルは入ってないし、教えてやるつもりもない。さっさと諦めて他を当たってくれよ。


 何だって?

 二十年前の「事件」について?

 ……お前、何を言っている? 二十年前は「人類最大の幸福年」と言われているんだ。事件と呼ばれる様な事は起きてねえぞ。


 確かにな、事故は異常に多かった。でも、それは二十年前までずっとだったろうが。

 トラック事故で年間五百人。それが当たり前だったのに、二十年前は夏ごろにパタッとんじまったんだ。おかげで年間事故者は五人だけ。

 五人だけって言い方は悪いけどな。


 ああ? その五人のうち、子供が三人?

 何でお前、それを知ってるんだ?


 ……お前、物好きだな。二十年前の新聞記事、わざわざ漁るやつがいるかよ。

 しかも、会社から頼まれた訳でもあるめぇし。

 いいよ、教えてやるよ。

 〇月×日△時に青塔けいさつまで来いよ。この日は休みだからな。


 あ? 何で休みなのに、「青塔」まで行かなきゃいけねえってか?

 そりゃあ、お前、あそこには部屋があるんだよ。キレイに整頓された部屋がよ。

 男二人で喫茶店も虚しいし、俺の家は今きったねえからな。青塔で勘弁してくれ。

 それじゃあな。




 ……本当に来たのか。お前、馬鹿だなあ。仕事ねぇのか?


 休み取って来た? 馬鹿言え、ここ最近は、野次馬も大変だろ?

 ああ、俺は新聞社だのテレビ局だのを、野次馬としか思ってねえ。どこも碌な事を言わねぇからな。


 別に謝んなくていいけどよ。

 んで、お前は何を聞きたいんだ? 子供三人の、何を知っている?


 わざわざ、本当に……よくやったよな、お前。こんな気狂いのやつの裁判、誰がメモってたんだよ。


 ああ。


 そいつは、気狂いとしか呼ばれてなかったよ。佐久和さくわって名字らしいが、名前はよく分からなかったな。


 そいつ、そこに載ってる名前は自分のじゃないって言うんだ。

 自分は、その名前を名乗る資格が無いと。ずっと言っていて、名前確認も大変だったもんだよ。


 まあ、こいつ――佐久和は、確かに気狂いだった。

 お前の言う通り、こいつは事故犠牲者の親だよ。この女の子のな。

 この子の遺体も、酷かった……。


 聞かない方がいいぜ。信号待ちをしていただけなのにな……そうやって事故が起こる理由は、まあ分からなかった……佐久和が言う事を信じるなら、すぐ終わる話だが。


 ああ。

 そこまで知ってるのか。

 なら、話は早え。その男の子が、その後すぐに亡くなった――すでに殺人鬼だったが――、しかも、事故ったのは女の子と一緒だ。

 ああでも、女の子は微妙なんだよな……多分、事故が無くても死んでいただろうな。

 刺し傷があったんだ。周りにも、たくさん人が倒れていた――と、目撃者が言っていた。


 仕方ないのさ。人は、思わぬモノを見て、すぐには動きだせない。しかも、止めようとしたやつも、電話をかけようとしたやつも、全員殺されていたみたいだ。その状態で、止められると思うか?

 呆然として、見ているだけだろうな。


 そう、だな。

 二十年前は、幸せと言われるが、夏のあの日は酷かったんだ――何で、「幸福年」とか言われているんだろうな?

 忘れては、いけないものなのに……


 ……ああ、悪い。俺はあの時、まだひよっこでよ。何もできなくて、悔しかった。

 今も、思い出すと腹が立ってよ……。


 それで――二人の遺体は、そこから消えた(、、、)。引きずって運ばれたんだが。

 運んだ男の子も、やっぱどっかおかしくてよ。血を注射器で抜いて、カップで飲んでいた――らしい。

 カップに血の跡がべったりと付いていたから、きっとそうなんだろう。


 ……何でお前、そこまで知ってるんだか。

 そうさ、あの後男の子の喉を刺して殺したのは女の子だ。

 その女の子も、やっぱりおかしい。

 初めに殺したのは、父だそうだ。

 次は、母、更に弟を殺して、たくさん殺して。

 でもな、殺していたのは大体、悪い奴なんだ――ヤクザに有名になるほどだったらしいな。

 それで――そのまま、男の子を殺した場所で自殺した。

 遺書があってな――それがなければ、その女の子が殺人鬼だとは、誰も知らないままだったろうよ。


 佐久和が言った通りなら、そう、今お前が言ったやつも関係するがな……。

 玩具の銃で頭を一発、その後衝撃で海に落ちたはずだ。

 こいつは、何で死んだのかよく分からない。ただの自殺者、だ。


 本当はどうかって?

 それは俺も知らねえ。本当に佐久和が言う通りなら、彼も犠牲者、なんだろうな……。


 それで――

 また、女の子が同時期に自殺した。よく分からん遺書もあったな。


 何と書いてあったかって?


「私は皆と一緒が良かった 皆昔出会ったのに 誰も覚えていない

 私が死ねば これは終わり 私が生き延びてしまえば 終わらない

 だから 私は死んで 皆と一緒に 犠牲となります

 ねえ 誰か 覚えていないの

 あの子は 覚えていたかな でも 覚えていない方が 幸せだったかな

 クルイウタに巻き込まれた けれど 皆と遊んだのは 楽しかった

 ありがとうね えりちゃん

 えりちゃんがいたから 今私達は苦しんでいる

 えりちゃんがいなかったら 私は寂しかった だから ありがとう」


 一字一句覚えているさ。

 「えり」ってのは、トラックにぶつかっていきなり死んだ子と名前が一緒だった。しかも、佐久和が言っていた子供達と一致していたからな……

 訳が、分からん遺書だろ? でもな、本人は必死だったんだと思うんだよ。

 これを、彼岸と此岸、どっちに残したかったのか、分からねえが。


 クルイウタってのは。

 佐久和が言ってたやつさ……ほれ、ここにあるだろ?


 さあな。

 佐久和の言った事を、信じるかどうかはお前次第だからな。


 俺?

 俺はな。

 佐久和の言う事は、やっぱり気狂いの言葉だったと思うよ。俺は現実主義者だからな。

 警察官が、妄想しちゃあ駄目、って訳さ。

 でもな。

 思うんだ。

 クルイウタってのが、本当にあるとは思わないが……それでも、確かにその年、あいつらが死んで、そうしたら世界のオカシサがなくなったってな。

 あいつらを、忘れちゃいけねえんだ。


 ……ふう。

 あ、今さらだが、煙草平気か?

 俺は、こう言う話でコレなしは、きつくってな……


 他に、何か聞きてぇか?


 ああ、じゃあな。

 また何かあったら電話しろよ。ねえことを祈るが。

 ……せめて、端っこでもいいから、あいつらの事が追悼されればいいのにな……

 命が、軽くてたまんねえ。

 死ぬたびに、「ああそうですか、はい」で終わるってのは、正しいのかね?


 はは、優等生の答えだ。

 それじゃあな。




「……すまない」


 新聞記者として警察官の一人と話していた男は、空を仰いで呟いた。


「俺が、もっと早く来てれば――」


 ふっと、風が強く吹く。

 次の瞬間、既に彼の姿は、この世の何処にもなかった――。

「追悼歌」を書かせて戴いた子猫夏です。

夕焼明日灯の「クルイウタ」シリーズより、後書き的なものです。

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