第91話 村長とご対面
テリー君視点に戻ります。
「さあさあどうぞこちらへ。何もない村ですがゆっくりしていってください」
「これはどうもご丁寧に」
最初はどうなるかと思ったがなんとか村の中へと入れた。十の四の森、穏やかな村だ。爺さんの言いつけ通りやって来た甲斐があったな。うちの森と同じような小屋の数々、そして何より村にいるのが全員もれなく茶髪で茶眼だ……! ここは間違いなくエルフの村、エルフのみが住んでいるエルフの森なんだっ。おお、ネイフォンさん以外でエルフを見るのは実に半年ぶりだ。それもこんなにも大人数で。歓迎されるまま村の中へと入れば大勢のエルフがこちらを興味津々と言った面持ちで見てザワザワと騒いでいる。小さな子供達がこちらをじぃ~と見つめてくる。子供だ、子供のエルフだ! うわっ可愛いな、同族の子供って見るのが初めてでなんだか愛おしく見える。他にも年上のおじさんエルフやおばちゃんエルフ、白髪混じりのお婆ちゃんエルフもいる。老若男女エルフだな。……老若男女エルフって何だよ。まあいいや。とにかくここはエルフの村だということだ。エルフ村、ウフフ。門を抜けると一斉に皆がこちらへとやって来た。まるで珍しい物を見るような目、子供達も不安ながら興味津々と目を輝かせている。中には「十の一! 十の一!」と大声で騒いでいるエルフもいる。そ、そんなに凄いことなの? よく分からないので愛想笑いで誤魔化しておこう。人間界で覚えた世渡りの術、とりあえず笑っておけばいい。歓迎ムードの皆さんに笑顔を振りまきつつ村の中を歩き進めていく。平穏でゆったりとした空気と雰囲気がとても心地好い。
「長旅でお疲れでしょう。こちらのお部屋でお休みください」
門番のトフィニさんの先導でとある家へと入る。木で作られた立派な二階建てのお家、大きな庭もあってここの村の中では今のところ一番大きい家だと思う。ゲームで言うところの宿屋みたいな建物なのかな? ゲームで例えようとする辺り、俺もかなり人間界に毒されてきているな……。やたらと質問をしてくる皆さんに笑顔を振り散らしながら家の中へとゴー。お邪魔しまーす。
「嫌ぁ!」
……ん? なんか家の中から声聞こえたけど。嫌って言わなかった今? あれ、もしかして歓迎されていない感じ? え、嘘マジすか。今現在も後ろの方で質問や歓声が放り込まれているのに歓迎されてないのか? あ、あれでしたらすぐ帰りますけど?
「今の声はアイリーンちゃんか。何かあったのかな?」
「ああ今のは気にしないで大丈夫ですよ。ささ、どうぞ中へ」
あ、ああそうすか。じゃあ遠慮なく上がらさせてもらいます。トフィニさんがドアを開けてくれて手を差し出して誘導してくれる。どうもご丁寧に、これほど丁重に対応されるとは思わなかったよ。だっていきなり現れて変な呪文叫んだ奴だよ? 俺だったら即刻お引き取り願っている。十の四の皆さんの温かい歓迎に感謝しつつ中へと入る。
「ようこそ十の四の村へ。質素な家ですがどうぞお入りくださいね」
玄関先で待っていたのは三十代前半に見える綺麗なエルフの女性だった。サラッとした茶色の長髪を後ろで結って落ち着いた物腰で話しかけてくれた。姫子のお母さんと話している時みたいな気持ちになったことを考えるにこの人は誰かの母親なのだろう。女性に会釈していると小さな女の子がトテテ~とダッシュしてきて俺の荷物を奪うように取っていった。え、何今の小さな盗賊さん。荷物を両手に抱えて苦しそうに歩きながら女の子は女性の方を見上げる。
「エミリー、お客様の荷物はまだ運ばなくていいわよ。そこの椅子の上に置いてちょうだいね」
「はーいお母さん」
元気よく返事して女の子は俺の荷物を椅子へと丁寧に置いてくれた。一瞬でも泥棒扱いしてごめんね。目が大きくパッチリとして白い肌をした小さな女の子はじっと俺の方を見ていたと思ったらすぐに二階へと上がっていった。あぁ、あんな感じの妹が欲しかった。一緒に狩りに行きたい。
「もうじき村長が来ますので少々お待ちくださいね。どうぞ」
「これはどうも。いただきます」
椅子に座ると少女の母親がコップをテーブルへと置いた。中を覗けば薄緑色の液体、お茶みたいだ。軽く息を吹きかけて湯気を消して一口啜る。あ、美味しい。これすごく美味しいです。人間界で言うお茶みたいなやつ、でも人間界のやつより濃くて若干渋い。でも喉越しはアッサリしていて後味もしつこく残らない。これ美味しい、後で作り方教えてもらおうかな。
「そういえばまだ自己紹介していませんでした。初めまして、十の一の森から来ましたテリー・ウッドエルフと言います」
「族長のお孫さんでしょ、会えて光栄ですよねっ」
ですよねっ、って言われても……え、俺に共感求めないでよ。そんなにすごいことなのかなぁ? 別に俺自身は何でもないのですが。爺さんがたまたま族長だったってだけ。しかもあのジジイはとんでもないクズですからね。
「さっきのは娘さんですか?」
うちの爺さんのことを聞かれても答えにくいので聞かれる前に話題を振っておく。世の中を円滑に渡る処世術だ。人間界で覚えた。
「ええ、そうですね。エミリーって名前の下の子でして。姉もいますよ、今は部屋に閉じこもっていますが」
てことは姉妹か。あーいいなー、姉妹って。俺もやっぱ兄弟欲しかったな。爺さんと二人きりの暮らしなんて微塵も面白くないよ。爺さんは人間の捨てたゴミの採集に夢中、日ごとに増えていくガラクタの山。間近で見ていて眩暈がしそうだった。あんなことしていたから他に住んでいた皆は違う森へ移り住んでいったのではなかろうか。時間があったら村の人達に聞いてみるか。
「あ、村長が来ましたね」
女性がそう言うと玄関からさらに賑やかな声が聞こえ、しばらくすると一人の老人が中へと入ってきた。禿げた頭、腹部まで伸びた長い白髭はなぜか三つ編みにされている。なかなかの逸脱したセンス、人間界なら注目の的になること間違いなしの格好だ。村長と呼ばれる老人は物優しげな表情でこちらを見つめ、ゆっくりと時間をかけて微笑んできた。まるで何かを懐かしむように、俺の後ろにいる誰かを見つめるようにして目を細める村長さん。ゆっくりと足をひきずって村長は俺と向かいの椅子へと腰かける。顔を合わせてからそこまでの動作は遅いながらもしっとり優艶に似た華麗さをもってスムーズに行われた。見ていたこちらがぼんやりと眺めて挨拶もろくにしない程に。慌てて立ち上がって頭を下げる。
「は、初めまして。俺、テリー・ウッドエルフと申します。祖父の遣いでやって参りましたでありおります!」
「ふぉふぉふぉ、そう固くならないでおくれテリー君。久しぶりの再会じゃあないか」
え? パッと顔を上げれば村長がニコリと微笑んで口にたくわえた長い髭を撫でていた。三つ編みをなぞるようにして指先を下へ下へと下ろしていく。そしてもう片方の手でティーカップを手に取り、上品に啜る。さ、再会? 会ったことがあるのか。
「ふぉふぉ、昔のようでつい最近のことにも思える。君の両親が生まれたばかりの君を連れてこの森にやって来たんじゃよ。うむ、大きくなったねテリー君」
「ど、どうも」
どのように言葉を返せばいいか分からないのでとりあえず頭をもう一度下げておく。村長と呼ばれた老人は「ふぉふぉふぉ、頭を上げなさい」と言ってくれた。再び着席して村長さんと見合う。……俺は昔、この村に来たことがあったのか。悪いが全然記憶にない。それもそうだろう、俺が生まれたばかりの時だと言った。赤子の時に見た記憶なんて微塵も残ってない。まさか既に違う森で参拝したことがあろうとは。なんとも奇妙な気持ちだ。言い表せない気持ちを濁すようにして茶を飲む。少しだけ冷めたお茶が喉を滑るようにして胃に流れていく。
「ふぉふぉふぉ、さて君のお爺さん、ディアバレス・ウッドエルフは元気にしているかな?」
ディアバレス・ウッドエルフ。それは爺さんのフルネーム。今言われて思い出した。俺のことを族長の孫だと知って会ったこともあるとおっしゃるこの老人、そして村長だ。この村で一番偉いエルフ。推測するに恐らく爺さんと知り合いなのだろう。だからこそ、この手紙だ。エルフの聖鞄から封筒を取り出し、一つの紙を村長さんへと差し出す。興味深げに手紙を受け取った村長さんは軽く息を漏らす。
「ふぉふぉ、あいつらしい文章じゃわい」
ネイフォンさん経由で爺さんから受け取った封筒には何枚か紙が入っていた。一つは俺に対する命令文。そして今渡したのは村長さん宛ての手紙だ。十の四の森に行ったら村長と名乗る奴に渡せと指示されていた通りに実行。村長さんは髭を触り続けながらも手紙から目を離さずじっくりと目を通している。その間俺は何もすることがないのでじっと待って時折お茶を啜る。ドタバタと二階がうるさいが気にしないでおこう。さっきの子供が上で遊んでいるとかそんな具合でしょ。ひたすら手紙を読み続ける老人、しばらくすると突如手紙を放り捨ててゲラゲラと高らかに笑い始めた。え、え、え? な、何すか?
「ふぉふぉふぉ! あいつは変わらんな」
高笑いした村長は深々と椅子に座り直して天井を見上げる。深く生い茂った白髭からニヤニヤと笑う口元を覗かせて。あ、あの……その手紙、何か嫌なことでも書いてました? うちの爺さんボケ始まっているから手紙渡す前にちゃんと添削しておくべきだったかな。失礼なこと書いたんじゃないだろうなクソジジイ。テメーのオリジナルお絵かきロジックとかじゃないだろうな!?
「あいつらしいくだらない文章だったよ。そして孫思いの奴め」
ニヤニヤ笑って目を細める村長さん。先程までの優艶で雰囲気あるお姿から一変、悪餓鬼みたいな無垢な笑顔でうちの爺さんの悪態をついている。変貌ぶりにビックリだ。え、えと……本当にどうかしたんですか?
「ふぉふぉふぉ……テリー君や。お爺さんは元気そうだね」
「え、あぁまあ元気っちゃ元気です。かなりボケが進行していますが」
「それに関しては全く同意せざるを得ない。あいつもそろそろボケ死ぬ頃かの。大分前からイカれていたのは知っていたが」
ククッと笑い声を漏らして村長さんは指先を口元へ添える。肩と三つ編みの口髭を揺らす程に笑っている。余程愉快なのだろう、ずっとニヤニヤ笑って時々目を細めてまた再び高笑いする。え、ここの村長さんもボケ始まってる? エルフの族長と村長は皆こんな奴ばっかりか。頭ゆとり世代かよ。
「ふぉふぉ、久しぶりに笑わせてもらった。テリー君も大変だね、あの馬鹿に付き合わされて」
「……僕が今どこで何しているか書かれていたっぽいですね」
「察しが良いのう、さすがディアバレスの孫だ。あいつも勘だけは鋭かった。いやー懐かしい」
懐かしむように俺の方を見る村長さん。先程と同じ目だ。どうやら俺の姿と爺さんの姿を重ねて見ているようだ。あんなクソジジイと姿を重ねられるのは大変不本意だが我慢しよう。
「ふぉふぉふぉ、君の顔を見ていると若い頃のあいつを思い出してな」
「あの、うちの爺さんと知り合いだったんですか?」
「そうじゃな、幼少からの付き合いじゃ。あのクソ長髪野郎、私の口髭を馬鹿にしやがって。それに頭が禿げてきたことにも触れやがった。あの時は殴り合いの喧嘩をした。それ以来か、十一年程会っていないのう」
立派な白髭を触りながら懐かしげに微笑む村長さん。柔らかい優しげな表情をしているが片方の手をギリギリと力を込めて握り拳を作っている。きっと爺さんに頭のことについて馬鹿にされたのを未だに根に持っているのだろう。そういえば爺さんは昔からロングヘアーだったらしい。うちの爺さんは髪の毛を伸ばし、この爺ちゃんは髭を伸ばしたと。お互いの長所を批判しまくって喧嘩したわけか。なんつー子供染みた真似を。族長と村長のやり取りとは思えない。
「ふぉふぉ、思い出話をするとキリがない。さてテリー君、君に紹介したい子がおるんじゃよ」
「俺にですか?」
「君の故郷、十の一の森には君とあの腐れジジイしかいないんじゃろ?」
腐れジジイとは我らが族長のことである。肯定の意としてコクリと頷く。うちの森には他のエルフは住んでいない。皆他の森に移住したり、亡くなった。今では俺と爺さんの二人しかいないのだ。ここの皆さんは十の一!ともてはやしてくれたが正直言って別にうちの森は大したものじゃないよ。族長の家には人間のガラクタが詰まってゴミ屋敷と化しているし。
「このままではボケたジジイの介護をして最後には君一人だけになってしまう。そこで、テリー君に女の子を紹介しよう」
「……結婚しろってことですか?」
「ふぉふぉふぉ、そこまで大層な話にするつもりはないよ。君としても同世代のエルフと話してみたいじゃろ。所謂合コンってやつじゃよ」
人間界の言葉である合コンをまさかエルフの村長から聞くことになろうとは。しかし言われたことは尤もだ。同世代のエルフと話してみたい気持ちは多々ある。人間の世界で同世代の人間とは話すがタメのエルフと話したことがない。ここはうちの森とは違って老若男女エルフが住んでいる、小さな子もいれば大人だっている。その中間である青年エルフや女性エルフがいてもおかしくないはず。そんな紳士諸君と会話したい、普通にお知り合いになりたい。まさに合コンだ。ポッキーゲームやろうぜ! 木の枝で。
「丁度君と同い年くらいで良い子がおるんじゃ。まあ変わり者で人間の国に留学しておるんじゃがな」
「人間界にですか!?」
まさか俺やネイフォンさん以外に人間界に住むエルフがいるなんて。お、驚きだ。ネイフォンさんは超がつく変わり者で自分勝手に森を飛び出して、俺はクソジジイの命令で無理矢理旅立たされてしまった。が、他にも人間界に移り住んだエルフがいるとは思いもしなかった。その子も相当の変人なんですね。
「外の世界に興味を持つのはいいんじゃが髪の毛を黒色に染めてのう。グレてしまったのかと思ったわい。でも中身は変わっておらずとても良い子じゃよ。ちょっと娘さん呼んできておくれ」
村長さんは家主の女性に声をかける。女性は頷いて二階へと上がっていった。おお、いよいよ同世代のエルフと会える。十六年程生きてきて初の出来事だ。な、なんか緊張する。落ち着けテリー、こういう時は掌にエルフと三回書いて飲み込めば……
「村長、連れてきましたわ」
「ふぉふぉ、ありがとう。じゃあテリー君、この子じゃよ」
村長が手を差し向けた先にいたのは、先程荷物を持ってくれた小さな女の子だった。無垢な瞳でこちらをじっと見つめてくる。……あの、ちょ、
「すんません村長さん。自分、小さい子に性的興奮はしません」
「あ、いや、違う。この子じゃない、この子の姉じゃよ。ちょ、なぜボケたのよ」
母親のエルフにツッコミを入れながら溜め息を吐く村長。そういえばこの子にはお姉さんがいると言っていたな。その子のことか。
「ほれエミリーちゃんや、お姉ちゃんを呼んできておくれ。二階にいるのじゃろ?」
「お姉ちゃん窓から飛び出したよ」
「ふぉ!?」
少女の澄んだ声にお爺さんが奇天烈な声を上げる。窓から飛び出した? なかなか元気溌剌な女の子なんですね。活発で良いと思いますよ。
「ど、どうしてじゃ?」
冷静を保とうと椅子に深く座り直して村長は置かれたティーカップを手に持つ。ゆっくりと優艶に綺麗な動作で口元へ運び味わうようにして音もなく茶を啜る。
「分かんない。しばらく森の奥を散歩してくるって言ってた」
「ふぁ!?」
盛大にお茶を吹き出すジジイ。目も飛び出して禿げた頭にシワが寄る。もしゲームのボスだったら第二形態!?とプレーヤーから疑われるくらいの変貌を遂げたぞ。少女の発言を受けて余程ビックリしたのか、口から溢れ零れる薄緑色のお茶。三つ編みの髭に浸透して川の水が流れるように三つ編みの上を流れ落ちていくお茶。なんともシュールな光景だ。村長はプルプルと震えてそれに連動して三つ編み髭も震える、飛び散るお茶の飛沫。「あらあら村長の奇行も日に激しくなってますよねっ」と笑いながら布を持つ母親とその娘エミリーちゃん。な、何この村。意外とクレイジーだぞここ。驚いて普通に引いていると突如勢いよく立ち上がる村長さん。家に入って来た時のゆっくりとした物静かな風貌は完全に消え去っている、おいおい本当に第二形態になったんじゃね? 第二形態の翁はこちらを見てロングの髭を揺らしながら叫び始めた。
「ま、マズイぞテリー君。今うちの森の奥には凶暴な猪が暴れておるんじゃ!」
「え、そうなんすか?」
「我が森のトップ狩人チームが仕留めようと日々追っているんじゃがなかなか手強くての……。そ、そこに女の子が向かったんじゃ」
「それヤバくないですか?」
「だからこうして叫んでいるんじゃよ! ふぉふぉふぉ!?」
うおおお、このジジイうるさい。ゲーム機を熱く語った時の爺さん並の勢いだ。何これ、エルフって年取るとアクティブ化しちゃうの? 大人の余裕ってやつはどうした。
「森の奥には入るなと言っておいたのに。とにかく急いで助けを送らなくては。お、おいトフィニ! トフィニとシェパールはおるか? 今すぐ村の男共を呼んでアイリーンちゃんを救出するんじゃ」
椅子に座ってぎゃあぎゃあと騒ぐ村長さん。慌てて家の中へと入ってくる門番のトフィニさんともう一人の門番さん。皆おどおどして家中を走り回っている。コントみたいな動きしているけど大丈夫なの? え、ヤバイんでしょ。森の奥は危険なのに女の子が入ってしまって。……ん? 誰か足元で引っ張ってくる。視線を下に落とせば、エミリーと呼ばれていた小さな少女がこちらを見上げていた。ウルウルと潤んだ瞳でじっと捉えて離してくれない。か、可愛い。ロリ趣味はないけど単純に生き物として可愛いと思った。癒される、姫子ぐらい癒される。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん助けて……」
「え、俺が? あー……そうだなー」
チラッと前方を見つめる。三つ編みの髭を振り回して暴れる老人とそれによって飛び散ったお茶の飛沫を受けて嫌がる大の大人が二人。どう見ても頼りない。うーん……よし、やってみるか。族長の遣いとして働いてみよう。エミリーちゃんの頭に手を乗せて軽く撫でる。
「おう、お兄ちゃんに任せろ」
残りの茶を全部飲み干し、椅子を蹴り上げる。その勢いで体は後ろへと倒れ、倒れる前に両手を床につけて後転。そのまま後ろへと跳ねていき入口の扉を蹴り開ける。乱暴者でごめんなさい。風に乗って森の匂いが鼻をくすぐる。ああ、今日も良い天気。ふぉふぉー!と家の中から聞こえる叫び声を無視して森へと一直線と跳んで行く。待ってろ合コン相手の女子!




