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第80話 馬鹿の名推理

「発電機高過ぎるよ……」


学校の帰り道、駅一つ向こうのホームセンターに足を運んだ。目的は発電機。電気の供給がされていない森の中でゲーム機を起動させる為に必要不可欠な機材だ。爺さんの指令はゲーム機を買ってこいだけだが実際にゲーム機が使えないとあのジジイは納得しないだろう。馬鹿者がっ、と罵られるのは明白。よって発電機も購入しなくてはならない。もしかしたら何かの手違いで発電機がカップ麺並の値段で売られていないかな?と淡い期待を持って入店したが見事に桁違いの価格でした。高過ぎるんだよ。唖然として言葉が出てこなかった。電気を作るのがそんなに偉いのかよ。誰だ電気発明した人間、今すぐ出てこい。眉間に拳ぶち込んでやる。中指の付け根をグリグリさせてやる。はぁ、中華まん買って帰ろ。駅前にあるコンビニの扉を開ける。


「あ、久しぶりだな」


「誰ですか?」


その返しは酷いよね。入店した直後に出会ったのは日野愛梨。半月前に知り合った同世代の人間の女子だ。ツインテールの黒髪、小さくて線の細い顔。茶色の綺麗な瞳が魅力的。とまあ外見的評価は花丸、ランク付けするならAだ。ちなみにAが一番良くてEが最低評価とする五段階評価。ちなみのちなみに姫子はA+です。え、仲良い友達贔屓してますけど何か? 可愛い姿をしているが日野の性格はかなり悪い。毒舌で俺のことを馬鹿にしている節がある。もう忘れたのかよ。一緒に裏山でピクニック楽しんでさ、仲良くなったじゃん。


「悪いですけど私の知り合いに汚い茶髪はいません」


おいおいだから茶髪を馬鹿にするんじゃない。そこら辺歩いている人間と一緒にするな、これは高貴なるエルフの地毛だぞ。お前みてーな人間には違いが分からないんだろうなぁ。この低俗民族がっ。だがここでそれを言うのは美しくない。エルフの存在を知られるわけにはいかないんですわ。以前学習した通り日野の対処法は無視すること。日野は俺のことを嫌っているみたいだから無理して話しかけて雑談する必要はない。コンビニいいよね、何でも揃って素敵だよ。じゃあまたいつか会いましょう。心の中で話しかけて一人で会話を完結させる。日野の横を通り、店の奥へと向かう。迷わずレジに向かえ、いらっしゃいませと言わせる前に「中華まん」と告げろ。スタイリッシュに買い物済ませようぜ。


「待ってください木宮照久さん」


なんだよ結局覚えているじゃんか。だったら最初から普通に返事しろよこの毒舌少女が。


「今から時間ありますか?」


「カラオケには行かないからな」


「私カラオケの割引券持っているんですよ」


会話しよ? とりあえず聞くって行為をしましょうよ。こちらの拒否を丸ごと無視した日野愛梨。酷過ぎる。毒を吐いて無視するって最低な組み合わせだ。なんでカラオケに行かないといけないんだ。俺は人間界の歌は知らないしカラオケの魅力も知らない。またお前が歌うのを聴くだけで何時間も過ごすことになるんだろ。時間の無駄だ。とか思う反面、実は日野の歌を聴いてぼんやり過ごすのも楽しかった覚えがある。あれはあれで面白かったな。……あれ? じゃあ断る理由なくね?


「えっと、今部屋は空いてますか? あ、三十分後ですね。分かりました、じゃあよろしくお願いします」


携帯電話で通話をする日野。ちゃんとお店の外で電話している。モラルは持っているんだよなあいつ。寧ろ礼儀正しい方だ。少なくても俺より。故にあの毒舌がキツイ。もっと優しくしてほしいものだ。それが今から一緒にカラオケ行く奴に対する態度か。ツンデレの枠を超えている。ちなみにツンデレとは……


「少し時間があるのでゆっくり歩いていきますよ。早くしてください」


そんなことを日野が言っている。コンビニの外から話しかけている。店内にいる俺には聞こえにくいが一応聞こえるので手で合図を送ってテメー早く来いと促している。俺の意見はガン無視か、上等だよ。どーせ今からは中華まん買って家でダラダラ過ごす華麗な予定しかなかったからね。いいよ、また付き合いましょう。とりあえず中華まんだ、いいから早く中華まんだ! レジへ向かい、店員さんと対峙する。いらっゃせー、とよく聞き取れない言葉を投げられた。なんですかその暗号、聞き取れないです。


「中華まんください」


「お一つでよろしっえっすかー?」


一つ? ああ、勿論で……んん、そうだな、






「遅いですっ、買い物くらいすぐに済ませてください」


外に出てきて第一声がそれかよ。不機嫌そうに睨みつけてくる日野愛梨。遅いってことはないだろ。買ったのは中華まんだけだ、レジに直行して買ったから比較的早く済ませた方でしょ。もう昔の俺とは一味違う、レジ前で何買うか長考する愚行はしない。やっぱ成長するものだなぁ、コンビニに入店する前から何買うか決めておくってのがミソだ。もし売り切れだったら果てしなく悩むんだろうけどね。なんて思いながら袋から購入したホットフードを取り出そうとする。その間も日野は睨んだり早くしろと催促してくる。どれだけカラオケに行きたいんだよ。そう焦るなって。


「ほら、中華まんやるよ」


日野に中華まんを差し出す。コンビニで販売されしホットスナックにおいて抜群の美味さを誇る一品だ。ジューシーであり且つサッパリとした味わい。後味はしつこくなく、でも口の中にじんわり広がる中華まんはホットスナック四天王として名実共に素晴らしいです。強いて申すなら安定感のなさが目立つ。安定感がないというか基本的に売り切れでなかなか買えない。もっと生産量を増やしてもらいたいものだ。品切れしやすい中華まんをこうして二つも買えた今日は存外ラッキーと言えよう。うち一つを日野に渡す。なんて、なんて寛大なんだ、俺っ! 優しい、すごく優しい! レポート用紙三枚分を使って魅力を書き散らしたい中華まんを無料であげるなんて気前が良過ぎる。去年の俺ならこんなことしなかっただろう。人間界で培われた親切心が発揮された。


「あ、ありがとうございます」


中華まんの美味しさを共有したかったんだろうなぁ、うん。それに日野には以前お弁当のおかずを分けてもらったことがあるし、恩返しを兼ねて差し出したわけです。おずおずと中華まんを手に取り、口元へと運ぶ日野。小さな口でもぐもぐと頬張る姿はどことなく姫子の姿と重なる。あの子もこんな風に食べるんだよねえ、小動物みたい。


「美味しいです」


「だろ~! 寒い日はこれに限るよ。フライドチキンや肉まんでも代用可だけどなっ」


中華まんが売り切れの時は肉まんやその他ホットスナックを買う。とりあえず何かしら食べたいんでね。こりゃ金貯まらないわけだ。発電機はいつ買えるのやら。ホント人間界は分からない、意味不明な機械は高値で売られているのに人々をほくほく幸せに出来る中華まんはワンコインで買える。変な国だよ全く。日野と二人で中華まんを食べながらしみじみ思う。


「……あなたは実家に帰らないんですか?」


すると日野が話しかけてきた。実家……森、か。冬休みの時に帰省しようと考えたがジジイのクソムカつく手紙を読んで気持ちが変わった。目的の品を買うまで絶対帰らない! 一人でシコシコとお絵かきロジックでも書いてろ。てことで今回の長期休み、春休みも森へ帰る予定はない。休み中はバイト漬けにして資金集めに徹するつもりだ。だから実家には……ん? 実家、ってこいつ言ったけど、


「なんで俺が今、実家暮らしじゃないって知っているんだよ?」


「……ふぇ!?」


普通の人間で高校生なら大抵は実家通いなんだろ? 遠くの地方から来て寮に住んだり下宿とか、あと意味もなく一人暮らしするキザな主人公的な奴じゃない限りほとんどの高校生は実家暮らしのはず。森の実家から高校へ通うとすると登校だけで数日かかる。実家は追い出されて、こっちの国で住む場所を見つけるしかなかったわけだが、そのことを日野に言った覚えはない。あれ、なんでこいつ実家暮らしじゃないのを知っているんだ……?


「え、えと、えっと、その……」


「……まさかお前」


中華まんを全て放り込み、全力で咀嚼する。熱々の肉汁で口の中を蒸らしながらも存分に味わって飲み込んだ。そして一呼吸。まさか、この少女……。一つの答えが導き出された。その答えを口に出す。


「俺のことをストーカーしていたんだろ!?」


「へ?」


「実はもっと仲良くなりたくて帰り道を尾行していたんだなっ。それで俺がボロアパートに入っていくのを見て一人暮らしだと知ったんだろ、そうだろ。おいおい口では悪く言うくせに実は友達になりたいんだろ~?」


それ以外考えられない。それならそうと早く言ってくれたらいいのに。普段は毒舌吐いてそっけない態度のくせに本当は仲良くしたいんだろ。人間界の読み物で見たことがあるぜ、ツンデレってやつだ。皆の前ではツンツンと冷たい態度をしているが二人きりになるとデレデレに甘えてくることをツンデレと呼ぶ。その存在は昔からあったが名称をつけられて世間に浸透したのは十年程前だと見た覚えがある。まさか日野がツンデレ女子だとは、いやはや可愛い面もあるじゃないか。評価をA+にしてもいい。ちょっと好きになりそうだ。まあ姫子や清水には及ばないけどね。我ながら冴えている、さすが次期族長。明晰な頭脳に感服しちゃう。……ん? あ、れ? なんか、日野の顔が変なことになっているような。キョトンとしていたが今は微妙な顔つきで、なぜかこちらを呆れた目で見てくる。な、なんだよ。


「はぁ……私も不注意でしたけどあなたが馬鹿で良かったです」


はあん!? 何馬鹿にしているんだよコラァ。呆れ顔で少し微笑みながら中華まんを食べる日野。おいなんだその顔、馬鹿にしてるだろ。また毒吐きやがって。今はツンモードなのですか? いつになったらデレてくれるんだ。


「ほら、早く行きましょうっ。今日もたくさん歌いますよ」


「歌うのお前だけだろ……ま、いいか」


中華まんを食べ終えて歩き出す。体が温かいうちに目的の場所へ行きますか。日野と並んでカラオケ屋を目指す。


「……ちなみに私は春休み中に実家帰ります」


「へぇ、今は実家に住んでいないんだ」


「地元の皆にあなたのこと話してみます」


なんで俺のことを話すんだ? 意味ないと思うけど。その後は日野のポイズン攻撃を受けながらカラオケ屋へ向かって行った。春休み、か。バイト頑張ろう。


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