表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/150

第78話 もうすぐ春休み

「……木宮。学年末考査上位五十名しか掲載されない順位表の、僕の見間違いじゃなければ第九位のところに君の名前があるんだけど」


「へー、九位か。もうちょい上だと思ったのに」


「天才じゃったか!?」


だから耳元で騒ぐなよ。学年末考査が終了した翌週、既に教師陣が採点を終えたようで授業ごとにテストが返却されていった。そして今日、一学年の生徒がよく通る大廊下の掲示板に学年末考査の順位表が貼り出された。テストを受けた全生徒の名前が載っているわけではなく上位五十名が一位から五十位まで順に名前と総合点数が記載されている。そして見事に俺の名前が載っているのだ。いやー頑張ったなー。


「小金の名前がないけど?」


「ははっ、僕みたいな凡才が上位五十傑に選ばれるわけないだろ。もれなく前回と変わらず、中間の順位だよ」


「地味だなお前」


「地味だよ僕」


最下位の方まで順位を載せると羞恥を晒す生徒が生まれてしまう為、上位の方しか載せていないらしい。最下位だというのが公の場に公開されるのは処刑ものだ、恥ずかしさのあまり登校拒否にでもなるんじゃないか? そんな哀れな生徒を生み出さない為にもこうして上位の方しか公開しない。小金みたいな中の中の可もなく不可もないしょーもない順位も自分から申告しない限りバレないのだ。


「前回は一緒に寧々姉ちゃんに教えてもらうような同レベルの存在だったのに。木宮の成長スピードは凄過ぎるよ」


別にあの程度の勉学ならちょっと要領掴めば楽勝だろ。後は暗記すれば余裕だ。再三言うことになるがエルフの頭脳舐めるなよ。まあ確かに前回と比べると順位は格段に上がっている、まさか名前が記載されるとは。しかも九位、九位だっ。学年でも指折りの実力者になってしまった。自分の優秀さが怖くなってくるぜ。とはいえ逆に考えれば俺より成績優秀者が八人もいることになってしまう。エルフが人間に負けたと言って間違いではない、揺るぎのない事実。それがなぜだろうか、すごく許せない。なんか先祖の顔に泥を塗った気分だ。ゲーム機買う為に人間界で暮らしている時点で泥を塗っているわけだからさらに上塗りした感じだな。泥パックしている祖先の尊き姿を思い浮かべながら申し訳ない気持ちになっていた。次回は一位になってやる、そしてドヤ顔で君臨してみせる。……あー、でもそうすると目立ってしまうか。それはちょっと嫌だな。やっぱ今の順位とかでいいかも。


「僕だって今回は頑張ったつもりなんだけどなぁ。ゲームだって一日二時間で抑えたのに」


それ抑えているのか? 小金の小さな頑張りはともかく、これでやっと今学期も無事終わりそうだ。後は終了式を終え、春休みを迎えるのみ。あっという間の三学期だったな、時が流れるのは早い。


「もうすぐ春休みだねぇ」


「そうだな」


「木宮は何か予定でもあるの?」


予定、ねぇ。特にないな。あるとすればバイトくらい。春休みに入れば平日の日中もバイトに勤しむことが出来る。出来る限りバイトを入れてお金を稼ぐか。上手くいけば春休み中には目標の金額まで貯まるのでは? そうなればこんな人間臭い場所からもさよならだ。……だとしたら別に学年末考査頑張る必要もなかったな。別に成績なんてどうでもいいのだから。


「僕は特に何もないんだ」


「それは良いな。楽しんでこいよ」


「あれ、話聞いてた? 何も予定ないんだよ?」


「楽しんでこいよ」


「やっぱり話聞いてないよね。言葉のキャッチボールが出来ていない! グローブ着けよう!」


相変わらずうるさいツッコミとドヤ顔しやがって。小金の予定なんてどうでもいいんだよ。もうすぐ迎えるのは春休み、学生にとって至福の休暇である。冬休みはダラダラと意味もなく寝て過ごしていたが今回は違う。遊んでいる暇なんてない。働いて働いて、目指すは発電機と印天堂65購入だ。十万円程用意すればなんとかなるかな? ティッシュ配り頑張るか……しんどそうだな。


「……ゴホン、それで木宮君、親友としてお願いがあるんだけど」


お前と親友になった覚えはないけどな。


「春休み、どこか遊び行かないかい?」


「はあ!?」


「え、そんなシャウトするくらい嫌なの!?」


ざけんなバーロー! 思わず変な言葉出ちゃったじゃねーか。なんだバーローって、何語だよ。有意義な春休みをどうして小金と一緒に過ごさなければならないのだ。時間と金の無駄遣いでしかない。


「俺に遊んでいる時間はないんだよ、テメーみたいな暇人と違って。一人でゲームしてろクソが」


「ちょ、急に毒吐いてきたね!」


お前のような予定も使命もない奴とは違うんだよ。俺には印天堂65を入手するという使命がある。その為にこうして人間界へとやって来たのだから。春休みを遊ぶ為にわざわざ森から出てきたわけじゃない。お気楽な学生とは違うんだよ。


「いいじゃん一緒どこか遊び行こぉ。僕は友達が少ないって知っているだろ、木宮しか誘う人がいないんだよ」


「残念な奴だな」


高校生なんて一番楽しい時期じゃないか。何でも出来る若きエネルギーで溢れている十代、それなのに友達がいないなんて可哀想だな。一緒に何かをする仲間がいないのはもったいないぜおい。爺さんの妄言がなければ若き十代を森でひっそりと過ごしていたかもしれない俺が言える台詞でもないが。同世代のエルフと会ったことがない。


「お願いだよぉ木宮ぁ」


「しつこいなお前。別に俺じゃなくてお前の好きな寧々姉ちゃんにでも頼んでろよ」


「……おー、なるほどね。おほほ」


執拗に迫ってくる小金が鬱陶しいので適当にあしらっていたが急に小金の顔が柔和な笑みへと変わっていった。ニヤリと微笑んで嬉々とした目で見てくる。あ? なんだよ急に。頭でもおかしくなったか。頭おかしいのは前からだろ。これ以上おかしくなるな、こっちの気分が悪くなるから。


「まあ楽しみにしていてよ木宮くぅん。じゃあねー」


それ以上何も言わずキモイ笑顔のまま小金はどこかへ行ってしまった。最後の謎の笑みが気になるが小金ごときに気をかけるのはくだらない。忘れよう。さーて、ティッシュ配りのバイトまた応募するか。他にも短期バイト探してみるか。そうとなれば帰ろう。すぐ帰ろう。


「テリー、やっほー」


「今度は清水か」


帰ろうとした矢先、声をかけられた。もう声で誰か分かっているが一応振り返る。後ろを向けば予想通り立っていたのは清水。キレーな長髪を揺らしてニコッと微笑む。可愛い、もしくはきゃわいい。端整な顔立ちとキラキラ輝く円らな瞳は見ているこっちが見惚れてしまいそうだ。顔は可愛い、確かにきゃわいいが性格に難アリだ。普段は優しいのだけどたまに理不尽にキレることがある。暴力も振るう。とんでもない天真爛漫っぷりを発揮しやがる。まあ大抵の場俺が余計なこと言って清水の機嫌を損ねているせいなのだけど。


「清水も順位見に来たのか?」


「え、私載ってる?」


「清水は……三十二位だな。おぉ、すげーな」


「九位の人に言われても皮肉にしか聞こえないね」


清水寧々の名前の左には三十二位と書かれてある。さすがは俺が信頼している人間なだけある、上位五十人に入るなんてすごいよ。まあ俺の方が頭良いんですがね。前回は勉強教えてもらった俺が今回のテストで清水を抜いてしまった。漫画で言えば弟子が師匠を越えたみたいな? ワシが教えることはもう何もない、全てを教えた。みたいな感じですね。


「あっははは、今回は俺が教えてあげるべきだったかな?」


「なんかムカつくなぁ。別に私は上位に入って、ふふんっドヤ?みたいなことはしたくないから」


え、俺今ドヤ顔していた? そ、それはちょっと恥ずかしいな。高校生がお酒飲んで英雄気取りなのと一緒な気がしてなんか嫌だ。


「ちょっと良いぐらいが丁度良くて心地好いものなのさエルフ君」


「だからエルフって呼ぶなって」


「それはそうとテリー」


おい無視か。なんか最近俺の扱い方が雑になってないすか? もっと昔は色々と世話焼いてくれたじゃないか。もっと優しくしてよ。小金みたいな扱いはされたくないっ。


「春休み入ったらどこか遊び行こー」


「おい小金、出てこい」


「あ、バレた?」


だからエルフの頭脳を甘く見るなって。廊下の端から出てきた小金。どこか遊び行こうと言ってきた小金、意味深な笑いを浮かべてどこかに消えた後すぐ清水がやって来て同じように誘ってきた。恐らく小金が清水に唆したのだろう。でなければこんなピンポイントなタイミングで言ってくるわけがない。ふふん、どうだエルフの頭脳明晰っぷり。すげーだろ。……あ、またドヤ感出してしまった。さっき自粛すると決めたばかりなのに。馬鹿だなぁ。


「せっかくの春休みなんだからどこか遊び行こうよ~。ねえ寧々姉ちゃんっ」


「餅吉の言う通りだよテリー。やっぱ遊ばないと」


「遊ぶぅ? はっ、笑止。清水、お前なら分かってくれるはずだ。俺が春休み何をするか」


俺が抱えている問題、課題を清水は知っている。この人間界において唯一人間の協力者なのだから。つーわけだ、邪魔しないでくれ。金稼ぎで忙しいのでね。


「まあまあ、バイトなんていつでも出来るでしょ。春休み遊ばないでいつ遊ぶのよ」


「俺は早く実家に帰りたいんだよ。遊ぶ暇なんてない。そんなに遊びたいなら清水と小金の二人だけで行ってこいよ。よっ、お似合いカップル!」


少し声を張り上げて煽ってみる。


「そうかなぁ、えへへ」


嬉しそうに頬を緩ませる小金、


「こんなつまらない奴と二人で遊び行くなんてそれこそ時間の無駄だよ。こんな地味クソ眼鏡野郎と」


真顔のまま嫌悪感と不快感を丸出しで毒を吐く清水。一瞬にして小金の顔はナイーブな色に染まっていく。「そうだよね、僕なんて地味クソ眼鏡オタク成績しょーもない野郎と遊んでも仕方ないよね」とブツブツ呟きながら床にしゃがみこんでしまった小金。自嘲癖モードが発動したか。見ているこっちまで気分が悪くなるぜ。落ち込む小金は放置するとして、


「いいじゃんテリー。遊ぼうよ」


「あのな、俺は遊ぶ為にここへ来たわけじゃないの。ちゃんと目的があって」


「じゃあ詳しい日時決まったら教えるね。ネイフォンさんの携帯にメールしとくからネイフォンさんから聞いてね」


「いや話聞いてる!? 言葉のキャッチボールしようぜ!?」


思わず小金ツッコミを真似てしまった。クソっ、なんてチープな発想なんだ。いやいやそんなこと今はどうでもいい。おい清水テメー、話聞けよ。何こっちの意見ガン無視して話進めようとしていやがる。RPGで言えば村を襲う盗賊を倒してくれと懇願する老弱な村長をスルーして武器屋で買い物だけ済ませるみたいな感じだぞこれ。RPGゲームやったことないけど。


「じゃーそういうことで。またね~」


結局こちらの言い分を一切聞かず清水は去ってしまった。なんて奴だ、顔の両端に着いている耳は飾りか? 神話に出てくるエルフみたいに耳尖らせるのを勧めたい。清水に無理矢理押されてしまった。クルリとカーブを描く後ろ髪の毛先をただただ眺めて茫然とするしかない。残されたのは俺と床に崩れて自嘲癖を晒す小金のみ。はーぁ、また金が消える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ