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第75話 遊園地に行こう

「やっはろー」


「何それ。新型の挨拶?」


「可愛い子が使う可愛い挨拶」


「まるで清水の為に生まれた挨拶じゃねーか、あっはははー……って痛」


痛い痛い! 殴るなって。学年末考査最終日、日程通り無事に全てのテストが終わった。今日もほぼ全ての解答欄を自信持って埋めることが出来た。この調子なら今回は順位も飛躍的に上がりそうだ。まあテストの点数なんて進級出来れば何点でもいいよ。テストの点数が良かろうと内申点が上がろうとも、進学や就職を望んでいない俺には無縁のステータスだ。どうせ目的の品を手に入れたらおさらばする予定だしな。テストも終わってどのクラスも歓喜に満ちている。今から遊び行こうぜと大勢の生徒で賑わっている廊下を気怠げに進んでいると途中で清水と合流、何気ない挨拶とグーパンを食らった次第だ。


「テリー、今日何があるか覚えている?」


「覚えているよ、拳を食らった左頬がな」


思い出しただけで痛みが走るようだ。昨日清水に思いきり殴られた部位が疼く。今日テストが終わった午後から清水と一緒に遊びに行く約束をしていたのだ。それを忘れたせいで昨日は惨劇が生まれてしまったわけで。しっかり覚えているよ、そうでなければ今度は逆の頬が殴られていただろう。良かったな俺の右頬、テメーは無傷だ。逆サイドの左頬さんに感謝しとけよ。


「さすが~」


何がさすが~、だよ。馬鹿にしてるのかあぁん? と心の中で喧嘩を売ってみる。実際に投げかける勇気はない。口の中でもにょもにょさせて消化させる。


「クラスの打ち上げ断った俺をもっと誉めてくれよ」


「はいはい偉い偉い~」


そう言って頭を撫でてくる清水。テキトーにあしらいやがって。でも頭ナデナデされてちょっと嬉しい気持ちになっている自分がいる。ち、畜生っ。俺の馬鹿、単純! 清水との約束が先だったからクラスの打ち上げは今朝断ってきた。クラスメイトの女子が残念がっていたのが印象的だったな。ごめんね、また今度誘ってくださると大変嬉しいです。


「よし、じゃあ早速遊園地行ってみよ~」


「ああ、それなんだけどさ」


レッツゴーとはしゃぐ清水を呼び止める。こっちを振り向くのに合わせて俺も腰を振る。決していやらしい意味ではない。パンパンと音を鳴らすやつではない。腰をひねり、制服の端を掴んで背中に隠れている女の子を清水の前へと差し出す。女の子、姫子だ。


「え、姫子ちゃん?」


「遊園地だけど姫子も一緒に行っていいだろ?」


テストを終えてさあ清水と遊びに行くかー、と騒がしい教室で帰宅準備をしていると姫子がやって来た。どうしたの?と尋ねる前から姫子は俺の制服を掴み、何も言わずじっとしていた。こちらとしてはもう意味が分かりません状態だ。試しに歩いてみると姫子もついて来て、止まると俺の後ろで停止する。どうやら完全にマークされている。昨日から様子がおかしい姫子。クラスの打ち上げにも行くつもりはなく、じっと俺の横で固まっている。どうしようもないのでこうして連れてきた。


「ほら姫子、いい加減手を離して」


「……」


ようやく手を離してくれた姫子。ここまで来れば安心と思ったのか、やっと離れてくれた。ふー、この子はホント無口だから何考えているのか分からない時がある。清水を見つめていたと思ったらこちらを振り返る姫子。あ? 何で俺の方見るのさ。自分で言いなさい。


「寧々ちゃん、私も行っていい?」


「勿論いいよ、寧ろ来てくれてありがとうっ」


姫子の両手を取ってピョンピョンと跳ねる清水。女子同士のじゃれ合う姿は見ていて大変微笑ましい。ふふ、心が癒される。そりゃそうでしょ、ずっと森の奥でジジイとしか顔を合わせていなかった者にとっては華やかな光景だよ。


「……ホントにいい? ……だって、二人だけでデートじゃ……」


「そんなことないよ~。こんな馬鹿とデートのつもりなんて微塵もないよ。こんな馬鹿と」


馬鹿馬鹿言い過ぎじゃないですかあなた。はんっ、こちらも同意見だよ。清水とデートするつもりはないです。社会勉強の為、人間界の娯楽とされる遊園地を案内してもらうだけのこと。決してデートじゃない、逢引きではない、ランデブーでもない。以前清水とショッピングモールに行ったことがあった。その時に、なあこれデート?的なことを聞いてみると一蹴されてしまった。毒を吐かれて冷たくあしらわれてさ。故に俺もデートのつもりはない。


「もぉ姫子ちゃん可愛いんだからやっはろー」


姫子に抱きつく清水。女子同士だから出来る行為だ。もし俺が抱きつくともれなく事件に発展する。ただの変態だ。されるがままに抱きつかれる姫子。この位置だと顔が見えないから何とも言えないけどきっと無表情で無抵抗なのだろう。

と、その時見た。清水の手が動き、すすすっと這いずって姫子の胸元へと……


「ひゃう」


「おぉ……柔らかい。何このボリューム!?」


抱きついていた清水が突如姫子の胸を触り始めたのだ。この位置だとよく見えない。よく見えない! クソ、クソがぁ。僅かに確認出来る範囲で推測するに、あれは間違いなく揉んでやがる。背中では隠れきれない豊かなアレが見える。それを下から添えるように手を置いて五指をぐにゅぐにゅ動かす清水寧々。……うわ、羨ましい。単純にそう思ってしまった自分がいる。せめて反対の位置に立っていればもっと見えたのに。ここからだとよく分からない。姫子の小さな喘ぎ声を聞いてムラムラする他ない。なんてこった、俺変態じゃん。


「や、やめ……っ」


「ぐへへ、良い物をお持ちですね~」


おっさんみたいな声を出す清水。そういえば清水も友達に胸揉まれまくっていたな。あれは最近のこと、ホラー映画を観に行った時だ。中学の同級生にセクハラ行為をされた清水。あの時は胸の変形具合を間近で拝めて幸せだった。だがしかし今は姫子の変形具合も見たい……! 何を言っているんだ俺、どうしたテリー・ウッドエルフ。頭おかしくなったか。やめろやめろ、下心を出すな。女子同士による性的興奮をそそるスキンシップはその辺でやめてください。


「おい清水、もう行こうぜ」


「えー、もうちょっとだけ」


「姫子嫌がっているだろうが。これ以上は俺が黙っちゃいない」


姫子は俺の親友だぞ。姫子の嫌がることは阻止してやる。友達を大切にするのが俺のジャスティス。


「そんなこと言って~。テリーも揉んでみる?」


「是非お願いします」


三秒後にはジャスティスは奈落の底へと落ちていた。……い、いや仕方ないじゃん。そら触れるなら是非触りたいよ。たとえ他種族の人間でも体の構造はさほど変わらない。ネイフォンさんなんて人間のエロ動画で色々やっているんだぞ。ティッシュがゴミ箱から溢れんばかりなんだぞ。興奮だってします。いいなぁ清水は。そんな気軽に触れて。俺が触ったら事件どころか犯罪に発展する。さすがに次期族長候補として犯罪に手を染めるのは嫌です。


「……照久のエッチ」


「うへぇ、そんな目で見ないで」


ジロリと睨む姫子。身長差による上目遣いと潤んだ瞳が反則的可愛さを生み出す。心臓が矢で射抜かれた。や、やるじゃねーか姫子。矢で射抜くのはエルフのみの曲技と思っていたが人間も使えるんだな。精神的方法で。冗談だよ本気で触ろうとは思っていないよ、たぶん。


「とにかく早く遊園地行こうぜ」


「んじゃ三人でレッツゴー」


「照久のエッチ」


まだ言うかっ。


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