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第6話 クラス委員長さんの名前は漁火姫子

「ね、ねぇゲーム機何持っている?」


「俺? えーと、Miiとプレイパッション3だな」


「そっか、ありがと……」


これでクラスの男子全員に聞き終えたことになるが見事に誰一人として印天堂65を持つ者はおらず、持っていたとしても故障していたり親戚の子にあげたとかで使用出来るものはなかった。

先日ゲーム店で恥をかいたわけだが、まだ諦めたわけではない。

最新ゲーム機を取り扱うお店になければ中古ゲーム機を売っているゲーム店に行けばいいじゃんと清水にアドバイスを受けて早速近くのゲーム店に行った。

だがしかし印天堂65は売ってなかった。

さらにネット購入を試みたが見事に品切れ状態。ネットオークションでなら高額で取引されていたが手の出る値段ではなく印天堂65購入の雲行きが怪しくなってきた。

清水が言うには印天堂65なんてのは何世代も前の古いゲームらしく私達が小学校入る前に発売された物だそうな。その頃俺は森で暮らしていたので知らんけどさ。

とにかく今の時代に印天堂65を手に入れるには中古ゲーム店かネットで探すのがベストだと教えてもらったがその結果どこにもなかった。

なので最後の手段として65を持っている人に借りるという人情に溢れた作戦に出ることに。

上手くいけば譲ってもらいたいところですが。


「で、誰も持ってなかったのね」


「清水は持ってないのか?」


「残念ながら我が家は印天堂派じゃないのよ」


昼休み、中庭で清水と一緒に昼食を食べる。

いつも通り中庭は大勢の生徒で賑わっており、なんともうるさい。

外の静かな空気を味わいたいから中庭で食べているのじゃないのかよ人間達は。よく分からん風情と趣を嗜んでいるようだ。

そんな中に混じって俺と清水もランチタイムを満喫している。

唐揚げという鶏肉を油で揚げた中毒性抜群の肉料理を食べる手が止まりませんぜ。けど残念ながら財布の残金の関係上、唐揚げしか買えなかった。あぁ、ひもじい。

百円で買えるなら惣菜パンの方が量的に多かったのでは? いやでも唐揚げ食べたかったし、しょうがないよね。

ちなみに清水はお弁当を取り出している。へっ、羨ましい限りですなぁ。というか別に飯なんて教室でも食べれるだろ、なんでわざわざ人間達は移動するんだよ。

そう問うと恐らく「外の空気を味わいながら食べたいのー」とか言うんだろうよ。いつも森の中で食べてきた俺からすれば別にこの程度で自然を味わえるとは言わないんだけどね。

だからどこで食べても一緒じゃないかなと思ったりするのですけどー。


「そんな渋そうな顔しないでよ。ほら焼きそばパンあげるから」


「なっ、焼きそばパンだぁ! ありがと!」


キター! カップラーメン界にも顔が知れ渡る麺類の精鋭ギャル男、焼きそば。それをパンで挟んだ物こそ焼きそばパン、焼きそばの濃いソースの個性とパンの素朴な面がパズルのように綺麗にハマって超絶・絶妙・妙技の味わいとなっている。

最後の晩餐候補筆頭である焼きそばパンをくれるというのか清水は! 

な、なんて良い奴なんだ……! ありがとぉ、ホントに人間は良い奴ばかりだ~。


「その笑顔、他の女子に見せてあげたいわ」


「美味い!」


話が昼食の方へと逸れていきそうなので戻すとしよう。

印天堂65はどこにも売っておらずクラスメイトから借りることも出来なかった。

ただでさえ森の中でゲームプレイすることが不可能に近いのに印天堂65本体すら手に入れることが叶わないとなると詰み状態、一ヶ月以上かけて慣れた人間界での苦労も水の泡に帰してしまう。

さて、どうしたらいいものか。

最悪の場合携帯ゲーム機を買って誤魔化すか。爺さんがそれで満足するとは到底思えないが。


「そういえばクラスの女子には持っているか聞いたの?」


「女子はゲーム機を持つ傾向にないって言ったのは清水だろ。何をほざいているんですか人間風情が」


ゲーム機ってのは基本的に男子の暇つぶし用の玩具として普及しているそうだ。

女子で熱心にやっている人もいるにはいるが男子の数と比べたら圧倒的に少ないらしく、だから他人から65を借りるなら男子だけに聞いた方が効率良いと助言をくれたのは清水だった。

その清水が今俺の目の前で自らの意見を捻じ曲げたことを言っているじゃないか。


「人間風情とか言うな。男子でいないなら女子に聞くしかないでしょ。それに女子だから持ってないとも限らないよ、兄弟がいて持っているかもしれないって今思いついただけなんだからね!」


「痛っ、暴力反対!」


殴らないでくれ、地味に痛いから。

それにしても印天堂65がここまで入手困難な物だとは思わなかった。ゲーム店で恥をかいたその日に65のことについてネイフォンさんの家に備えつけてあるインターネットで詳しく調べてみたが印天堂65が発売されたのは今から十数年前、3Dゲームに対応した特に3Dポリゴンの演算能力が高くて当時としては高性能の次世代を担う話題のゲーム機だったそうな。

臨場感と立体感ある3Dでのバトル対戦、四人同時プレイも出来るなど当時の子供達で最も親しまれたハードで、熱狂的な一大ブームを築いたらしい。

けれど時代は変わって今は同じメーカーから発売されたMiiが主流で65の姿は年月の経過と共に消えていった。

Miiは圧倒的なスペックを誇り、65のソフトも遊べるなどの上位互換として君臨して65は完全に食われてしまったそうだ。

現在では65本体の姿を見ることすら難しく、中古ゲーム店でも買うことが至難な程の絶滅危惧種扱いされている。ネットオークションでは破格の値段で取引されるくらいの珍品となっているのだ。

なんてことだ、まさか不人気過ぎて手に入れられないことになるなんて爺さんも思わないだろうな。


「大体さー、65ゲットしても森じゃ使えないでしょ」


「その事実から避けていた俺を逃がしてくれよ、とにかく65入手が第一歩だろ」


所詮手に入れたところでエルフの森での使用不可は分かりきっているさ。

けどそこは目をつぶって目先の目標を達成してもいいじゃないか。

で、男子が無理なら女子に聞けばいいんだな? んもう、手間がかかる。命がけで人間界に馴染んだのに労が実を結ばないなんて精神が崩壊しちゃうって。


「どうせなら流行りの3DMでも買えばいいのに」


「はいはい小声はやめてくだせぇ、清水様のおっしゃる通りクラスの女子にも聞けばいいんだろ。はぁ……」


「私もクラスの人に持ってないか聞いてみるからそんな風に拗ねないでよ。ほらメロンパンあげるから」


「め、メロンパンだぁ! うへへ~」


「テリーは単純だなぁ」











昼休み後、授業の合間の休み時間を使って女子にも印天堂65を持っていないか尋ねていったが欲しい解答を得ることは出来ず放課後となった。

ほぼ全員に聞いてはみたもの誰一人として所有者はおらず。もはや印天堂65が幻の存在として畏怖の念すら感じてきたぞ。

爺さんめ、とんでもない任務を与えてくれたものだ。

入手だけでこれほどにも苦労するのに手に入れたとしても森では使えないなんて残酷な現実を迎えることになるのは分かっている、なんと厳しい世界なんだ人間界。


清水の言う通り他のゲーム機で代理を立てた方がいいのかもしれないな。

老若男女を問わず万人に愛される携帯ゲーム機、印天堂3DMとかの方が爺さんも喜ぶのではないだろうか?


「テリー、一緒に帰ろー」


「すまん清水、俺日直なんだ。それにもう少し聞き込みしたいし」


「そっかー」


わざわざこっちのクラスまで来て誘ってくれたのに悪いな。

ここは四組で、清水は隣の隣の二組に在籍している。クラスの人と一緒に帰ればいいのに俺のことを気遣ってくれる清水の心優しさには頭が上がらない、いつもいつも感謝しておりますよ。

一緒に帰りたいが今日は日直の仕事があるし、まだクラスの女子全員に尋ね終えてない。望み薄だけど僅かな可能性を信じて聞き回るしかあるまいよ。

ということで清水は先に帰ってくれて結構だ。


「清水ちゃん、木宮君と仲良いよねー」


「そうかなー?」


「聞いてよっ、今日木宮君に話しかけられたの!」


他クラスの女子とも交流があるらしく清水は女子達と仲良さげにキャピキャピと帰っていった。

俺の名前が聞こえたような気がするが気にしては駄目だ。

最近分かったことだけど女子って生き物はよく俺の名前を口にすることがある。

何を言っているか分からないけど気にしなければ特に害は及ばないので気にしないことにした。私、気になりません。


「委員長、日誌書いたら職員室に持っていけばいいの?」


「……。うん……そうだよ」


「うーん怠いなぁ。あ、教えてくれてありがと」


「……ううん」


部活に行く人間や真っ直ぐ帰宅する人間、友達と遊びに街へ繰り出す人間もいれば塾に通う人間等、放課後ライフの過ごし方は十人間十色。

その中でも放課後の教室に残る人は少ない。お喋りするならファミレスに行くらしいし、居残って勉強する酔狂な奴はいない。せいぜい課題をやり直すの人間が少々いる程度。

そんな中、一人残ってクラス全員分のプリントを整理しているのは委員長。


「ねぇ委員長は65……」


「ん?」


「いや、あー、まあ、なんでもないや」


委員長、役職が委員長なのであだ名も委員長のクラスの委員長。委員長委員長とうるさいけど勘弁な。

委員長、本名は確か……漁火姫子(いさりびひめこ)だったかな。

クラスの中で一番背が低く、小さくて可愛い感じの女子生徒。セミロングの黒髪は優美でなめらかそうなのにフワッとして、パッチリとした大きな瞳が愛くるしくて小動物のような可愛さとフワフワとした雰囲気を持つ。

そしてほとんど喋らず、無口で大人しい子だ。ぎゃあぎゃあと騒ぐ清水とは正反対のタイプの静かで真面目な性格、クラスの委員長として皆からの信頼も厚い。

ついでに男子からは人気もあるそうな。確かにこのクラスで一番可愛いとエルフの僕も思いますはい。

クラスの仕事で話すことは数回あったけど、じっくりと腰を据えて話したことはないな。印天堂65持っているか聞こうかなと思ったが真面目な委員長が持っているとは思えないので聞けなかった。

こんな可愛らしい子がゲームしているとは思えないよ。


「……どうかしたの?」


「あー、えーっと……その……」


いや他の全員に聞いておいて委員長だけ聞かないのは逆に失礼じゃなかろうか。

こちらの気味悪い態度を不思議に思ったのか、委員長は首をかしげながら見つめてくる。

あぁんやめて、その女子パワー全開のアクションをしないで。

森でジジイと二人暮らしだった俺にとっては女子との会話でさえ緊張するというのに委員長みたいな可愛い女子と話すのは心臓に悪いんだって。

ちなみに清水は例外です、あの子は協力者としての立ち位置が強過ぎて異性として見れない。


「?」


「委員長って印天堂65持っていたりする?」


「うん」


「だよなー持ってないよねー……って、えっ!?」


い、今! 今今! 今何と言いましたか!? 

どうせないだろうと思って諦めながら聞いたらまさかの答えが返ってきた。

い、委員長? 今、あなた……うんっておっしゃいましたか? 

てことは印天堂65を持っているってことか! 

なんてことだ、最後の最後で希望と巡り合えようとは。

絶滅危惧種扱いされてある幻のゲーム機印天堂65を持っている人間と会えるなんて思いもしなかった。

やった、委員長とお話出来ただけではなく目的の品に辿り着くことにも成功しようとは今日はツイているなぁ。

清水からは焼きそばパンとメロンパンもらえるし、幸運だらけの一日だよ。


「持ってるの!?」


「うん」


「っ~~、キター! 苦節一ヶ月半、やっと出会えた」


「っ……?」


拝啓、お爺様お元気にしておりますか。

冬の寒さも身に染みて袖を通す服の厚さも増してくる今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。

森にも冬がやって来ておると思われます。火を焚いて暖かくしてお絵かきロジックを楽しんでください。

さて僕はといえばついにあなたの欲しがっていたゲーム機の手がかりを掴むことが出来ました。あとは貸してもらうか欲を出せば譲ってもらおうと考えております。

今の時代はMiiなんでしょ、なら65なんて過去の遺物に固執する人なんてマニア以外にいないはず。

委員長がゲーム機マニアと思えない、この勝負……勝ちました。


「俺に65譲ってくれない?」


「…………そっか」


ん?


「……嫌だ」


「えぇ!? な、なら貸してくれる?」


「駄目」


なっ……この人間風情がぁ! 

高貴で神聖なるエルフを愚弄する気か。可愛いからって調子乗っているのか貴様。

……いや、変な怒りをぶつけるのは間違っているぞテリー。

タダで譲ってもらうなんて図々しい真似は許されるわけがない。

この人間界は何を手に入れるにしてもお金を必要とする世界だぞ。

譲ってもらえない貸してもらえない、それだけで相手を貶すなんて性格の悪さが出ているようで醜いぞ。

くっ……でも目の前に印天堂65を持つ人物がいるのだ。焦るしビックリしちゃって色々と思考が巡ってしまうのも仕方ないでしょ。

というかなんで委員長は貸してくれないんだろうか? 

今でも65に熱中しているのか。それとも、何か大切な思い出のある品なのか……?


「ど、どうしても駄目?」


「駄目……絶対に」


「な、ならやらしてくれ!」


やらしてくれってのはいやらしい意味ではないからね。清水がいたら殴られそうな発言だったのかもしれないが誤解です。

やらしてくれというのは65をプレイさせてくれってことなので勘違いしないでください。

せめて65で遊んでみたいという単純な願いだ。

印天堂65にかける情熱を委員長に見せつける為にも実際にプレイする俺の勇ましい姿を見せてやる。


「……いいよ」


「いいの!? やった、んじゃあ今から委員長の家行こうぜ」


「うん。…………久しぶり」


「ん?」


今委員長何か言った?


「なんでもないよ。行こっか……」


「俺電車の乗り方分からないから電車乗るなら教えてね」


委員長と話せたし、ついにやっと念願の印天堂65とのご対面だ。

慣れない土地での生活、知らない世界での法とルール、未知の遭遇。

その苦労も全てはこいつと会う為に頑張ってきたこと。

ついに……ついに目的の物をこの目で見ることが出来る。

今日という日は特別な日になるなー、委員長との出会いに乾杯だぜ。

ウキウキと胸躍るのを抑えつつ、プリントの束を持った委員長と日誌を出しに職員室へと向かった。


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