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第67話 ずっと傍にいました

「チョコアレルギー?」


「たぶんね」


ホームルームが始まるまさに直前、ふと襲ってきた眩暈と胸やけに苦しんで倒れてしまった。まあすぐに立ち上がったけど。一瞬だけだったから気の迷いかと思ったがそれ以降も気分が優れず、咳は止まらないし意識も朦朧としていたのでこうして保健室のベッドで安静にしている。辛そうな顔、というか実際に辛かったのでその旨を担任の教師に伝えたら普通に保健室へ行けた。横になって休むこと三時間、目を覚ませばベッドの横に清水が座っていたのだ。いつからいたのか定かではないが現在昼休み。チョコを食べながら容態が悪くなった原因を話し合っている。清水の推察だとどうやらチョコが関係しているらしい。


「う~ん、アレルギーって言うと大袈裟に聞こえるね。今まで食べたことのないチョコをエルフの体が拒絶したんじゃない?」


「拒絶ねぇ。こんなに美味いのに」


「原因かもしれないものを食べるはどうなの?」


そう言われてもなあ。お腹減ってるから食べるしかないだろ。清水の推理通りだとすれば食べたことのない物質に体がビックリしたってことか。そんなものなの? 人間界の食い物なんて今まで口にしたことのないものばかりだぞ。その理論だと毎日意識が朦朧としていることになる。毎日アレルギーだ。常に絶不調だ。


「清水のチョコ美味しいよ。食べないのはもったいないだろ」


「あー、もぉ、この馬鹿エルフ。素直過ぎるのよ。……ちゃんと食べてくれて、ありがとね」


「美味っ」


まさかチョコを受けつけない体質だなんて。味も拒否したなら諦めるけど味に関しては全く問題ないんだよなあ。普通に美味しく感じる。臓器のどこかが「ちょちょマジ勘弁してくださいよ俺チョコ無理なんすよ~」とか言っているのか。恐らくだが短時間に大量に摂取したのが失敗だったと思う。経験したことのない謎の物質に驚いたところへ畳みかけるようにチョコ投入がいけなかったのだろう。ちょっと食べただけで体調崩す貧弱な鍛え方をした覚えはない。だから少し食べる分には……ああでもお腹減って何か食べたいよ。手が止まらないや。


「テリー食べ過ぎだって」


「お腹減ってるもん。しょうがないよ欲求には逆らえない」


「また倒れるよ。はぁ……ほら、私のお弁当食べていいから」


すると清水が弁当箱を差し出してきたではないか。え、これ食べていいの!?


「いいの!?」


「いいよ。私は後で適当にパン買うから。今買いに行ってもテリー待てずにチョコ食べるだろうから」


俺のことを我慢の出来ない子供みたいに扱うな。その通りなんだろうけどさ。おぉ、清水のお弁当。蓋を開ければ白米にアスパラベーコン巻きや卵焼きミートボール等々。ご家庭の弁当がどんなものか知らないが恐らくごく一般的なおかずのラインアップなのだろう。見ているだけでお腹の音が鳴りそうだ。


「じゃあ遠慮なくいただきまーす。清水ありがとう愛しているよ!」


「どうぞお食べ、愛すべき馬鹿エルフ君」


アスパラをベーコンで巻いた、いかにも家庭的なおかずを頬張る。お、美味しい! なんだこれは。いつも食べているコンビニ弁当とかまた違う、何か目に見えない温もりを感じる。ああ、美味しくて涙が出てきそう。これがお袋の味ってやつか。母親の愛情が詰まっている。ありがとう清水のお母さん。


「美味しい!」


「そういえば姫子ちゃんからチョコもらえた?」


「もらってないよ」


「え?」


ん、どうした清水。何か気に障ることでもあったか? このミートボール美味しいね。たぶん冷凍食品だろうけど。いやでも愛情の温もりがしっかり解凍してくれているよ。今の上手いな、座布団一枚欲しい。


「姫子ちゃん、渡さないのかな……」


「姫子が話しかけてきたんだけど急に小金が邪魔してさ~」


小金に邪魔された後はすぐにホームルームが始まって、その後は体調不良で午前中は保健室で寝たきり、結局姫子とは朝以来話していない。だが手に持っていた箱、今日が何の日か、ちょっと考えればすぐ分かる。エルフの崇高なる頭脳を使うまでもない。姫子からチョコもらえる!?と思ったけど残念だったなぁ。ああお弁当美味し。


「……餅吉が邪魔したのね」


「でもあいつのディフェンスは素晴らしかったよ」


「あの馬鹿、後でシバかないと……!」


し、シバくって。何語だよそれ。あれれ、なんか清水怒ってない? どうしたんだよ急に。ミートボールだけは食べちゃいけなかったのか、そうなのか? でもこのミートボール美味しいからごめんなさいね。この一玉でご飯二杯は食べられそうだ。


「ごめんね私の知り合いが迷惑かけて」


「え、何が?」


「とりあえず体調良くなったら教室戻りなよ。後は頑張って。姫子ちゃんからチョコもらえるのはテリーだけだよっ! ファイト!」


はあ、よく分からないけど気分良くなったら教室戻るよ。今日学校来てずっと保健室にいる。そろそろ寝飽きてきた。寝るのは大好きだけど知らない場所、慣れない空間だとどうも寝つきが良くない。保健室ってなんか変な匂いするし。清水がやけに応援してくれるのは嬉しいけど一体何をファイトすればいいのやら。とにかくお弁当はありがたくいただくよ。マジ感謝。


「さて、私は四組に行って餅吉の奴を……」


「ヘェイ! ハロー木宮っ。チョコ食べて倒れたけど大丈夫~? ぷぷぷ~っ」


ニコリと冷笑を浮かべた清水が立ち上がると同時に保健室の扉が開かれた。そこに立っていたのは小金、両頬を大きく膨らませてニヤニヤと笑っている。スマビクのブービィが回転攻撃をしている時に出る効果音みたいな笑い声を出して、嬉々とした様子でニヤニヤ、ニヤニヤニヤニヤと口元歪めて薄ら笑っているではないか。なーんかムカつく顔しているなこいつ。


「チョコたくさぁんもらえたのに残念だねぇ。ねぇどんな気持ち? ねぇどんな気持ちぃ? おほほほぉ~プギャー」


「餅吉、丁度良かった」


「へ?」


笑いながらこちらへと近づいてきた小金、だが立ち向かうようにして清水が前進。小金の肩に手を置いた途端、小金の身長が縮んでいった……う、おおぉ? 小金の肩に清水の五指が尋常じゃなく食い込んでいるぞ。骨軋む音がここまで届いてくる。それに連鎖して小金の顔から笑みが消え、恐怖と絶望で塗り替えられていく。冷や汗を垂らし、ヒクヒクと頬を痙攣させている姿は少しだけ滑稽に見える。さっきまでの威勢の良さが嘘のようだ。


「少しお仕置きする必要があるね、来なさい」


「え、ちょ、ま、待って寧々姉ちゃん。ごめん僕が悪かったよ。あ、駄目、折檻だけはやめて。僕さっきまでトイレに幽閉されていたんだって。い、いやんやめて、ぁ、あー……!」


半泣き状態の小金は僅かに抵抗の意志を見せるも、結局清水に引きずられていってしまった。最後の方なんて涙流して懇願したのに届かなかった。ごめんな小金、止めることが出来なかった俺を許してくれ。ねぇどんな気持ち?としか言えないや。清水が怒っている姿は珍しかったなー、ドンマイ小金。でもお前が全面的に悪いと思うぞ。


「ふー、ご馳走様でした」


清水が退席した後もお弁当食べ続け、あっという間に完食。大変美味しかったです。作ってくれた清水の母親、お弁当を分けてくれた清水、食材の数々に感謝して合掌。胃袋もそこそこ満足してくれている。まだ入るけど。チョコ食べたいが、ここで食べたら清水の厚意を踏みにじることになる。我慢しよう。でもあれだな、ご飯食べたら眠たくなってきたぞ。午前中ほとんど寝て過ごしたし、保健室はあんまり匂いが好きじゃないけど……ま、いっか。まだ昼休み中だし、食休みがてらもう少しだけ寝ようかな。今日はもう病人扱いしてもらおう。さーて、寝るか。部屋の外から聞こえる小金の悲鳴をBGMにして再びベッドへと潜り込んだ。おやすみなさい。











「あれ? 夕方? ……あれ?」


次に目が覚めた時は窓から夕日が差し込んでいた。……い、いやぁ、よく寝たなぁ。爆睡とはこのことか。保健室の匂いが気に食わないとかほざいていた奴が爆睡ってどういうことだよ。そんなセルフツッコミを脳で反芻させながら上体を起こし、軽く欠伸をする。……ヤバ、どうしよ。結局今日一回も授業受けてない。これって欠席扱いされるんだっけ? やってしまったな、というかなんで誰も起こしてくれなかったんだよ。おい保健室の先生、おいっ。


「あ、やっと起きたのね」


クルリと椅子を半回転させて保健室の先生がこちらを振り向いた。四十代のおばさんティーチャーだ。今日初めて保健室に来たのだけど、なんとなく疑問に思っていることがある。人間界について勉強する為に日本界の書物をいくつか読み漁った、主に漫画だけど。学園モノの漫画に登場する保健室の先生は若くて美人ばかりだったのに現実は全然そんなことなかった。若くて美人の先生が保健体育の授業の個人レッスンとかしてくれるとか思ったのに。所詮は架空の出来事ってことか。柔和な微笑みを浮かべて保健室の先生は溜め息を吐いている。なんかすいませんね、一日中寝ちゃって。


「気分はどう?」


「おかげさまで快調です」


「そう。ぐっすり寝ていたから起こせなかったのよ」


いやー、保健室って結構寝やすいんですね。知らない場所で熟睡するのは無警戒過ぎたかも。お前野性どうした?と同族のエルフから言われそうだな。ふぁー、寝すぎて逆にまだ眠たいや。欠伸が止まらない。涙目で時計を見れば下校時間へと差しかかっていた。今頃ホームルームも終わって掃除とかやっているんじゃないのかな。こうなってしまったら今更戻っても意味がない。「え、お前今日休みじゃなかった?」的な目で見られそうだし。変に目立つのは嫌だよ。そういえば小金は生きているかなー、眼鏡割れてなければいいけど。一旦ここから出るか。ベッドから抜け出して大きく伸びをする。そういえば清水にもらった弁当箱がない。きっと清水が寝ているうちに持って帰ったのだろう。回収までさせてしまって悪いな。


「じゃあ僕戻ります」


保健室の先生に会釈して去ろうとすると、


「あ、ちょっと待って。木宮君、あなたに渡す物がたくさんあるわ」


数個程積まれた箱を渡された。これは一体何ですか? 青色や赤色や森の色、様々な色で包装されたカラフルな箱がたくさんだ。ざっと見て六、七個はある。え、何ですかこれ。病院に行くと薬を処方してもらえるらしいけど保健室でも似たようなことやっているんですね。知らなかったよ。


「これ木宮君に渡してくれって頼まれたのよ。女子生徒達から」


「あー、もしかしてこれって」


「チョコレートよ。木宮君モテモテだね」


なんということだ。またしてもチョコをもらえた。しかも寝ている間に。こうなってくると逆に怖いぞ。何かの陰謀を感じる。女子十数名が集団となって俺に三倍返しの刑を押しつけて破産させおうとしているのではないか? 恐ろしいぜ人間、さすが数の暴力だけが取り柄な種族なだけある。塵も積もれば山となる言葉があるがそれに近い。チョコも積もれば山だ。そしてホワイトデーにはその山三つ分の品を用意しなくてはならない。本格的にホワイトデーまでに本来の目的を達成しないとエライことになりそうだ。というかなんで女子達は俺なんかにチョコレートくれるんだよ。午前中にもらったのと合わせて二十個を越えそうだ。この学校でまともに話せる人間なんて十もいないんですが。確実に一度も対話したことのない女子が渡している気がする。な、なんでだよ。ピンポイントで俺狙うなよ。とんだ嫌がらせだな。いやチョコもらえるのはすごく嬉しいし、ありがたく食べるけどね。……あ、チョコ食べたら体調崩すんだった。


「保健室まで来るなんて最近の若い子達は元気ね」


「はあ……」


「でも木宮君寝ていたから渡せなかったの。皆しょうがないから休み時間フルに使って木宮君の寝顔眺めていたのよ」


爆睡している間にとんでもない事件が起きていたよ。今受け取ったチョコレートの数は目算およそ七個、つまり七人の人間がくれたことになる。その七人全員が仮に俺の寝顔を見ていたとすると……うへぇ、果てしなく恥ずかしい。面映ゆいってどころじゃない、照れ恥ずかしさのあまり手に持ったチョコが溶けてしまいそうだぞ。もう嫌だこの国。なんで俺の寝顔とか見てるんだよ。しかも休み時間フルタイムかよ。次の授業の準備すればいいのに。涎垂らして変な顔で寝ていたのかな。恥ず。


「何はともあれいただける物はいただきます。預かっていてくれてありがとうございました」


体が受けつける許容量を守りつつこれだけの数のチョコを何日で食い尽くせるだろうか。一日一個だとしたら半月以上はかかるぞ。それまでチョコの賞味期限が持てばいいが。そもそもチョコレートって賞味期限とかあるのか? 知識が乏しい。わざわざ保健室まで足を運んでくれた顔も名前も知らない方々に感謝しながら袋にチョコレートを詰め込む。保健室の先生が袋をくれた。ありがとうございます。


「そういえば毎回授業が終わる度に木宮君の様子を見に来る女子生徒もいたよ」


へえ、変わった生徒もいたんだな。俺の身を気にしてくれる奴なんて親族にもいないのに。唯一の肉親なんて未知の世界に無理矢理旅立たせたりするからな。


「その子もチョコ渡しに来たんですか?」


「うーん、どうなんだろ。来る度に何か持っていたけど私には預けてくれなかったわ」


はあ。よく分からないが酔狂な人間もいるってことで。先生に一礼して保健室から出ていく。さて、ここからどうするか。朝登校したと同時に保健室へ行った奴が放課後に元気な姿で戻ってきたら誰だってズル休みを疑う。それは少し居心地が悪い。そうなると今から教室行っても意味がないな、デメリットしかない。まだ気分悪いフリしてササッと帰るか。あー、でも鞄と机の中に置いて来たチョコがあるのか。どっちにしても教室には行く必要があるみたいだ。しょうがない、教室に寄るか。今にも吐きそうな顔して容態悪いフリしよう。頑張れ俺の演技力、隠れた才能発揮しようぜ。


「……照久」


「へ?」


保健室を出てすぐのところで声をかけられた。パッと横を振り向けばそこには姫子の姿が。返事を返す前に小走りでやって来てグググッと背伸びして顔を近づけてくる姫子。っ、ちょ? な、何だよいきなり。ヘッドバットでもかますつもりか。思わず顔を引いて一歩退く。それに合わせて姫子はさらにもう一歩接近してジッとこちらを見つめてくる。無表情で何を考えているのかよく分からない。ど、どうしたんだよ。


「体、大丈夫?」


「まあそこそこ」


あ、しまった。体調悪いフリするつもりだったのに。普通に現時点でのコンディションについて素直に答えてしまった。愚直過ぎるぞテリー。


「……立てる?」


「いや今立っているじゃん」


パンツ覗こうとしているくらい床に伏している時にその台詞を言ってください、もしくは「この変態!」でも可。


「咳止まった?」


この子グイグイ質問してくるぞ!? え、何、何よこれ。今日は分からないことばかりだが今の姫子の異様な質問攻めにもクエスチョンマークが鳴り止まない。姫子なりの心配の仕方なのか? もはや密着しそうな勢いで迫ってくる。でも顔に必死な様子や緊迫した色は見えず、淡々と問い詰めてくるだけ。


「今はもう止まったよ」


「私のお薬使う?」


「たぶんそれ違う症状に対して効く薬だから俺が飲んでも意味ない気がする」


どうやら姫子は心配してくれているようだ。普段自分が服用しているお薬を分けてくれようとしている。でもそれ姫子の症状に効く姫子専用の薬だから効果がないと思う。とりあえず心配してくれるのは嬉しい。その気持ちだけで十分ですよ。あと出来れば少し離れてぇ。手を回せば抱きしめられる距離だから今っ、胸とか当たりそうだから! 俺の股間のチョコレートが溶けそうになっちゃうよ。ぐおおおお! なんつー最低ランクの下ネタななんだ。ゲス野郎か俺っ、エルフの高い理性と品行はどこに行ったおい!


「いや、熱もないから。ホント大丈夫だって」


姫子はじっと見つめてきたと思ったら不意に手を俺の額へと当ててきた。だから距離近いってば。互いの制服がこすれ合って変に意識してしまう。姫子が額に手を添えてきた。こちらの体温よりも少しだけ冷たい姫子の手が優しく添えられて心地好い。別にそこまで重症じゃないよ。咳も止まったし気分も優れている。清水の健康的お弁当を食べてしっかり寝たおかげで寧ろ絶好調だ。そんな状態で気分悪いフリして教室へ行こうとしていたわけである。たぶんバレていた。


「……ならいい」


「心配してくれてありがとうね」


「ん」


小さく頷いた後、ようやっと離れてくれた姫子。それでも一歩退いただけで二人の距離は一メートルも離れていない。十分に近い、近距離に属する位置だ。まあ別に姫子なら全然構わないけどね。もしこれが小金だったら右ストレートの拳で吹き飛ばしている。


「もうホームルーム終わった感じ?」


「うん。……教室行くの?」


「ああ、鞄と荷物を取りに行く」


やはりもうホームルームは終わっていたようだ。今から教室に戻ればある程度の人間は帰宅しているか部活動に参加すべく教室を後にしている。友達との雑談に華を咲かせる奴ら、授業の復習をする勤勉な奴ら等の少人数しか残っていないと判断。今ならさほど目立つことなく荷物回収を行えそうだ。急いで教室に向かうか。最後の欠伸を噛み殺して四組へ向かうべく歩を進める。


「……照久、これ」


「ん?」


数歩歩いたところで後ろから袖を掴まれた。掴んだのは勿論姫子、彼女以外に誰がいようか。白く透き通るような細く小さい指で俺の制服の袖をきゅっと掴んでいる。変にくすぐったい。前にも似たようなことがあった気がする。それはともかく姫子は何やら用事があるみたい。自然と上がりかける口角を抑えながら姫子の方を見れば、手に何か持っている。それをこちらへと差し出している。……え、まさか、


「……チョコレート」


「俺にくれるの?」


「うん」


袖を掴んでいる手とは逆の手でチョコを差し出してきた姫子。当然断る理由なんてなく、ちゃんと受け取る。お、おぉ……またしてもチョコもらえた。これで何個目だ? 大きなリボンで結ばれてラッピングされた青白い袋、可愛らしい猫のイラストが描かれている。やっぱり今朝話しかけてきたのはチョコ渡す為だったんだね。小金に邪魔されて受け取れなかった。その後は倒れて保健室で安静にしていたから姫子に会う機会がなく、今やっともらえることに成功。……なんだかんだで姫子からはもらえると思っていた自分がいる。そして姫子からもらいたいって気持ちも……ま、まあちょっとだけ、ほんの少しだけあったかもね。


「ありがとう。大切に食べるよ」


「でも照久、チョコ食べたら気分悪くなるって寧々ちゃんが……」


少しだけ顔を俯かせて小さくごにょごにょと呟く姫子。エルフの聴力舐めんな、全て聴き取ってみせる。確かにチョコを摂取し過ぎると体に影響が出るのは体験済みだから間違いない。でもそれが姫子のチョコを食べたらいけないってことに繋がるわけではない。


「そんなこと気にしなくていいよ。姫子からもらったチョコ食べないなんて馬鹿な真似出来るかよ。時間かけてゆっくりと食べれば大丈夫だから。ありがたくいただくよ」


姫子がくれたチョコレートを食べて倒れるなら本望だよ。本当はこっちの台詞を言いたかったが、なんか臭い台詞なので寸前のところでベターな返事にシフトチェンジした。カッコイイ台詞は俺には似合わないよ。ヘラヘラと笑ってテキトーなこと言っていればいいんだ。姫子にもらったチョコも丁重に袋の中に入れる。


「……ありがと」


「なんで姫子の方がお礼言うんだよ、こっちの台詞だっての。荷物取ったら俺帰るけど姫子も一緒に帰る?」


「うん」


「じゃあまた姫子の家でスマビクしようぜ。今日こそは勝ってみせる!」


再び頷いた姫子と並んで教室へと向かう。色々と事件があったけど、今日はずっと寝ていただけだったな。そういえばさっき保健室の先生が言っていた毎回来ていた女子生徒って誰のことなんだろうな。結局分からずじまいか。俺なんかの安否を毎時間確認してくれるなんて相当良い子だ。いつか会えたらお礼が言いたいな。


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