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第48話 無双する姫とベンチで呆ける付き添い人

「つ、強い、強過ぎる! 残機を減らすことなく全てを蹴散らす圧倒的強さ、勝者は漁火姫子さんだぁ!」


「うおおおぉー!」


さすが首都の設備、そして全国大会という規模。巨大なドームには恐らく三百以上の人間が入場しており、十六個のモニターと印天堂65本体が置かれてある。そして一番目立つステージ上には巨大モニターがあり、そこで司会を務めるお兄さんがマイク片手に絶叫実況している。冬だというのにスマビクで盛り上がる熱気がドーム内を蒸していく、はいとっても気分が悪いです。予選大会の時でもそうだったけど全国と位置づけられた大会にもなると規模も数も桁違いだ。大会出場者数だけで言えば百二十ぐらいだが会場内にはそれを遥かに上回る人間がいる、故に気持ち悪い。俺のように参加者の付き添いで来た奴らがいるのだろう。至る所に設置されたモニターの前に群がる人間共、食い入るように戦士達の激闘を見つめている。俺はしんどいのでちょっと離れた位置にある休憩スペースでお水飲みながらベンチに座って姫子の対戦を眺めている。ここからでも十分に見える、人間共の頭で途切れ途切れにしか見えないが。


「県の予選大会では完全勝利で全国への切符を手に入れた漁火姫子さん、今大会でもその実力は健在。この予選ブロックでも既に五勝目、怒涛破竹の勢い牙をむく三角波の如く! 絢爛艶やか華麗にコントローラーを操る美しき女戦士を止める術はないのか!?」


先月の予選大会の時も思ったがなんで司会の人間はあんな恥ずかしい実況を堂々で出来るんだろうか。派手なコスプレ衣装を着てマイク片手に吠えるお兄さんをぼんやりと見つめる。ほとんど罰ゲームみたいなものだぞ、言う方も言われる方も。痴態チックな紹介をされているプレイヤーは姫子、予選でも大人気だったが今も多くの男に囲まれてワイワイされている。先程、開会式が行われて大会主催者の挨拶を始め、スマビク製作に携わったスタッフのお話も終わって遂に戦いの火蓋が落とされた。最初に行われるのが十六のブロックに分かれて八人による総当たり戦、予選大会と同じポポポランドのアイテムなしストック4のタイマン勝負だ。八人のうち二人が勝ち上がって決勝トーナメントへと進める。午後からは厳しい戦いを勝ち抜いた三十二名による最後の聖戦が行われる、そこへ辿り着く為にも姫子は現在頑張って勝ち進んでいる。なんと五勝して負けなし、決勝進出はほぼ確実だ。県大会でも圧倒的強さを見せたがその実力は全国でも通用するようで、相手に勝てるかもという希望すら持たせない。そして何より、


「あの子可愛いな」


「つ、強くて綺麗で、あぁいいな~」


予選ブロックは十六あるのに姫子が戦う時になると他ブロックの試合を見ていた奴もこっちへ来て大勢が集まる状態。姫子のプレイを見るというよりは姫子自身を見ている輩ばかりだ。今も後ろの方で眼鏡かけた小太りした男性が鼻息荒く感想を漏らしている。参加者の中では恐らく唯一の女性だし、まあ姫子可愛いからね。人気出るのは当然か。


「……照久」


「あ、お疲れ様」


バトルを終えた姫子は実況や男性観客からコソコソ逃げるように真っ直ぐ俺の方へとダッシュしてきた。走らなくても俺は別に逃げませんよ。あらゆる方向から視線を、しかも男性の恐らくいやらしい視線を受ければ誰だって嫌だよな。俺ならあの場で嘔吐している自信がある。モニターに映るスマビクの戦士達に向けてゲロ吐いてしまって今後一切印天堂のイベントへの出入り禁止を告げられる未来まで読めた。なんてことを妄想しながら戦いを終えてきた姫子に言葉をかける。うん、と小さく返事をしてベンチに座る姫子、俺のすぐ横だ。近い近いっ。ピッタリと寄り添うようにして座る姫子から視線を感じる……あ、あれ俺の方見てる? なんとなく右頬に視線が突き刺さっている気がするのですが。なんでこんな密着してくるのだろう、おかげで心臓バクバクだ。あと、そんな俺らを見て男性の何人かは俺の方を睨んできやがる。おうおうなんだコノヤローやんのかオラァ。さっき受付のお姉さんにも言ったが俺と姫子付き合ってないからな。見ての通りただの友達だ。それにしては距離がすっごく近いけど気にしないで。いやホント密着ってレベルの近さだな、肩と腕当たりまくり。姫子から伝わる体温に反応して自然とこちらの熱量も増す。真冬だというのに会場の熱気と合わせて体が火照ってしまいそうだ。


「照久、見てた?」


「見てた見てた、相手のファックスもかなり強かったけど姫子の圧勝だったな」


「……見てたなら、いい」


そう言われると同時に姫子からの視線が消えたような気がする。ベンチが対戦場所から離れているから俺が見ていないと思ったのか。エルフの視力舐めるな。最近なんとなく分かったことだがどうやらエルフは人間と比べて身体能力が高いみたいだ。体育の時ちょっとジャンプしただけでザワザワされたし。今日の大会だって大多数が視力増強装置、通称眼鏡をつけている奴ばかり。眼鏡の奴には視力負ける気がしないね。……にしても、距離近いって。なんか、こう、ドキドキするからやめて。首都に着いた辺りからずっと機嫌悪かったのに今はピッタリと寄り添う形で座っている。心境の変化が激しくないですか? いや、実際のところまだ怒っているっぽい。さっきから連戦連勝しているが普段から姫子のプレイを見ている俺としては感じるものがある。なんとなく、戦い方が荒い気がするのだ。こう、怒りをぶつけているような、力任せのコンボが多い気がする。いつもはもっと落ち着いた立ち回りで慎重に的確な攻撃と防御を織り交ぜるはずなのに今日は攻撃的であまり守らず突撃してばかり。試合に怒りをぶつけているように感じる。まあだからといって勝ち負けには影響ないけどね。姫子超強いし。


「……疲れた」


「あと二試合で終わるから頑張ってよ。まあ予選ブロックが、だけど」


印天堂65版スマッシュビクトリーズ全国大会、朝九時から開催されて今日のうちに決勝まで行われる。午前中はブロック戦、午後からは勝ち上がった三十二名による決勝トーナメントが始まって今日中に優勝者が決まる。あっけないと思われがちだが、んなことわぁない。一度の負けが決勝進出の可能性を首絞めることになりかねない常に後がない緊迫した戦い、決勝に行けても敵はさらに強くなる一方、次々と襲いかかる強敵達に一瞬の油断も許されない! まっ、大会に出ない俺は最初から緩みっぱなしだけどね。姫子の試合を見るのは別にいいけど他の奴らの試合なんて見てもしょうがないからなぁ、それに人間が群がる中にダイブして嬉々と司会の実況に耳を傾けて楽しめる程スマビクにお熱ではない。お気楽にベンチでのほほんとしている方が精神衛生上にもありがたいよ。もうすぐお昼だし、さっきから姫子の試合以外は首都のどこで食べようかなぁと思考を巡らせてばかりだ。こんなことなら前もって情報誌買っておけば良かったな。


「どう? やっぱ皆強い?」


「ん、そこそこ」


そこそこって……ここ全国大会ですよ? 日本界各所で開かれた予選大会を勝ち抜いた選りすぐりのスマビク実力者達がそこそこかー……そ、そこそこ? 俺だったら秒殺食らえる自信があるよ。それだけ姫子の腕がこの中でも頭一つも二つも抜けているってことか。全国大会って聞いたからさすがに姫子も苦戦を強いられると思ったのにそんなことは全然ありませんでしたね。


『Bブロックの漁火さんと川野さん、4番モニターに集合してください』


どこからかアナウンスが聞こえた。さっきからずっと誰かしらの名前を言っているのから察するに次の試合に出る人間を呼んでいるのだろう。姫子の名前が呼ばれたってことはもうすぐ姫子の試合が始まる。先程の試合が終わってまだ十分経ってないのに、連続で試合して大変だな。隣の姫子が腕にもたれかかって顔を二の腕に乗せてきた。や、やめて恥ずかしい。なんでそんな風に甘えてくるんだよ。心臓が爆裂しそうだ。


「呼ばれてるよ、行ってきな」


「……」


ん、どうしたよ?


「……照久もついてきて」


は? 俺も? いやいや、俺ここでいいよ。このベンチ座り心地かなり良いからさ、離れたくない。というか人間が群がるところに行きたくないし。ましてや姫子目当てで余計に集まるから嫌だ。今だって姫子が呼ばれた4番モニターへ人間が集まっている。公園で餌に群がる鳩みたいだな。アナウンス終了から一分足らずでもうこの位置からはモニターが見えないぐらい人間がうじゃうじゃ。おまけに全員男、見ているだけで吐き気を催してしまう俺の精神は決して惰弱ではなく正常だと胸張って言いたい。どんだけ人気高いのあなた、ちょっと引いてしまうよ。ほら、皆待っているから行ってきたら。軽く腕を揺すって促してみると姫子は余計に力強く腕に絡んできた。もう密着というか抱きついている。


「俺はここでいいよ。荷物番もしているからさ」


「……」


「そ、そんな目で見るなよ」


背が低く小さくて可愛らしい姫子、そんな彼女でも睨みつける眼力の強さは人並みにあるらしく、ただ今絶賛睨まれている。や、やめてぇ。あと近いから、そんなぐいぐい顔近づけてこないでください。埋めていた顔を持ち上げてぐぐっと見つめてくる。またしても右頬に視線が突き刺さる。心拍数が跳ね上がっている、うお。……はぁ。いや、分かるよ。あれだけ男が群がる中入り込むのは相当の勇気と気力がいる。スマビクで表すならチーム戦で俺は赤モリオ、残り三体が青ドンビキーな状態だ。しかもレベル9。俺だったら迷わずフィールド外へ落ちてやる。男が苦手な姫子は尚更無理だろう。だから俺についてきてほしい、うん理屈は通る。でも俺だって嫌だ。なんであのむさ苦しい中に混ざらなければならんのだ。ティッシュ配りのバイトの方が女性がいる分マシに見える。よって俺は行かな


「照久……」


「……ぐぅ、分かったよ! 行きますよ、行けばいいんだろ」


「ありがと」


顔と顔がくっつく程近づいてくるお姫様に根負けした瞬間だよチクショー。少し腰を浮かせて顔を近づける姫子、けど腕には抱きついたまま。器用なことしやがりますねホント。……ほら、微かに当たっているから。なんか、むにゅむにゅな感触が右腕に当たってその途端全神経が右腕に集約し始めたから。必死過ぎるだろ神経細胞。ちなみに今日の姫子の服装はかなり厚着だ。今は屋内でしかも変な熱気を帯びているので上一枚脱いでいるがそれでもガードは完璧だ。以前部屋で姫子のネトスマプレイを後ろから観察しようとした時、薄着だった為、そのぉ……眼福な光景を拝めることが出来た。たゆんたゆんしていた。でも今はしっかり着込んでいるから後ろから覗きこもうと谷間なんて決して見えないし激しくコントローラーを動かしてもそんなに動かない。え、何が? 言わせんな恥ずかしい。よって男共からいやらしい目で見られる心配は……いや、あるか。可愛いからジロジロ見られちゃうよね。もしあの時の部屋着みたいな服装だったらどうなっていたことやら。スマビク大会からまた違う大会が開催されていたかもしれん。乱と交が合わさるみたいな? 大乱交スマッシュビクトリーズだったな。


「照久」


「へいへい」


荷物と上着を持って姫子と一緒に並んで4番モニターへと向かう。こうして歩くと受付のお姉さんが言っていたように彼氏彼女に見えてもおかしくないよな。現に周りから「あいつあの子の彼氏か」とか「う、羨まし過ぎる」等の声及び「死ねよリア充」や「ハンマーのアイテムがあったら今ここで使いたい」といった恨み妬み憎しみ込められた呪詛も聞こえてくる。言葉で相手を呪えるのは悪魔とかの類だったはずだ。お前ら人間に呪い魔法の心得があったなんて知らなかったよ、ははっ。呪詛呟いて神仏に祈っているのか、相変わらず他力本願な奴らめ。対戦席に座る姫子、その真後ろに立つ。うへぇ、蒸し暑い熱気が鬱陶しい。


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