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第32話 黒白の戦場とスカートとパンツ

「やっほー来たよ、ってネイフォンおじさんだ!」


「おー、寧々ちゃん久しぶりだね」


ネイフォンさんとオセロで遊んでいたら清水がノックもしないで部屋に入ってきた。フリフリの黒いプリーツスカートと爽やかなチェックシャツの上から水色の薄いカーディガンを羽織っている。そしてオーバーニーソックスだ、巷で噂の絶対領域が見える。何その格好、超オシャレなんですけど。水色カーディガンの袖からちょっとだけ指を出しており、なぜかそれを見ているとドキドキッとしてしまう自分がいた。畜生、可愛いと一瞬でも思ってしまうなんて。こいつは清水だぞ、たまにパンくれたり優しく人間界について教えてくれるけど本質は天真爛漫の暴力女だろ。そんな奴相手にときめいてどうする。


「久しぶりだっ、なんでテリーの部屋にネイフォンおじさんがいるの?」


「はっは、せっかくの休日なのに部屋でゴロゴロしている同族の若いもんが可哀想でね、こうして遊んであげているんだよ」


先週の金曜日の終業式を終えて学校は冬休みを迎えた。冬休みとは何か、簡単に言えば年末なので学校はお休みにしますよーってことで二週間程休みがあるのだ。五十分間机に固定されて黒板の板書を書き写す授業を受ける必要がなく、部屋で自由に過ごせるこの長期休みは大変に素晴らしい制度だと思います。学食を食べられないのは幾分か悲しいが部屋から一歩も出らずにのほほんと寝て過ごせるのはありがたい。なので今日も昼寝して過ごそうとしていたらネイフォンさんがやって来たのだ。やれ最近の若い奴らは外で遊ばないだの~、と説教垂れてきたので寝て無視した。するとネイフォンさんがキレて帰ったかと思ったらオセロや将棋といったボードゲームを持ってきたので二人で遊ぶことになった。今現在、重要な拠点となる四隅のうち二つをネイフォンさんに奪われて白の俺が絶体絶命となっている。ここから逆転するには残り二つの隅を取るしかない。まだ希望はある、勝ち筋が見える限り戦う。だって負けた方が相手の昼飯を何にするか選んでいいという罰ゲーム付きだからだ! このホームレスな風貌のエルフは間違いなくセンスのないハズレ臭がする弁当を押しつけてくるに違いない。ざけんな、飯だけが一番の楽しみだというのに。


「今度うちにも来てよ。お父さんとお母さんもいつ来てくれるか楽しみにしているんだからっ」


「お、おおそうなの? じゃあ近いうちにお邪魔するよ、って寧々ちゃん近い近い。ボード見えないって」


正体がエルフだとバレてはいけない、その掟を守って人間界で生活しているがぶっちゃけ存在を知っている人間が数人いる。清水とその両親だ。バラしたのは今動揺して悪手の一手を打ったネイフォンさん、左下の隅はいただいた! ネイフォンさんと清水家は友好関係を築いており、清水とネイフォンさんも仲良しのようだ。今だって久しぶりに会えたことに気を良くして普段は見せない無垢な笑顔でネイフォンさんに正面から抱きついている清水。余程嬉しいのか、これまでに見たことのないハイテンションっぷりで矢継ぎ早に質問し続けている。あ、パンツ見えそう。というか絶対領域って素晴らしい。素肌と違う色のニーソを履くことによって足のラインが強調され、わずかに腰に近い部分のふともも、絶対領域が見える事により自然にそこに目が魅かれる。ニーソの履き口のゴムがふとももに食い込むことによって生まれるムッチリ感。それらの魅力に清楚エロイの称号を持つ清水のきめ細かで綺麗な両足が合わさって破壊力は姫子の上目遣いと遜色ない。いやエロ要素がある分こっちの方が厄介だ。なんだよやめてくれぇ。あ、ちょっと見えた。


「なんで清水はうちに来たんだよ?」


「ちょっと黙ってテリー、私今ネイフォンおじさんとお話したいから」


「ね、寧々ちゃん? 私の膝の上に乗るのはやめてくれないかな? ボード見えないから戦況分からないから」


おお、このおっさんが動揺するなんて珍しい。最後の隅も俺が取りますね、はい。対して清水はそんなの気にしねぇという勢いで胡坐をかいているネイフォンさんの上に座ろうとしているではないか。自身の両足をネイフォンさんの背中に回して……ん、この格好、場合によってはそう見えるぞ。細かく描写すると何かに引っかかりそうだから言わないけど。まるで交……いや、なんでもないです。あとさ、清水さん? その位置からだとこれまたパンツ見えそうなのですが。スカートの下からチラチラと見える肌色、あれはもう太股というより臀部に近い部位だと思われる。良い肉つきだなぁ、ぷりぷりじゃん。ヤバイ触りたい。なかなかこのアングルで女子のお尻を見ることはないのでオセロの盤上を見ているフリして凝視している下劣な輩、そう私のことです。オセロめくるノリであのヒラヒラしたスカートもめくってみたい、ちょっとめくるだけで絶対見えるよパンツ。めくった先に何があるのか、白から黒か……または別の色か? そんな色欲に惑わされながらもゲームはしっかりと進めていくけどね。ネイフォンさんと違って俺の方は視界良好だ、色んな意味で。


「ちょ、テリー少年ズルしてないか?」


「してないですよ。するまでもなく俺の逆転勝利です」


「なっ!?」


清水に気を取られて手が疎かになりましたね。残された二隅を奪取した後はその勢いで次々と黒を白に塗りかえていった。さながら白虎が黒瓢と熾烈な戦いのよう、相手の隙を見逃さなかった俺の諦めない抵抗が生んだ勝利だ。まあ清水のおかげなんだけどね。当の本人はそんなこと知る由もない。さーて罰ゲームですね~、あなたのお昼ご飯を選んであげましょう。この前コンビニで見たんですよ、焼きそばうどんパスタ三種の麺乗せ弁当ってやつを。炭水化物の米の上に三種類の炭水化物を乗せただけの弁当、食べていただきましょうかね。


「今のは無しにしよう」


「何を言っているのですか、男の勝負に待ったはなしですよ」


「ぐっ、ぐ……そうだ、私は今から仕事だった。あー、そうだった」


汗で額を濡らしていたネイフォンさんだったが急に態度が余所余所しくなったと思ったら清水を横へと置いて立ち上がるとものすごいスピードで部屋を出ていった。な、逃げた!? あなた今日は夜勤だけって言っていただろうが。


「さらばだテリー君と寧々ちゃん、また会おう」


「待ちやがれ木宮もこみち!」


さすがに外に向かって本名を呼ぶわけにもいかないので偽名の方で走り去るおっさんを追撃するように叫んだが木宮もこみちは振り返ることなく街の中へと消えていった。近隣の住居から聞こえる「え、オリーブの?」という声。マズイ、近所迷惑だった。叫んだことが俺だとバレないうちにそっと扉を閉める他なかった。くそっ、四十歳越えた大人が罰ゲーム受けるのが嫌で逃げるなんて最低だ。汚いよ、大人ってどいつもこいつも汚ねぇよ。ゲーム機欲しいからって孫を未知の土地に送り込む大人もいるし、なんだよ畜生。


「あーあ、ネイフォンさん行っちゃった」


「で、清水はどうしてここに来たんだ?」


「せっかくの休みだからテリーと遊ぼうと思って」


さっきまでのハイな気分は消えたようで清水はいつも通りの口調でそう言うと立ち上がって外に行こうと目配せしてきた。なんでこいつはいつも急に来るんだろうか、こっちの予定とかも考えてほしいものだ。ま、こんなこと口に出して言おうものなら「お前が携帯電話持ってないからだろ」と一蹴されておしまいだから何も言わずに黙ってついていくしかないのだけど。


「別にいいけどさ、どこに行くの?」


「またあそこのショッピングモールに行こ、買い物に付き合ってよ。今度クラスのクリスマス会に持っていくプレゼント買いたいの」


早く準備しなさい、と付け加えて清水はこちらの返答も待たずに部屋から出ていった。寝巻の格好じゃ外は歩けないからな、着替えろってことか。はぁ、ネイフォンさんといい清水といい、せっかくの休日なのに邪魔しに来ないでほしい。どちらも気を遣って来てくれているとは思うけどさ。どーせこの馬鹿は部屋から出ずにダラダラしているんだろうな、と勘繰られている気がしてならない。こう言っちゃ悪いが、外出するってことは少なからず金を消費することになるだろ? 先週のスマビク予選大会で痛感したよ、印天堂65を手に入れるには自力で金稼いで買うしかないと。姫子に譲ってもらうとか大会に優勝するとか不可能だったんだよ。ならもう残された手段は一つ、堅実に金を貯めて買う。これしかない。となると金を貯める必要がある。金を貯めるポイントは金を稼ぐ、または金の消費を抑えるの二つだ。故にこうして部屋で寝て過ごして節約していたのさ、決して動くのがメンドイとかそんな怠けた理由ではなくてちゃんと節約という大義名分の元仕方なく寝て休日を過ごしていたんだからねっ。


「遅いっ、テリーはいつも遅い!」


「はいはいすみませんでした」


外に出れる格好に着替えて部屋を出ると清水から一喝を受ける。あぁもう耳元で叫ばないでよ、キーンってなるから。うぅ、外寒いな。お昼前、日光は燦々と輝いて部屋の中から見た時は暖かそうな雰囲気だったのにいざ外に出るとイメージとの気温にここまで差があるとは。清水はその服で寒くないのかな? 確かに可愛い私服だとは思うけどそれ結構薄着でしょ。絶対領域が素晴らしいけどそれ結構エロイような気がする、いやエロイ。清楚エロイ。こんな子に抱きつかれたらネイフォンさんも動揺して当然だよなー、いくら親友の娘とはいえ現役女子高生からあんな風に好かれたらオセロの一手に迷いが出ても仕方ない。というか清水に抱きつかれて何も見えなかったってのが一番の敗因だろうけど。


「あー、寒い。テリー、その上着貸してよ」


「ふざけるな、これは俺が食費を抑えて買ったお気に入りのコートだぞ。なんで人間なんかに貸さないといけないんだ」


「その服作ったのは人間だけどね。いいから貸してっ」


ぎゃああああぁ寒い。先程と同様、有無を言わせない速さと強引さで清水がコートを剥いできやがった。上着を奪われてトップスのシャツとインナーのみ、凍てつく風が軽装装備を貫通して体温を奪っていく。ぐおおおっ風冷たい風冷たい、冷風吹き荒れ過ぎだバカヤロー。つーかなんだこのワガママ女子高生野郎は。お前がファッション性重視の薄着で来たのが悪いんだろ。もう十二月の中旬終わりだ、あと十日足らずで今年も終わる時期ってことはそれ相応の気温に下がっていることは誰にだって分かることだろうが。確かに部屋の中で見た時は外暖かそうだなぁとか思ってしまう天気の良さではあるけどそこはお前さん、一度外に出て寒かったら家戻って服選び直してこいよ。なんで防寒完璧だった俺が寒い思いをしなくちゃいけないんだ。ホントにこいつは優しかったり理不尽だったり行動が気ままな奴め。男尊女卑って言葉をグーパンで粉々に打ち砕くような性格の持ち主だな。


「暖かーい、テリーにしては良いセンスのコートじゃん」


「うるせ、『いまむら』クオリティ舐めるな」


ちょっと離れた所にある服屋『いまむら』で買ったコートだ。安さが売りの奥様御用達のお店、オシャレな高校生では満足出来ないチープな服しかないが俺からすれば服は着れたら万事オッケーなので問題なし。そのコートはなぁ、『いまむら』の中では一番センスが良いなと思って買った一品なんだぞ。それをお前は奪いやがってぇ……はぁ、寒い。さっきまでネイフォンさん相手に甘えていた時とは態度が変わり過ぎだろこいつ。清水があんな風に嬉しそうに抱きつくなんて意外な一面もあるんだな。いや、ネイフォンさんに対してだけか。……あれ、もしかして、


「なあ清水、お前ってネイフォンさんのこと好きなのか?」


「え、好きだよ。よく一緒に遊んでもらったし」


俺のコートに顔をうずめながら暖かそうにニコニコしている憎き女にさりげなく質問をぶつけてみるとケロッとした表情で返してきた。なんか質問の意図を理解してもらっていないような気がするので追撃してみるか。


「いやそうじゃなくて、なんて言うの? それって友達として好きっていうやつで。それとは別の、ネイフォンさんのこと異性として恋愛対象として好きなのかなってこと」


「要するにライクじゃなくてラブってことでしょ?」


要するにの意味が分からないけどたぶんそうですはい。


「それはないかも。お父さんの友達、だから私からすれば仲良くしてくれるおじさんポジションの人だからね」


あー、そんなものなのか。仲良いけどそれはおじさんとして、別に付き合いとかは思っていないってことね。まあ俺としても嫌だけどさ、ネイフォンさんと清水が付き合うことになったら。その場で嘔吐する自信があるね。どんな自信だよ、と小金がいたらツッコミを入れられそうだなこれ。あっ、ついでに聞いておくか。


「ちなみに小金のことは好き? 勿論異性として」


「はあ? あんな奴好きなわけないでしょ。さっきから何? 私の恋愛事情知りたいの?」


ギロリと睨まれてしまった。怖っ、目が怖い。いやだってさ、幼馴染なんでしょ。小さい頃から一緒って言っていたからさ、少なからず今まで何かあったのではないかなーと思いまして。俺の見たアニメでは幼馴染の二人が付き合っていたからさ、現実でもそんな具合に幼馴染の男女は高校生になると付き合ったりするのかなーと。小さい頃に、将来ケッコンしようね約束だよ!と二人で指切りげんまんするみたいな? だから清水と小金もそんな感じの恋愛関係込みで仲良いのかなぁと。でも清水の睨みようからしてそういうわけではなさそうです。あ、あと握り拳見せてくるのやめてください。殴ってやろうか、とアイコンタクトで伝えてこないで、視線だけで十分に痛いから。


「……そうだねー、私のことを寧々姉ちゃんって呼ぶ頃から餅吉をそーゆー目で見なくなったな」


「そ、そうすか」


「何、そんなこと聞いてテリーはどうかしたの。あっ、もしかしてぇ私のこと気になったりしてるのぉ~?」


睨んでいたのが嘘のよう。本日何回目の変化になるであろうか、こちらを嬉しげにニッタリと口元を歪めて笑う清水。ニッタリってのが重要、ネイフォンさんと会った時の無垢で純情な目はしていない。小馬鹿笑いを含んだ、からかってやろうと企んでいる悪い笑顔だ。は、はあ? 俺が清水のことを気になっている? それは、ちょ、ちょっと……


「す、すんません。僕、暴力振るう奴はちょっと。あとアレは白も好きだけどピンクの方がもっと好きです」


「え、何言っ……っ、この変態!」


しまった、動揺で口が滑ってしまった! あっ、でもその白も好きだよと言うとしたが清水の鉄拳を食らって意識が飛びかけて口を開くことが出来なかった。か、風と拳が痛い季節だなぁ……。顔を赤らめる清水と自身の鼻血が滴となって宙を舞うのを眺めながら体は後ろへと崩れていく。清水の穿く黒のスカートと白のアレがまるでオセロのようにヒラヒラと交差する一瞬の表裏を見届けて意識は冷たいコンクリートへと落ちた。……頭と鼻が痛い、うぅ。


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