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第30話 予選大会決勝トーナメント

「あーっとここでルーイジ復帰出来ずに落ちた! 勝者はHブロック二位通過のヤケチュウ使い田中君の勝利だ!」


決勝トーナメント進出者の紹介が終わった後はトーナメントの抽選が行われた。そして早速始まった全国大会への切符を争う戦い、五十人の中から勝ち抜いた十六名による激しいバトルの幕開けだ。全国大会へ行けるのは三人のみ、決勝まで進んだ二人と三位決定戦に勝った者のみ。予選と変わらないルールだが、一つ違うのは負けたらそこで終了だということだ。勝ち抜くしかない。しかも相手は予選を勝ち抜いた強豪達、俺が予選で勝てなかった二人と同レベルの奴ら相手に勝たなくてはいけないのだ。……勝てるのか? ここへ来て緊張感がうねりを上げて押し寄せてきた。思わず身震いする。


「続いての対戦はCブロック一位通過の自営業鈴木さんとGブロック三位通過の高校生木宮君のバトルだ。選手はステージ上に来てくれ!」


名前が呼ばれた。決勝トーナメント最初の相手は三十代の男性、寡黙で小さく頷くだけの会釈で挨拶してきた。なかなかの気合いの入りようだ、ピリピリと伝わってくる気迫に押されて椅子に座ることすら簡単にはさせてくれない。決勝トーナメントの試合はステージ上で行われ、巨大スクリーンで戦いの様子を他の人でも見られるようになっている。予選で負けた大勢の人間が見つめる中、なんとなく会場は鈴木さん頑張れのオーラで包まれていた。……さっきのアレが原因だろうなぁ。予選を勝ち上がった人の紹介で、皆が見ているステージ上姫子が俺に抱きついてきたのだ。今大会で二、三人しかいない女性参加者のうち唯一決勝へと進んだ姫子、その見た目の可愛さと強さで会場内の男性の視線を集めてまるでアイドルのように崇められている。そんな姫子と知り合いでくっついている俺のことを皆は目の仇にしているようで。キャラ選択中も後ろからお前は早く倒されろ、といった視線を無数に感じる……。なんてアウェイな空気だ、今日この都市に来てからまともな空気を吸ってないぞ俺。


「それでは決勝トーナメント第六試合、始め!」


ステージはランダムで選ばれて残機は4、アイテムなしの一本勝負だ。対戦相手の鈴木さん、予選を一位で通過したのだから相当の手練れだろう。使用キャラはヤッシー、ステージはヤッシーアイランドで相手からすればホームといったところか。ゲームの中も会場内も俺はアウェイとはなかなかやり辛いですね畜生が。だが負けるわけにはいかない、全国大会に進んで優勝して手に入れるんだ。印天堂65を!


「うおおおっ!」


ヤッシー攻略は上手く吹き飛ばすこと。ヤッシーには復帰力のある必殺技がなく、空中でふんばりジャンプしたところを追撃すればもう戻ってこれないのだ。最初はダメージ値を稼いである程度吹き飛ばしやすくなったら積極的に大技で場外へと吹き飛ばそう。しかしそう上手くいかないのが対人戦、相手のヤッシーはものすごいスピードでモリオの回りを行ったり来たり、こちらの様子を伺っているようだ。少しでも隙を見せるとご自慢の褐色ブーツで連続足蹴りを放ってくる。出の速い頭突きと足蹴りだけで攻めてくるヤッシー、こちらも反撃しようと技を繰り出すが全て当たらない。な、なんて反射神経だ。いやそれよりもコントローラーの入力スピードに大きな差を感じる。なんであんなに速く動けるんだ? 自営業パネェ。


「おーっとモリオ残りストック1だ、絶体絶命のピンチ!」


まともにダメージを与えることも出来ず3機消費してやっと相手を一回吹き飛ばすことが出来た。こちらは残り1機、相手のヤッシーは28%のダメージ値で残機が3もある。勝ち目なんてない、こればかりはさすがに心が折れてしまう。もうこれ以上足掻こうという気力も尽き果てた。さすがに予選とは違うか。冷静に考えたら俺が勝てた三人は初心者だった、小金レベルの奴だって参加しているからそいつらなら勝てたってだけで、ネトスマをやっているであろう強者を相手に勝てるわけがなかったのだ。1機減らしただけでも御の字、もうあとは死ぬだけだ。ヤッシーアイランドは特に何もないステージ、モリオとヤッシーでは一発逆転が起きることもない。……俺の負けか。


「照久っ、頑張って」


っ、この声は!


「おっとここで一回戦を勝ち抜いた漁火さんから応援の一声が! これは嬉しい木宮君!」


おいやめろ実況っ、なんか恥ずかしいだろ。コントローラーを持つ手がダラリと下がりかけた時、ステージ端から聞こえてきた姫子の小さな声。こんな広い会場でここまで届くなんて普段の無口な姫子だったらありえない、いつもの声量なら聞こえるはずがないのに……姫子、頑張って声出したのかな。……普通に嬉しい。くっ、ふざけんなよ。そんなこと言われちゃあ諦めるわけにはいかなくなるだろうが。モリオ、まだ動けるよな。お前のことをいつも負かしてきた相手から声援が来たぞ、頑張れだってさ。さあ、反撃の開始だ。コントローラーを奏で、モリオが宙を舞った。











まあ負ける時は負けますよ。決意を新たに燃やしてヤッシーへと突っ込んだが結果は変わることなく何事もなーく負けた。いや~、鈴木さん強かったわ。


「テリーお疲れ様、残念だったね」


「ま、予選勝っただけでも木宮にしては良くやった方だよ」


ステージから降りたら清水と小金が迎えてくれた。清水はいいとしてなんで小金が偉そうに言っているのか分からないけど。お前予選全敗だろ、この四十九人の中でも最弱だろうが。ふぅ、やっぱ勝てないよなー。せっかく姫子が応援してくれたのに報いることが出来なかった自分自身が情けない。うん、だって無理なものは無理だ。なんかテクニックの差があり過ぎる気がするもん。姫子と戦っている時と同じ感覚だった。


「予選の時も思ったけど何人か異様に強いんだけど」


「木宮、着キャンって知っているかい?」


着キャン? なんだそれ。


「着地キャンセルの略なんだけど、あとはショートジャンプとかガード硬直キャンセル、弱パンチ当て投げ」


「さっきから何言っているんだよ、キチガイ?」


「いや名前違う! 餅キチガイだから、ってそれも違うけども!」


うるさいな、いちいちツッコミ入れないと会話出来ないのかお前は。何を意味不明なことをペラペラとほざいてやがる。全敗して頭おかしくなったのか? まあ元から頭おかしいだろうけどさ。


「スマビク上級者において必須テクニックのことだよ。特に着キャンとショートジャンプが出来ないとお話にならないレベルの初歩らしいよ、ネトスマを嗜む上級者にとっては」


「? 餅吉、それってどういうこと?」


「簡単なことだよ寧々姉ちゃん。恐らく今この決勝トーナメントに勝ち進んでいる奴らはそれくらい腕が達者な人ってことさ、委員長を含めてね。僕らみたいな地域で強いと粋がっている輩とは次元の違う知識とテクを持っているんだよ。いくら全力で挑もうとも勝てるはずがない」


それからもペラペラと解説を続ける小金。どうやら負けて時間が余ったようで色々とネットで調べてきたらしい。話によると、スマビクを極めるには多くの時間と練習が必要らしい。格ゲーのセンス以上に細かい技出しや知識が大事らしく、着キャンも出来ない奴は戦う資格もないとか。なんだそれ。ネトスマプレイヤーといった全国のスマビク熟練者はキャラ毎の特性を知り、単純な技の動きだけでなくモーションとダメージ値、回避可能有無や攻撃による停止時間すらも把握して戦っているらしい。つまりそんな奴ら相手に勝つなんて不可能だということだ。そう締め括って小金は今日自分が負けたのも仕方ないと言い訳しだした。


「僕だって本気を出せばある程度勝てるけど、やっぱやり込んでいる人達に申し訳ないというか」


「まあ俺がさっきの人相手に1機倒したことは十分にすごいってことか」


「そうだね。テリーはよく頑張ったよ」


「あれ、二人とも? もう僕の話聞いてない感じ?」


さて、そうなると最初から大会で優勝するなんて不可能なことだったのか。この決勝トーナメントだけでこのレベル、しかもこれは県の予選大会だ。全国にはもっと強い奴らがいてそいつら全員を倒さないと優勝は出来ない……なんて長い道のりなのだろう。そんなの無理に決まっている。大人しくバイトして十数万円貯める方が堅実で現実的だ。世界ってのは広いんだな~、こんなゲーム一つに夢中でやり込む人間がここだけでも十五人いるのだから。そのうちの一人が姫子なのだけど。そういえば姫子は勝っているのかな?


「清水、姫子の試合を見に行こうよ」


「さっき終わったみたいだよ。Gブロック一位の人を秒殺していたよ」


「あれ? 割と深刻な感じで僕無視されてる? ねえ?」


ステージの方を見ればまた実況の人から恥ずかしい賛辞の紹介を受けて俯いている姫子と戦意を失って床に伏している長谷川さん。ぁ、長谷川さん……同じブロックで戦った会社員の人だ。予選では全勝して周りからも期待されていたのに……俺が全然敵わなかった人間を簡単に倒したというのか。なんて強さだ姫子。やっぱりあなた全国クラスの使い手だったのね。


「姫子ちゃん強いんだね~」


「そうだな」


「きっと長い時間かけて練習してきたんだろうね。テリーじゃ一生勝てないかもね!」


「うるさいな、何を言っ……」


あれ? 待てよ? 印天堂65を手に入れるには大金を払うか全国大会で優勝するか姫子に譲ってもらうかの三択だ。なぜか頑なに譲ろうとしない姫子から65を合法的に奪う方法としてスマビク勝負で賭けを申し出て勝つしかないのだが……俺が勝てるのか? これまでは練習すればいつか勝てると思っていたけど今日で痛感させられた、姫子には一生勝てないと。予選を自力で勝ち上がれない俺が決勝トーナメントでも破格の強さを誇る姫子に勝てるわけがないじゃん。てことは……印天堂65を譲ってもらうことは無理、ってことだ。…………あー、はははっ。


「清水、俺やっぱバイト頑張るよ」


「え、どうしたの急に?」


「堅実に目標を達成しようと思う……うん」


その後も順調に勝ち進んで優勝した姫子を見つめながら俺は誓った。バイトしようと。お金を稼いで、節約して、お金貯めて、そして買うんだ。発電機と印天堂65を。帰ったら合計でどれだけ費用かかるか調べておかないと。……年明けたらバイトだな。


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