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第26話 木宮VS小金

「ほほお、これが委員長の部屋か」


「餅吉、変なことしたら抹殺するよ。抹殺するから」


「なんで二回重ねて言ったの!? ガチ感が半端じゃないよ!」


小金と清水が部屋に入っていくのに続いて姫子の部屋へお邪魔する。今週の土曜に開催される印天堂64版スマビク全国大会、それに向けて特訓するべく俺と小金、そして小金の監視役として清水はクラスで唯一64を所有している姫子の家へとやって来た。四日後の大会、優勝賞品は限定モデルの印天堂65本体。全国から強豪が集うだろう熾烈な戦いが予想される。その中で善戦するとか出来るだけ頑張るといった妥協は存在しねぇ、優勝する以外に何がある。勝つしかないんだよ、印天堂65を手に入れるには。


「……お菓子持ってきた」


「ありがと~姫子ちゃん」


大会に向けて特訓したいから部屋に小金と清水も呼んでもいい?と今朝姫子に尋ねてみた。しばらく黙っていた姫子だったが、何度か頭を下げると了承してくれた。なんで俺が小金なんかの為に頭を下げなくてはいけないんだよと今になってムカムカしてきたから次に小金が何か気に障ることを言った時に殴って解消しようかなと思います。とにかく姫子の許可も頂いたのでこうして放課後に三人揃って姫子の家、神社へと来た次第である。姫子からお菓子をもらいながらニコニコとお喋りしている清水、いつもは無口な姫子も普段より明るく喋っているように見える。


「寧々姉ちゃんはその持ち前の明るさとコミュ力の高さで大体の人と仲良くなれるんだ。すごいだろっ」


「確かにすごいな。なんで小金が自慢しているのかは分からないけど」


細かいことは気にしない!といつもの調子でツッコミを入れつつも小金はさっきから箪笥の方をチラチラ、チラチラと盗み見している。このキラキラネーム野郎、やっぱりスマビクの特訓を理由にして姫子の部屋に来たかっただけじゃないのか? クラスの委員長をしており、病弱で学校を休みがちな姫子。その大人しい振る舞いと静かな佇まい、背が低くて可愛さ抜群の姫子は男子人気が高い、と小金自身が言っていた。対して小金はクラスの中では地味な方、こうでもしないと姫子と接点を持てないと思ったのだろう。変な行動起こしたら速攻で追い出すから覚悟しておけよ。……ん、俺は一体何様のつもりなんだ? 別にここは俺の部屋じゃなくて姫子の部屋だというのに。


「委員長、僕もお菓子もらうね~」


「……」


本人からしたら満面の笑みを浮かべているつもりだろう、しかし小金の全身から溢れんばかりの下心とムッツリスケベのオーラが笑顔を上書きして気持ち悪い顔になっている。そんな小金を、俺や清水だったら殴って撃退するところだが姫子は何も言わず黙ったまま固まっている。そして俺の方を見て、ちょいちょいと手招きしてきた。お、なんですか? 何か言いたげなので姫子の口元へ耳を寄せる。


「……この人、誰?」


「聞こえた! 耳打ちしているところ悪いけど聞こえちゃったから! 故に悲しい!」


どうやら姫子は小金のことを知らなかったようだ。同じクラスに在籍して八ヶ月は経過しているのにまだクラスの委員長から顔と名前を覚えてもらってなかった小金が普段のツッコミとは違う、真剣にショックを受けたような面持ちで叫んだ。ここは学校じゃなくて姫子の部屋だぞ、叫ぶなよ。いや学校でも叫んじゃいけないけどさ。


「姫子ちゃん、こいつは私の知り合いなんだ。仲良くはしなくていいから存在だけは許してあげて」


「え、僕って存在してもいいですかって許可を委員長からもらわないと存在しちゃ駄目なの?」


顔を覚えられてなかったというのが割りと深刻なダメージだったようで小金の声に張りがない。姫子も清水に対して頷くと俺の方を見てきた。……いやこっち見られてもどうしたらいいか分からないんですけど。小金なんか無視していいよ、下手に絡むと調子乗るからこいつ。それに姫子は男子が苦手だったよな確か。ましてや小金は他人から嫌われそうな顔をしているから尚更だ。加わってウザイツッコミと自嘲癖、仲良くしたくない要素ばかりじゃないか。


「……木宮、僕のこと悪く思ってない?」


なぜか思考を読まれた。なかなかやるじゃないか餅吉君。さて、雑談はこの辺にしておいて早速目的のことを始めようよ。ここへ来た理由、皆でスマビクの特訓をする為だ。俺に関しては連日ここで特訓しているから普段と大差ないのだけど今日は清水と小金も一緒だ。既に準備されている印天堂65の電源を入れる姫子の横にあるコントローラーを持って操作を始める。昨日と変わらぬ光景だ。


「なんかテリーと姫子ちゃん、やり慣れているね」


「最近はずっとスマビクしているからな」


「……」


「ねえねえ僕にもコントローラー取ってよ」


そして皆でスマビクをプレイ開始。まずは小金の実力を知りたいので俺と小金がタイマンで戦うことに。俺の選択キャラは勿論モリオ、赤い帽子と髭が特徴的なスーパー万能配管工おじさん。最近使っていて思ったのだけどモリオって使いやすいしバランスが取れているけど、それが欠点な気がしてきた。バランスが良過ぎるのだ。攻撃力も防御力も平均的、決定打を与えるのが難しい。なんでこんな平凡なキャラを選んだのかちょっと後悔している……いや待て待て、まだここからモリオは真価を発揮すると信じようではないか。恋人と言うと倦怠期だ、この時期を乗り越えた先に新たなステージへと上がれる気がする。その為の特訓だ、小金程度軽く倒さないとね。


「65やるの久しぶりだな~。小学校一の腕前を見せてあげるよ」


小金の使用キャラはキャプテン・ファザコン、ヘルメットを被ってイカしたファッションの細マッチョの男性だ。現代より数世紀先の未来を舞台としたレースゲーム『F-TWO』に登場するレーサーで、64スマビクにおいては屈指の最強キャラ扱いされているとネットには書かれていた。ファックスとヤケチュウを上回る全キャラ最高の歩行速度を誇り、誰よりも地上を速く駆け抜ける。それでありながら攻撃力も高く、一度ハマると抜け出せなくなるコンボ技。それに加えて『ファザコンパンチ』というダメージ値は高いわ吹き飛ばせるわ破壊力抜群の一撃も備えている。ヤケチュウの速さとドンビキーの力を合わせたようなキャラ、モリオが持っていないものを持っていやがる。なんて嫌な奴だ、優秀過ぎるだろ。けど弱点もある、防御面だ。その素早過ぎる攻撃で自滅したり攻撃が当たらなかったりする。復帰力が乏しく一度吹き飛ばされるとそのまま落ちてしまうこともあるそうだ。諸刃の剣ってやつか。


「さあ木宮かかってきな!」


キャラ選択画面でキャプテン・ファザコンを選んだ小金は時間を持て余したのかファザコンの色をチカチカと変えている。ボタンでキャラの外見の色を変更出来るのだ。まあモリオは赤が勝負服だから変更なんてしないけどね。戦うフィールドはポポポランド、残機は3のアイテムなし設定だ。つまり一対一の実力勝負、技術とセンスのみで勝負を決する戦いとなる。自然と手に力が入る俺と小金、負けねぇとお互い闘志が溢れてくる。その後ろで観戦しているであろう姫子と清水。見ていてくれ姫子、君に鍛えられた成果を存分に発揮してみせる。何より小金なんかに負けてたまるか。


「食らえファザコーンパーンチ!」


「開口一番で使う馬鹿がいるかよ」と口から漏れそうになったがそれよりも先にコントローラーを動かす。ファザコンパンチは確かに強力な一撃だけど動きが遅くて隙が大きい、おまけにバトル始まってすぐに使う技ではない。爆炎を纏って拳を撃ち抜くキャプテン・ファザコン、残念ながらそこにモリオはもういないぞ。「ホォ!」と声を上げて華麗に宙へと舞い上がったモリオはキャプテン・ファザコンの後ろへと着地、時間を空けることなく攻撃を放つ。正確にコンボを出せ、確実にダメージ値を稼げ。


「え、え?」


一度コンボから脱出されたらひとはず距離を置いてファイアボールで牽制だ。ファザコンの強烈な攻撃は受けたくない。小金のプレイスタイルは知らないが、初撃から大技を出してくるあたりこいつは恐らくまだプレイの感覚を戻せていない、またはふざけているかのどちらか。スマビクやったことない初心者ならいきなりファザコンパンチを出すのも理解出来るけど経験者がこんなズレた真似をするとしたらこれ以外考えられない。一度態勢を立て直した小金ファザコンが次にした行動は、ファザコンキック。出が速く移動性の高いキック攻撃で、不意打ちや強襲に向いている。ヤケチュウの雷と同じで初心者でも使いやすい技だ。反面、冷静に対処されたら攻撃の起点にされてしまうので空中での移動以外で単発だけで使うのはあまり好ましくない、と俺は思う。これでも暇な時はネイフォンさんの家のネットでスマビクについて勉強してきたんだ。全キャラの攻撃技は一応覚えている、ある程度の対策はある! ここは落ち着いて反撃すればいい、キック攻撃からの↑A攻撃のスマッシュヘッドバットでおっさんが巧みにアタックし続ける。


「な、なかなか強いじゃん。これなら僕も本気出してみようかな」


それがこの戦いで小金が最後に言った言葉だった。多少動きは良くなったものの、小金は弱攻撃からの派生コンボをせず大技や出の速い攻撃を単発で繰り出すだけ。コンボ攻撃をしていく中でたまに混ぜるから強いのに何度もずっと放つファザコンパンチなんて脅威じゃない。モリオのバランスの良さの前にひれ伏すがいいさ。さっきは決定力不足とか言ってごめんな、やっぱりお前が最強だよ。未来のレーサーなんて吹き飛ばせ。こっちはモリオカートでも活躍しているんだよと見せつけろ! またも綺麗に決まるスマッシュヘッドバット、キャプテン・ファザコンを上空へと吹き飛ばして決着。残機を2つ残しての勝利だ、我ながら上手く戦えたと思う! や、やった。俺、強くなっている!? なあ姫子、俺強いよっ。見てた?


「それでね~、テリー焼きそばパンあげたら子供みたいにすんごい喜んでて面白かったよ」


「寧々ちゃん、照久と仲良いね……」


女子二人はお喋りに夢中でこっちなんて見ていない……。小金みたいになっちゃうけどこの時ばかりは小金風ツッコミで畜生!と叫びたかった。


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