第25話 スマビク全国大会開催のお知らせ
「木宮、君に良い情報を与えよう」
昼休み清水と一緒に中庭でご飯を食べていると口元を緩ませながら小金がやって来た。手にお弁当を持って。
「最近寒くなってきたよなー」
「そうだねテリー。そろそろ屋外で食べるのはやめておく?」
「無視しないで!」
お得意のシャウトツッコミをした小金はまるで、はい一連の流れ終えましたよと言わんばかりのノリでしれっと俺達の座る円状のベンチに腰かけてきた。何お前当然のような顔して一緒に弁当食べるみたいな空気出してるの? 誰が許可したよおい。
「ここは俺と清水だけの空間だ、よそ者は去れ」
「木宮酷いよ、僕達親友だろ!?」
友達通り越して親友を名乗る時点でイラつき度が沸点越えなのだがいちいち文句を言ってもウザイ返しが来るだけだから無視して焼きそばパンを頬張る。紅生姜が入っているタイプの焼きそばパンは美味しい、ここ最近で発見した事実である。別に小金とはただの知り合いだろ。清水を通して知り合っただけのクラスメイトだ、親友だなんてありえない。お前とは休み時間とかに交流を取っているだろ。それで十分なはずだ。昼休み、清水といる時は何も気にせずエルフのままの自分で話せるこの時間は貴重なんだよ。二人だけの時間なんだ、帰ってくれ。なあ清水?
「テリーってさ、周りを勘違いさせる発言が多いよね」
「あ、何が?」
「それで姫子ちゃんのことも落としたのかな~」
勘違いさせる発言と姫子に何の関連があるか分からないが、とにかく焼きそばパン美味い。期末考査を終えて打ち上げにも行った。それから数日が経って今日は月曜日。気づけば十二月に入っており、今年一年の終わりを迎えようとしている。この二ヶ月は色々とあったな……なんて感慨深い思い出を振り返るのは年末にするとして、テストは終わったので最近はまた姫子の家でスマビクの特訓をしている。相も変わらず姫子には敵わないが、着実に強くなっている自信はあるぜ。昨日の日曜日も午前中からお邪魔するという暴虐ぶり、姫子の空いている日は逃さず来訪しており、確実に漁火家の人間から「何なのあいつ?」と言われていること間違いなしさ。
「そうだ、委員長で思い出したよ! 木宮に良い情報があるんだ、ゲームについてなんだけどぉ……聞きたい?」
「いや別にどうでもいい」
「ぐうぅぅぅ!?」
唸るなよ、当然の対応だろうが。こいつとの会話にも慣れてきた。基本的に無視するのが一番落ち着く。下手にかまうと調子に乗るからだ。自嘲癖を発動されても気にしなかったらいい。別にお前からの情報なんて求めていないよ。
「まあ優しく聞いてあげてよ、餅吉は見た目の通りゲームに詳しいからきっと何か印天堂についての情報を手に入れてきたんじゃないかな?」
清水は優しいな。お弁当のおかずを口に運びながら小金にフォローを入れている清水、風が吹くたびに特徴的な長髪がフワリと揺れている。サラサラの黒髪なのに毛先は大きくカーブしている。直毛なのかくせ毛なのかよく分からない髪質だが、総じて見ると絹のように滑らかで、指で梳いたら抵抗もなくスッと通りそうなサラサラ加減だ。あと足が清楚エロイ。清楚エロイとは造語であり、清水の足を指す時に使用されやすい。ちなみに考案者は俺と小金。
「ゲーム情報?」
「木宮は印天堂65を欲しがっているだろ? そんな君に吉報だよ」
そう言って制服のポケットから何やら取り出そうとしている小金。発言と同時に素早く取り出すことが出来ず、変にもたついている。そんなんだからお前は餅吉なんだよ、この餅吉野郎。「あれ、あれ?」とまだ時間がかかりそうだな。小金は見た目通りのゲーマー、もといゲームについて精通しているらしい。昔は65持っており、他にも色んなハードを持っていたそうな。65は壊れたらしい。壊すな馬鹿。最近ではネットのゲームにハマっており、清水が言うには廃人になるのも夢じゃないとのこと。ゲームばかりしていると目が悪くなるぞ、やめておけって。ここ最近スマビク漬けの俺が言える台詞じゃないけど。
「あ、そうだった。失くさないよう胸ポケットに入れてた」
「早くしろよ」
「……だよね、どーせ僕は何やってもトロいからね。ごめんなさい」
あー、ウザイ。いいから見せろよ。涙目でブツブツと呟く小金が手に持つ紙を強引に奪い取る。そこに書かれていたのは、
「65版スマビクの全国大会?」
今こそ立ち上がれ、旧世代の英雄達よ!と大きな文字で書かれたチラシ、そこには確かに印天堂65版スマッシュビクトーリズ全国大会の開催と記されていた。スマビクの大会だと?
「Miiが主流の今だけど、こうやって懐古厨向けのイベントもあるのさ。65ゲームの大会は昔大流行したけど、こうして今の時代にやるのは珍しいと思わない?」
ネットで見たことがある、印天堂65が発売された時代は地方や全国でよくゲーム大会が開催されていたと。あまりの熱狂ぶりにテレビで放送もされていたらしく特に人気だったのがスマビクとポロモン、子供達から絶大な人気を誇っていたらしい。今では一般人によるゲーム対戦を放送する番組は皆無で、全国大会も最新ゲームのプレイパッション3と印天堂Miiぐらい。小金の言う通り確かに印天堂65メインの大会は珍しいよ。けどさ、それがどうした。別に俺はスマビクで一位になりたいから姫子の家で特訓しているわけじゃないんだ。ただ65が欲しいだけ、それだけだよ。こんなマニアしか集まらないであろうイベントなんて行ってもしょうがな……ん!? 適当にチラシを見ていたが、一つ、目に留まる文があった。心臓がゾゾッ、と恐怖に似た興奮をして血の流れを速めてきた。その文とは、優勝賞品について。
「優勝者には限定モデルの印天堂65本体をプレゼントだと!?」
「スマビクのロゴが刻印されたシルバーモデルの印天堂65、当時発売された時も相当の高値だったけど今では十数万を越える代物さ。ファンなら喉から手が出る程欲しいだろうね」
限定モデルとか正直どーでもいい。65が、65が手に入る!? この大会、ひたすら勝ち続けて優勝すれば……タダで65を入手出来るだと!? ゲーム店には置いておらず、ネットだと数万円で取引されているあの印天堂65をタダでもらえるなんて夢のようじゃないか。
「大会は今度の土曜日、丁度終業式の次の日さ。どうだい木宮、一緒に参加しないか?」
「小金も参加したいのか?」
「当たり前さ、僕はゲーマーだよ? 昔はスマビクでよく遊んだよ。小学校では一番強かったね」
地域で一番強かったとか言う奴は大体弱いってネットに書いてあったような。まあいい、この大会に勝てば手に入るのだ。念願の65が。……でもよくよく考えたら賭けを申し出て姫子に勝てば通常の65は取れるんだよなー。別に大会出なくてもいいのでは……。いやいや、そうじゃないだろテリー。別の選択肢で獲得出来るのであれば積極的に挑戦するべきだ。それに全国大会、しかも限定モデルが賞品の大会だ。きっと日本界中から腕に自信がある強者がやって来るに違いない。今の俺がどこまで戦えるか試してみたい。きっと姫子が強過ぎるだけで意外と俺はもう全国でも屈指の実力者かもしれないだろ?
「で、参加するの?」
「そうだな、行ってみたい」
俺が頷いた途端、小金の目が汚く光った。注意してほしいのは、汚く、光ったことだ。クパァと糸を引きながら小金が口を開く。
「よしそれなら特訓だね。申し込みは僕がやっておくから任せてくれよそれより今大事なのは特訓だ。僕は昔やっていたとはいえ何年も65は触っていない大会行っていきなり本番なのはちょっと荷が重いよだから特訓したいんだうん。木宮だってもっと練習して大会に臨みたいだろそうでしょ。だからさ65を持っている人の家で特訓しよううんそうしよう。そうなると僕達のお互いの知り合いで65を持っている人は誰か知らないかい。ああそうだ委員長だ委員長そういえば委員長が65持っていたよねあとどうせなら委員長も大会に誘おうよ皆で委員長の部屋で朝まで練習しよううんうん委員長の部屋行こう」
気持ち悪っ! 早口でペラペラと言葉を発していく小金、目は軽く血走っており唾を吐き散らして自身の弁当箱を汚していく。明らかに上ずった口角、下心丸出しの表情、こいつ……本当にゲーマーか? ただの変態じゃないのか?
「要するに姫子の家に行きたいのか?」
「そ、そそんなことは言ってないよ。ただ65を持っているのが委員長しかいないから仕方なく行くだけだよ何を言っているんだい木宮」
で、どうするんだい行くなら木宮から委員長に頼んでよ!と付け加えて小金がジッと見つめてくる。右目は期待の眼差し、左目は下心丸出し。こんな奴を姫子の部屋にあげてはいけないと警報が鳴っているような……。でも確かに特訓は必要だよなぁ、準備に越したことはない。でも小金を呼びたくない。だからといって情報提供者の小金を避け者にするのは駄目だろうし、姫子に聞いてみるか。
「あ、私も参加していい?」
「寧々姉ちゃん!?」
「馬鹿な男子二人の相手を姫子ちゃん一人に任せるのは可哀想だよ。それに餅吉が下着とか盗まないよう監視しないと」
「な、ななななななな何を言っているんだい寧々姉ちゃん。ぼ、僕がそんなことするわけないだろ」
途端に顔中から汗を吹き出しまくる小金。気持ち悪い。目線を泳がせて口をパクパクさせる小金に「気持ち悪い」と言って蹴りをお見舞いしながら清水はこっちを見てきた。アイコンタクトだ。どうやら小金の監視役としてついて来るから安心してよ、と言いたいみたい。助かる清水、あなたがいてくれたらきっと上手く立ち回れそうだ。姫子とも面識があるし、同じ女子がいたら姫子も普段以上に話しやすいだろう。何より俺と小金と姫子って組み合わせはマズイ気がする。小金の対処法は無視が一番だと言ったが、姫子の部屋でこいつを無視するのは危険だ。何をするか分かったものじゃない。
「テリー、いい?」
「ああ、お願いするよ」
「なんか僕が知らないところで会話進んでない!?」
とりあえずは姫子に聞いてみるよ。これで上手くいけば印天堂65が手に入る。それと発電機を買えば……お使いは終了だ。年内には森に帰れそう。目標に向かって大きく前進するチャンスが到来したようだ。




