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第19話 迫る危険、その名も期末考査

「やっと倒せた……あばよマスターレッグ」


「でもノーマルモード」


「う、うるさい」


遂に、遂にストーリーモードのラスボス、マスターレッグを倒すことが出来た。

白い靴下を履いた大きな足、見た目はシンプルだが潜在能力はどのキャラよりも高かった。宙を飛んだり爆発弾を放つこれまでで一番強い敵だったぜ。


二日連続ショッピングモール観光で体力とお金を消費した週末も終わって憂鬱な月曜日のお出迎え。

休日明けの学校はしんどいのは学習済みだ、なんとか授業を乗り切った。

放課後は姫子の部屋でスマビクをプレイ、姫子の部屋に来たのはかれこれ五回目になる。最初の関門のファックスを実力で倒し、苦手だったジャイアントドンビキーもハンマーを使って撃破、メタルモリオという偽物との激闘を制した時は手が震えたね。

雑魚キャラ三十匹蹴散らして最後に現れたマスターレッグには幾度となく敗北したが、これまでの経験とテクニックを総動員してモリオは乱舞し、拳を振るった。

エンディング画面をドヤ顔で見届けて息を吐いてコントローラーを離す。


この五日間ストーリーモードで俺のスマビク技術はなかなか洗練されたと思う。

この勢いで姫子に挑戦してみるのも一興かな。勢いに乗っているモリオならいけるかもしれない。


「姫子、勝負しよう」


「また何か賭けるの?」


「……いや、何もないよ。賭けなしで」


俺が勝ったら印天堂65を譲ってもらおうか、と言えなかった。慢心な行為は控えると誓ったんだ、賭けに打って出るのはまだやめておこう。


スマビクを始めて一週間、十数年以上も前に発売された印天堂65を所有する姫子を相手に良い勝負を出来るかさえ怪しい。

勝ったら印天堂65を譲ってもらおう、と対戦する度に申していたら飽きられること間違いなし。

これからは姫子と実際に戦っていき、じっくり落ち着いて自分の実力を測ってみよう。ノーマルレベルのコンピューターを倒せても姫子を倒せないと意味がないのだから。


「さあ、かかってきやがれ。おらっ、くらえ! くぉ、避け……なっ、ふ、あぁ!? ま、まだ……でやぁ、はああぁあ! ……あ。……つ、強。おらおら、このブタ野郎っ、いい加減攻撃当たれよ! ……うん、そっか」


残機4のアイテムなしポポポランドで一対一バトル。制したのは残機を一つも減らすことなく文句のつけようがない完勝でモリオを玉砕した姫子ブービィ。

これまでのストーリーモードでの特訓がまるで意味がなかったかのような圧倒的力な差、手の震えが止まらない。

ようやく身につけた投げ技からの上スマッシュ攻撃も回避され逆にカウンターの起点にされてしまう始末、最後負ける瞬間には諦めて抵抗をやめてしまった。これが姫子の実力、そしてまだ恐らく本気ではない。


「私の勝ち」


「まだだ、もう一回……いや、やめておこう」


数回挑戦して勝てるファックスやヤケチュウとは違う次元の強さだってのは十二分に痛感したよ、現時点では百回挑もうと敵う相手じゃない。まだまだ練習あるのみ。

もっと良い方向に考えようぜ。プレイを始めて一週間なのにストーリーモード(ノーマルモード)をクリアしたと思えば相当強くなっているではないか。

さらにまだ伸び代があるっ、成長の余地がある次世代を担うエルフの若頭の潜在能力に期待しよう。時間は十分にあるのだから。


「ちょっと一回コンピューターと戦っていい?」


「うん」


「うっしゃあ、レベル7くらいにしておくか。ごめんねぇ、俺ばっかりゲームしていて」


「ううん。私は試験勉強してるから大丈夫」


そっか、それならいいや。

……そっか、あぁね。


……それは良くない、何か引っかかる。

地味に強いレベル7のコンピューターと熾烈な落とし合いをしていた手が止まる。

人間界で培われた危機察知能力が反応、変な胸騒ぎに発汗作用が連鎖して額に汗が滲む。


待て待て待て待て、一度中断して頭を使おう。

スタートボタンでゲームを一時停止、画面がモリオにアップして停止する。が、敵コンピューターの撃ったビームが丁度当たってモリオがビリビリとなって全身が透けて骨が見えているところで停止したのでなんか気持ち悪い。それは視覚的なもので、胸をざわつく気持ち悪さについて真相を確かめなくては。

あまり考えたくないけど、どうも直視しなくちゃいけない問題が立ち塞がっているような気がする。


「姫子……試験勉強してるの?」


「うん。来週から期末考査だもん」


「……さーて、モリオ一機で十連勝くらいしたいな~」


来週から、期末考査、勉強。この単語だけで絶望を味わえたので十分です。

とてつもない壁の大きさを知り、逃げるようにスマビクを再開。ビーム攻撃で吹っ飛ぶモリオを見つめながら心の中は一つのことで埋め尽くされていた。

期末考査、どうしよ?











期末考査、高校に通う生徒に訪れる定期的イベント。

教師共が授業をしっかりと聞いているかを確認する為に、学習成果を評価する為に行われる筆記試験、生徒からすれば普段の授業で学んでいる知識を確かめる為の便利なもの。とは思わねぇ。

学校が求める真面目で模範的な学生ならそう思うだろうよ、勉強が本業と思っているのだから。

だが俺は真面目な生徒じゃない、偉そうに言うことでもないが。

ゲーム機を手に入れる為に高校へ通っていれば何かと都合が良いとネイフォンさんに言われて入った程度の気軽さなのだから。

期末考査なんて知らないね、そう言って唐揚げを頬張りたいところだがそうも言っていられない。


「てことで勉強教えて」


「だから私を知恵袋扱いするな」


水曜日、中庭で調理パンと唐揚げを食べているとお弁当持った清水がやって来たのですぐさまお願い事を唱える。

危機が迫っていても唐揚げは食べます、だって美味しいから。


「何、もうすぐ期末テストあるから焦りだしたの?」


「その通りさ」


「爽やかに言っている場合じゃないでしょ」


「そ、その通りさ……」


期末考査は来週の木曜日から休日挟んで五日間に渡って行われ、明日から丁度一週間前になる。クラブや部の活動もこの一週間は活動禁止となり、生徒全員が試験勉強に励めと言わんばかり。

さすがに焦る、結構焦っている。放課後スマビクやっている暇なんてない。


「テリーって普段から馬鹿だけど勉強に関しても馬鹿だよね」


「義務教育だなんて勉強方針がエルフの森に存在すると思っているのかね人間よ」


「偉そうに言うな」


どーせ印天堂65入手したらこんな人間の世界なんておさらばするつもりだから別に学校の成績なんてどうでもいいと思うんだけど、そうもいかない。

定期試験の結果が悪いと追試がある、一週間スマビク出来なくなるのにこれ以上時間を奪われるのは勘弁してもらいたい。さらに追試の試験でも点数が悪くて、どうしようもない最悪の場合は留年の恐れもある。進級出来ないってことだ、再び一年生をやり直すことに。

そうなると確実に浮いて恥ずかしい思いをするし、姫子とも疎遠になるかもしれん。


それ即ちスマビクとの疎遠、印天堂65入手から遠ざかるってことだ。

なので期末考査は意外と真剣に取り組まないといけない関門なのですよ。

良い点数を取ろうとか微塵も思っちゃいない、許される最低ラインを突破すればそれでいいさ。

だけど途中から転入してきた俺が、しかも小中学校で学ぶ内容もろくに知らない俺が、どうやって試験を乗り切ればいいと言うのだ。


方法は一つ、誰かに教えてもらう。

けれど人間の中で気兼ねなく話せて俺のことを知っている人間でなければならない。

該当者は一人、清水寧々。あなたにしか頼めないことなんだよ。


「この通りだ清水っ、試験勉強に付き合ってくれ」


「はぁ、別にいいよ」


「ホントに!?」


「生活のサポートするって言ったからね、私に任せてよ」


ありがとう清水。やっぱ頼りになります。

この前のショッピングモールではたこ焼きとドーナツを俺の分まで食べやがってと思っていたけど基本的に清水は良い奴なんだよね、うん。

たまに殴ってきたりするがパンをくれるのでお相子、そんな感じで良いこと悪いことを交互にもたらしてくる。なんともランダム要素の絡んだ扱いにくい人間だ。

あっちからすれば俺のようなエルフはそれ以上にタチの悪い存在だと思われているのだろう。


「じゃあ今日から始めるね。放課後教室に残っていて」


「うちのクラスでやるのか?」


「その方がいいから。馬鹿二人の相手は大変なんだろうなぁ」


「ん?」


よく分からないが今日から試験勉強見てくれるんだよね? 

一週間、なんとかして合格最低ラインの点数が取れるくらいには持っていきたい。

これさえ乗り切ればあとはスマビクの特訓に集中出来るんだ。やってやるぜ!


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