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第130話 それぞれの気持ち

「それでさ、僕は思うんだ。僕は彼女を作れないのではなくて作らないだけってね。そりゃ良い人と出会えたら積極的に恋と向き合うけど、ほら、今はそういったビビッと来る女子はいないのさ」


授業が終わって放課後になった。

ジメジメと蒸し暑い日だったが教室は冷房が効いて快適に過ごせた。


「ふぅ、なんだろうなぁ、好きになるって難しいよね……うんうん」


賑やかなクラスメイト達。今からスタバ行こう、今日は部内試合だな、来週合併号かよおぉ!等と様々な内容の会話が飛び交っている。

その中で、俺の横で饒舌に自分の恋愛観を語る眼鏡野郎。小金餅吉だ。

すっっっっっっっっっっごく興味ない。


「誰かを想うこと、誰かに想われること。この関係って簡単そうに見えて実は難しくてさ。一人だけじゃ恋愛は成り立たないよね。相手がいて初めて好きって感情と向き合えると思うんだ」


「姫子、清水、帰ろうぜ」


「あれ、木宮? 僕の話聞いてる?」


「好きな人の前に友達作ってから出直せクソガキ」


「クソガキって何!? 僕ら同い年だよね!?」


小金って何を話してもウザイよな。ある意味才能か?

くだらない価値観をほざくクラスメイトは無視してさっさと帰りましょう。姫子と清水の元へ向かう。

二人は楽しげに雑談していた。非常に微笑ましい光景。小金の後だから余計に澄んで見える。


「それでテリーが全然起きなくてさー、勝手に家電道具運んだの」


「照久はそういうところある」


なぜか俺の名前が聞こえるのですが。

こいつらは何を話しているんだ。俺の醜態を話題にケラケラ笑っているのか?

少し悲しい気持ちになった。


「あ、テリー」


「帰ろうぜ」


「うん」


了承してくれたようで鞄を持って席から立ち上がる二人。

まあ一緒に帰るといっても二人は電車で俺は徒歩だ。駅まで一緒。それでも一人で帰るよりは楽しいので全然構わない。

三人で教室を出る。後ろで恋愛について滔々たる快弁をする男子が叫んでいるが聞こえないフリしておこう。


「さっき何話していたんだよ」


「テリーが部屋の鍵開けても起きなくて爆睡していた話」


やっぱ俺に関する話だった。そして情けない内容だった。

あれは仕方ないだろうが。そもそも平然と鍵を開けるお前がおかしい。


「……照久はたまに間抜け。大会の時もアイマスクで」


「はい姫子さんその話はなしで!」


清水に知られるとマズイことを口走る姫子の口を手で押さえる。な、何を言おうとしているんだこの子は。

アイマスクした俺のせいで姫子がナンパされて連れ去られたことがバレてしまうじゃないか。清水が確実に怒って殴ってくる……。

姫子は口をモゴモゴとさせる、ちょ、落ち着いてくすぐったい。


「おやおや相変わらずお二人は仲良いですねぇ」


ニヤァ~と楽しげに笑う清水。

くっ、その顔やめろ! といつもなら思うが今はニヤニヤしてもらって助かる。変に姫子の言いかけたことを気にかけて追及されたくない。


「そうだ、せっかくだし今からテリーの部屋に行こうよ」


「なぜそうなる」


「どーせ暇でしょ。お菓子買ってダラダラしたーい」


長髪をゆらゆらと揺らして清水は俺と姫子の手を掴んでグイグイと廊下を歩く。

有無を言わせず行動で示すこいつの強引な姿勢はある意味尊敬に値する。はぁ、確かに暇だからいいけどさ。

しばらく進んで正門を出た辺りで「あっ、あぁ~」と何やら喘ぎだす清水。どうした発情期か?


「そういえばぁ、私は今から用事があったんだー。だから行けないやーごめーん。二人だけで楽しんでよぉ」


そう言うと清水はニコッと笑って一人先にどこかへ消え去ろうとした。

この光景、つい最近見たような気がする。

俺が声をかけようとするも清水は無視してどんどん早足になっていく。おい待てよ。


「ぁ……私、今日病院だった」


「「え?」」


歩を止めて振り返る清水。俺の声は無視したくせに姫子の小さい声には過敏に反応した。

なんだこの差は。多少なりとムカつく。小金の次くらいにムカつく。あいつには及ばないけどな。


「え、え、姫子ちゃん通院なの?」


「忘れてた……う、うぅ」


姫子は小さい声で呟くと何やら可愛い呻き声を上げだした。何これ可愛い。

顔を俯かせて口をアヒルのように尖らせている。眉間に寄ったシワが悲壮感を表しているようだ。


「私、行けない」


「そっかー……じゃあまた今度だね姫子ちゃん」


「うん……またね、照久」


あからさまに残念そうな表情をしている姫子を駅まで送った。改札を抜ける時もずっとそんな顔をしていて、


「照久、また今度」


「ああ、そうだな」


「絶対だよ?」


なんで疑っているの? よく分からないけど姫子は恨めしげに俺を見つめて手を振った。そして駅のホームへと入っていった。

まあ仕方ないよな。姫子は体弱いし。病院はちゃんと行った方がいいぞ。


「今日は仕方ないね、次は姫子ちゃんとは今度だね」


「つーかなぜお前は駅に入らないんだ?」


姫子を見送っている時もずっと隣にいる女子に問いかけた。用事があるんじゃなかったのか?


「まぁ細かいことは気にするなエルフ君」


「エルフって言うな!」


「テリーの方が大声で言ってるよ。ほらいいからお菓子買って家行こうよ」


清水に背中をグイグイ押されて歩くしかない。ったく、何なんだお前。











コンビニで清水セレクションのお菓子と俺セレクションのパンを買って俺のアパートへと到着。学校まで徒歩ですぐの距離にあるからあっという間だった。


「テリーはチョコ食べたら駄目だからね」


「はいはい」


清水は部屋に入るとゴロンと寝転がってその体勢のまま菓子の袋を開封しだした。中々に器用な奴だ。

まるで我が家のように寛ぐ姿、ここは俺の部屋だよな?

制服のままだからゴロゴロするなよスカートめくれたらどうするんだ。お前のことだから俺を変態呼ばわりして殴ってくるだろ。なんという理不尽、人間って理不尽!


「テリーの部屋ってテレビないんだよね、つまんない」


「だったら清水が買ってくれよ。家電製品は買ってくれただろ」


「んーとねー、ネイフォンさんからテレビとゲーム機は買っちゃ駄目って言われたの。それはテリー少年が手に入れる物なのさ、だって」


清水はネイフォンさんを真似するようにして低い声で唸った。似てない。

つーかあのおっさん余計なこと言いやがって……確かにその通りだけどさ、買ってもらえるならそれに越したことはないだろ? なんで駄目なんだ……?


「そうだアイスも買うんだったなぁ。次の姫子ちゃんが来た時は買おうねー」


呑気にアイスのことを気にかけている清水だが、手は止まらずお菓子をパクパク食べている。

俺も腹減ったから食べよう、パンを。天ぷらパンの封を開ける。ははっ、昼に食べたけどこの天ぷらパンは当たりだった。美味しかったぜ。


「姫子ちゃん残念だったねー、せっかく二人きりになれたのにぃ」


「……なあ清水」


ん、何?とこちらを見て首をかしげる清水。

……前からずっと思っていたんだけどさ、どうしてお前は、


「どうして俺と姫子をくっつけたがるんだよ。さっき言った用事も嘘なんだろ」


現にこうして清水は俺の部屋にいる。もし姫子が今日通院の日ではなく、予定通り俺の部屋に来ていたら、今この場に清水はいないだろう。

それは清水自身が仕組んだこと。用事があると嘘を言って俺らを二人だけにさせようとしているのは明らかだ。

清水を見ていると、炭酸ジュースを一口飲んで清水は言葉を紡ぐ。


「別に。私は二人のサポートをしているだけよ」


「何のサポートだ。俺らとくっつけようとして、余計なことしなくていいんだよ」


「いやいやぁテリー達はお似合いだって」


質問の答えになっていない。

どうしてこいつは何かある度に俺と姫子を意識させようとするんだ。

姫子がスマビク大会で首都に行く時もそうだったし、映画の時は一人先に帰って、ことあるごとにニヤニヤしている。


「あのな、姫子とは仲の良い友達であってお前が望むような関係にはならない」


清水が望む関係、小金が言っていた好きとか恋愛とか、そういった関係。

俺はあの子を仲の良い友達、親友と思っている。一緒にいると落ち着けて楽しくて、素敵な、この人間界で見つけた大切な宝物。そう宝物、友情だ。決して愛情ではない。


「それはテリー自身が気づいてないだけじゃないのー?」


「はぁ?」


「姫子ちゃんはね、いつもテリーのことばかり話しているよ。あんなに楽しそうに喋る姿を、テリーが転校してくるまで見たことなかった」


何を言っ


「無口で静かで、他にやる人がいないから仕方なしに委員長を務めることになってさ。よく早退して部活も出来ないで、でも今はすごく楽しそうだよ? あんなに嬉しそうな表情出来るんだって私ビックリしたもん」


「……」


「てことでね? 私は姫子ちゃんにもっと笑顔になってもらおうと頑張っているわけですよー」


口笛を吹きながら清水は新たにポテトチップスの封を開ける。

……確かに半年くらい前から姫子の体調が良くなってきたと姫子母から聞いた。俺が人間界に来て、転校して、それから姫子の早退や咳の出る頻度は減ったそうだ。


……それが全て俺のおかげだとは思わないけど、多少は影響を与えていると思う。

清水の次、それと同等ぐらいに姫子と一緒にいる時間は長い。ただゲームをして姫子の部屋でグダグダしているだけかもしれない、けどそれが姫子にとって


……そして俺にとって、かけがえのない時間だった………。


「早く姫子ちゃんと付き合っちゃえよ~」


「う、うるせ!」


こいつのニヤニヤ笑顔が今まで一番嫌だった。なんて顔だ、馬鹿にしているのかテメー。

クソ、なんだよクソ!

……別に、そんなつもりは全然、ない。友情なだけであって決して愛情とかない。小金の言うような恋愛対象、好きと思える相手なわけ……


だ、駄目だ!

変に考えると頭が混乱してしまうっ。

気持ちを紛らわす為に天ぷらパンを口の中に押し込む。むぐ、ぐぐぐっ。

あー美味しい! 天ぷらパンマジ美味しい! なんてこった、こりゃ美味いわ! あはははははははっ。


「てんふわふぁんおいひい!」


「何言ってるか分からないよ」


「おいひいー!」


「あはは馬鹿面だぁ。あはは、は…………うん」


……ん、清水?


「テリーと姫子ちゃんはお似合いだよ。そうなってくれたら私も気が楽になるんだから……」


「清水さん?」


「ぇ、あ、いや? な、ななななな何!?」


何、っていやいやお前が何? さっきまでニヤニヤ笑っていたくせに突然暗い顔してさ。

駅で別れる前に姫子がしていた表情と同じだ。どことなく暗い影があって、悲しそうな瞳を潤ませている。


「こ、こっち見るなアホテリー馬鹿エルフっ」


「エルフは馬鹿じゃねぇ学年九位だぞコラ!」


反論したがパンチが迫ってきたので口を噤む他なかった。

狭い部屋で体を後ろにのけ反ったら冷蔵庫に後頭部を打った。痛い!

ぐおおおおお、この文明の利器がぁ。冷蔵庫だけに頭冷やせってか、全然上手くねーぞ俺っ。


「あー頭痛い、でもパンは美味しい」


「……テリーの馬鹿」


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