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第12話 スコーン系女子と肉うどん系男子

「おっはよー」


「……おはよう、照久」


今日は朝から機嫌が良いですよー。テンション高めに委員長へ挨拶する。

ネイフォンさんが素晴らしい情報を教えてくれた。

エルフの森でゲーム機を使用するのは不可能だと思われていた絶望の状況に光を差してくれたのだ。

発電機という電気を生み出す装置。それがあれば電気の供給がなされていない森の中でも電気を生み出し、その電力でテレビ画面及び印天堂65を起動させることが出来る。

森でのゲーム使用が実現するってことだ。

恐ろしい、なんでも揃ってやがる人間界。森でゲームをする為の道具もあるなんて、なんとエルフにも優しい物作り国。

発電機に関しては多少金がかかるけど金があれば買える。

あとは印天堂65を手に入れることが出来たら目標は達成したも同然。

やはり問題は65をどうやって入手するかだ。

大金注ぎ込めば買えるだろうけど発電機とモニターを買うことを考えると現実的ではないよな。

いつまでもネイフォンさんに援助を受けるわけにはいかない、生きる為の金を自分で稼いでその上で発電機とモニターを買う。

そうなるとプレミア価格の印天堂65にかけるお金の余裕があるはずがない。


やはり委員長から譲ってもらうのが理想的、タダで入手出来る方法があるならそっちを選択するのは至極当然。ゲームで勝つだけでいいんだ。数万円も払うのは馬鹿げてるね。

そんな金があったらフライドポテト買い占めてやりたい。


「委員長、今日遊び行っていい?」


職業学生の奴が金を稼ぐにはバイトをするしかない。

バイトはそのうちテキトーに始めるとして今最優先でやるべきことはスマビクの練習。

委員長と五分五分の勝負が出来るくらい上達しないとお話にならない、ゲーム機触ったのがついこの間の初心者が上手くなるには知識とか戦術云々の前に練習するのみ。

操作に慣れて経験値を積むことが第一であり全てだ。クラスで唯一65を所持する委員長の家に通いつめるべし。


「……名前」


「あ、ごめん姫子。スマビクやらせて」


「……今日は駄目」


「え、今日も?」


昨日も断られてまたしても駄目ですか……。

三日連続で遊べた週の初めが嘘のようだ。今日を逃したら当分出来ないってのに。

今日は金曜日で明日から学校が休み、また月曜日に学校が始まるのを待つしかないのか。

なんてことだ、学校が待ち遠しいだなんてイカれたことを願うことになるとは。

委員長、何か用事があるのか? 

でもここで退くわけにはいかねぇ、今日を逃して土日もスマビクしないとなると四日間もやっていないことになる。

スマビク初心者に必要なのは慣れ、その慣れが薄れてしまうのは致命的。

こうなっては強行手段を取るしかない。土日だろうが関係ない、なら明日だ!


「あ、明日は駄目かな?」


「明日はいいよ」


「うしっ、じゃあ明日の朝九時に行くね。バイバイっ」


「あ……」


よっしゃ、なんて機転の利くエルフなんだ俺は。自画自賛の嵐が吹き荒れるぜ。

今日は駄目なら明日すればいいじゃない。休日だろうが関係ないね、テスト二週間前だろうと全然関係ない。

しかも朝からスマビクが出来る、いつもは夕方から一時間ちょいしかやっていなかったのが明日はなんと朝から夕方まで長時間遊べるのだ。

メキメキと上達すること間違いなしさ。そしてあわよければ昼食をご馳走になろうと考える無駄のない作戦。

脱帽だね、脱帽。己のセンスに脱帽ですわな~。

今日は委員長の家に行けないから放課後どうしよう……バイトについて調べてみるか。






「てことでバイトの仕方教えて」


「……テリーさ、私のこと知恵袋扱いしてない?」


「ベストアンサーを求む」


昼休みはいつも通り清水と一緒に食べる。

今日の昼飯は昨日の朝から決まっていた。肉うどんだ。なのでいつもみたいに中庭では食べず食堂に来た。

うどん独自の太い麺は飲み応えがあって箸が止まらない、ラーメンと違ってクセのないアッサリとしたスープは肉の旨味とマッチして食欲そそる。十分にラーメンとの差別化が出来ている。美味っ。

……差別化って何だよ。まあいいや。


「求人広告見て電話して採用されたらバイト出来るよ。場合によっては履歴書が必要になるから用意した方がいいかもね」


「履歴書って何だ?」


「自分の経歴や現在の住所とか書く紙のこと。顔写真もいるから証明写真撮らないといけないよ」


「証明写真?」


「あぁあもう森帰れよ!」


清水が爆発しちゃった。

食堂に響く清水の叫び声だったが周りも結構うるさいので注目する人はいない。

そんな乱暴な言い方しないでよ、ナウのシカさんはもっと優しいニュアンスで言っていたよ? 

ともかくもバイトをするにも色々と準備がいるわけですね。

人間界は本当面倒臭い、何をするにしても準備やするべきことがあって大変だ。人間にとっては当たり前の前準備がエルフにしてみたら難解極まりないことも考えてもらいたいところだ、電車を使うだけでどれだけ精神削ると思ってやがる。


「で、明日は姫子ちゃんとデートなんでしょ?」


「デート? 一昨日みたいにスマビクやりに行くだけだよ。つーかなんで清水が知っているんだ?」


あの時清水はうちのクラスにいなかっただろ。


「それくらいの情報は一限目終了後の休み時間には伝わってくるよ。何せ鉄壁の姫子ちゃんと噂の転校生の話題だからね」


「そうなんだよ、委員長の使うキャラはどんな攻撃も完璧にガードしてまるで鉄壁でさ~」


「……はぁ、エルフってこんな奴ばかりなのかな」


呆れたようにパンをモサモサ食べる清水。

スコーンという名前のパンらしい、ポロポロと口元から崩れカスが落ちている。

モサモサ食べてる清水の姿がちょっとだけ可愛いとか思った俺は負けなのだろうか。

両手でスコーンを持って食べる仕種が可愛いのかな。だとしたら委員長がスコーン食べたら一体どれほどの威力になるんだ? 

日本界のモダンな言い方で言えばスコーン系女子ってやつか。

他に肉食系男子とかいるらしい、俺も肉好きだから肉食系になるのかな。


「それだけ仲良いのにお昼は一緒に食べないんだね」


「別にそこまで仲良しじゃねぇよ。それに俺は清水の方がいい」


「それって……」


「たまにパンくれるから」


「乙女のドキドキ返せ!」


「ぶべらぁ!?」


いきなり殴ってくるなよ! 

スコーン系女子の痛烈な肘打ちが顔面にクリーンヒット、栓を抜いたように鼻血がとめどなく溢れる。

ビンタとか叩くとかの軽い攻撃ではなくて的確に大ダメージを与えられる肘打ちを容赦なく放ってくる辺り、清水の恐ろしさが滲み出ている。

ちょっとでもこいつのこと可愛いとか思ってしまった自分が腹立たしい、エルボーぶちかます奴が乙女だと? そんなわけあるか、辞書で調べ直してこい。

血のトッピングで染まっていく肉うどんの汁を啜りながら清水を睨みつける。

男相手だったら反撃してやるが仮にも清水は女の子、天真爛漫ヒステリック暴力女とはいえ手を出すのは紳士として絶対にやってはいけない。

この理不尽な粗暴に対する怒りのぶつけどころが欲しいな。遠慮なく殴れる友達が欲しい、というかまともな男子友達がいないから寂しい。


「姫子ちゃんはどうしてこんな馬鹿エルフのことを……後で聞いてみるか」


「委員長ならもう帰ったよ」


「え、そうなの? 相変わらずだね」


相変わらず? 何か知っているみたいな言い方だな。

委員長は午前中の授業は終わって昼休みになると帰り支度をしてお昼も食べずに帰った。早退というやつだ。

この高校にやって来て一ヶ月半、委員長は何度か早退していた。

それに学校に来ない日もそこそこあった。ちなみに俺は無遅刻無欠席だ、エルフの名に恥じない功績ですぜ。

学校を欠席可能な理由として風邪引いたとか怪我をして入院中とか異世界に飛ばされてチート勇者になりました等が挙げられるが果たして委員長がよく休む理由とは何か。

清水が何か知っているっぽい。


「姫子ちゃんは体が弱くて体調崩しやすいのよ。入学した頃から欠席多かったな~、最近はそうでもなかったみたいだけど」


「へぇ」


「素朴な疑問なんだけどエルフって風邪引くの?」


素朴な疑問だな。エルフだって風邪引くに決まっているだろ。人間が風邪引いたり怪我するのと同じだって。

人間界には車や電車とか危険な物体がそこら中を動き回っているから怪我する比率も高いだろうし、人口も多いから風邪の感染も多々あると思う。

だから治療技術に特化された病院が建設されたのだろう。

エルフは滅多に怪我なんてしないからな、それに風邪引いても気合いで治すのがエルフの心意気だ。

大抵のものは寝ていれば治ると爺さんから教わった。だから俺は人間界で風邪引いても決して薬なんて脆弱なものには頼らないからな。気合いと睡眠で乗り切ってやるさ。


「病気は気持ちの問題なんだよ、強い心と思いがあれば風邪なんて吹っ飛ばせるさ。だろ?」


「鼻血垂らしながらドヤ顔されても困るんだけど」


「おい清水テメー、この怪我は誰のせいだと思ってやがる」


「強い心と思いで治せばいいじゃん」


……爺さん、ちょっと俺もしかしたら今から女の子に手を出すことになるかもしれません。

なんて態度の悪い奴だ、戦慄すら覚えた。

スコーンを両手で食べて可愛い素振り見せやがって。

こっちが油断したら躊躇なくエルボーを打ち込んでくる、時代が時代なら名のある武芸者として活躍していたのではなかろうか。

しかしこんな生意気で凶暴なゴリラ系女子でも俺にとっては唯一気兼ねなく話せる人間。大切にしていかなくちゃいけない。

清水に見捨てられたら今後生きていける自信がないよ。


「そのスコーンってパン美味しい?」


「うーん、美味しいけど食べにくいかな。テリーも食べてみる?」


「じゃあ一口もらうわ」


もらえる物はもらおう。だって損はしないから。もらって損する物なんて十五年の人生で受け取ったことがない。

強いて挙げれば爺さんから受け継いだエルフの聖鞄くらいかな、なんかイラッとしたから。

あと清水のくれる炭酸飲料くらい。それ以外では損したことない。


「モサモサして美味いなこれ」


「月曜日買ってきてあげるよ」


「え、ホント? 清水ありがとう!」


やっぱ清水は良い奴だ~。

肘打ちとか平気で殴ってきたりするけど俺は知っているよ、君がとても良い奴だって。

可愛くて素敵な人間、もう最高です。


「あー、馬鹿だけど笑顔は純粋なのよね。その辺に姫子ちゃんやられたのかな」


「美味っ、これ美味いなおい!」


「話聞けよ」


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