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第125話 屋上でお昼

「で、こんなところにまで呼びつけて何ですか」


「そうツンツンするなよ、飯でも食べながら話そうぜ」


昼休み、屋上へと上がった。

ここは如月の一件で、まあ表向きは原因不明の爆発によって壊れた屋上。現在は誰も近寄らない場所になった。元より施錠されていて一般生徒が立ち入ることは不可能だったが。

職員室で厳重に保管されてある鍵を使わない限り屋上へ上がる正攻法は存在しない。そんな不可侵の場所に俺と日野は立っている。


鍵を使わずにここへ来るには俺の知っている限りで二つある。

一つは風魔法を使って浮遊して来る方法、もう一つは最上階の窓から屋上へ跳び上がる、以上だ。

一つ目の手段はシルフ族しか出来ないだろうし二つ目もエルフ並の脚力がないと実現不可。よって人間の生徒がここへ来ることはまずありえない。

故に日野との密会場所をここへ指定した。風が吹いて気持ち良いね、なんとなく。


「あなたと違って私は一緒に食べる友達がいるんですけど」


相も変わらず毒舌が過ぎる日野愛梨。

一歳の差とはいえ先輩、ましてや族長の孫に対する敬意は微塵たりもないようだ。おまけにさりげなく俺には友達がいないみたいな解釈をされている。

まぁまぁ、ここまで来たんだし大人しく一緒に昼飯食べようぜ。テキトーに座ってパン袋を開ける。今日はピザパンだ。とても楽しみだぜ。


「十の四の森以来の再会じゃないか。お互い積る話があるだろ?」


「私はありません」


「そーですか。じゃあいいや」


日野が話を聞いてくれそうにないので俺も会話をやめる。ピザパンを頬張って悦に浸るモードへと移行。


四月に起きた隣市の工場爆破事件、原因不明の屋上や学校周辺の道路の崩壊、その原因がシルフ族という風の民の仕業だとか色々話がしたかったがまあ別にしなくてもいいやと考え直した。


話すの面倒臭いし、もう終わったことだからいいや。

久しぶりに日野と会えてテンションが上がっていただけのようだ。今はもう冷めてしまって毒舌を受けてげんなりしている状態。

大人しくパンを食べてさっさと帰るか。あー、風が気持ち良い。屋上に吹きつける風に目を細めながら地べたに座ってピザパンを食べ終える。

と、その横に日野が近づいてきて、


「せっかく屋上まで来たので仕方なく付き合います」


取り出したハンカチを敷いてその上にちょこんと座る日野。距離は近いけどこちらを見ることはなくブツブツ文句を言いながらお弁当箱を開いている。

お、おお? もう帰るのかと思ったからビックリだ。

ピンク色の可愛らしいお弁当箱を開け、昼食を食べる日野。

相変わらず美味しそうな弁当だな。日野の手作りだろう。茶色の宝石ミートボール、ピンクの衣纏った緑の精鋭アスパラベーコン巻き、食界のトパーズ卵焼き、豪華なおかずをチラチラと覗き見しながら『揚げビーフカレーパンver.辛味の極み』と書かれた袋を開ける。

今朝コンビニで買った時は店員さんに温めてもらったけど今では冷めてしまっている。悲しい、そして辛い。何これ辛っ。


「まさか同じ高校に入学するとは思わなかったよ辛っ」


「変な語尾つけないでください」


美味しそうで健康的なお弁当を食べ始める日野。

その横で俺はカレーパンの辛さに悶えていた。うわっ、辛いよこれ。野菜ジュースで流し込んだ後も口の中に辛さが残っている。


「そういや茶髪に戻したんだな」


「黒く染めてもまた茶色になって逆プリンみたいになるので」


ん? 意味不明な日本語使うなよ。何だよ逆プリンって。

よく分からないので、ははっと微笑んでいると「意味も分からないのに笑わないでください」と日野に怒られた。


「いやー、今日も良い天気だな」


「入学してから二ヶ月経って今日初めてあなたに会いました」


ご飯を小さな口元に運びながら日野はそう呟いた。

もぐもぐと可愛らしい咀嚼をした後、こちらをじっと見つめてくる。つり目が不機嫌そうに見えるのはいつものことか。


「……私のこと避けていました?」


「はぁ? なんで俺が日野を避けなくちゃいけないんだ馬鹿」


「うるさい馬鹿」


馬鹿って言う方が馬鹿なんですー。てことで俺らどっちも馬鹿。

別に日野を避ける理由はないだろ。強いて挙げれば毒を吐かれることくらい。


「いやちげーよ。俺は日野がここに入学したことをさっき知ったんだぞ」


「じゃあどうして」


そりゃあ俺が一ヶ月間学校に来ていなかったからだよ。

最初はそこから説明するつもりだったけど、なんかもう面倒だよね。言わなくていいや。


「え、というか何? お前は俺に会いたかったの?」


「そ、そんなわけないでしょ。ふざけないでください服ダサイくせに」


服ダサイの関係なくない? なぁ、服がダサイの関係ないよな?

その辺の関連性を詳しく聞いてやろうか。ものすげー面倒臭い話し相手になってやろうか!?


「相変わらず顔面は終わってますね」


「エッジの効いた誉め言葉かな?」


「キモイってことです」


はっきり言われるとキツイわぁ。

プイッと視線を逸らして食事を再開する日野。

クソ、この生意気娘が。


「……」


「……」


沈黙が続き、風の音だけが耳を掠める。空は青く澄み渡り、とても気持ち良い。

中庭の茂みも素晴らしいが、たまには屋上で食べるのもいいかもしれない。清水を誘ってみようかな。

あー、でもあいつここまで来れないか。まずは脚力を鍛えてもらおう。


「妹と村長があなたに会いたがってます」


一生懸命筋トレをしている清水を思い浮かべていると突然話しかけられた。


「あ、ああ。エミリーちゃんとあの三つ編み爺さんか」


思い浮かぶ十の四の森。穏やかで豊かな森林、その中で賑わう村。とても良い場所だった。

三つ編みのジジイが村長をしており、その補佐として苦労の絶えないトフィニさん達。そして無垢な瞳でキラキラとこちらを見つめる日野の妹エミリーちゃん。また会いたいものだ。


「手紙をもらうといつもあなたの名前が書かれています」


「手紙? どうやって届くんだよ」


「村長の飼っている鳥が運んでくれます。族長も飼っているでしょ」


そうだっけ? ジジイの部屋はゴミだらけで汚いから知らなかった。

確かに俺のところにも手紙は届く。受け取っているのはネイフォンさんだが。

どうやら族長や村長は遠くの同族と連絡する手段を有しているらしい。

ちなみに俺が入院している間、爺さんから手紙は来なかった。クソジジイ。


「……私は夏休みに帰る予定ですけど、一緒に来ますか?」


「え、いいの?」


「私は嫌ですけど、すごく嫌ですけど村の皆が待っているので仕方ないですね」


渋々、しょうがない、やむを得ず、といった顔をしている日野。

やっぱ俺のこと嫌いなんだな。こいつと結婚話が持ち上がったけど絶対無理だわ、お互いに。


「じゃあ帰る時は声かけてくれよ。ありがとな」


「でしたら、その、えっと」


「?」


何だよ急にしおらしくなって。少しだけ顔を俯かせてモジモジとしている。トイレか?と聞くのは最低なことらしい。清水から学んだ。


「じ、じゃあメアド教えてくださいっ」


……めあど?


「IDでもいいですよ」


あいでぃー?


「日野、何を言ってるの? もしかして携帯電話のこと?」


「そうです」


「あー、えっと、その」


「……もしかして携帯持っていないんですか?」


その質問には答えず、残りのカレーパンを口に放り込む。ぐああ辛い。

携帯電話とか高い物持っているわけないだろ。そんな金があったらゲーム機買っているよ。


「……駄目駄目ですね、ダサイ人」


「何がだよ!?」


溜め息つく日野の横で辛さに悶えるしかない俺であった。


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