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第124話 茶髪の後輩

「ほら見てよ木宮ぁ、これ今度出る新作ゲームのヒロインなんだよ。可愛くない?」


「お前の顔キモイな」


「あれ、僕の顔面について討論していたっけ?」


休み時間、野菜ジュースとパンを買おうと売店に向かうべく席を立つと小金が見計らったようについてきた。

何も言わず追ってきたと思いきや手に持っていた雑誌を広げ、そして何やら熱いトークも繰り広げている。


さも当然のようにジュース買いに行くのについてきているけど俺は何一つ許していないからな。

許可なしでついてくるなよ。スライムですら仲間になりたいのですがよろしいでしょうか?と一文添えてお願いするのにお前は最低限の礼節を知らないのか。

ゲーム雑誌の前にマナー教本買ってきやがれ。


「今ね、木宮が何考えてるか分かる気がするよ。僕の悪態ついているでしょ」


「んなわけないだろ誰がテメーごときに思考を費やすかよ。自意識過剰なんだよ餅キチガイ」


「もはや口に出てるから! 今日一でショック!」


すぐ横で叫ぶなって気持ち悪いから。


一ヶ月入院して久しぶりに登校した翌日のこと、小金餅吉というクラスメイトの男子が執拗に話しかけてくるのだ。

昨日も親しげに話しかけてきたが正直言って覚えていなかった。最初は誰だお前?状態で、清水に聞いてようやく思い出した次第。

それから親友のように何かある度に話しかけてくる小金。

存在を忘れていたお前と親友になった覚えはないんだけどな。

いつも同じ眼鏡かけやがって。なんでセンター分けなんだ、額に第三の目でも移植する予定があるのか。


「いやぁ二次元最高だねっ」


そして尚もゲーム雑誌を見せてくる小金。

お前の趣味は分かったから、もういいって。

別に軽蔑もしなければ批判したりしないよ。その代わり押しつけてくるな。

というかなんでこいつはこんなにグイグイ来るのさ。

ただ清水の知り合い同士で少しだけ話した程度の仲なのに、まるで親友と肩を並べているような顔をしている小金。

勘弁してもらいたいものだ。こちらの認識としては清水の知り合い程度なのだから。


「それより見てよこの子、下乳ヤバくない?」


「お前の頭の方がヤバイよ」


だから雑誌をグイグイ近づけてくるな。あぁムカつく。

あんまりゲーム雑誌は好きじゃないんだよ。爺さんの顔が蘇るから。

この人間界に来た理由は印天堂65を手に入れる為。族長命令を受けてはるばるやって来たのだが元凶を辿れば森に捨てられたゲーム雑誌のせいだ。誰か人間が森に捨てたゲーム雑誌のせいで爺さんがゲーム機について知ってしまった。


おかげで俺はこうして人間臭と人間熱気に溢れたコンクリートジャングルでバイト生活を余儀なくされたと言って間違いない。

おまけにシルフ族に殺されかけるし。ゲーム雑誌を見ていると忌々しい記憶が再び沸々と煮えたぎってくるんだよ。あー、怒りで腹減ってきた。

間食程度に一つ買うつもりだったけどここはパンに加えて唐揚げも買うか。

ジューシー唐揚げに身も心も胃も癒してもらいたい。


「共感出来ないから大人しく教室に戻れよ。俺は食い物買ってくるから」


そう言って少しだけ歩くスピードを速めてみたが退くどころかさらについてくる小金餅吉。やっぱついて来るのか。


「僕もついていくよぉ。まあ確かに性欲じゃお腹は満たせないよね~」


「俺のミルクで女の子を腹一杯には出来るけどな」


「そこそこえげつない下ネタぶっこんできたね!」


「え、ぶっかけ?」


「なぜさらにアクセル踏んだし!?」


我ながらゲスイ発言をしてしまったな、気持ち悪かった。こればっかりは小金のツッコミが的確だと思う。

どうするんだよ、今の発言を清水に聞かれていたら。確実に殺されていたよ。

というか女子に聞かれたらアウトだったな、学校追放もありえたのでは? 


とにかく余計な下ネタは控えるとして急いで売店に向かうか。

小金の相手なんてしている暇はない。次の授業の準備もしなくちゃいけない、買ってすぐに食べて胃に納めなくては。

朝ご飯ちゃんと食べたのに腹からひもじい音が聞こえてきた。

これが成長期というものか……いくら食べても腹が満足することがない。十代の胃袋には感嘆しちゃうよ。

このままの勢いで食べ続けるとせっかく貯めたバイト代が減ってしまうなぁ。そろそろ本格的に自炊を始めないと。


「そこのあなた」


ん? 再び雑誌を押しつけてくる小金の振り払いながら小走りで廊下を進んでいると突如声をかけられた。

明らかにこちらに向けられた声、とりあえず声のした方を振り向くか。


そこには一人の女子生徒が立っていた。

髪を後ろで結っている。猪の突進みたいにズカズカとこちらへ詰め寄ってくる動きに連動してフワリと揺れる馬の尻尾ことポニーテール。

距離一メートルのところまで接近して腰に両手を当ててジロッと睨んできた。

白い肌と光る目、清楚であり凛として堂々と睨む姿に思わず足が動かせなくなる。

何よりも目につくのは、窓から差しこむ太陽の光を浴びて輝く明るい茶色の髪の毛。金色を帯びて眩しい。

俺と同じ髪色、同じ眼の色。こいつ、もしかして、


「何しているんだよ、日野」


「それはこっちの台詞です」


姫子以上清水未満の身長、とはいえ俺と比べて頭一つ分ぐらいは背が低い。自然と上目遣いで睨まれてしまう形になる。

日野愛梨、まさかこいつが同じ高校にいるなんて。


同じ髪の色をしているこの子、実はエルフだ。

同族の女子で本名はアイリーン・ウッドエルフ。アイリーンだから愛梨という安易な偽名。

そう言うとテリーだから照久のあなたに言われたくない的なことを言われた記憶がある。

あの時は黒髪だったのに今は茶髪になっている。

地毛は茶髪だけど人間界に留学するにあたり、より人間に成りすます為に染髪液で黒色に染めていたらしい。

今の茶髪が本来の髪色、綺麗なポニーテールを揺らしてこちらを睨む日野。

なぜ睨まれるか分からない、なんだよ。


「久しぶりだな。ここの生徒だったんだ」


「先月入学しました」


「てことは一年生か。俺、二年生だからよろしく」


「うるさいです、そんなことは聞いていません。勝手に喋らないでください」


相変わらず毒吐きやがって。

日野と出会ったのは人間界、その時はこいつをエルフだと見抜けなかった。

初対面から毒舌を吐かれて会う度に罵倒されてばかり。その日のコンディションによってはイラついて拳が唸っているところだ。


十の四の森以来久しぶりに会うのに接し方は変わらず、か。

命の恩人に対する態度じゃないよなそれ。まあ日野らしいから別にいいけどさ。

まさか同じ高校に入学していようとは。同い年と思っていたけど一つ年下だったのか。へへ、俺先輩ですわ。


けど日野には大して関係なさそうだな。

二年生だと、先輩だと告げた直後にお前喋るな発言。こいつぁキツイ。小金だったら一発で自嘲癖モードへ入っているだろう。

ジト目で睨む日野と視線を合わせながら苦笑いで場を誤魔化す。

すると隣から肩を叩かれて振り向けば小金がオドオドしながら唇を震わせていた。


「き、木宮……この子、知り合い?」


「んー、まあ知り合いかな」


同じエルフ族の仲間なんだぜ、とか言うことは出来ないので言葉濁して説明するしかない。

というか小金邪魔だな。日野とは話したいことが結構ある。でも人間の小金がいると話せない内容なんだよなぁ。

てことで小金を肘で小突いて距離を開けさせる。


「あぁん」


気持ち悪い声を出して悶えるクソ眼鏡野郎は無視して日野へと一歩近づく。「な、なんですか近づかないでくださいっ」と唸る日野。

一歩くらい許してくれよ。密着した仲じゃないか。猪の突進から日野を助ける為に抱き上げただけなんですけどね。

耳元へ手を添えて小声で素早く言葉を告げる。

ちゃんと聞いてくれたようで日野はコクリと小さく頷いて俺の腹を殴ってきた。

ぐっ、なぜ殴る。了解したならその旨をジェスチャーか言葉で返事すればいいだろうが。


「じゃあまた後で」


スタスタと歩いていく日野。

ったく、俺は族長の孫だというのに。あいつには次期族長を敬う気持ちはないのか。

せめて今は同じ高校の先輩後輩の関係なのだからもう少し後輩らしく接してほしいものだ。


「き、木宮! どうして君の周りには可愛い子ばかり集まるんだい!?」


「うるさい、お前にだって可愛い子いるだろ。その下乳ヤバイ子が」


結局小金が騒がしくなっただけで売店に行くまでのストレスが増えただけだった。

なんで今日に限って自嘲癖モードに入らないんだよ。ああ面倒臭い。


「じゃあ木宮にこの雑誌あげるからさっきの女子生徒を紹介してよ」


「いやいや、お前には病院を紹介したいよ」


「なんで!? 僕の頭は正常だよ!?」


「整形外科の方だって」


「まだ顔のこと言っていたのか! ファック!」


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