第11話 新たな発見と揚げたてフライドポテト
「ややっ、テリー君じゃないか。こんなところで奇遇だね、買い物かな?」
「ピザまんにするか唐揚げにするかで悩んでいます」
「はっはっは、レジ前にずっと立っていると店員から嫌がられるぞ」
学校終わりにコンビニへ立ち寄ったらネイフォンさんと会った。
部屋の外で会うのは久しぶりだ。
いつもは夕飯を食べているとネイフォンさんが部屋に飛び込んできて一緒に食べるのが定番なのだが。どちらもコンビニ弁当なので夕食をもらいに来ているわけではなく、ただ俺の様子を見に来ているだけ。
くたびれた外装と生え揃わない無精髭、やせこけた頬、妙に高い鼻にずり下がって乗っかっている眼鏡と爆発頭の茶髪。
ホームレス査定なるものがあったら問答無用で一級ホームレスの称号を獲得出来るであろう外見のネイフォンさん、誇り高きエルフ族のオーラは微塵も感じない。
コンビニの店員さんも邪険そうに見つめている。
あ、違う。この視線は俺に向けられているのか。かれこれ十数分間、夕飯前に食べるホットフード何にするか一人会議で突っ立っていたからな。
あはは、すいませんね。早く決めたいけどこのタイミングで揚げあがったばかりのフライドポテトが第三の選択として登場したのでもうしばらく会議は続きそうです。申し訳ない。
「しょうがないな、おっさんが全部買ってやるよ」
「本当ですか? じゃあピザまんと唐揚げチャンとフライドポテトください」
「あれ、さりげなくポテト追加してない?」
いや~、持つべきは年上の知り合いだ。
十数分以上にも及ぶ脳内会議に瞬息で終止符を打ってくれた。
高校生の些細な悩みをすっ飛ばしたよ、大人の財力に感嘆が漏れちゃうぜ、そして濡れちゃう。
「あっりがとしたー」
「テリー君、私にもピザまんをくれ」
「すみません全部食いました」
「あっはっは、同族に殺意覚えたのは久方ぶりだよ」
ピザまんの味わい深さと旨味を凝縮したソースを堪能して、唐揚げのジューシーな肉質に歯と舌を唸らせ、塩味の効いたフライドポテトで締めくくる。
ホットスナックの三連撃はファックスのコンボにも匹敵する威力だな、美味過ぎる。
途中からネイフォンさんがポテト半分をガッツリ奪っていった。
このおっさんはよぉ、フライドポテトを一本ずつ食べる趣深さを知らないのか。一気に食べるなんて大雑把な食い方しやがって。
「テリー君、お金の方は大丈夫かい?」
「あと一万ちょいですね」
「次の仕送りまで半月あるけど死ぬなよ~」
夕日が沈む茜色に染まった道をネイフォンさんと並んで歩く。
この時間帯になると気温が急激に下がって冬の到来を肌で感じる。冬服は買ったし、後は暖房器具を買えば冬の準備はバッチリだろ。
今の家に暖炉はないから人間界で普及している暖房器具が必要となる。炬燵とかストーブとかよく分からんやつだが、まあネイフォンさんに教えてもらおう。
お金もなんとかなるでしょ。最悪焚き火すればいいし。
河川敷で焚き火とかホームレス検定準二級レベルだな。ホームレス査定があればの話だけど。
「それでどうだね、最近は」
「印天堂65を手に入れる算段が着きました」
「へぇ、何かあったみたいだね。というか欲しかったゲーム機って印天堂65なの!?」
弁当屋さんに来店、いつも夕飯はここで買っている。
俺はのりタルタル弁当、ネイフォンさんは竹・幕の内弁当を注文した。
出来上がるのを待ちながら近況を報告する。クラスで唯一印天堂65を持つ委員長こと漁火姫子と出会ったこと、いつか譲ってもらう為に今は委員長の家でスマビクを特訓していること等。
今日も委員長の家でスマビクをしたかったけど委員長が所用の為、大人しく帰ることにした。そしたらネイフォンさんと偶然会ったわけで。
委員長だっていつも暇なわけないよな、よくもまあ三日続けて付き合ってくれたよ。でも委員長って部活してなかったし、何の用事かな? 塾に通っているのか。学校での授業では飽き足らず学外で勉強するなんて酔狂な人間もいるんだな。
「といった感じです」
「女の子とは仲良くしておきたまえテリー少年。青春を謳歌するべきだよ」
青春ねぇ……。
こちらとしては印天堂65さえ手に入ったらそれでいいんですよ。
俗に言う恋人なんて欲しくない、欲しいのは印天堂65のみ。
一昔前は家庭用テレビゲームのトップに君臨していた印天堂65、今ではその座を後輩のMiiに奪われて人々の記憶から消えていった憐れなゲーム機。
ゲーム店でその姿を見ることはなく、ネットのオークションで当時の定価を大きく上回る高値で取引されるという人気がなくて逆に価値が高くなったゲーム機。
おかげで買うことが出来ない。ただでさえ森でのテレビゲーム使用が不可能だというのにゲーム機本体すら手に入れられないなんて。
目的達成はいつになることやら。
弁当を購入した後はお決まりの俺の部屋で食べるだけ。ネイフォンさんも嬉しげに弁当の蓋を開けている。
「それにしても神社の子かー。懐かしいね」
「え?」
「ん?」
んん? まあいいや、とりあえず弁当食べよ。
のりタルタル弁当のコスパの良さに舌を巻き、そして舌鼓する。白身魚を揚げただけでは飽き足らず、タルタルソースという謎の白ソースをかける潔さと勝負心。
海苔を敷いたご飯との相性は抜群だ。まずタルタルソースが美味しい、このソースだけでご飯数杯はイケる自信がある。
お米とタルタルソース買えばある程度食費を抑えられるかも、そろそろ人間界での自炊も始めていこうかな。
「そうだ、テリー君に素晴らしい情報があるんだ」
「プラス何円かでお弁当のご飯大盛りに出来るのは知っていますよ」
「違う違う、森でテレビゲームをする方法さ」
!? 何……!?
「本当ですか?」
「ああ、しかも電線を引っ張る必要はない。テレビもいらないぞ」
は? えぇと……どういうことですか?
テレビゲームをするには電気がいるのでしょ? テレビで遊ぶからテレビゲームなのにテレビがなくていいだって?
どういうことですか。とんちですかそれ。
したり顔で頬を緩ませるネイフォンさんが何を言っているのか意味が分からない。
ちょっと、焦らさないで早く説明してくださいよ。
「ちょっとした道具があればこの人間界と同様にテレビゲームをプレイ出来るよ」
「ニヤニヤしないで分かりやすく簡潔に言ってもらえません?」
「はっは~、私が調査した結果ぁ何と……」
ちっ、イライラさせやがる。
変に間の伸びた声で勿体振るように次の単語を発しようとしないネイフォンさん。
命の恩人じゃなかったら鳩尾にグーパンぶち込んでいるところだ。
弁当についていた緑のギザギザしたやつを千切りながら気長に待つ。このギザギザしたやつ食べれなくてビックリしたよ。
飲み込もうとして喉が拒絶して吐き散らした一ヶ月前の思い出。
「発電機を買えばいいのさっ」
「へー……」
「ぱっとしない顔だなぁ、もっと良いリアクションくれよ。いいかいテリー少年よ、発電機があれば森に電線を引っ張らずとも電気を作り出すことが出来るんだ。そしてテレビについてだが、ノートパソコンや液晶モニターにキャプチャーボード接続すればテレビゲームはプレイ出来る。よってテレビは不要なのさ」
……いや言っている意味が全然分かりません。
人間界で流通している専門語なのだろうけど何を言っているか全然理解出来ない。テクマクマヤコン呪文みたいな言いにくい単語を羅列しやがって。
要するにそれで何が出来るのかザックリと教えてください。
そんな思いでネイフォンさんを睨んでいると、
「つまり! 印天堂65と発電機とモニターと周辺機器があれば森の中でも遊べるってことさ」
な、な、な……なん、だと……!?
鼻高々に締めくくったネイフォンさんの一言、それを脳内で反芻して何度も何度も噛み締める。
ゆっくりと言葉の意を解いていき、脳に溶けていく喜びと興奮。
心臓の高鳴りを抑えきれない、激しく暴れるポンプが血液を勢いよく飛ばして全身が熱を帯びる。
それほどに体全体が沸き上がった。今、何と言いました……!?
「な、な……」
「目玉飛び出そうなくらい驚くのも無理はない。だからこそあえて言おう、森でゲームをするのは可能だ!」
「マジかよネイフォン!」
「敬語忘れてるよテリー君」
マジか、マジかマジかマジですか。
実現不可能だと思われていた森でテレビゲームが出来ると聞いて興奮しないわけがないでしょ、敬語だって吹き飛びますよすいません。驚きと衝撃のあまり呼吸忘れちゃったくらいだ。
モニターと発電機があればエルフの森でもプレイ可能ですって!? ギザギザ食べられないビックリを軽々と越えていったよ。
「まあパソコンや液晶モニターもかなり値のする代物だ。発電機なんて一般人が買う物ではない、値段も相当高い。だけどね、お金さえあれば君の目的は達成出来るという事実だけは間違いないよ」
「それだけで十分ですよネイフォンさん、情報ありがとうございます」
「はっはっは、まあ学校生活を謳歌しながらバイトでもしたまえ。しばらくは援助してあげるよ」
弁当を食べ終えて茶を啜りながらネイフォンさんは微笑んだ。
なるほどね、つまりお金があれば問題は全て解決すると。所詮この世はお金かー。なんとまああっけない。全てマネーで解決しちゃうってことか。
この世は金とホットフードで成り立っているみたいだ。
それにしてもフライドポテト美味しかったな。揚げたては四割増しで美味しいみたい、そうなってくると揚がるの待ちでずっとコンビニ店内で待っていなくてはならない。これから大変だなー。
「まあ大変だろうけど頑張りたまえ」
「はい頑張って待ちます」
「なんか会話がズレてるけど気にしないでおこう」
そのままネイフォンさんと一緒にダラダラと食休みの時間を潰していった。