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第111話 裏山の頂上決戦

「な、なななななっ、何よ今の!? き、如月君が空に浮かんで、えええぇ!?」


「話は後だ、いいから逃げるぞ!」


清水を抱きかかえて屋上から飛び降りる。

すぐ後ろでは爆発音と共に砕け散った壁と扉、先程まで清水が立っていた場所だ。

……あの野郎ぉ、有言実行しやがって。

咄嗟に体が反応してくれて良かった。それと自身の運動能力にも感謝、幼少期から狩りをしてきて良かったと心底思えたよ。


両腕に清水を抱いたまま屋上のフェンスを飛び越えて下へと落下していく。

腕の中で清水がぎゃあああああああっと馬鹿デカイ悲鳴を上げる。うるせっ、ヒステリックな声出すな鼓膜が破れる! 


「ぎゃああああ!」


「へい清水さん黙ろうぜ!」


壁を蹴り落ちていき、次第に落ちるスピードを和らげていって最後は校舎裏の地面へと着地。

それと同時にコンクリートの破片や金属片もパラパラと頭上から落ちてきた。

上を確認している暇はない。急いで逃げなくては。

思考を続けながらも全身は機能させ続ける。

清水を抱えたままその場から避難するように素早く一歩踏み出し、地面を蹴り進む。校舎を囲むフェンスを越えていく。

クソ、最悪の事態だなこれ。ここからどうする?


「ちょ、ちょっとテリー! な、何が起きているの!?」


腕の中でパニクってぎゃあぎゃあと騒ぐ清水。

あ? うるさいってば。大人しく丸まっていろ。

俺だって今の状況からどう脱するべきか絶えず思考をこねくり回しているんだ。

何人かの生徒がこちらを驚きの表情で見てくるが無視だ。今は周りの目を気にしている場合じゃない。

どこに行けばいい? なるべく人間の多いところ? 


いや、それじゃ被害を増やす。どこか人気の少ない場所に逃げつつあいつを撒くことが出来れば、っ! 


「うぐっ!?」


上空から嫌な空気を感じた。何か、何かが迫ってきている。

磨き上げた危機回避能力と直感に全判断を委ねて真横へと大きく跳ぶ。

突然の動きに清水が悲鳴を上げたが地面が抉れる音で掻き消えた。


真横の地面が轟音と共に砂埃を起こす。

地面には亀裂が入りその中心部は悲惨に砕けて抉れていた。

っ……マジかよ。避けなかったら直撃だったぞ。


「い、今の……!?」


「とにかく逃げるぞ。逃げながら状況話してやる」


こうなったら清水に言うしかない。簡潔に素早く言うからちゃんと聞いてくれよ。

色々疑問や聞きたいことあるだろうけど質問とか一切受けつけないからな。

悲鳴を上げる声が遥か後ろの方でも聞こえるけど無視して突き進む。


逃げるとして、ここならあそこが一番近い。……よし。

頭上を見上げることなくただひたすら直進していく。


「如月浮羽莉は人間じゃない、シルフ族という風の種族だ。風を操る魔法が使えるからさっきみたい空を飛べるし風の砲弾を放って壁や地面を壊すことも出来る。オッケー?」


「全然オッケーじゃないよ! オッケー、ウフフ♪とかなるわけないじゃん!」


やたら今日はテンション高いな清水。まあ異質の光景を見た後じゃ仕方ないか。

訳も分からず早口で言葉と悲鳴を発するお嬢様に引き続き説明する。


「あいつは凶暴な性格で、正体を知った人間を平気で殺す奴だ」


それが今さっき実証された。

本当に如月は何の躊躇いもなく戸惑うことなく清水に向けて風の魔法を放った。コンクリートが砕け散る程の威力がある魔法をクラスメイトに向けて放ったのだ。

本当に、あいつはヤバイ奴だった。中二病のカッコつけた奴が口癖のように殺すぞと言うのとは訳が違う、話す次元が違う。

本当にそれを実行出来る力を有しており尚且つその覚悟もあった。


清水……本当に無事で良かった。

文字通り後一歩遅かったら清水は……っ。

あの一瞬で体が反応してくれて助かった。扉が開いて清水の姿を見た一瞬で思考が答えに繋がってその次には爆裂音。

あのクソシルフ、マジでヤバイだろ。咄嗟に動いた俺も自画自賛の嵐が吹き荒れるけど清水を見た瞬間に攻撃態勢に移った奴は異常だ。


……そんなことは最初から分かっていただろ。クソっ! 

もっと早く対処しておけば。……反省は後だ。

今からどうするかだけ考えろ。といっても次の行動は決まったんだけどな。


「まあこの状況で分かるよな」


「どうして私に相談してくれなかったのよ!」


「今さっき見ただろ、あいつはヤバイんだって! 相談したら清水にも危害が及ぶんだよ。だから清水には何も言わなかったんだって」


結局こうなってしまったけどな。


「もしかしてここ最近テリーが元気なかった理由って……」


「遠からずって感じかな。色々とゴタゴタがあったんだよ。つーかなんでお前屋上に来てるんだよ」


突如屋上にやって来た清水。最悪のタイミングだったと言える。


「だ、だって。……テリーのこと、気になったもん」


あー、もう。ホントお前って奴は。……そんなこと言われたら怒れないだろ。

腕の中で申し訳なさそうにしょんぼりしながらもじっと俺の方を見つめてくる。なんて顔しているんだよ。ちゃんと反省してるのか、ああ? 


……心配してくれて、ありがとうな。

今考える暇はないかもしれないけどこうして清水と話すのって一週間ぶりなんだよな。お互い意地張って衝突しちゃって喧嘩みたいな仲違いになって。

この一週間、如月のことをどうするか考える一方で清水とどうやって仲直りするか考えていた。


「巻き込んで、ごめんな」


「謝らなくていいよ。私こそ、何も知らないのに怒ってごめん……」


状況は最悪だけど清水と仲直り出来た。なんか嬉しい。

さて、まだ大きな問題が残っている。如月をどうにかしないと。

清水を抱きかかえ、地を駆けていく。






「恐らく今も上空を飛びながら俺らを狙っている。このまま逃げ切れる可能性は低いだろう」


「ど、どうするの?」


「近くに山がある。物好きなエルフしか来ないような裏山だ。そこに逃げる。怖かったら目瞑ってろ。絶対に俺が守ってやるから」


「う、うん」


さらに体を縮めて腕と胸の中で震える清水。両手を俺の首に回して体を密着させてくる。

……本当にごめんな。こんな怖い思いさせて。

清水をぎゅっと抱き締め、目線はブレることなく前だけを見つめる。

ここまで来ればもう人間はいない。物好きで酔狂な人間がいないことを願おう。

裏山の入口まで残り十数メートル。その時、地面が破裂し始めた。

コンクリートの地面が揺れて砕けていく。まるで見えない砲弾を撃ち込まれたかのように。


「きゃあ!?」


「ちっ、あの野郎。気づきやがったな」


俺らがどこに向かっているのか分かったのだろう。そりゃ俺らの目先には山がある。木々が生い茂って緑豊かな暗くて静かな山。

シルフが空をホームするならばエルフにとって木と林と森がホームだ。

あそこに行けば間違いなく俺が優位に立てる。森での移動はこっちが遥かに速い。

あそこに逃げ込まれたら厄介だと悟ったのだろう。一斉に攻撃してきやがった。


地面が抉れて突風が吹き荒れる。

崩れていく足場、腕の中で清水の震えが大きくなる。

この子だけは……何があっても守る。

残念だけどクソシルフ、ここまで来れば俺の勝ちだよ。

両足に力を集約させて一気に跳ぶ。

風を置き去りにして止まることなく裏山へと突撃していった。


「うしっ、ここまで来ればオッケーだ」


木の枝や葉が頬を掠めて森の匂いに包まれる。故郷の森に比べると微妙だが、まあまあ良い匂いと木々の癒し、少しだけ落ち着く。

全身が癒されていく余韻に浸りたいが休むことなく山道を駆け巡っていく。

当然人間が設備した道は通らない。木々が生い茂る道なき森の奥へとどんどん進んで行く。

これだけ木々が根深く生えている場所を自由自在に飛翔出来るとは思えない。この空間では俺の方が素早く動けるはずだ。


……さて、やるか。

茂みの中へと入って清水をその場へ下ろす。

今のところまだ如月が接近してくる音は聞こえない。


「大丈夫か? 怪我はない?」


「だ、大丈夫。わ、私……」


「いいか清水、落ち着いて聞いてくれ。時間がないんだ。俺が奴をおびき寄せるからその間に逃げろ」


「逃、げる?」


「あいつの狙いは口封じだ。その為に清水を殺そうとしている。今の状態じゃ話す暇なく攻撃されてしまう。俺があいつを引きつけるからその間に山を下りて学校の中に逃げ込め。そしてネイフォンさんに連絡しろ」


このまま闇雲に逃げてもいつかは攻撃を受けてしまう。

森の中を逃げ回るのも結局はジリ貧だ。せめて清水だけでも逃がさなくては。


遠くの方で如月の叫び声と木の葉が風に揺れる音が聞こえる。

悠長に話している暇はない。急いでここから離れよう。清水を置いて。


「ま、待ってテリー。……どこ行くの?」


「とりあえず山頂かな。清水はここに隠れてしばらくしたら山から下りろ。素早く静かにだぞ」


時間は稼いでやる。時間がない、行くか。

茂みから抜け出そうと腰を少し上げた時だった。

清水が制服の端を掴んできた。そしてそのまま離そうとしない。

どうしたんだ? どこか痛むのか?


「……行かないで」


「駄目だ。ここで二人隠れていてもいずれ見つかってしまう」


「こ、怖いの……っ」


制服を掴む力が増す。いつものゴリラを彷彿とさせる馬鹿力ではなくて、か弱い女子の、非力で弱々しい力を振り絞って握る力。

その表情は恐怖で引き攣っており、カタカタと震えていた。

困惑と恐怖の色で染まった顔色は茂みのせいかもしれないがいつもの健康的で清楚な白い肌とは違う生気のない真っ白な色をしていた。


どこにも行かないで、と呟いて涙を流す清水。

……そりゃそうだよな。いきなり身の危険に晒されて屋上から飛び降りたり地面が抉れる程の衝撃を間近に感じて、そんな状態で森の中で一人取り残されるなんて普通に考えて怖いに決まっている。

出来るなら傍にいてやりたいけど、それじゃあ清水を救えない。清水を守れない。


……もう時間がない。ごめん、傍にいてやれなくて。

でも、これだけは約束出来る。

必死に制服を掴む手を優しく両手で包み込んで握る。

こんな状況だからこそ笑顔だ。如月のクソ野郎とは違う、そっと口づけするように優しく柔和な微笑みを心がけて清水にゆっくりと話しかける。


「大丈夫。俺が君を絶対守ってみせる。絶対に傷一つつけさせやしない。……俺の大切な親友を、恩人には指一本触れさせたりしない。清水、また手料理食べさせてくれな」


「テリー……待っ」


なっ、と二カッと微笑んで頭を撫でる。

清水の顔を見ることなく拳を握り締めて茂みから抜けた。音もなく駆け抜けて木の幹に足をかけて、跳ぶ。

木の枝を掴んで一回転、着地した後は木の上を跳んで上へ上へと目指していく。

そろそろいいか、そう思って肺いっぱいに森の空気を吸って咆哮の準備。轟け俺のシャウト。


「おらぁ! 出てこいやクソ馬鹿シルフ。そのクソキメェドヤ顔見せやがれ!」


三流の安い挑発でもいい。とにかく伝われ。俺がここにいるぞ、と。

出せるだけの大声で叫んで銀髪をディスる。


すると遠くの方で激昂した声と風の音が聞こえてきた。

いたいた、さあこっち目がけて直進しろ。

声帯が千切れそうなくらい声を振り絞って叫び続けながら山頂を目指し、そして視界が開ける。


「おっ、如月君じゃん。こんなところで会うなんて奇遇だな」


「……このクソ野郎。やっと見つけた」


散々攻撃食らいそうになったけどこうして面と向かって会うのは屋上以来だな。時間にして十分前のことだけどさ。

こちらを睨みながら威嚇するように歯を剥き出しにする如月。何をそんなに興奮しているんだよ。ほらせっかくの俺オススメの癒しスポットだぜ。リラックスしろよ、リラクゼーションしろよ。

俺を睨んでいたが辺りをキョロキョロと見回す如月。まあそうなるよな。


「おい、さっきの人間はどうした。一緒に山の中に入っていっただろ」


「か弱い女の子に向けて風魔法ぶちかます野郎の前に姿晒すわけないだろ。生理的に無理って言ってたぞ」


「……なるほど。お前は時間稼ぎか」


うげ、バレてるよ。思わず舌打ちが出てしまう。

俺の動揺を察して気持ちに余裕ができたのか、如月はニヤッと笑って両手を広げる。

またしても両足が地を離れて上空へと浮かんでいく。お前それ好きだな。何かある度に浮上していないか?


「今頃どこかに隠れてスキあれば逃げようって感じだな。だが俺が、いや我らシルフ族がそう易々と策略にハマってやるとでも?」


如月が片手を挙げると同時に上空から初老の男性が舞い降りてきた。


「お呼びでしょうか?」


クソ、やっぱいやがったか。お付きのシルフ族だ。

如月の執事的役割を担っているジジイシルフ。名前は確かトレア・ムーンシルフだったか。

スーツを着てしっかりとした身のこなしをした老年のシルフ。頭を深々と下げてゆっくりと地面に着地する。


「どうぞご命令を王子」


「この山の中に人間の女がいる。そいつを始末してこい」


「かしこまりました」


再び頭を下げて飛び立とうとする老人シルフ。

……させるかよ。如月、お前が言うであろう言葉は分かっていた。

だから言い終わる前に跳ばせてもらったぜ。

対応させる間も与えずに接近して右半身を落とし、左足を大きく上空へと蹴り上げる。体重を乗せた足蹴りが老人の右肩へとめり込む。


「行かせるかよ!」


「っっ、ぐ」


地面を滑るようにして後退して肩を押さえる執事野郎。

足蹴り成功の確認と同時に手を地面に着いて押し出す。素早く距離を置いて再び構える。

悪いけど清水のところには行かせないぞ。死んでも行かせない。俺が、俺が清水を守るんだ。

約束したんだよ、絶対に守ってみせるって。この手で握って頭を優しく撫でて約束したんだ!

ぜってーここから行かせない。如月が嬉しそうに笑い声を出す。


「あっはははは! 面白れぇ、やってくれるぜぇエルフ。……いいぜ、お前がその気なら乗ってやるよ。おい、さっきの命令は取り消した。そうだな……今から俺があいつを殺すからそれを見てろ」


「は、かしこまりました」


ニヤリと笑う如月と対峙する。シルフ族と初の戦闘開始だ。


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